2014年02月05日
霊使い達の始まり 火の話・中編(1)
作成絵師 ぴえーる様(渋 user/30338 スケブ https://skeb.jp/@pieiru)
こんばんは。土斑猫です。
200コメ記念企画、霊使い外伝「霊使い達の始まり」掲載です。
今回は火の話。
それにしても、字数制限が大幅に緩和されて非常に楽です♪
もっとも、こうなるとどこまで行けるのかも気になりますが・・・w
それでは興味ある方は、下記の事を了解の上で。
この小説はフィクションであり、実在のストーリー、設定とは本当に絶対、何の関係も他意もありません。 ―火の話・中編(1)―
「国の人?」
小さな口が、また紡ぐ。
ためらう様に。
けれどハッキリと。
朱色の眼差しが、ファイヤーソーサラーを見つめる。
静かに燃える種火の様だ、と彼女は思った。
「・・・どうして、そんな事聞くのぜ?」
問う。
彼女が怯えてしまわない様に。
優しく。
優しく。
問い聞かせる。
それに答える様に、朱い瞳の少女は言う。
「・・・時々ね。国から人が来るの・・・。」
その愛らしい顔を伏せながら。
ポツリポツリと、少女は話す。
「戦いがあるから、手伝ってくれって、言いに来るの・・・。」
その言葉に、ソーサラーはキュッとその目を細める。
「その度に、お父さんは辛そうな顔をするし、お母さんは悲しそうな顔をする・・・。」
当然かもしれない。
袂を分かったとは言え、自分達の生まれ育った国。
友もいるだろう。
思いの残る場所もあるだろう。
募るものは、多々ある筈。
戦となれば、場合によっては国の存亡にも関わる大事。
それに手を貸してくれと言われて、心が揺るがない筈がない。
「だからね・・・」
呟く様に、仄火の少女は言う。
「怖いの。いつか、国の人がお父さんやお母さんを連れて行っちゃうんじゃないかって・・・。」
「・・・・・・。」
「ねぇ・・・。」
種火の瞳が、再び上を向く。
そして、
「お姉ちゃんは、国の人・・・?」
もう一度、問うた。
「ふふ・・・」
薄く笑いながら、ソーサラーはヒータの頭に手をやる。
「違うぜ。オレは、国のモンじゃない。」
言いながら、緋色の髪をクシャクシャと撫でる。
「だから・・・」
髪を撫でる手とは別の手が、後ろに回されたヒータの右手を掴む。
「あ・・・」
ヒータが、小さく声を上げる。
「こんな”モノ”は、必要ないぜ?」
言葉と共に、右手を掴む手に軽く力を込める。
「・・・・・・!!」
微かに顔をしかめるヒータ。
カツン
その手から何かが落ち、地面に当たって硬い音を立てた。
「やれやれ。可愛い顔して、結構おっかねーんだぜ。」
苦笑しながら、落ちた”それ”を拾い上げる。
白い手の中に収まったもの。
それは、ひと振りの小刀(ダガー)だった。
「護身用かな?用途がちょっと、違うんだぜ?」
問いかける声に、ヒータは顔を強ばらせて答えない。
「そんなに固くならなくていいんだぜ。別に、怒っちゃいないのぜ。」
その言葉に、ヒータは不思議そうな顔をする。
「どうして?」
「お父さんとお母さんを、守ろうとしたんだぜ?」
「・・・・・・・!!」
おずおずと頷くヒータ。
それに、ソーサラーはニンマリと笑って見せる。
「お父さんとお母さんが、戦に連れて行かれるのが嫌だったんだぜ?」
また、頷く。
「だから、オレを追っ払おうとしたんだぜ?」
ただ、頷く。
ソーサラーはクックと苦笑すると、手の中の小刀(ダガー)をヒョイと上に放り投げた。
「!!」
ヒータがビクリと身体を竦める。
空中でクルクルと回った小刀(ダガー)。
「よっ。」
その刃を、ソーサラーの手がパシッと掴む。
そのまま、柄を向けてヒータに差し出した。
「ほら。返すのぜ。」
「え・・・?」
ポカンとするヒータ。
「ほら。いらないのか?」
その言葉に、ヒータはおずおずと手を差し出すと、自分に向けられた柄を掴んだ。
けれど―
「・・・・・・?」
ソーサラーは、掴んだ刃の方を離さない。
「ただ・・・」
困惑するヒータに向かって、彼女は言う。
「勘違いしちゃいけないのぜ。あの人達はこんな事をさせるために小刀(これ)を預けた訳じゃないのぜ。」
「え・・・?」
