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2013年08月22日

霊使い達の始まり 風の話・中編A-2

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作成絵師:しろりゆ様(渋 user/58736685 スケブ https://skeb.jp/@siroriyu)

 こちらが今回の後編になります。間違えた方は前記事へどうぞ。






 雲の海を抜けてしばらくすると、眼下に見える風景が変り始めた。
 鬱蒼とした森に囲まれた山々はいつしか消え、青々とさざめく草原へと変る。
 その中に、ポツリポツリと見え始める人家。
 一度目に入り始めたそれらは、見る見る密度を増して、小さな村落を彼方此方に作り始める。
 「・・・村だ・・・。」
 「うん。『魔法族の里』って言うんだ。目的地まで、もうすぐ・・・なんだけど・・・」
 ウィンの言葉に答えていたセームベルが、不意に視線を鋭くしてキョロキョロし始める。
 「・・・今日の当番は誰かな?・・・じゃなきゃいいんだけど・・・」
 「お師匠様。どうしました?」
 その挙動の不審を訝しく思ったウィンが問うが、セームベルは「いや、ちょっとね・・・」と言葉を濁すだけだった。

 
 ―明るい部屋の中、ジャスミンの香りのするお茶を傍らに、彼女は静かに本をめくっていた。
 視線が紙の上の文字を滑る度、絹の様な金髪がサララと細い肩を流れる。
 開いていたページを読み終え、次のページをめくろうとしたその時、“彼女”は、ふとその手を止めた。
 深い青を湛えた瞳が、窓の方を向く。
 「・・・誰か、戻ってきちゃったみたいですね。」
 言いながら立ち上がると、窓辺に近づき、窓を開け放つ。
 サァ・・・
 涼やかな風が舞い込み、長い金髪を大きくなびかせる。
 「・・・今日は、“風”が嬉しそうですね。何か、楽しい事でもあったのでしょうか?」
 言いながら、窓の外にそっと手を差し出す。
 「この風の中なら、“貴方達”も気持ちよく舞えるでしょう。」
 そして、差し出した掌の上で若葉色の光が閃いた。


 最初にそれに気付いたのは、ウィンだった。
 「・・・あれ?お師匠様、何か来ますよ?」
 「え!?」
 その言葉に、セームベルはドキリとした様にウィンが指差す方を向く。
 確かに。その視線の先には、猛スピードでこちらに近づいてくる三つの影があった。
 ギュンッ
 ギュンッ
 ギュンッ
 三つの影は瞬く間にトルネード・バードに肉迫し、その巨体を取り囲む。
 「き、君達は!?」
 それを見たセームベルの顔が強張る。
 彼女達を取り囲むのは、三体のモンスター。
 一体は鳥。
 その尾羽に九つの蛇頭をくねらせる、青羽の孔雀。
 一体は機械。
 パタパタと動く金属の翼と、キコキコと回る発条を付けたカラクリ仕掛けの蝙蝠。
 最後の一体は龍。
 銀色の身体に、オレンジ色の宝玉を光らせる、藍翼の小龍。
 「く、『九蛇孔雀』に『ゼンマイバット』!!それに『デブリ・ドラゴン』!!・・・って事は、今日の当番は・・・!!」
 あからさまに青ざめるセームベル。
 「?、?、?」
 一方のウィンは、訳も分からずオロオロするだけ。
 と、カラクリ仕掛けの蝙蝠―ゼンマイバットの口がカタカタと動き始める。
 『あら、誰かと思えばセームベルさんですか?』
 そこから聞こえてきたのは、鈴音の様な女性の声。
 「ド、ドリアード先生!!」
 セームベルが、喉の奥から引きつった声を出す。
 『貴女達はプリースト先生の授業方針で、1年の自主鍛錬の旅に出ていた筈。逃げ帰ってくるのは、些か早すぎるのではありませんか?』
 「い、いえ!!これには訳が・・・」
 『10秒の猶予をあげます。その間に、速やかに修行の場に戻りなさい。さもなくば、実力で排除します。』
 「ちょ、ちょっと話を聞いて・・・」
 必死の態で弁解するセームベル。しかし、声は聞く耳を持たない。
 『カウントを始めます。10、9、8・・・』
 「せ、先生〜!!」
 セームベル、もはや泣きそうである。
 『7、略、3、2、1・・・』
 「“略”って何ですかー!?」
 『0。はい、時間切れ。それでは排除に移ります。』
 途端、事態を静観していたデブリ・ドラゴンの身体が光を放ち始める。
 「わ、わわーっ!!」
 恐怖に戦くセームベル。
 しかし、その横で、ウィンはその光に目を奪われていた。
 「この・・・光は・・・!?」
 見開いた眼差しの前で、デブリ・ドラゴンの光がゼンマイバットと九蛇孔雀を包み込んでいく。
 そして、その“声”が涼やかに、あくまで涼やかに告げた。

