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2013年07月11日

霊使い達の始まり 風の話・中編@-2

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作成絵師:しろりゆ様(渋 user/58736685 スケブ https://skeb.jp/@siroriyu)


 こちらが今回の後編になります。間違えた方は前記事へどうぞ。



 思わずその方向を見ると、そこにはいつの間に来たのか少女が一人立っていた。
 歳はウィン(当時)よりやや年上か。空色のワンピースに黒いローブ。朱いショールを頭巾の様に被っている。頭の後ろの方で結ばれたツインテールが、その顔の愛らしさを強調していた。
 「全く、気に入らないなぁ・・・。」
 少女はそう言うと、ネズミに臆する事無くスタスタと歩いてくる。
 「か弱い女の子を二人がかりで苛めて、恥ずかしくないの?」
 そして、スルリとウィンと巨大ネズミ達の間にスルリと割って入る。
 「・・・と、言っても、ネズミ(キミ達)に分かる筈ないか。」
 溜息とともに、茶色のツインテールがフルリと揺れる。
 「で、キミは大丈夫?」
 背中越しに、少女が訊く。
 「え・・・?あ、は、はい!!」
 思わず頷くウィン。
 「よし。じゃ、ちょっとジッとしてて。すぐに済むから。」
 そう言うと、少女はパキパキと指を鳴らす。
 「す・・・すぐにって・・・わぁっ!?」
 ウィンは思わず驚きの声を上げる。
 バキバキバキッ
 突然響く、藪や小枝の弾ける音。
 感電から回復して起き上がろうとする巨大ネズミ。
 その後ろの茂みから、新たなネズミが顔を出した。
 「ま・・・また増えた!!」
 「ありゃりゃ。ビリカにやられて、能力(エフェクト)が発動しちゃったか。」
 ゴロゴロ・・・
 少女の傍らに浮かぶ黒綿菓子・・・もとい雷雲が申し訳なさそうに低い音を鳴らす。
 どうやらこのミニチュア雷雲、モンスターの様である。
 「気にしないでいいよ。緊急事態だったんだから。」
 そう言うと、少女は雷雲の腹を撫でる。
 ゴロゴロゴロ・・・
 嬉しそうに喉(?)を鳴らして擦り寄る、雷雲。
 「アハハ。駄目だよ。ビリカ。ピリピリするって。」
 笑う少女を、ウィンが、そして三頭の巨大ネズミがポカンと見つめる。
 「あ、あの・・・そんな事してる場合じゃ・・・」
 おずおずと話しかけるウィンに、少女は笑う。
 「アハハ。そうだった。ゴメンゴメン。」
 シュウルルルルル・・・
 あくまで余裕の様子の少女に苛立ったのか、三頭の巨大ネズミが唸りながら身構える。
 「あ、だ、駄目!!早く逃げて!!」
 「何で?」
 「な、何でって・・・このままじゃ、あなたまでやられちゃう!!」
 「でも、ボクがいなくなったら、今度はキミがやられちゃうよ?」
 「で、でも・・・」
 「だいじょび、だいじょび。まぁ、見ててよ。」
 言葉とともに、少女が両手を広げる。
 ポウ
 その両手に、灯る光。
 「それ!!」
 両手に光を灯した少女が、クルリと回る。
 「おいで!!みんな!!」
 言葉とともに、伸びる光の帯。
 その中に、煌き展開する幾つもの魔法陣。
 キラ キラ キラ
 「わ・・・あ・・・」
 ウィンの視界を彩る、星の様な輝き。
 ・・・魅了。
 ただ、魅了。
 その美しさに、ウィンはただただ、魅了される。
 そして、次の瞬間―
 ポンッ ポンッ ポンッ ポンッ
 少女の回りで、魔法陣が弾ける。
 立ち込める、虹色の煙。
 その中から現れたのは、
 
