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2014年01月23日

―想占(おもいうら)・6― (半分の月がのぼる空・二次創作作品)







 こんばんは。土斑猫です。
 久方ぶりの二次創作掲載。
 ううむ。いかん。この所掲載速度がかなり落ちている。もっと頑張らねば(汗)
 と言う訳で、「半分の月がのぼる空」二次創作、「想占(おもいうら)」第6話掲載です。




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                     ―6―


 「お手を・・・」
 ”彼女”が、あたしに向かって手を差し出す。
 こっちも、言われるままに手を差し出す。
 ”彼女”の手が、あたしの手を取る。
 ひんやりして柔らかい、心地良い感触。
 なんとなく、心が和む。
 と、そこまで来て、自分が何を占って欲しいのかを言っていない事に気づいた。
 「あの、まだ何を占ってほしいか・・・」
 けれど・・・
 「存じております。」
 ”彼女”がそう言った。
 「・・・・・・!!」
 その言葉に、ザワリと心がざわめく。
 (・・・貴女、悩みがあるわね・・・)
 耳の奥で、さっきの占い師の声が甦る。
 同じ。
 同じだ。
 あの占い師と。
 あの女と。
 分かった様な振りをして。
 上っ面の言葉で心を絡めて。
 自分の益のために、人の想いを踏み躙る。
 同じ。
 この娘も。
 あの女と。
 温まりかけていた心が、急激に冷えていく。
 あたしの手を握る、小さな手。
 それを振り払おうとしたその時、
 「そちらの方も・・・」
 そう言って、”彼女”がもう一方の手を差し出した。
 「え・・・?」
 ”彼”が、戸惑った様に声を上げる。
 あたしも思わず呆気にとられる。
 ”彼女”が差し出した手の先。
 そこにいたのは、世古口君だった。


 「あの・・・どうして・・・?」
 訳が分からないと言った態の世古口君。
 そんな彼に向かって、”彼女”は言う。
 「貴方様も、同じでございましょう?」
 「え・・・?」
 「貴方様も、此方の方と同じ。迷っていられるのでしょう?」
 思いもしない言葉に、心臓がドキリと鳴る。
 世古口君が迷っている?
 あたしと同じ様に?
 どう言う事だろう。
 あたしが知りたいのは、進路の行くすえ。
 世古口君の行く道は、もう決まっている。
 もう、しっかりと自分の道を踏みしめている彼。
 それを決める事も叶わず、揺れているあたし。
 そんなあたしと、彼が悩みを共にしている?
 意味が、分からない。
 「ちょっとまって!!あたしは・・・」
 「その願いは、仮りそめでしょう?」
 言いかけたあたしの言葉を、”彼女”の声が遮る。
 ドキリ
 再び、心臓が鳴る。
 「そもそも・・・」
 見えない目であたしを見つめながら、”彼女”は言う。
 「貴女様の言う様に、”未来”に関する事象を占じる事は何者にも出来ません。」
 「え・・・?」
 「未来は、変動するものなのですから・・・」
 「・・・変動、するもの・・・?」
 「はい。」
 鈴音の様な声が、歌う様に言を紡ぐ。
 「一本の糸の元を揺らせば、その先は大きく振れましょう。それと同じ様に、未来というものも人の身振りによって、目まぐるしく変わるものです。揺れる糸の先が読めぬ様に、人の未来もまた、読み当てる事は叶わぬのでございます。」
 優しく、静かに教え諭す様に”彼女”は言う。
 「でも、それじゃあ・・・」
 あたしの願いは、どうなるのか。
 それを問おうとした時、”彼女”がクスリと笑った。
 「ですから、その願いは仮りそめでございましょう?」
 ドキリ
 また、心臓が鳴る。
 さっきから、何を言われているのか分からない。
 あたしの願いが仮りそめ?
 一体、どう言う事なのだろう。
 分からない。
 分からない。
 けれど、”彼女”がそれを口にする度にドキリドキリと心臓が鳴る。
 あたしの本当の願い。
 あたしの分からない願い。
 それは一体、何だと言うのだろう。
 その疑問を見透かす様に、”彼女”は言う。
 「・・・やつがれが占じますは、貴女様の・・・いえ・・・」
 光のない、けれど優しい眼差しがあたしの傍らを向く。
 「”あなた方”の、”形”・・・。」
 ドキン
 心臓が、一際大きく鳴った。
 思わず、傍らを見る。
 そこには、声も出せずに目を見開く世古口君の姿。
 その顔は、驚きと狼狽に彩られている。
 あたしもきっと、同じ顔をしているのだろう。
 そんなあたし達に向かって微笑むと、”彼女”はまた言った。
 「さあ、お手を・・・。」
 促されるまま、あたしと世古口君はその小さな手に、自分達の手を委ねた。


