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2014年04月01日

―想占(おもいうら)・8― (半分の月がのぼる空・二次創作作品)







 こんばんは。土斑猫です。
 今日から4月。春本番ですね。
 陽気も暖かく、心地良い限りです。
 まあ、餌台に鳥達が来なくなるのは少し寂しいですが・・・。
 と言う訳で、今月最初の更新は、「半分の月がのぼる空」二次創作、「想占」です。


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半分の月がのぼる空 2: 2




                     ―8―


 誰もいなくなったその部屋で、あたしと”彼女”は黙って向き合っていた。
 電灯の類のない、古風な部屋。
 ぼんぼりの放つあえかな灯りだけが、ユラユラと揺れる。
 その揺れる陰影の中で、”彼女”の瞳があたしの方を向いている。
 光の無い筈のそれは、薄闇の中で妙に輝いて見えた。
 ホウ、と”彼女”が溜息をつく。 
 「・・・あれほど”それ”は出来ないと申しましたに、何故バレたのでしょうね?」
 言いながら、小首を傾げる”彼女”。
 白々しいと思いつつ、あたしは言う。
 「おかしかったもの。色々と。」
 「はて?」
 傾げた首が、ますます傾く。
 「どの辺りがでしょう?後学のためにお教えいただけませんか?」
 すっとぼけた調子で、そんな事を訊いてくる。
 けむに巻こうとしているのが、見え見えだ。
 「・・・さっきのあの娘。」
 「椛ですか?」
 「うん。」
 あの娘が、あたし達の前に現れた時の事を思い出す。
 「あたし達が来るのを待ってて、声かけてきた。」
 「ただ、客取りをしていただけですよ?」
 話を逸らされない様、慎重に言葉を並べ立てていく。
 「中から外(こっち)を伺ってる様子なんか、なかった。おまけに、「お待ちしておりました。」なんて言ったりして。」
 「それは、言葉のあやというもので・・・」
 「そんな感じじゃなかった。」
 ”彼女”が、う〜んと腕を組む。
 「素直でいい娘なのですが、演技と誤魔化しが下手なのがたまに傷ですね。後で指導しておきます。」
 「・・・あなたも、大概なんだけど。」
 「あら?」
 ポカンとした様な顔をする”彼女”。
 「やつがれもですか?何という事でしょう!」
 大仰に驚いてみせる。
 わざとらしい事この上もない。
 だんだんイライラしてきた。
 「ちなみに、どの辺りがでしょう?後学のために・・・」
 「人数確認する前に座布団ぴったり四つとか用意しといて、どの辺りも何もないと思うんだけど・・・!?」
 「あら。」
 とぼけた顔で、着物の裾を口に当てる。
 「それもそうですね。これは浅慮でした。」
 そう言って、コロコロと笑う。
 「あたし、真面目に話してるんだけど。」
 いい加減、言葉に怒気が篭る。
 「まあまあ、そう怒らずに。」
 ニコニコと笑顔は崩さず、あたしを抑える手振りをする。
 「短気は損気と申しますし、怒気はお身体に障ります。どうです?落ち着くためにお茶などもう一杯・・・」
 言いながら、傍らの茶器を手に取る。
 「・・・話、逸らそうとしてるよね?」
 低い声で、言った。
 お茶を入れる手が、一瞬ピタリと止まる。
 「本当に、賢しい方です事・・・。」
 呟く様にそう言うと、止まっていた手が再び動き出す。
 しばしの間。
 シャカシャカと、お茶をかき混ぜる音だけが響く。
 やがてお茶碗を手に取ると、彼女はそれを差し出してきた。
 「まずは、一服どうぞ・・・。」
 言葉とともに、光のない目があたしを見る。
 あたしはお茶碗を受け取りながら、その目を真っ直ぐに見返した。


