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2013年08月22日

霊使い達の始まり 風の話・中編A-1

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作成絵師:しろりゆ様(渋 user/58736685 スケブ https://skeb.jp/@siroriyu)

 皆さん、こんばんは。土斑猫です。
 200コメ記念企画、霊使い外伝「霊使い達の始まり」掲載です。
 ・・・しかし、今回で「風の話」は終わりにするつもりだったのに、結局収まらなんだ・・・。
 上手くいかんものだなぁ・・・。
 と言う訳で、興味ある方は例の如く、下記の事を了解の上で。


 この小説はフィクションであり、実在のストーリー、設定とは本当に絶対、何の関係も他意もありません。


                      ―風の話・中編A―



 「へーえ。それで村を出てきたんだ。」
 「はい。お師匠様。」
 ウィンの隣に座った少女が、彼女の傷を手当てしながら苦笑する。
 「もう。その“お師匠様”っていうの止めてよ。ボクの名前は“セームベル”。召喚師のセームベルだよ。」
 「でも、お師匠様はお師匠様です!!」
 あくまでも真剣な顔で、ウィンは言う。
 「お師匠様の御技を見た時、風が言ったんです。『この人が、道を示してくれる』って!!」
 頑として譲らないウィンに、セームベルは「まいったなぁ。」と頭をかく。
 「だから、ボクはまだ弟子を取れる様な立場じゃないって・・・。って言うか、その“風の声”ってのに従ったから、さっきのネズミに行き逢っちゃったんでしょう?当てになるの?その声って?」
 そんな指摘に、しかしウィンはイヤイヤと首を振る。
 「大丈夫。風が教えてくれるのは、常に正しき道です!!今回だってほら、風のお陰でお師匠様に会えた!!」
 そう言って、ウィンは再び目をキラキラさせる。
 「そう来たか・・・。」
 こりゃ駄目だと言う態で、頭を抱えるセームベル。
 「あのさぁ、何度も言ってるけどボク自身がまだ修行中の身なんだよ。弟子なんかとれないんだってば。」
 「いいじゃないですか。お付き合いさせてください。ご飯の用意も御身のお世話も、なんだってしますから。」
 「〜〜〜〜・・・。」
 いつまで言ってもどこまで行っても、議論は堂々巡りの繰り返しである。
 「お願いします。今ここでお師匠様に見捨てられたら、あたし・・・あたし・・・」
 ついには、その目に涙まで溜め始めるウィン。
 「やばい」、とセームベルは思う。
 これは子供の最終兵器、“泣き落とし”発動の兆候である。
 王宮と泣く子には勝てない。
 これ、この世界の常識である。
 数歳とは言え、年下にこれをやられては流石に後ろめたい・・・というか後味が悪い。
 「ウ、ウ〜ム・・・。」
 セームベル、悩む。
 「ウ〜ム。ウ〜ム。ウゥ〜ム・・・」
 悩む。
 悩む。
 悩む。
 そして―
 「う〜ん。やっぱり、そうするしかないかぁ・・・。」
 そう言って、ハァ、とため息をつく。
 何か、嫌々そうである。
 一方、その言葉に今にも雨を降らしそうだったウィンは、パァッと顔を晴れさせる。
 「弟子にしてくれるんですね!?お師匠様!!」