 「あの・・・」
 ”彼女”に己を委ねたまま、あたしは尋ねる。
 「あたし達の”形”って、何ですか・・・?」
 「言葉の通りでございます。」
 しつこいとも思えるあたしの問いに、”彼女”は気を損ねる様子も見せずに答える。
 「貴女様と此方様。お二人の今ある形が、正しき型にあるかどうかを、占じさせていただきます。」
 「あ・・・」
 その言葉に、引っかかっていた胸のつかえがストンと落ちるのを感じた。
 そう。
 あたしが知りたかったのは、希望の大学に合格出来るかどうかなんて事じゃない。
 あたしが、本当に知りたかったのは―
 視線が自然と隣を向く。
 こちらを見つめる目と、視線が合った。
 世古口君が、あたしを見つめていた。
 あたしと同じ様に。
 あたしを見つめていた。
 「楽に、してください・・・。」
 ”彼女”が言う。
 言われるがまま、あたし達は力を抜く。
 身体からも。
 そして、心からも。
 さっきまで波立っていた心は、嘘の様に穏やかになっていた。
 あの占い師に対する怒りも。
 ”彼女”に対する疑念も。
 今は、ない。
 あたしは。
 あたし達は。
 全てを”彼女”に委ねていた。
 ―と、
 サワリ・・・
 柔らかい感触が、触れる。
 見れば、手の中に乗る一枚の羽根。
 いつの間に現れたのか。
 何処から現れたのか。
 分からない。
 白い。
 白い。
 透き通る様に白い、小さな羽根。
 それが、一枚。
 あたしの手。
 彼の手。
 一枚ずつ。
 手の平の上で、ゆらゆらと揺れていた。
 と、
 ス・・・
 ”彼女”の手が、持っていたあたしと世古口君の手を傾げた。
 一寸の違いもなく、同時に。
 フワリ。
 傾いだ手から、羽根が落ちる。
 あたしの手から。
 彼の手から。
 同じに。
 同時に。
 フワリ。
 フワリ。
 舞いながら。
 絡み合う様に。
 戯れ合う様に。
 宙を、踊る。
 下にあるのは、澄んだ水を湛えた水盆。
 そして―
 ツ――
 二枚の羽根は、音もなく透明な水面(みなも)へと浮かんだ。
 シャン・・・
 澄んだ音が幽かに響く。
 ユラリ
 浮かんだ羽根が、水面を滑る。
 シャン・・・
 シャン・・・
 幽かな音に踊りながら、二枚の羽根はクルクルと回る。
 あたしは、ジッとそれを見る。
 世古口君も、見る。
 クルクル
 クルクル
 白が踊る。
 やがて―
 二枚はその根元を合わせる様にして、静かに止まる。
 フワ・・・
 合わさった根元を中心に、二枚が左右に広がった。
 その様は、まるで羽を広げる一羽の鳥の様に見えた。
 シャアン・・・
 また、響く幽かな音色。
 開いた羽から、水面に波紋が広がる。
 綺麗な波紋。
 左右対称。
 大きく。
 大きく。
 水盆の水面(みなも)、いっぱいに。
 ス・・・
 ”彼女”があたし達の手を離した。
 離れた手が、水盆へと向かう。
 チャプン・・・
 涼やかな音を立てて、白魚の指が水盆へと浸される。
 水面に描かれる波紋。
 それが、”彼女”の指へと触れる。
 ”彼女”が、その感触に集中する様に目を閉じる。
 あたしは、そんな”彼女”の様子をジッと見つめる。
 世古口君も見つめる。
 しばしの間。
 そして、