 お茶碗に満たされた、新緑の液体を口に含む。
 ほろ苦く、薄甘い味が口に広がり、優しい香りが鼻に抜けていく。
 あたしがお茶を飲む間、”彼女”はジッとその様を見つめていた。
 「・・・目、見えるの?」
 空になったお茶碗を置きながら、”彼女”に向かって問うてみる。
 「見えませんよ。」
 想定通りの答え。
 訊いては見たものの、その事に関しては疑いを持ってはいなかった。
 光の映らない瞳。
 定まらない焦点。
 こっちに向けられているとは言え、それらの事が”彼女”の言葉が正しい事を如実に語っていた。
 「生まれつきだって言ったよね?」
 「はい。」
 「治らないの?」
 「治りません。」
 きっぱりとした答え。
 「病院には?」
 「行った事は、ございません。」
 「どうして?」
 「無意味だからです。」
 「どうして、そう思うの?」
 「分かりきっていますから。」 
 その言葉に、ふるりと心が震える。
 ふと、昔の自分がだぶって見えた。
 「行ってみなくちゃ、分からないよ?」
 自然に、そんな言葉が出た。
 それを聞いた”彼女”が、クスリと笑う。
 「お優しいのですね。ですが・・・」
 開いていた目が閉じる。
 白い手が上がって、自分の瞼に触れた。
 「貴女様が憂う様な理由ではありませんよ。言わばコレは”理”との契約なのですから。」
 「契約?」
 「ええ。」
 何でもない事の様に、“彼女”は言う。
 「物事には、”対価”が必要なのです。」
 言いながら、瞼に触れていた手を、今度は水盆の上へとかざす。
 「やつがれは、この力を持って生まれました。」
 冷たく澄んだ水面が、ユラリと揺れる。
 「その代わりに、この眼は光を宿しませんでした。」
 淡々と語る口調。
 そこには、後悔も怨嗟の色もない。
 「全ては、対価の交換なのです。」
 ”彼女”は語る。
 まるで、教え諭す様に。
 「何かを得るためには、それに等しい何かを失い、何かを失う事で、それに等しい何かを得る。それが、この世の「理」と言うものです。そして―」
 白魚の様な指が、あたしに向けられる。
 「それは、貴女様も同じ事・・・。」
 「・・・・・・!!」
 その指は、真っ直ぐにあたしの左胸を指していた。
 「そこに宿る病は、貴女様から多くのものを奪いました。ですが―」
 見えない瞳が、ジッと見つめる。
 まるで、あたしの内を見通す様に。
 「貴女様は今、己を不幸とお感じですか?」
 「・・・・・・。」
 あたしは、黙って首を振る。
 確かにこの心臓は、あたしからたくさんのものを奪っていった。
 疎ましく思った事もあれば、憎々しく思った事もある。
 やり場のない苛立ちを、他人にぶつけた事だってある。
 でも。
 だけど。
 今のあたしは、不幸なんかじゃない。
 こんな身だからこそ、見える様になったものがある。
 こんな身体だからこそ、感じられる様になったものがある。
 そして何より。
 こんな運命だったからこそ、巡り合えた人がいる。
 ”彼”の顔が、脳裏に浮かぶ。
 馬鹿で。
 情けなくて。
 どうしようもなくて。
 だけど。
 優しくて。
 温かくて。
 愛しい。
 そう。
 あたしは、彼を手に入れた。
 何よりも。
 何よりも大きな。
 何よりも大切な。
 代わるものなど、ある筈もない。
 たった一つの、宝物。
 この病が。
 他人より短いこの命が。
 そのための対価だったと言うのなら。
 あたしは、笑ってそれを差し出せる。
 自信を持って言える。
 重い対価ではなかったと。
 不条理な取引ではなかったと。
 それは。
 それだけは。
 絶対に。
 絶対に、確かな事だった。
 「・・・良い対価を、得ましたね。」
 あたしを向いていた”彼女”が、ニッコリと笑う。
 「・・・うん。」
 そんな”彼女”に向かって、あたしはそう言って頷いた。


 ペタペタペタ
 長い廊下に、あたし達の足音が響く。
 その音に摩られる様に、所々に置かれたぼんぼりの光がユラユラと揺れた。
 「ねえ。何を作るの?」
 先を行く女の子の後を追いながら、あたしは隣を歩く世古口君に訊いた。
 「うん。時間が時間だから。あまり手間のかからないバタークッキーとかにしようかと思ってるんだけど・・・。」
 「バタークッキー?」
 「うん。」
 「美味しそうだね。」
 「美味しいよ。簡単だけど。でも、材料とか器具とか、必要なのがあるか分からないし、台所に行ってから決めるしかないかな。」
 「そっか。それもそうだね。」
 言いながら、ふと後ろを見る。
 そこには、憮然とした顔でついてくる裕一の姿があった。
 「・・・裕一、何でついてくるの?」
 「しようがないだろ。里香についてけって言われたんだから。」
 むすっとしながら答える裕一。
 「里香が?何で?」
 「心配だから、ついてけってさ。」
 「心配?何が?」
 「わかんねーよ。」
 そんな会話が聞こえているのかいないのか、女の子は前を向いたままスルスルと歩いていく。
 そして―
 「こちらです。」
 彼女はそう言って、目の前に現れた戸を開いた。
 「あ。」
 「へえ。」
 戸の向こうを覗いたあたし達は、一様にそんな声を出した。
 そこにあったのは、質素だけどしっかりとした今風のキッチン。
 もっと、昔風の台所を想像していたんだけど。
 使いやすそうな反面、この建物の雰囲気には些か不釣り合いな気がする。
 「何か、以外・・・。」
 中に入りながら、そう呟く。
 「利便性が一番ですから。」
 そう言って、女の子が微笑む。
 「うん。これなら、何でも出来るよ。」
 周りを見回した世古口君が、嬉しそうに言った。
 そんな彼に、女の子が声をかける。
 「必要なものは、そちらに。」
 「え?」
 言われて見てみると、テーブルの上に色々と物が置かれていた。
 世古口君が近寄って、確認する。
 「・・・バターに薄力粉に卵・・・必要なの、全部そろってる。」
 「本当!?」
 「うん。ココアもあるから、ココアクッキーも出来るよ。」
 何処か嬉しそうな世古口君。
 そんな彼に向かって、女の子が言う。
 「道具も揃っています。お好きな様に、お使いください。」
 「ありがとう。」
 女の子に微笑みながらそう言うと、世古口君はグイッと腕まくりをする。
 楽しげな彼。
 あたしも、何処かウキウキしてくる。
 こんな気持ちは、久しぶりだ。
 「何、すればいい?」
 訊いてみると、世古口君はちょっと考えて、こう言った。
 「それじゃあ、バタークッキーの方を頼もうかな。僕は、ココアクッキーを作るから。」
 「出来るかな?」
 「大丈夫。教えてあげるから。」
 そう言って、ニコリと笑う彼。
 「うん。」
 大きく頷いて、あたしは自分もグイッと腕まくりをした。


