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2013年11月15日

霊使い達の始まり 火の話・前編

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 作成絵師 ぴえーる様(渋 user/30338 スケブ https://skeb.jp/@pieiru)

 皆さん、こんばんは。土斑猫です。
 200コメ記念企画、霊使い外伝「霊使い達の始まり」掲載です。
 今回からは火の話。
 それでは興味ある方は、下記の事を了解の上で。


 この小説はフィクションであり、実在のストーリー、設定とは本当に絶対、何の関係も他意もありません。
                     霊使い達の始まり

              ―火の話・前編―


 それは、暑い夏の日の事だった。
 「ちぇっ、全くついてないぜ。」
 彼女はそんな風に毒づきながら、とある山中の獣道を歩いていた。
 今朝、泊まった宿屋を出てからすでに半日以上。
 日のある内に山越えをしようとしたのはいいが、途中で近道をしようと脇道にそれたのがいけなかった。
 入った道は進むうちに先細り、いつしか草木の生い茂る獣道と化していった。
 この時ほど、自分の短気な性格と方向音痴を恨んだ事はない。
 歩を進める毎に、長い金髪に枝葉が絡まって鬱陶しい。
 降り注ぐ西日が、ジリジリと黒衣に包んだ身体を容赦なく炙る。
 いくら炎を術とする彼女でも、それとこれとは話が別である。
 汗を吸い、肌に張り付く衣服を不快に思いながら恨めしげに頭上の太陽を見上げる。
 大分西に傾いたそれは、あと数刻もすれば山の向こうに消えてしまうだろう。
 「あ〜あ、だぜ。こんな所で野宿なんざ、洒落にもなんねーぜ。」
 ぼやきながら額にかかる前髪をかき上げたその時―
 バササッ
 突然目の前の茂みが割れた。
 「ぜ?」
 出てきたのは、太い嘴を持った大蛇の様な怪物。
 『ディッグ・ビーク』という、獣族のモンスターである。
 ジュロロロロロロ・・・
 ディッグ・ビークは唸り声を上げながら、ジリジリと彼女に近づいてくる。
 どうやら、攻撃する気満々の様である。
 しかし、当の彼女はそれに怯える事もなく、逆にその目を剣呑に光らせる。
 ちなみに目つきが鋭いので、結構怖い。
 「はっ、オレを喰おうってか?丁度いいぜ。こちとらさっきからイライラしてんだぜ!!」
 言葉とともに、彼女の両手に紅い炎が灯る。
 「丸焼きにして、逆に晩飯にしてやるぜ!!」
 ジュロロロロロロッ
 太い嘴を大きく開いて飛びかかってくるディッグ・ビーク。
 それに向かって、彼女が両手の炎をぶつけようとしたその時―
 ザスンッ
 ――ッ!?
 不意に響く鈍い音。それと同時に―
 ドサンッ
 ディッグ・ビークの巨体が倒れ込む。
 「ありゃ?」
 ポカンとする彼女の前には、一人の男性。
 その手に握られるのは、たった今ディッグ・ビークの背中を断ち割った大剣。
 「蒼炎」の文字が刻まれた大剣(それ)を下げながら、彼もポカンとした顔で彼女を見る。

