2013年10月05日
霊使い達の始まり 風の話・後編‐1
作成絵師:しろりゆ様(渋 user/58736685 スケブ https://skeb.jp/@siroriyu)
皆さん、こんばんは。土斑猫です。
なんか、えらく間を空けてしまってすいません(汗)
まぁ、それは置いといて、200コメ記念企画、霊使い外伝「霊使い達の始まり」掲載です。
興味ある方は例の如く、下記の事を了解の上で。
この小説はフィクションであり、実在のストーリー、設定とは本当に絶対、何の関係も他意もありません。
―風の話・後編―
「ふぉっほっほっ。そうか。それはえらい目にあったのう。」
「もう、笑い事じゃないですよ。お師様。本当に死ぬかと思ったんですから。」
自慢の白髭を撫でながら笑う老人―召喚僧サモンプリーストにそう言って、セームベルはプウとむくれた。
彼女達がいるのは、魔法族の里にある魔法専門学校の面談室。
そこで、セームベルは自分の師であるサモンプリーストに面していた。
「ほっほっ、そうむくれるな。セームベル。ドリアードは自分の職務を果たしただけじゃ。それに・・・」
目深に被ったフードの隙間から覗く目が、ニヤリとほくそ笑む。
「お主の連れ合いは、看破したのであろ?スターダスト・ドラゴンも、ドリアードも、本気ではなかったという事に。」
「う・・・、そ、それは・・・」
師の指摘に、言葉を詰まらせるセームベル。
その様を見て、サモンプリーストはまたほっほっと笑う。
「まだまだ修行が足りんのう・・・。それにしても・・・」
ふと止まる笑い声。
真顔に戻ると、プリーストはセームベルを見つめる。
「その娘、ウィンとか言ったかの?なかなかに面白い才を持っている様じゃな。」
「はい。ボクもそう思います。」
神妙な顔で頷くセームベル。
「風の声を聴いたり、風属性モンスターと心を通じたり、ボクにはないものを持ってると思います。」
そう言うと、「ちょっと悔しいですけどね。」と舌を出す。
「ふぅむ。」
「・・・そういう訳で、どうでしょうか?あの娘、召喚師の卵としてお師様の生徒にしてあげては・・・」
その言葉に、しかしサモンプリーストは少し難しい顔をして答える。
「・・・いや。それは難しいな。」
その返答に、しばしポカンとするセームベル。
やがて、ようやく意味が脳に染みたのか、その愛らしい顔が見る見る強張っていく。
「え・・・えぇー!?どうしてですか!?」
悲鳴に近い叫びを上げ、物凄い剣幕で恩師に迫る。
「お師様、あの娘には才があるって言ったじゃないですか!?」
「うむ。確かに言った。」
「じゃあ、いいじゃないですか!!」
「しかしのぅ・・・」
「あの娘も、望んでるんです!!」
「まぁ、落ち着け。セームベル。」
「って言うか、引き取ってもらわないと困ります!!」
「引き取るってお主、そんな犬か猫の子みたいに・・・」
「でないと、あの娘絶対ボクについて来ます!!リアルについてきます!!『お師匠様〜♡』って!!」
「いや、じゃから・・・」
「困るんです!!マジ困るんです!!本気なんです!!あの娘、突っ走りだしたら止まらないんです!!」
「むむ・・・」
「無理なんです!!止まってくれないんです!!手に余りまくりなんです!!ヘルプミーなんですー。」
「・・・・・・。」
「ですから、お師様!!どうか!!どうかー!!」
「喝!!」
「ひゃん!?」
突然響いた一喝に、思わず飛び上がるセームベル。
「落ち着けと言うとるじゃろうが!!召喚師たる者、常にこれ平静を保つべしと教えたのを忘れたか!?」
「は・・・はぃ・・・。すいません・・・」