 「あら?」
 不意にそう言うと、”彼女”はふと宙を見上げる。 
 「あちらの方、始まられた様ですね。」
 目の前にその情景があるかの様にそう言って、フフッと微笑む。 
 「楽しみですこと。」
 その顔は、年相応の無邪気さに溢れている。
 でも、 
 「誤魔化さないで。」
 あたしの口から飛び出したのは、少し険のこもった声。
 ”彼女”は困った様に息をつくと、その顔を再びあたしに向けた。
 「やはり、引きませんか?」
 「引かない。」
 「貴女様は賢しい方です。」
 今しがたとはガラリと変わった、表情のない顔。
 あたしを威圧する様に、その眼差しが向けられる。
 「やつがれがこうする意味も、お分かりだと思いますが・・・。」
 「・・・そんなに、いけない事?」
 「はい。」
 あたしの問いに、一寸の間も置かずに返る返答。 
 取り付く島もない。
 けれど、あたしは食い下がる。
 「対価は、払うよ?」
 「無理です。」
 「無理?」
 「はい。」
 「どうして?」
 「大きに過ぎます。」
 「・・・大きいんだ。」
 「はい。払う事など敵わぬ程に。」
 「・・・・・・。」
 会話が途切れた。
 少しの間、漂う沈黙。
 ちょっとだけ、大きく息を吸う。
 そして、あたしは用意していた言葉を放つ。

 「それでも、払うって言ったら?」

 ”彼女”の呼吸が、一瞬止まった様な気がした。
 あたしを見つめる眼差し。
 本当に、不思議な目だと思う。
 見えない筈なのに。
 光も映さないのに。
 深く、深く、澄み切っている。
 犯されていない。
 灼かれていない。
 真っ新な瞳。
 それが、あたしを見つめる。
 心の内の、奥の奥。
 本当のあたしを、見透かして来る。
 「・・・酔狂ですね。」
 冷たい声だった。
 それまでの穏やかな声とは違う、冷ややかな声。
 胸の内まで切り込む様なその声音で、”彼女”は続ける。
 「そして、存外に愚かです。」
 「・・・・・・。」
 あたしは、言葉を返さない。
 「分かっている様で、分かっていない。」
 「・・・・・・。」
 返さない。
 「全ての対価が、やつがれが先に示した様な型で済むとお思いですか?」
 「・・・・・・。」
 返さない。
 「あれは、あくまでかの形で釣り合うものだからこそ、そうしたまで。」
 「・・・・・・。」
 返さない。
 「より大きなものを求めれば、払わねばならぬ対価の大きさも、型も、応じたものへと変わります。」
 「・・・・・・。」
 返さない。
 だって。
 「”未来”の形を知ると言う事は、それだけ、大きな事です。」
 「・・・・・・。」
 だって・・・。
 「まして・・・」
 「・・・・・・。」
 あたしは・・・・。
 「”他者”の未来を知らんがために、それを犯そうなどと・・・!!」
 「・・・分かってる。」
 そう。あたしは・・・。
 「分かってるよ・・・。」
 分かっているのだから。
 理解して、いるのだから。
 「それでも・・・」
 だから。
 「それでもあたしは知りたいの・・・。」
 あたしは、想いを口にする。

 「裕一の、未来を!!」

 はっきりと、言い放つ。
 「・・・・・・。」
 ”彼女”は口を噤み、その目を細める。
 その視線に縊られる様に。
 微かに。
 本当に微かに。
 心臓がトクリと、悲鳴を上げた。



                              続く
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