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2013年08月10日

―想占(おもいうら)・3-3― (半分の月がのぼる空・二次創作作品)







 こちらが今回の後編になります。長読ありがとうございました。


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 閻魔斑猫の萬部屋




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 どういう事だ?
 訳が分からない。
 「期待しちゃったんだ。あいつが、みゆきちゃんに、『大丈夫』とか『望みは叶う』とか言ってくれるの。」
 「あ・・・」
 「『嘘も方便』って、言うでしょう?」
 そうか。
 里香は件の占い師が、みゆきを救う言葉を口にしてくれるのを期待したのだ。
 みゆきはそもそも、確実な保障が欲しくてここに来た訳じゃない。
 少し。
 そう。ほんの少しだけ、自分の心が寄りかかれるものを求めてここに来たのだ。
 まして、そこまで心を委ねている状態。
 そこで、気持ちにプラスになる事を言って貰えれば、それこそ乾土に水が染み込む様に、みゆきの心は癒されただろう。
 けど、現実はそうではなかった。
 みゆきの想いに、彼女が、占い師が突き付けた答えは「NO」だった。
 今までのやり取りから、占い師にはみゆきの悩みが何なのか、容易に想像がついていた筈だ。
 里香は言う。
 そこで彼女は考えた。
 ここで「大丈夫」と背を押す事は容易い。
 しかし、それは可能性の低い道をみゆきに示す事になる。
 それは、自分にとってリスクでしかない。
 それでみゆきが受験に失敗すれば、結果占いが外れた事になるのだ。
 それでは、自分の名声に傷がつく。
 商売上、それは好ましくない。
 ならば、最初から可能性の大きい方に引きずってやればいい。
 理想ではなく、現実に引きずり戻してやればいい。
 そうすれば、みゆきはまず無難な結果を得るだろう。
 そして、自分の占いも当たった事になり、それは巷での自分の評判を良くする材料になる。
 彼女は、それを狙ったのだ・・・と。
 「い、いや。何もそこまで穿って見る事ないだろ!?ただ単に、みゆきが失敗しない様にそう言ってくれただけなのかも・・・」
 そう言う僕を、里香が見る。
 大きな目が、黒い瞳が揺らいでいる。
 その様は、まるで今にも泣き出しそうに見えた。
 「じゃあ・・・。それじゃあ・・・」
 里香が叫ぶ様に言った。
 「何で、司君の事まで否定する必要があったの!?」
 「――!!」
 その言葉に、僕は答えに詰まる。
 確かに、占い師は言っていた。
 追い詰める様に。
 辛うじて掴まってる崖から、蹴り落とす様に。
 『捨てろ』と。
 進路について、一つの道に執着する奴は、まず間違いなく何か大きな想いを抱いている。
 夢。
 憧れ。
 家族の事や、そして恋人の事。
 形は色々あるだろうけれど、それは本人にとって何にも代え難い、大切なものの筈だ。
 そりゃあ、中には間違っているものもあるだろう。
 想いの強さのあまり、危うい綱を渡りかけている奴もいるかもしれない。
 だけど、その想いがそいつにとって、この上なく大切なものである事には違いない。
 相手を思って、危うい道を諭す事は時には必要だろう。
 だけどその想いまでを否定する権利は、誰にもない。
 だから、人を諭す事は難しい。
 道を正しながら、その想いを傷つけない様に。
 どうしても踏み込まなければいけないのなら、自分も傷つく事も覚悟しなけりゃいけない。
 それが出来るのは、本当に一握りの人間。
 そいつの事を本当に理解し、想い、共に傷つく覚悟のある人間。
 少なくとも、その日会ったばかりの名前も知らない占い師なんかが口を出していい道理は、ない。
 なのに、彼女は。
 あの占い師は言ってしまった。
 みゆきの想いを。一番大事なそれを抉り取ってしまった。
 実際、彼女は自分が言う所の「禍しいほうき星」とやらが具体的には何なのか、分かってはいないだろう。
 ただ単純に、みゆきがここまで拘るには何か原因があるのだろうと当たりをつけただけだ。
 最初にみゆきの悩みを当てた時と、同じ手口。
 そこで動揺したみゆきを見て、彼女はそれを利用したのだ。
 それが、みゆきがどれほど大切にしているものか知るよしもなく。
 否、知るつもりすらなかったのだろう。
 彼女はただ、客(みゆき)が自分の示した道の通りに歩けばそれで良かったのだから。
 みゆきの前にある分かれ道の一方を、自分の思惑の成就には邪魔なそれを、ザックリと切り落とせればそれで良かったのだから。
 そこにあるのは、自分を頼りにしてきた者に対する思いやりではなく、打算。
 ただ淡々と、己の利益だけを計算する、血の通わない大人の打算。
 考えてみれば、いつも客に対して態の良い事ばかりを言っていて、信用される筈もない。
 世の中、そんなに上手くいくものじゃない事くらい、誰でも知っている。
 世間を納得させるには、救うだけじゃ駄目なのだ。
 それに釣り合うだけの人間を、奈落に落とす事が必要なのだ。
 そう。占い師としての評価を得る為の、幾ばくかの生贄。
 みゆきは、それに選ばれたのだ。
 「ごめん・・・」
 里香が、また謝る。
 里香を責める気なんて、もうなかった。
 里香は信じたかっただけなのだ。
 人の善意を。
 占い師としてではなく、一人の人間としての矜持を。
 そんな、子供の想いを、占い師の大人としての悪意が上回った。
 それだけの話。
 ・・・気がつけば、里香は俯き、悔しげに唇を噛んでいた。
 みゆきは、まだ泣いている。
 司は成す術もなく、立ち尽くしている。
 何なんだよ。これ。
 こんなの、あんまりじゃないか。 
 僕は、もう一度「Fortune Silhouette」の方を振り返った。
 そこには相変わらず、色んな年頃の女性達が長い列を作っている。
 彼女達はどんな想いを持って、あそこに並んでいるのだろう。
 この列の果てに、何が待っている事を夢見ているのだろう。
 彼女達が飲み込まれていく、「Fortune Silhouette」の入り口。
 その奥に広がる闇が、僕には酷く、酷く深いものに思われた。


                                            続く
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