 「誰だぜ?あんた。」
 「誰だい?君は。」

 そんな二人の声が、森の中に重なる様にして木霊した。


 「成程。その学校の卒業試験のためにこんな所まで・・・」
 「だぜ。全く、面倒な話なんだぜ。」
 ぶつくさ言う彼女に、綺麗にさばかれたディッグ・ビークを担いだ男はククッと苦笑した。
 二人は今、森の中を連れ立って歩いている。
 彼女の事情を聞いた男が、自分の家で一夜を明かしたらどうかと申し出てきたのだ。
 嫌も応もない。
 この山中で野宿するのを考えたら、確かに地獄に仏な話である。
 男性の誘いと言う事に、些かの警戒感もあった。
 しかし、男の人の良さそうな気配を見て誘いに乗ってみる事にした。
 もっとも、いざと言う時には自分の身を守る自信がある事もあるのだが。
 ガサガサ
 バサバサ
 黄昏の堕ちてきた森の中を、二人は進んでいく。
 男が、行く手の草木を大剣で払ってくれるので先刻よりも余程歩きやすい。
 その事が、彼女の機嫌を幾分か回復させていた。
 「しかし、幾ら何でもその格好は山越えに向かないんじゃないか?まるで舞踏会にでも行きそうな格好に見えるんだが・・・」
 男が言う。
 暗に旅を舐めるなと咎めているのだ。
 しかし、当の本人は素知らぬ顔。
 「余計なお世話なんだぜ。この格好はオレのポリシーだぜ。」
 そう言って、黒いドレスの端をチロリとめくって見せる。
 「魔法使いだと言ったかな?」
 「ああ。炎術師(ファイヤーソーサラー)だぜ。」
 ポウッ
 ピッと立てた指の上に、炎が灯る。
 「だから、オレを連れ込んで何かしようと思ってんなら止めとくんだぜ。大事な所を使い物にならなくしてやるぜ?」
 その言葉に、男は再び苦笑する。
 「ハハハ。それは恐ろしいな。肝に銘じておくよ。もっとも、その心配はないがね。」
 そう言って、男が前方を指差す。
 森の中、唐突に開けた空間。
 そこに、丸太を組み上げて作られた一棟の小屋が立っていた。
 それに近づいた男が、大きな声を上げる。
 「ただいま。今帰ったよ。」
 途端―
 「お父さん、おかえりー!!」
 バタンと扉が開き、一人の少女が飛び出してきた。
 そのまま、小さな身体が男にぶつかる様に抱きつく。
 歳は10歳程だろうか。炎の様に朱い髪が印象的な少女だった。
 「ただいま。ヒータ。」
 男は笑いながら、少女の頭をクシャクシャと撫でる。
 ヒータと呼ばれた少女はニコニコしながら男に抱きついていたが、ふと彼女に気がつくと驚いた様に男の影に隠れた。
 すると、
 「お帰りなさい。あなた。」
 響く、もう一つの声。
 見れば、小屋の戸口に銀髪の女性が立っていた。
 「あら、珍しい。お客様?」
 そう言って、ニコリと微笑む。
 「・・・と言う訳さ。」
 「納得だぜ・・・。」
 男の言葉に、彼女はコクリと頷いた。