 スウ・・・
 ”彼女”が目を開いた。
 指が、スルリと水から抜ける。
 あたしと世古口君、そして里香と裕一の視線が”彼女”へと注がれる。
 やがて、”彼女”がゆっくりと口を開いた。
 「・・・『比翼の鳥』でございますね。」
 「ひよくの・・・鳥?」
 「はい。」
 ”彼女”はそう言って、少し乱れた姿勢を正す。
 長い黒髪が細い肩を滑り、シャララと涼やかな音を奏でる。
 「それが、貴女方の”形”です。」
 「で・・・でも・・・」
 戸惑いながら、あたしは問う。
 「ひよくの鳥って、何ですか・・・?」
 「・・・比翼の鳥とは、雌雄それぞれが目と翼を一つずつもち、二羽が常に一体となって飛ぶという、空言の鳥でございます。」
 あたしの問いに、”彼女”は詩でも詠む様に答える。
 「各々が一つの翼しか持たない鳥は、互いを支えあわなければ、飛ぶ事は叶いません。」
 言いながら、“彼女”は水盆に浮かぶ羽根をすくい上げる。
 「それは、決して離れる事の叶わぬ伴侶の証。転じては永久の、そして違いなき絆の証とされます。」
 「え・・・?」
 ポカンとする、あたしと世古口君。
 そんなあたし達に向かって、”彼女”は手にした羽根を差し出してきた。
 慌てて、受け取る。
 少しの間、水に浸っていたそれは、しっとりと濡れていた。
 けれど、どんな原理なのだろう。
 二枚の根元は、しっかりと交わったまま。
 まるで、互いに互いを支え合う、二羽の鳥の様に。
 「それが、答えでございます。」
 「答え・・・?」
 まだ要領を得ないあたし達に向かって、”彼女”が微笑む。
 そして、
 「―間違っては、いないのです―」
 「・・・・・・!!」
 「間違っては、いないのですよ。貴女方の、想いの形(かた)は。」
 ”彼女”は言った。
 はっきりと。
 どんな嘘も。
 ごまかしもない言葉で。
 見えない目で。
 しっかりと。
 あたし達の瞳を見つめながら。
 言って、くれたのだ。
 「あ・・・」
 ポタ
 ポタ
 羽根を持った手に、温かいものが落ちる。
 いつの間にか、あたしは泣いていた。
 止めどなく溢れてくる涙。
 それを拭う事も忘れ、あたしは手にした羽根を胸にかき抱く。
 そう。
 あたしが知りたかったのは、大学の合否なんかじゃない。
 あたしが欲しかったのは、先への指標なんかじゃない。
 あたしが知りたかった事。
 あたしが欲しかったもの。
 それは。
 それは。
 震える肩を、何か大きくて温かいものが包む。
 目を上げると、世古口君があたしの肩を抱いていた。
 見つめてくる彼の目にも、涙が浮いている。
 あたしは、彼の胸に顔を埋めた。
 恥も外聞もなく、押し付けた。
 そんなあたしを、世古口君はしっかりと抱きしめてくれた。
 強く、だけど優しく、抱いてくれた。
 そんなあたし達を、”彼女”は黙って見つめていた。
 見えないその目を、嬉しげに細めながら。
 穏やかな微笑みを浮かべて。
 ただ黙って、見つめていた。

                                           続く
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