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2013年10月05日

霊使い達の始まり 風の話・後編‐2

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作成絵師:しろりゆ様(渋 user/58736685 スケブ https://skeb.jp/@siroriyu)

 こちらが今回の後編になります。間違えた方は前記事へどうぞ。





 「教えてください!!」
 次の瞬間、ウィンはドリアードにすがりついていた。
 深緑の瞳が彼女を見つめ、白い法衣を小さな手がギュウと握り締める。
 「教える?『神霊召喚(シンクロ)術』をですか?」
 かけられた問いに、ウィンはブンブンと頷く。
 「あたし、強くなりたくて、でも『ダイガスタ』の神託を受けられなくて、それで、風に訊いて、村を出て、そしたらお師匠様に会って・・・」
 「少し落ち着きなさい。」
 矢継ぎ早に喋りながらすがりつく少女をやんわりといなすと、ドリアードは腰を屈める。
 深い蒼をたたえた瞳と目が合い、ウィンは思わず息を呑む。
 「・・・その言葉の意味を、解っていますか?」
 「・・・え?」
 かけられた言葉に、ポカンとするウィン。
 そんな彼女に、優しい、しかし凛とした声が問う。
 「貴女が望んでいるのは、”力”です。」
 「力・・・?」
 「はい。」
 白い手が伸び、ウィンの頬を撫でる。
 「確かにそれは、貴女を強くするでしょう。でも、それは同時に貴女に重い枷を課します。」
 「枷・・・?」
 「ええ。」と言って、ドリアードは頷く。
 「力は貴女に責任を与え、時に災禍に導くでしょう。」
 穏やかな声が、鋭く心に切り込んでいく。
 「それはとても重く、そして恐ろしいものです。」
 ドリアードの手が、ウィンの手を握る。
 「貴女が思うよりも、きっと、ずっと・・・。」
 「・・・・・・。」
 「それを負う、覚悟はありますか?」
 改めてかけられる問い。 
 蒼い瞳が、翠の瞳を真っ直ぐに見つめる。
 まるで、彼女の胸の内を見通す様に。
 しばしの間。
 そして―
 「あたしは・・・」
 小さな口が、ゆっくりと言葉を紡ぎ始める。
 「あたしは、それでも・・・」
 途切れそうな声が、それでもはっきりと。
 「・・・なぜ?」
 優しく問う言葉。
 ウィンは続ける。
 「あたしの・・・ガスタの民が住まう地は、良い風の吹く土地です・・・。」
 「・・・・・・。」
 「ムストさん・・・村の神官様から聞きました。あたしの生まれる前、村はその風を羨み、奪おうとする者達に幾度も攻められたそうです・・・。その度に、民達は戦士として戦って、地を守ってきました。たくさんの仲間を犠牲にして・・・」
 「・・・確かに、かの土地は肥沃な地・・・。その資源を貪ろうとする者達も多く、度々侵略の手に晒されて来たとは聞いています。」
 ドリアードの言葉に、頷くウィン。
 「その時、あたしは訊きました。もう、そんな事は起きないよねって・・・。だけど・・・」
 「だけど・・・?」
 「神官様は、ただ笑ってこう言いました。『大丈夫。子供(お前達)は何の心配もしなくていい・・・』って・・・」
 「・・・・・・。」
 花弁の様な唇が、噛み締められる。
 「終わりじゃ、ないんです・・・。きっと、戦わなくちゃいけない時は、また来るんです・・・。」
 振り絞る様な声で、ウィンは言う。
 「あたしの父様とお姉ちゃんは、『ダイガスタ』の神託を受けています。もし事が起これば、先頭に立って戦いに赴かなければいけません・・・。村の皆と、地を守るために・・・。」
 「・・・・・・。」
 「今のあたしじゃ、それを見ている事しか出来ません・・・。」
 ポタリ・・・
 丸い雫が、足元に落ちる。
 いつしか、その瞳からは涙が溢れていた。
 「嫌なんです・・・。そんなの・・・。守られるだけなんて・・・。ただ、見ているだけなんて・・・」
 小さな身体がプルプルと震える。
 「・・・守りたい。守りたいんです。父様を・・・お姉ちゃんを・・・村の皆を、皆が好きな、あの土地を・・・。」
 ギュッと握り締められる、小さな手。
 「だから・・・、だからあたしは・・・!!」
 そしてウィンは、ドリアードの瞳を真っ直ぐに見つめ返す。
 「・・・・・・。」
 「・・・・・・。」
 しばし無言で見つめ合う二人。
 やがて―
 「・・・分かりました。」
 そう言って、ドリアードが頷く。
 「貴女の、その想いは確かに。」
 「!!、それじゃあ・・・!?」
 「ただし。」
 勢い込むウィンを制する様に、真顔になるドリアード。
 ウィンの顔が、緊張に強ばる。
 「どんな時でも、決して自分をないがしろにしない事。」
 「・・・え?」
 「神官の方にも、言われたのでしょう?『子供(お前達)は何の心配もしなくていい』と。」
 「あ・・・」
 「貴女が想うその気持ちは、貴女のご家族や村の方々も同じ筈・・・。」
 優しく言い聞かせる様に、ドリアードは言う。
 「だから、何よりもまず自分を大事にしてください。それが出来るのなら・・・」
 血が滲むかと思われる程に握り締められた小さな手を、白い手が包む。
 「私は、貴女に道を示しましょう。」
 「!!」
 その言葉を聞いたウィンの顔が、花の様にほころぶ。
 「約束、出来ますか?」
 「はい!!」
 かけられた問いに、大きく頷くウィン。
 「それでは・・・」
 ドリアードが、その白魚の様な小指をそっと差し出す。
 ウィンはそれをしばし見つめた後、ハッとした様に自分も小指を差し出す。
 二人の間で絡み合う、小指と小指。