 「へぇ。それでこんな山奥に。苦労してるのねぇ。」
 彼女―ファイヤーソーサラーの前に料理(ディック・ビークのシチュー)を置きながら、銀髪の女性は気の毒そうにそんな事を言う。
 「いや〜。先生達のしごきに比べたら、ずっとマシなんだぜ。」
 そう答えながら、ファイヤーソーサラーはパンをちぎると口に放り込んだ。
 「まぁ、こうやって出会ったのも何かの縁だろう。大したもてなしも出来ないが、せめて今夜一晩ゆっくり休んでいきなさい。ところで、酒はいけるのかい?」
 「ぜへへ。こう見えても炎属性なんだぜ。アルコールなんか、入れてもすぐ燃えちまうのぜ。」
 「おお、それはいい。うちでは家内が下戸でね。飲み相手にはいつも不便してるんだ。今夜は、とことん付き合ってもらおうか。」
 「ぜへへ〜。望む所なのぜ。」
 「ちょっと。ヒータもいるんですからね。ほどほどにしてくださいよ。」 
 エール酒の満たされたカップを打ち合う男とソーサラーに、銀髪の女性が苦笑いしながら釘をさす。 
 「ぜ?」
 言われて見ると、朱髪の少女が女性の影に隠れてチラチラとこちらを見ている。
 「どうしたんだぜ?こっち来て一緒に食おうぜ。」
 来い来いと手招きするが、ヒータと呼ばれた少女は慌てた様に女性の影に隠れてしまう。
 「ありゃ?」
 小首を傾げるソーサラー。
 「オレ、何か気に障る事したかな?」
 「ははは、そういう訳じゃないよ。この娘はひどい人見知りでね。」
 そう言うと、男はグイッと杯を空ける。
 「幼い頃に山小屋(ここ)に移り住んで以来、他人と会う機会が滅多にないからね。仕方ないと言えば仕方ないんだが・・・」
 「そう言えば・・・」
 手にしたカップを置きながら、ソーサラーが訊く。
 「あんた達、何でこんな所に住んでるんだぜ?見たところ、ただの猟師とも思えないんだけどなぁ・・・」
 それを聞いた男が、エールをあおる手を止める。
 「・・・分かるかい?」
 少し鋭さを増した目で、男が言う。
 その視線を受け止めながら、しかしソーサラーはニヤリと笑う。
 「これでも身一つで旅してるんだぜ。節穴じゃない。あんたの持ってた剣はただの狩り用にしちゃ業物過ぎるし、奥さんの身のこなしも何処か素人っぽくないんだぜ。」
 手にしたフォークをピラピラと揺らしながら、探る様に目を細める。
 「やれやれ。敵わないなぁ・・・。」
 「まあ、隠す事でもないが・・・」などと言いながら、男はトクトクと酒壺から新たな一杯をカップに注ぐ。
 「察しの通り、俺はもともとの猟師じゃない。元は麓の国で守護兵団の職に就いていた。」
 「この人、強かったのよ。世間では、『蒼炎の剣士』なんて二つ名で呼ばれていたわ。」
 女性がクスクス笑いながらそう言うと、男も苦笑しながら言葉を返す。
 「そう言うお前だって、中々のものだったじゃないか。屈指の強弓使いで、『紅蓮の女守護兵』と呼ばれていただろう。」
 「いやね。そんな厳つい二つ名、好きじゃなかったわ。」
 そう言って笑い合う二人。
 そんな二人を、ヒータは何やら複雑そうな表情で見つめている。
 「蒼炎と紅蓮か。いい組み合わせなのぜ。で、そんな二つ名までもらってた戦士が何でこんな所にいるんだ?町にいた方が良い生活が出来るのぜ?」
 「まあ、それはそうなんだがね・・・」
 フォークでよく煮込まれた肉をほぐしながら、男は言う。
 「何ていうのかな。疲れてしまったんだよ。」
 「ぜ?疲れた?」
 「ああ。戦士である以上、争いが起これば必ず駆り出される。そしてその先に待っているのは、血で血を洗う様な殺し合いだ。そんな事を繰り返していくと、身体は勿論、心が疲れてくるんだ。」
 「・・・・・・。」
 「病んでくると言ってもいい。周りの景色が血で染まった様に赤く見え、匂いは全て血の匂いに変わり、何を口にしても、血の味しかしなくなる。」
 フォークの先の肉片を見つめる男。
 つられてソーサラーも自分のフォークの先を見つめる。
 湯気を立てる肉。
 口に入れて見ると、よく熟れたトマトソースの香りが鼻に抜けた。
 「この人も私も、そんな生活に嫌気がさしてね。王様からお暇をもらって、守護兵団を辞したの。大分引き止められたけどね、もう限界だった。」
 ヒータの頭を撫でながら、女性が言う。
 「それに、その頃には私のお腹にはもうこの娘がいてね。生まれてくるこの娘に、そんな世界を見せたくなかったのもあるわ。」
 憂いを含んだ眼差しでヒータを見下ろす女性。
 その想いに答える様に、ヒータも彼女を見上げる。
 そんな二人を見つめながら、男が続ける。
 「辞したと言っても、そのまま町にいたらいつ何時駆り出されるか分からないからね。それでこんな山の中まで逃げてきたという訳さ。」
 「ぜぇ・・・。」
 「まぁ、確かに町の暮らしに比べれば不便は多いがね。それでも、ここには求めていた穏やかな生活がある。後悔はないよ。」
 エールの杯が、また空けられる。
 「俺の大剣(相棒)も、あの頃よりもよっぽど良い仕事をしてくれるよ。」
 そう言って、男は豪快に笑って見せた。


 数刻後―
 テーブルに突っ伏して寝込んでいる男を前に、ファイヤーソーサラーはカップの底に残ったエール酒をちびちびと舐めていた。
 「ふふ。本当に、お強いのね。」
 すっかり酔い潰れて高いびきをかいている男に毛布をかけながら、女性が笑う。
 「ぜへへ。伊達に炎術師はやってないのぜ。」
 そう言って、最後の一滴を口の中に落とす。
 その様子を楽しげに見ながら、それでも女性はしっかりと言う。
 「でも、そこまでね。大分顔が赤いわよ。」
 「はいな〜。」
 そう返事をして、椅子から降りる。
 「ちょっと、風に当たってくるんだぜ。」
 「はいはい。」
 戸口に向かう後姿に、女性は優しく微笑んだ。


 「はぁ。夜は大分涼しくなったんだぜ。」
 季節の移り変わりを感じさせるそれに髪を揺らしながら、ファイヤーソーサラーはホウ、と火照った息を吐いた。
 ―と、
 クイックイッ
 誰かが服の裾を引いた。
 「ぜ?」
 振り向くと、そこには裾を掴んでこちらを見上げる、朱い髪の少女の姿。
 「お、どうしたのぜ?」
 ソーサラーは腰を屈め、視線を合わせる。
 そんな彼女に向かって、少女はおずおずと口を開く。
 「お姉さんは、国の人?」
 「?」
 その言葉に、ソーサラーは小首を傾げた。


                                          続く
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