こんばんは。土斑猫です。
今日のコミケ、小生が原作を書かせていただいた半月本が出品されました。
昨日も言いましたが、自分が行けないので何とも言えんのですが、首尾はどうだったんでしょうね。
やっぱり気になるもので・・・w
睦月さんのブログで、何か報告とかあるといいな〜。
と言う訳で、こっちはこっち。
「半分の月がのぼる空」2次創作、「想占(おもいうら)」第3話掲載です。
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閻魔斑猫の萬部屋
新品価格 |
―3―
ゲームセンターの外に出ると、日はもう大分西に傾いていた。
降り注ぐ西日の中、「Fortune Silhouette」へと急ぐ。
僕達がたどり着いた時、もう里香とみゆきは建物の外にいた。
「おぅ、待ったか・・・?」
そう声をかけようとした僕は、思わずそれを飲み込んだ。
悔しそうな、怒った様な顔をした里香。
その横で、ベンチに座ったみゆきが俯き、泣いていた。
「ど、どうしたの!?水谷さん!?」
司が驚いた様に声をかけるが、みゆきは俯いたまま答えない。
ただ黙りこんで、ポロポロと涙をこぼす。
何だ!?これ!?
何か、さっきよりも酷くなってないか!?
「お、おい!!何だよ!?何があったんだよ!?」
「何も蟹もないわよ!!」
僕の問いに、里香は怒りを隠さない声音でそう言った。
「次の方、どうぞ。」
列に並ぶ事、二時間。
あたし達はようやく「Fortune Silhouette」の建物の中に招き入れられた。
「お二方ですか?」
入り口に立っていた女性が、そう訊いて来る。
「いえ。あたしは付き添いです。」
あたしの言葉に、女性は「そうですか。」と頷くと、「占料を。」と言ってきた。
「お一人で、3千円になります。」
安くはないけど、高くもない値段。
高校生(あたし達)でも、なんとか払える範囲。
これが、ここが流行る理由の一つでもあるんだろう。
みゆきちゃんから料金を受け取ると、女性は「奥の部屋へどうぞ。」とあたし達を促した。
入り口からは、奥に向かって一直線に通路が通っている。
中は薄暗く、西洋のランプを模した照明がボンヤリと辺りを照らし出している。
その通路を、みゆきちゃんと連れ立って歩いていくと、奥の方から歩いてくる人影が見えた。
あたし達とは逆の進行方向。
近づいてきたのは、一人の女の人だった。
狭い通路で、あたしが道を譲るとその女(ひと)は何も言わずあたし達の横を通り過ぎた。
すれ違う瞬間、彼女の顔が目に入った。
見覚えのある顔。
確か、さっきまであたし達の前に並んでいた女(ひと)だ。
つまりは先客。
占いを終えて、戻ってきたのだろう。
だけど、気になったのはそんな事じゃあない。
彼女は、泣いていた。
手にしたハンカチを目に当てて、こぼれる涙を拭っていた。
・・・何だか、嫌な予感がした。
隣を歩く、みゆきちゃんを見る。
自分の事でいっぱいいっぱいの彼女は、件の女の人の様子には気付かなかったらしい。
その事にホッとしつつも、あたしは内心穏やかではなかった。
さっきの女(ひと)の流していた涙。
それが、どうにも不安を誘う。
このまま、みゆきちゃんに占いを受けさせてもいいものだろうか。
もう一度、隣を見る。
彼女の目は、相変わらず通路の奥だけを見つめていた。
まるで、他の何もが眼中にないと言った表情で。
あたしは、気付かれない様に溜息をついた。
やっぱり駄目だ。
今の彼女に何を言った所で、聞く耳を持つとは思えない。
それにどの道、ここまで来ておいて今更止めようとも言えない。
あたし達は黙ったまま、薄暗い通路を歩いて行く。
やがて、通路の先に扉が見えてきた。
その前に立ち、コンコンとノックをする。
すると、扉の奥から「入りなさい。」という声が聞こえてきた。
若い、女性の声。
取っ手に手をかけて、扉を開ける。
その向うに広がっていたのは、淡い光に包まれた小さな部屋。
灯りはランプ型の照明が数個と、部屋の奥に置かれたテーブルに灯された大きな燭台が二本。
その神秘的な光の中に、あちこちに飾られた不思議な絵や、額縁に入ったカード等が揺れている。
いかにもと言った雰囲気の様相に目を奪われていると、テーブルの方から「いらっしゃい。」と声をかけられた。
見れば、女の人が一人、大きな水晶玉を前にして座っていた。
彼女が占い師だろうか。
言われるままに近づく。
女の人は黒い服を着て、頭にはやっぱり黒い色のヴェールを被っている。
まるで喪服の様だ、とあたしは思った。
燭台の光に浮かび上がる顔は、綺麗だけど少し冷たそうに見えた。