そう言って畏まる教え子に一息つくと、プリーストは話を続ける。
「まぁ、お主の危惧も分かるがの。見た所、あの娘かなり思い込みが激しい手のようじゃからな・・・。」
「でしょ〜?」
「だから泣くなというに。」
本気で涙目のセームベルをなだめながら、お茶を一口すする。
「勘違いしてはいかん。あの娘を生徒に取れんと言うのは、あくまで儂の話じゃ。」
その言葉に、ポカンとするセームベル。
「へ?どういう事ですか?」
「あの娘の才、確かに特別なものではあるが、それを伸ばすのは召喚師(儂)の仕事ではない様でな。」
「お師様の仕事じゃ、ない・・・?」
「大河を育てるは一滴の雨、大地を育てるはひと握りの土。そう言う事じゃ。」
「・・・・・・?」
言葉の意味を捉えかね、首を傾げるセームベル。
それを見て、サモンプリーストはまたほっほっと笑った。
その頃、ウィンは校舎の外で、流れる風に身を委ねていた。
「お師匠様、まだお話終わらないのかなぁ・・・」
手持ち無沙汰にそう呟くと、風の声に耳を傾ける。
しかし、いつもなら向こうから囁きかけて来る筈のその声が、今に限っては何故か黙りこくっていた。
「・・・どうしたの?皆・・・。」
問いかけても、答えは返ってこない。
まるで、何か示し合わせて口をつぐんでいる様な、そんな気配。
「ねぇ、どうしたの?」
いくら問うても、結果は同じ。
サヤサヤサヤ・・・
ただ、下草を撫で渡る音が含み笑う様にそよぐだけ。
「・・・ねぇってば・・・」
なんとなく不安を覚えた彼女が、もう一度問いかけようとした時―
「・・・心配する必要はありませんよ。」
そんな声が、背後から聞こえてきた。
「ふぇ?」
驚いて振り返ると、そこには微笑みながらこちらを見つめる女性が一人。
「”彼女”達はイタズラ者ですからね。これから起こる事を黙っていて、驚かせるつもりなのでしょう。」
絹の様な金色の髪をシャラシャラと揺らしながら、女性はクスクスと笑う。
「・・・誰?」
怪訝そうな顔をするウィンに向かって、女性は一礼して話しかける。
「初めまして。私はドリアード。魔法専門学校(ここ)で講師をしています。」
「ドリアード・・・さん?」
「ええ。」
そう言うと、ドリアードはポンとウィンの肩に手を乗せた。
途端―
ザァ・・・
「え・・・?」
ウィンの周りの風景が変わっていた。
(うふふ・・・)
(うふふふふ・・・)
流れる空気の中、歌声の様に響く笑い声。
思わず見回す。
サラサラと揺れる薄衣。背に携えた白い翼。萌える若葉の様な新緑色の肌。
半透明で、不可思議な造形。
そんな姿の少女達が、歌う様に笑いながらウィンの周りを舞っていた。
「え・・・え・・・!?」
「・・・見えますか?」
突然の事にうろたえるウィンに、ドリアードが優しく問いかける。
訳が分からぬままに頷くと、彼女は嬉しそうに微笑んでウィンの耳元に口を寄せる。
「落ち着いて・・・。彼女達の声を聞いてごらんなさい。」
「・・・・・・?」
言われるままに、耳を澄ます。
(うふふ・・・)
(うふふ・・・)
(こんにちは・・・)
(こんにちは・・・)
(初めまして・・・)
(初めまして・・・)
「・・・あ・・・」
語りかけられる声。それに、ウィンは覚えがあった。
それは、彼女が幼い頃から知る声。
今は遠い故郷の村。
自分の家の屋根の上。
寝転び、空を見上げながら聞いた囁き。
遠く広がる湿地帯。
友と遊んだ緑の丘。
耳に流れる、優しい歌。
村を旅立ったあの日。
一人歩く道。
励まし、導いてくれたあの声。
ウィンは全てを聞き、受け止め、理解する。
「・・・風の・・・声・・・?」