 「「指切りげんまん嘘ついたら針千本呑―ます。指切った。」」

 交わされる、契の言葉。
 二人の周りを舞うデブリ・ドラゴンとそよ風達が、祝福するかの様に歌を紡いだ。


 「ありゃ?」
 外に出たセームベルは、仲睦まじく並ぶ二人を見てポカンとする。
 「いつの間に、あんな事になってんの?」
 訳が分からないと言った態で呟く彼女。
 その横で、サモンプリーストが「そう言う事じゃ。」と言って、ほっほっと笑った。


 「じゃ、ボクは行くから。」
 「ご迷惑おかけして、申し訳ありませんでした。お師・・・」
 「んー?」
 「・・・”セームベル”さん。」
 「もぉ、固っ苦しいなぁ。セームベルでいいよ。」
 トルネード・バードに乗ったセームベルと、それを見上げるウィンがそんなやり取りをしながら笑い合う。
 「しっかりと、精進するんじゃぞ。」
 「はい。お師様。」
 「辛くなったら、戻ってきて良いですよ?」
 「・・・遠慮します。」
 ウィンと並ぶプリーストとドリアードも、楽しそうに笑う。
 それに笑い返しながら、セームベルはウィンに向かって呼びかける。
 「ウィン。」
 「?」
 「次に会う時には、お互いに一人前だよ。」
 「う、うん!!」
 「頑張ろうね!!」
 「うん!!」
 目一杯の笑顔で頷くウィン。
 同じように、満面の笑みを返すセームベル。
 バサァッ
 心地よい羽風が満ちて、トルネード・バードの巨体が舞い上がる。
 「じゃあねー!!」
 「いってらっしゃーい!!」
 ブンブンと手を振り合う二人。
 交わされる言葉を残して、トルネード・バードの姿は空の彼方へと消えて行った。
 「行っちゃった・・・。」
 鳥影の消えて行った方向を、寂しげに見つめるウィン。
 そんな彼女に、傍らに立つドリアードが声をかける。
 「さあ、ウィン。私達も始めますよ。」
 「はい、お師匠様!!」
 元気良く答えるウィンに、ドリアードはちょっと小首を傾げる。
 「うーん。お師匠というのは、あんまりしっくりこないですねぇ。」
 「そうですか?」
 「ええ、何かこう、お年を召してるという感じがしまして・・・」
 「そりゃ、儂に対する当てつけかの?」
 「いえいえ。それは自意識過剰というものです。」
 ジト目で睨むプリーストを、しれっと流すドリアードにウィンは問う。
 「じゃあ、何てお呼びすればいいですか?」
 「”先生”でいいですよ。先生と呼んでください。」
 「はい、分かりました。先生。」
 踵を返して校舎へと歩きだすドリアードと、その後を追うウィン。
 「先生、まずは何をすれば良いんですか?」
 「そうですね。まずは座学からです。」
 「ええ、お勉強ですかぁ〜?」
 「何をしょぼくれていますか?事は全て、知の獲得から始まるのです。」
 「は〜い。」
 そんな事を話しながら、まるで親子の様に連れ立って歩く二人。
 その後姿を見送るプリーストの顔に、ニヤリと浮かぶ笑み。
 「ほっほっ、また楽しみが増えたわい。」
 楽しそうに微笑みながら、白髭の老僧は自分の教え子が消えた空を見上げる。
 それはとても晴れた日。
 優しいそよ風の吹く日の事だった。


                                            終わり
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