 「いやいや。そう言う訳じゃないけど・・・。君、ちょっとそこに立って。」
 「え・・・?な、何ですか?」
 「いいからいいから。」
 そう言いながら、セームベルはウィンを自分の前に立たせる。
 丁度、お互いが向かい合い、対峙する形である。
 「よし!!準備完了!!」
 パンと手を打つセームベル。
 「お師匠様・・・。これは・・・」
 ウィンはしばし考えた後、ハッとした様に顔を引き締める。
 その手が素早く腰に回り、ダガーを引き抜いた。
 「・・・へ?」
 今度は、セームベルがポカンとする。
 「君・・・何を・・・?」
 その問いに、鬼気迫る表情で答えるウィン。
 「これって、あれですよね!?弟子になりたくば、お前の素質を見せてみろっていう・・・」
 「え?えぇ?」
 「その試練、お受けいたします!!」
 「ちょ、ちょっと!?」
 「及ばずとは存じますが、あたしの全力、見てください!!」
 そう言う手の中で、鋭い刃先が剣呑な光を放つ。
 「い、いや、誰もそんな事・・・!?」
 「問答無用!!」
 そして、ウィンはダガーを腰に構え、セームベルに突進する。
 「先手必勝ー!!」
 「わ、わ、わ!!」
 閃くダガーが、その身に迫ろうとしたその瞬間―
 「ぎ、『転生譲星(ギブ&テイク)』ー!!」
 セームベルが叫んだ。
 途端、彼女とウィンの真下に展開する二つの朱い魔法陣。
 「え?」
 驚くウィン。
 ズルンッ
 同時にその真下の魔法陣から這い出る、黒い影。
 ケラケラケラケラ!!
 その影は甲高い声で笑うと、ビョンとウィンの背中に飛び乗る。
 「な、何々!?」
 驚いて振り向くと、そこにいたのはヘラヘラと舌を出す真っ黒い物体。
 「わ、わ!!何これ!?」
 思わず手で押しのけようとすると、黒いその顔がグニュ〜ンと伸びて、伸びたその先に同じ顔がもう一つポンと浮かび上がる。
 ケラケラケラケラケラケラケラ×2
 二つの顔が、同時に笑い声を上げる。
 「うひゃー!!」
 混乱の極みに至ったウィンが、足をもつれさせてひっくり返る。
 ブニョン
 背中から伝わる、プニプニした感触。
 気味の悪い事、この上もない。
 「わ、わ、わ!!」
 謎の物体Xの上でもがくウィン。
 「そんなに慌てないでいいよ。その子、何もしないから。」
 そんなウィンを見下ろしながら、セームベルは冷汗を拭き拭きそんな事を言う。
 「お、お師匠様!!何ですか!?これ!!」
 「『ダブルコストン』のニコス君だよ。アンデッドだから、いつもは墓地(セメタリー)にいるんだけど、ちょっと用があったから出てきてもらったの。」
 「よ、用?」
 「うん。“これ”!!」
 その言葉と共に、セームベルの下に展開する魔法陣とダブルコストン―つまりウィンの下―に展開する魔法陣が共鳴する様に明滅する。
 と―
 ポンッ
 ダブルコストンの周りに、キラキラと光る星が四つ、現れる。
 キラキラ
 キラキラ
 四つの星は、優しい光を振りまきながら辺りを飛び回る。
 「わぁ・・・。」
 その美しさに、ウィンは背中に張り付く気色の悪さも忘れて魅了される。
 やがてその星達は宙を舞い、魔法陣の上に立つセームベルを取り囲む。
 と、星達に囲まれたセームベルが淡い光に包まれる。
 「お師匠様・・・?」
 「はぁ・・・」
 呆然とするウィンの前で、星に抱かれたセームベルが静かに息をついた。