 『―神化降霊(シンクロ・アドベント)。『スターダスト・ドラゴン』―』

 パァッ
 閃き散る無数の星光。
 「ひゃあああ!!」
 「―――っ!!」
 あまりの眩さに、思わず二人はその目をつぶる。(ちなみに一番辛そうだったのはトルネード・バード。何せ、目の数が多い。)
 光に視界を奪われる中、ウィンは一つの光景を思い浮かべていた。
 
 広い草原を渡る風。
 それに舞う、翠の翼。
 手を差し伸べる、姉の姿。
 唄う様に流れる声。
 閃く光。
 大空を駆る、偉大な双翼。

 それは、かつて自分が高みと望んだもの。
 そして、今も憧れ想い続けるもの。
 (―ダイガスタ―)
 彼女の脳裏をその言葉が過ぎった瞬間、光が弾けた。
 「ひぇえー!!で、出たー!!」
 悲鳴の様なセームベルの声を聞き、ウィンは目を開ける。
 「わぁ・・・」
 思わず漏れる、感嘆の声。
 そこに在ったのは、巨大な、見た事もないほどに巨大な、一匹の龍。
 大きく広げられた翼は銀。
 しなやかな身体を覆う装甲は蒼銀。
 天に散らばる星屑を集め、凝縮させた様な輝きを放つその姿は、気高い神々しさすら感じさせた。
 クォオオオオオオオン
 幾重にも並んだ歯牙の間から放たれた咆哮が、遠雷の如く青い空に響き渡った。