彼女の呟きと共に、歓喜の気配が辺りを包む。
(当たり・・・)
(当たり・・・)
(ようこそ・・・)
(ようこそ・・・)
(ようこそ、”ここ”へ・・・)
そんな囁きと共に、舞い踊る少女の一人がウィンの頬へとキスをした。
肌に触れる、涼やかな風の感触。
そして―
「・・・・・・?」
気がつくと、ウィンはドリアードとともに元の場所へと立っていた。
「あ・・・。」
「感じられた様ですね。」
ウィンの肩から手を離したドリアードが、微笑みを浮かべたまま言った。
「今のは・・・?」
「『そよ風の精霊』達。この世を形作る、精霊(エレメンタル)の一柱・・・。」
「・・・何をしたの?」
「『そよ風の精霊(彼女)』達と貴女の精神を同調させただけですよ。」
「怖くはなかったでしょう?」と言って、ドリアードはウィンクして見せる。
「それにしても、随分容易に”繋がり”ましたね。やはり、良い才をお持ちの様です。」
そして彼女はまた、嬉しそうに「フフ・・・」と笑う。
一方、ウィンは事態を把握出来ずに目の前の女性に向かって問う。
「あなたは、一体・・・」
「私はですね、精霊術師(エレメンタル・マスター)なんです。」
「エレメンタル・・・マスター?」
「はい。この世を律する精霊達の声を聞き、時にそれの力を借り、また時にはそれを従え、人とそれの間を繋ぐもの。それが精霊術師(エレメンタル・マスター)です。」
「・・・?」
首を傾げるウィンに向かってクスリと笑うと、ドリアードは「そうそう。」と言って、そ、と手を伸ばす。
「”この子”が、あなたに謝りたいそうです。」
途端、その手の上で閃く若葉色の光。
「きゃ・・・!?」
その眩さに、思わず目をつぶる。
と、その耳に聞こえる、「クゥ・・・」と言う声。
「・・・?」
目を開くと、差し伸べられた手の上に一匹の小竜が乗っていた。
「―あっ!?」
銀色の身体に、オレンジ色の宝玉。そして藍色の翼。
確かに、見覚えのある姿。
「キミ・・・さっきの・・・?」
「キュウ!」
ウィンの言葉に、小竜が嬉しそうに声を上げる。
「『デブリ・ドラゴン』ですよ。さっきは、巻き込んでしまってすいませんでしたと・・・。」
「それじゃあ、さっきの『ダイガスタ』は・・・」
呆然と呟かれたその単語に、ドリアードは小首を傾げる。
「『ダイガスタ』?それは確か、北の地に住まう風の民が使う『神霊召喚(シンクロ)術』の一亜種ですね。」
「そ、そうです!!あたし、その風の民の・・・『ガスタ』の者です!!」
「ああ。そう言えば、その服装は確かに・・・。成程、風の霊に対する強い親和性はそれ故ですか。」
合点がいったという調子で頷くドリアード。
「あなたも、『ダイガスタ』を使えるんですね!?」
息せき切って詰め寄るウィン。
「『ダイガスタ』とは少々違いますね。『ダイガスタ』とは、あくまでガスタの民固有の『神霊召喚(シンクロ)術』です。私達の使うものは、もっと広義のものを指します。」
その言葉が、ウィンの心を揺り動かす。
胸にわく、驚きと羨望の想い。
戦慄く様な口調で、問いかける。
「それは・・・それは、あたしでも・・・”神託”を受けられなくても、出来ますか!?」
「はい?」
「出来ますか!?」
「『神霊召喚(シンクロ)術』は特殊召喚術の一種ですから、使いこなすには相応の鍛錬が必要です。けれど、それを行うのに特別な資格というものは存在しません。」
「――!!」
幼い胸の内で、堪えていた想いが弾けた。
風の話・後編‐2に続く
posted by 土斑猫(まだらねこ) at 22:53| 霊使い・外伝シリーズ(霊使い・連載中)