「あの人達は、お前を刃傷沙汰(こんな事)に関わらせない為に、国を捨てたんだぜ?」
「・・・・・・!!」
「なのに、お前の方からそれに踏み込んじゃどうしようもないんだぜ。それこそ、お前のお父さんやお母さんに対する裏切りなのぜ?」
ハッとした様に目を見開くヒータ。
そんな彼女に向かって、ソーサラーは優しく、けれど厳しく言い渡す。
「・・・分かったのぜ?」
確かめる言葉。
ヒータはゆっくりと、しかしハッキリと頷く。
「よし。」
ソーサラーは微笑むと、小刀(ダガー)の刃を離した。
「しかし、何だな。」
「?」
「何だかんだ言っても、”あの人”達の娘なんだぜ。ひ弱そうに見えて、芯はしっかりしてるのぜ。もっとも・・・」
小首を傾げるヒータの顔を、覗き込む様に見つめる。
「方向性はちょっと怖いけどな。」
そう言って、ソーサラーは愉快そうにケタケタと笑った。
「それじゃ、お姉ちゃんは国の人じゃないの・・・?」
「違うって言ってるぜ。そんなに信用出来ないのぜ?」
言いながら、ソーサラーは自分の顔を指差す。
それをジッと見て、ヒータはコクりと頷く。
「ありゃ。」
わざとらしく肩を落とす。
「何で?」
「・・・だって・・・」
「だって?」
「目が、怖い。」
グッサー
小刀(ダガー)の代わりに、言葉の刃が薄い胸を貫いた。
「そ、そりゃないのぜ!!」
思わず叫ぶ。
「この目は生まれつきなのぜ!!見かけで人を判断しちゃ、いけないのぜ!!」
半泣きで叫ぶ。
と言うか、本気で半分泣いている。
物心ついて以来のコンプレックスを抉られたダメージは、決して小さくはないのだ。
「・・・好きでこんな面相に生まれた訳じゃないのぜ・・・。って言うか、いっつもこうなのぜ・・・。あの時も、あの時も、あの時も・・・」
今まで体験した悲劇の数々が、走馬燈の様に脳裏を過ぎる。
すっかりいじけて、しゃがみこむソーサラー。
「あ・・・あの・・・」
ドレスの裾に土が付くのも構わず、グリグリと地面に「の」の字など書いている。
その姿を見ている内に、何かがヒータの内に込み上げてくる。
「ぷっ!!」
堪らず、吹き出した。
「アハ、アハハハハ・・・」
腹を抱えて、コロコロと笑う。
「お?」
そんな彼女の声を聞いて、ソーサラーが向き直る。
「やっと、笑ったのぜ。」
「だって、お姉ちゃん、可笑しい・・・」
「コイツ、誰のせいだと思ってるのぜ?」
そう言って、両拳でヒータの頭をグリグリとやる。
「キャー。」
頭を押さえながら、ヒータはなおも笑う。
「まだ笑うのぜ。この!この!」
「アハハ、痛い、痛い!アハハハハ・・・」
二人のじゃれあう声が、満天の夜空に響いては溶けていく。
「貴女達、そろそろ中に入りなさ・・・」
そんな呼びかけと共に小屋の戸を開けた女性は、笑い合う二人の姿にしばしポカンとする。
けれどその相好はすぐに崩れ、優しい微笑みに変わる。
「アハハハハ」
「ハハ、ハハハハハ」
目の前で、姉妹の様に絡み合う二人。
その姿を、かつて『紅蓮』と呼ばれた女性は、温かな母の眼差しで見つめていた。
・・・それは、夜もふけ堕ちた頃の事。
夜行性のモンスターでさえも眠りに落ちた、深い、深い、夜の森。
その闇の中で、蠢く影が幾つ。
かろうじて、人影と見て取れるそれらは何やら大きな箱の様なものを引いていた。
「おい、もうここら辺でいいだろう。」
「ああ、町からは大分離れた。」
彼らはそう言うと、引いていた箱を台車の上から下ろした。
「ひぃ〜、重ぇ重ぇ。えらい仕事だぜ・・・。」
「グズグズするな。檻を開けるぞ。」
「しかし・・・本当にいいんですか?」
リーダー格らしい影の言葉に、その横の影が問いかける。
「・・・何がだ?」
「この山は、我が国を行き来する旅人達の通り道です。”こんな事”をすれば、”奴ら”のみならず、関係ない人間まで巻き込みかねませんが・・・?」
「何を青臭い事を言っている。」
かけられた問いを、リーダーらしき影は鼻で笑う。
「全ては我が国の、ひいては我が君のためだ。何処の者とも知れぬ、卑しき根無し草の事など憂慮する必要はない。」
「は・・・はぁ・・・。」
「それに、すでに民たちにはこれから数日、山(ここ)に入らぬ様、お触れが出ている。何も心配する必要はない。」