 「あわ・・・あわわ・・・」
 目を輝かせて見入るウィンの横で、セームベルは恐慌の極みにあった。
 はっきり言おう。
 こういう場合、ドリアード先生は本気である。
 流石に殺す気まではないだろうが、数ヶ月病院送りにされる可能性は十分にある。
 かと言って、ここで取って返せば今度はこの少女が手に余る。
 となると、目の前の龍と戦って道を開くしかないのだが、どう控え目に見ても勝ち目はない。
 今の自分には、このレベルのモンスターは召喚出来ない。
 苦労して呼び出したトルネード・バードも、全身の羽毛を逆立てていた。
 完全にビビッている。
 無理もない。
 存在自体の格が違う。
 八方塞である。
 トルネード・バードの無数の視線が痛い。
 早く帰してくれと、訴えているのだ。
 言いたい事は分かるが、悲しきかな。そういう訳にもいかない。
 今ここに至って取れる方法はただ一つ。
 “逃げ回る”事である。
 出来る限り逃げ回り、隙を見つけてドリアードに接触。説得するしかない。
 (こりゃ、腹を据えるしかないね!!)
 セームベルが腹を決めたその時―
 キュインッ
 鋭い音を立てて、何かが彼女の頭をかすめた。
 「へ・・・?」
 ズガァアアアアアアッ
 後方から響く、大音響。
 振り返って見れば、自分達の斜め後方の大地に大穴が開いている。
 「な・・・な・・・!!」
 スターダスト・ドラゴンの攻撃、『シューティング・ソニック』。
 高密度に収束させた音波を、ビーム状にして放ったのだ。
 その威力は見ての通り。
 まともに食らったら、ひとたまりもない。
 青ざめたセームベルが視線を戻すと、ドラゴンは再び口を開き、発射体制に入っていた。
 音波が収束する、キュィイインという音が微かに聞こえる。
 「トルネ君!!避けて!!」
 言われるまでもないわいとばかりに、旋回するトルネード・バード。
 次の瞬間―
 チュインッ
 ドラゴンの口から放たれる、青い閃光。
 それが、たった今までセームベル達がいた空間を貫く。
 ズキュアァアアンッ
 そのまま空を下った閃光は大地を穿ち、再び地面に深い深い穴を開ける。
 しかし、攻撃の後には隙が出来るもの。
 セームベルは、そこに活路を見出す。
 「ト、トルネ君!!今のうち!!このまま、先生の所に!!」
 青息をつきながら、再び指示。
 それに従い、全速力で降下を始めるトルネード・バード。
 しかし―
 ギュウンッ
 何かが、トルネード・バードの脇を猛スピードで通り過ぎる。
 「は・・・?」
 ポカンとするセームベル(とトルネード・バード)。
 バサァッ
 その目の前で、大きく広がった銀の翼が行く手を阻む。
 そこにいたのは、たった今置き去りにしてきた筈のスターダスト・ドラゴン。
 あの位置、あの時間差。それを全く無視してトルネード・バードを追撃し、追い越したのだ。
 その名に恥じぬ、まさに流れる星の如きスピードである。
 「は・・・速・・・」
 セームベルの顔が、絶望に歪む。
 ドラゴンが三度、口を開ける。
 キュイイイイイインッ
 収束を始める大気。
 「も、もう駄目ーっ!!」
 思わず、頭を抱えてしゃがみ込むセームベル。
 終りの時まで、一秒。
 そして、二秒。
 三秒。
 しかし―
 その時は、いつまで経っても来なかった。
 「・・・はぇ?」
 不審に思ったセームベルが顔を上げる。
 「あ・・・?」
 思わず口をついて出る声。
 その目に入ったのは、ドラゴンの巨体を前にして尚、凛と立つ“彼女”の姿だった。


 ビュウウウウウ・・・
 ―吹き抜ける風達が、スターダスト・ドラゴンの星銀の翼をはためかせる。
 それと同じ風達が、“彼女”の若葉色の髪を優しく揺らす。
 自分を見つめる、金色の目。
 “彼女”はその視線を恐れることなく、己の翠の目で“彼”を見つめ返す。
 しばしの間―
 そして、
 「ありがとう。キミ、優しいんだね。」
 そんな言葉が、“彼女”の口から紡ぎ出される。
 『・・・・・・。』
 答える声は、ない。
 「それとも、お礼を言わなきゃならないのは、君のご主人様?どの道、あたし達が怪我しない様に、手加減してくれてたんだよね?」
 そうして、“彼女”はニッコリと“彼”に向かって微笑みかけた。
 『・・・・・・。』
 また、しばしの間―
 やがて、ドラゴンの身体から発せられていた圧力(プレッシャー)が、ゆっくりと消えていく。
 「き・・・君・・・。」
 「大丈夫ですよ。お師匠様。この子に、そういう“気”はありませんから。」
 唖然としているセームベルに向かってそう言うと、ウィンはニコリと笑ってみせた。


 「・・・あら?」
 下で事の次第を見ていたドリアードは、その様を見て以外そうな声を漏らした。
 「スターダスト・ドラゴン(あの子)が心を通じさせている・・・。セームベルさんには、まだそんな真似は無理でしょうし・・・。一体、誰が・・・」
 そう呟くと、ドリアードはゆっくりと目を閉じる。
 サヤサヤサヤ・・・
 そよぐ風が、彼女の耳を通り過ぎていく。
 やがて、その声を聞き終えると、ドリアードはゆっくりとその目を開ける。
 「これは、これは。セームベルさん、随分と面白い子を連れて来た様ですね。」
 言いながら空を見上げると、ドリアードは楽しげに微笑んだ。


                                            続く
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