「占って欲しいのは、どちら?」
占い師が訊く。
「あ、あたしです!!」
みゆきちゃんが答えると、彼女は頷いて自分の前に座る様に促した。
緊張した様子で、おずおずと椅子に座るみゆきちゃん。
すると、占い師がみゆきちゃんの顔をじっと見つめてきた。
厳しいというか、何か威圧する様な眼差し。
みゆきちゃんが、耐えかねる様に視線を逸らす。
「まずは、名前と、そして生年月日を西暦から教えて。」
問いかける声。
それも、どこか冷たくて鋭い。
まるで、反論は許さないとでも言う様な響きがある。
「は、はい。」
言われたとおり、みゆきちゃんは自分の名前と誕生日を言う。
占い師はそれを聞くと、手元の紙にサラサラッとメモをとった。
「あ、あの、それで、占って欲しい事は・・・」
みゆきちゃんが口ごもりながらそう言った時、占い師がそれを制した。
奇妙な意匠の指輪を付けた右手が上がり、テーブルの上の水晶玉にかざされる。
しばしの間。
そして―
「貴女、悩みがあるわね・・・。」
占い師の口が、ぽそりと言った。
「は・・・はい・・・。」
思わず頷く。
その返事を聞きながら、彼女は続ける。
「それは、貴女の今後の人生に大きく関わる事・・・。そう、例えば・・・」
薄くシャドウを塗った目が、みゆきちゃんを見る。
「・・・これから自分が選ぶべき道の事・・・。」
「――!?」
息を呑む気配が伝わる。
「は、はい!!」
戸惑いながらも、みゆきちゃんは答える。
・・・一瞬、占い師が、薄くほくそ笑んだ様な気がした。
そして、水晶玉を覗き込みながら彼女は続ける。
「貴女には理想がある。だけど、その理想と現実にズレが見え始めているわね。」
「わ・・・分かるんですか?」
「ええ。貴女の守護星が、迷う様に揺らいでいるのが見えるもの。」
淡々と語りながら、占い師は目を細めてみゆきちゃんを見る。
「大きな星が、貴女の星の行方を遮る様に、グルグルと回ってる・・・親御さんか、先生かしら。あなたの理想を否定し、論している・・・。理想とは違う、別の道を選ぶ様にね。」
ゴクリ。
唾を呑み込む音が、やたらと大きく聞こえた。
みゆきちゃんは、目の前の水晶玉を食い入る様に見つめている。
まるで、占い師に習う様に。
「貴女が問いたいのは、自分が理想が叶うのか?それが正しいのか?そう言う事ね。」
「・・・はい・・・。」
促されるままに、みゆきちゃんは頷き、そして言う。
「どうしても、合格したいんです!!あたし・・・あたし・・・!!」
すがる様な口調。
けど、それを受けても占い師の表情は変らない。
小さく「ふむ。」とだけ言うと、手を水晶玉にかざしたまま目を閉じる。
そして、またしばしの沈黙。
あたしも、みゆきちゃんも、占い師も、何も言わない。
燭台の西洋蝋燭の炎が、ゆらゆらと揺れて光を散らす。
やがて、占い師がゆっくりと口を開いた。
「・・・駄目ね。」
「・・・え・・・?」
その言葉に、みゆきちゃんの身体がビクリと震えた。
「貴女の理想は、叶わない。」
「そ、そんな・・・!!」
思わず立ち上がり、詰め寄ろうとするみゆきちゃん。
そんな彼女を、冷たい声が遮る。
「見えないの。その理想の光に輝く、貴女の未来が。」
水晶玉を撫でながら、気の毒そうに占い師は言う。
「もう一度言うわ。貴女の理想は叶わない。よしんば、無理にその道に進んだとしても、待っているのは後悔だけ。」
「・・・!!」
その言葉に、みゆきちゃんは脱力した様に座り込む。
その様子を眺めながら、占い師は続ける
「貴女、何故その理想にこだわるの?」
「え・・・?」
「何故その理想にこだわるのかって訊いてるの。」
「それは・・・」
うろたえるみゆきちゃん。
その様子に、占い師が目を細める。
「何か、貴女をそれに縛るものがあるわね?」
「――!!」
息を呑む気配。
そして―
「捨てなさい。」
ザックリと切り捨てた。
「“それ”は、貴女にとって良くない縁(えにし)よ。」
返る言葉はない。
占い師は、畳み掛ける様に言葉を連ねる。
「見えるのよ。貴女の星に尾を絡める、禍しいほうき星が。」
「“それ”は、貴女に偽りの理想を与え、紛い物の未来を夢見せている。」
「“それ”にこだわる限り、貴女は間違った道をたどり続けるわ。」
ザクリ
ザクリ
言葉の刃が、心を切り裂く。
「・・・・・・。」
みゆきちゃんの細い肩が、プルプルと震え始める。
「辛いでしょう。だけど、それが・・・」
―これまでだった。
ダンッ
テーブルに、強く手を叩きつける。
「もう、結構です!!」
驚いた顔をする占い師を睨みつけ、あたしはそう言った。
3-2に続く