言いながら、リーダーは檻の脇に立っていた影に声をかける。
「鎖を切れ。」
「は。」
声と共に、影が手にした物を振り上げる。
木々の合間から差し込む月光が、無骨な刃に当たり、冷たい光を反した。
次の瞬間―
ブンッ
ガキャアンッ
重い音と共に刃が振り下ろされ、檻の口を縛っていた鎖を叩き切っていた。
「・・・放つぞ。」
リーダーの言葉に、影達の間に緊張が走る。
「いいか。気をつけろ。もし噛まれでもしたら、そこから”感染”するぞ。」
皆の間の緊張が、ますます高まる。
「1・・・」
「・・・・・・。」
「2・・・」
「・・・・・・。」
「3!!放て!!」
ガシャンッ
号令と共に、檻の扉が開け放たれた。
途端、
グゥルゥァアアアッ
濁った唸り声と共に、檻の中から白い影が転がり出た。
それは子牛程の大きさの、白銀の毛皮を纏った狼。
『シルバー・フォング』と呼ばれる、獣族のモンスター。
しかし、様子がおかしい。
その目は濁った血の色に染まり、裂けた口角からはブクブクと泡を吹いている。
ゴブゥルゥアアアアッ
喘ぐ様に開いた口から唾液混じりの泡を散らし、のたうつ様に地べたを転げ回る。
明らかに、正気を失っていた。
周りの影達は盾を構え、息を飲んでその様子を見つめる。
と―
グブゥアアアッ
不意にその身体が跳ね上がり、リーダー格の影に向かって突進する。
「ぬぅ!?」
ガシャァアアアッ
影は咄嗟に盾を構えるが、制御を失った巨体を受け止め切れず、盾ごと地面に押し倒される。
盾の上で転がるシルバー・フォング。
「隊長!?」
周りの影達が駆け寄ろうとするが、暴れるシルバー・フォングの狂態に圧倒され、近づく事が出来ない。
「ぬぁああっ!!」
そこに響く、渾身の力のこもった声。
盾が持ち上がり、上に乗っていたシルバー・フォングを揺さぶり落とす。
グブゥルルルルルッ
地に落ちたシルバー・フォングは、またしばし地を転がると、痙攣する様に跳ね上がる。
バサッ ガササササッ
跳ね上がった身体は茂みの中に落ちると、その中を走り始める。
ガサッ バササササッ
遠ざかっていく茂みのうねりを、影達は息を飲んで見守る。
しばしの間。
やがて”それ”は遠ざかり、彼らの視界から消えていった。
それを見届けた影達が、一斉に息をつく。
「隊長、大丈夫ですか?」
「うむ。大事ない。」
部下に助けられ、身を起こしたリーダーは頬についた泡を拭った。
「上手くいくでしょうか?」
シルバー・フォングの去った先を見つめていた影達が言う。
「アレは一度”感染”すれば、一国をも滅ぼすとされるものだ。この山一つなど、ひとたまりもない。」
そして、リーダーはその顔にニヤリと笑みを浮かべる。
「”あの二人”も思い知る事だろう。我が君と、我らが国に逆らった報いと言うものをな・・・。」
そう言うと、彼は周りに向かって言う。
「さあ、戻るぞ。グズグズしていては、我らも巻き込まれる。」
頷く影達。
やがて、彼らの姿は森の外へと消えていった。
「ふぃ〜。良い天気なのぜ。」
その日の朝、小屋の外に出たファイヤーソーサラーはそう言って伸びをした。
支度はすでに終えている。
もう、旅立つばかりだった。
「本当にいいのかい?もう一晩二晩、泊まっていってくれても構わないんだが・・・」
「そうよ。珍しく、ヒータ(この子)も懐いているし・・・」
見送りに出てきた男と女性は、残念そうに口々に言う。
そんな二人の間からは、ヒータがソーサラーを見つめている。
その瞳を見返しながら、ソーサラーは言う。
「気持ちは嬉しいけど、そうもいかないのぜ。あんまり甘えていると、情が残っちまうのぜ。」
そして、腰を屈めると自分を見ているヒータに視線を合わせる。
「じゃあな。元気でいるのぜ。」
「・・・うん。お姉ちゃんもね。」
微笑みながら、視線を交わす二人。
やがて、ソーサラーが腰を上げる。
「じゃ、そろそろ行くのぜ。今日中に峠を越したいしな。」
「道中、気をつけてな・・・とは言っても、君なら心配なさそうだが。」
「お弁当、傷まないうちに食べてね。」
男と女性が、口々に言う。
「はは、まるで父さんと母さんに見送られてるみたいなのぜ。」
少し照れくさそうに笑うと、ソーサラーはペコリとお辞儀をする。