 焼いた土で出来た人の形(かた)。
 何やら怪しげな絵が描かれた巻物。
 キラキラと光る玉。
 炎を吹きながら踊る人形。

 それらが、先に出ていたミニ雷雲と一緒に、少女の周りを飛び回る。
 まるで、おもちゃ箱をひっくり返した様な騒ぎである。
 再び唖然とする、一人+三頭。
 「な、なななな、何!?これ!?」
 「あはは、ボクの友達!!」
 「と、友達!?」
 「そう。ボク、“召喚師”なんだ。」
 「“召喚師”!?」
 「話はあとあと!!今は巨大ネズミ(この子達)を何とかしないとね。」
 その言葉に従う様に、五体のモンスター(?)達が少女の前でスクラムを組む。
 我に帰ったネズミ達も、体制を立て直すと牙を向く。
 それを見たウィンが、慌てて言う。
 「で・・・でも、その子達じゃ・・・!?」
 玩具みたいなミニモンスター達と、大熊の様な巨大ネズミ達。
 どう贔屓目に見ても、勝ち目がありそうには見えない。
 実際、一番頼りになりそうな雷雲の攻撃も、ネズミ一頭をしばし痺れさせる程度の効果しかなかったのだ。
 オマケに、ネズミはダメージを受けるとさらに仲間を呼んでしまう。
 どう考えても手詰まり。
 ウィンはそう思った。
 けれど、少女はあくまで余裕の態。
 牙を剥いて唸るネズミ達を、真正面から見据えている。
 「さ、お仕置きの時間だよ!?覚悟はいーい?」
 ヂュウアアアアッ
 舐めんなとばかりに、ネズミ達が少女に向かって飛びかかる。
 「!!」
 思わず目を瞑るウィン。
 しかし、次の瞬間―
 カァアアアアアアッ
 スクラムを組んでいた玩具達の姿が、まばゆい光に包まれる。
 突然の事態に、ネズミ達の動きが止まる。
 と、その光の中、朗々と響くのは少女の声。

 「小者(しょうじゃ)の矜持 小さな怒り 其を束ねるは不断の絆 其が光 天理の剣となりて 此方に満ちはべりし 全ての不浄を薙ぎ払え!!」

 言葉の紡ぎに合わせ、満ちる光が強さを増す。
 そして―
 「いっけぇええええ!!『弱肉一色(ウィーク・ディヴァイン)』!!」
 ドォンッ
 轟音が響き、玩具達の輝きが光の束となって巨大ネズミ達に襲い掛かる。
 「知ってるよー!!巨大ネズミ(キミ達)の能力は、物理ダメージにしか発動しないんだよねー!?」
 少女が会心の笑みを浮かべながら、言う。
 その言葉を肯定するかの様に、光の中に浮かび上がるネズミ達の顔が驚きと恐怖に歪んだ。
 チュドーン
 轟く爆音。
 ヂュウァアアアアーッ
 悲鳴と共に吹っ飛ぶネズミ達。
 その姿は見る見る小さくなり、空の彼方で星となる。
 「おしっ!!」
 少女と玩具達が、勝ち誇った様にガッツポーズをとった。
 

 「さて、キミ。傷の具合はどう?」
 飛び回る玩具達を従えながら、少女がウィンに向かって向き直る。
 ―と、
 「・・・へ?」
 キラキラ ピカピカ
 ウィンがその目を輝かせながら、少女を見つめていた。
 「ど、どうしたのかな?キミ・・・?」
 思わずタジタジとなる少女に向かって、突然ウィンがガバッとその身を伏せた。
 俗に言う、“土下座”である。
 「へ!?なになに!?」
 訳が分からんと言った態の少女に向かって、土下座したままウィンは言う。
 「お師匠様!!」
 「・・・は?」
 ポカンとする少女。
 ウィンは構わず続ける。
 「貴女の御技、しかと見させていただきました!!感銘しました!!惚れました!!どうか、あたしを弟子にしてください!!」
 「で・・・弟子って、キミ・・・」
 慌てる少女に向かって、ウィンがすがりつく。
 「お願いです!!お師匠様!!」
 「いや、ちょっと待って!!訳分からないんだけど!?」
 しがみ付いてくるウィンを押し戻そうとする少女だが、怒り狂ったスッポンよろしく、頑として離れない。
 「ちょっ、近い!!顔近いから!!とにかく離れて!!」
 「弟子にしてくれるまで離れません!!」
 「だ、だから弟子も何も、ボクは・・・!!」
 「離れませ〜ん!!」
 「誰か〜!!この娘なんとかして〜!!」
 深い山の中、少女の叫びが木霊して消えた。


                                              続く
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