 「これでよし・・・と。」
 淡い光に包まれながら頷くセームベル。
 「お師匠様、一体何を・・・?」
 「んー、これ?『転生譲星(ギブ&テイク)』って言う、罠魔法(トラップ・スペル)。」
 「トラップ・・・スペル?」
 「そう。墓地(セメタリー)から相手側にしもべを召喚して、その代わりに召喚したしもべのレベルまで、自分のレベルを引き上げる事が出来るの。」
 そう言って、セームベルはクルンと回ってみせる。
 確かに、その身から感じる存在感が、先ほどまでに比べて強くなっている様な気がした。
 「それじゃあ、お師匠様・・・」
 背中にダブルコストンを貼り付けたまま身を起こすウィンに向かって、セームベルはプウとむくれてみせる。
 「そうだよ。君にはただニコス君を呼び出す“場”の役をしてもらいたかっただけなのに、話も聞かないで突っ込んで来るんだもん。あせっちゃった。」
 「す・・・すいません。」
 しょんぼりするウィンの頭を、ダブルコストンが慰める様に撫でた。


 「でも、そんな事をして、何をするつもりなんですか?」
 いまいち要領を得ないと言った態のウィンに向かって、セームベルが微笑む。
 「言ったでしょ?ボクはまだ修行中の身だって。一応、“召喚師”の号はもらってるけど、実際には限界があってさ、自分のレベルと同じレベルのモンスターしか召喚出来ないんだ。だから・・・」
 言いながら、セームベルはウィンの背中のダブルコストンを指差す。
 「それ以上のしもべを召喚するためには、こういう下準備が必要なの。」
 「・・・下準備?」
 「そう。ニコス君のレベルは4。『転生譲星(ギブ&テイク)』の効果で、今のボクのレベルも4。だから・・・」
 言葉とともに、セームベルの手に光が灯る。
 そして、
 「おいで!!」
 灯された光が円を描く。
 キラキラと燐光を散らしながら、宙に浮かび上がる魔法陣。
 その時、見入るウィンの耳元で風が囁く。

 (・・・道が、開くよ・・・)

 「え!?」
 思わず聞き返したその瞬間―
 ゴォウッ
 魔法陣から噴出す、猛烈な風。
 「キャウッ!?」
 目を細めるウィンの周りで、紫色の羽根が舞い散る。
 キィエエエエエエエッ
 響き渡る叫び声。
 「な・・・何・・・う、うわぁ!?」
 目を開けたウィンの目の前には、緋色の身体に紫色の羽、そして七色の尾羽を持つ巨鳥が座していた。
 鋭い双眼と、その身体のあちこちに散りばめられた丸い眼球が、ジロリとウィンを見下ろす。
 「この通り、レベル4のトルネ君・・・『トルネード・バード』も召喚出来るって訳。』
 そう言って、セームベルはエヘンと胸を張った。
 「す・・・凄い。イグルスよりも大きい・・・」
 呆然と見上げるウィンの前で、トルネード・バードがググッと頭を下げる。
 「よっと。」
 セームベルはそれに飛び乗ると、ウィンに向かって手を伸ばす。
 「おいで。」
 「え?」
 戸惑うウィンに、セームベルは微笑みながら言う。
 「連れて行ってあげる。」
 「え?え?」
 「ボクの、“先生達”の所に。」
 身を屈めたトルネード・バードが早くしろと言わんばかりに、「ギィ」と鳴いた。


 ビュゴォオオオオオ・・・
 風を巻き込み、羽ばたく紫色の翼。
 見下ろす視界の下で、たなびく雲が次々と後ろに流れていく。
 「凄い凄い!!“ダイガスタ”みたい!!」
 「ほらほら。あんまりはしゃぐと落ちるよ!?」
 キャアキャアと、歓声を上げながら身を乗り出すウィン。
 「まるで子供みたい・・・って、子供か。」
 その襟首を掴みながら、セームベルはタハハ、と苦笑いをする。
 けれど、そんな中でもウィンの耳は確かにその声を捉えていた。

 (もう少し・・・もう少し・・・)
 (早く・・・早く・・・)

 耳をくすぐり、飛び去っていく風達の声。
 その声が、否応なく彼女の胸を高鳴らせていた。
 そうして飛ぶ事、数分。
 唐突に、雲海が切れた。
 「うわぁ・・・!!」
 そこに広がった光景に、ウィンは簡単の声を上げる。
 どこまでも広がる緑の大地。
 その果てに連なる山脈。
 流れ、飛び行く白い雲。
 そして、その全てを美しく照らし出す太陽。
 それまで、ガスタの村とミストバレー湿地帯しか知らなかった彼女の目に、それらの光景は例え様もない眩さをもって焼き付いていった。
 「綺麗・・・」
 誰ともなしに、呟く。
 「うん?何が?」
 それを耳にしたセームベルが訊く。
 「世界って綺麗・・・」
 震える様に響く、その言葉。
 セームベルは微笑み、黙って頷く。
 
 (ようこそ!!)
 (ようこそ!!)
 (ようこそ!!世界(ここ)へ!!) 

 流れる風。
 祝福の歌。
 涼やかな温もりが、その小さな身体を吹き抜けていった。


                                 風の話・中編A-2に続く
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