「お世話になりました。」
そして、炎術師の少女は再び旅路へと足を踏み出した。
・・・それから、どれほどの時間がたっただろう。
東から昇った日が中天にかかる頃、ファイヤーソーサラーは山の峰近くを歩いていた。
しかし・・・。
「・・・変なのぜ・・・。」
怪訝そうに眉をしかめると、彼女は周囲を見回す。
「・・・何なのぜ・・・。この気配は・・・。」
そう。
昨日と違い、森は奇妙な気配に満たされていた。
音がしない。
鳥のさえずり。
虫の鳴き声。
そんな、本来森の中に溢れている筈の命の音が全くしない。
そのくせ、生命の気配は異様な密度で満ちている。
それも、正常なものではない。
昏く、澱んだ息遣い。
引きつる様に、乱れた鼓動。
それは、病んだ命の気配。
煮え滾る熱にうなされ、引き裂く痛みに喘ぎのたうつ。
そんな異様な気配が森の、否、山中に満ちていた。
「一体・・・?」
ソーサラーが、もう一度周囲を見回したその時―
ガサッ バササッ
目の前の茂みが蠢いた。
「!!」
バササッ バサッ
何かが、近づいてくる。
身構えるソーサラー。
そして―
バサァッ
ブシュウルルルルッ
茂みから、唸り声を上げて飛び出したもの。
「ありゃ?」
それを見たソーサラーは、拍子抜けした様な声を上げる。
大きな嘴。
大蛇の様な身体。
『ディッグ・ビーク』である。
「何だ。またお前・・・!?」
言いかけた声が、止まる。
ブシュッ ブシュゥルルルルルッ
飛び出してきたディッグ・ビークは口から泡を吹き、地べたを転げ回る。
明らかに様子がおかしい。
その狂態に、ソーサラーの背筋を悪寒が走ったその瞬間、
ギロリッ
血色に濁った目が、彼女を捉えた。
ギュゥバァアアアアアアアッ
叫び声を上げ、飛びかかってくるディッグ・ビーク。
(触れられたら、ヤバイ!!)
本能が、咄嗟にそう告げる。
「チッ!!」
ボウッ
ソーサラーの両手に、炎が灯る。
そして―
「焦炎閃(ファイヤーブラスト)!!」
声とともに放たれる炎弾。
バオゥッ
それは違う事なく標的に当たり、その身を炎に包む。
ギュヴウアアアッ
苦悶の声を上げ、のたうつディッグ・ビーク。
その様を、鋭い眼差しで見つめるソーサラー。
ジュバァアアアアアッ
”それ”が、最期の叫びを上げたその瞬間―
グブチャァアアアッ
「!!」
湿った音を立て、デイック・ビークの身体から何かが飛び出す。
グチュグチュッ チュグッ
燃える毛皮を突き破って現れたもの。
それは、蠢く無数の節足や触手。
それらは燃える炎の中、助けを求める様に空をかく。
「こ・・・これは・・・」
その様を、呆然と見つめるソーサラー。
やがて、もがくその身体がゆっくりと傾ぐ。
ドザァアアアッ
崩れ落ちる巨体。
蠢く触手。
それを、紅い炎が舐め尽くしていく。
ブスブスと燃え尽きていく”それ”。
忘我の思いでそれを見つめていたソーサラーの口が、ポツリと呟く。
「”パラ・・・サイド”・・・?」
その言葉が、空回る自身の脳にゆっくりと染み込んでいく。
そして、
「――っ!!ヤバイッ!!」
彼女は踵を返すと、来た道を駆け戻り始める。
その姿は見る見る小さくなり、森の向こうへと消えた。
誰もいなくなった山道。
ビュウ・・・
湿った、気持ちの悪い風が吹く。
それに揺すられ、焦げた”脚”がボロリと崩れた。
続く
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ちょっとカード検索してみたけど、『隊長』と名の付くカードは切り込み隊長しかいないみたいだ。『将軍』は何人かいるけど。実は前線の指揮官は不足しているのか?『部隊』『隊』と名の付くモンスターはいるからその中には隊長がいると言えなくもないが。
感染と聞いて、最初は疫病狼かと思った。病関連のカードも結構ありそうだ。死のデッキ破壊ウイルスにはよくお世話になりました。
さて、蒼炎さんと紅蓮さん二人なら脱出もできそうだが、ヒータもいるからなかなかキツい展開か。危機が迫っているのが手練二人ならファイヤー・ソーサラーも引き返したりはしなかっただろうな。それにしてもディック・ビークがもったいないな、いい食材だったのに。