こんばんは。土斑猫です。
大変お待たせしました。
ライトノベル「半分の月がのぼる空」二次創作、新作掲載です。
・・・とは言っても、ふと思いついたものをそのまま文にしただけなので、か〜な〜り、荒削りです。
後々、修正など入るかもしれませんがその時はどうぞ御容赦を。
それではしばし、お付き合いくださいませ。
半分の月がのぼる空〈8〉another side of the moon-last quarter (電撃文庫) 新品価格 |
―想占(おもいうら)―
―1―
女子は占いが好きだ。
雑誌の星占いのコーナーを見て一喜一憂したり、訳の分からないカードを買ってきていじってみたり、好きな男が出来たら誕生日や血液型を聞き出して攻略法を占ったり、果てには「こっくりさん」とか「エンジェルさん」だとか怪しげな儀式に手を出す連中もいたりする。
そういうのに興味のない僕としては、その気持ちは良く分からない。正直馬鹿らしいと思うし、あのカードと説明書一式で、カメラのフィルムが何個買えるかなどと考えてしまう。
その点に関しては里香も同じで、他の女子みたいに「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」とか言ってキャアキャア騒いだりしない。
生まれてからずっと、今だけを信じて生きてきた里香にとって、占いによってもたらされる曖昧な未来や胡乱な予想など、取るに足らないものなのだろう。
クラスの女子達が占いに興じる中、里香はその輪に加わる事なく本のページをめくっているのが常だった。
そんなある日。金曜日の放課後。帰ろうとしていた僕と里香は司とみゆきに呼び止められた。
「何だよ?」
放課後の里香との一時を邪魔された僕は、些か不機嫌な調子でみゆきに訊ねた。
そんな僕を無視する様に、みゆきは里香に話しかける。
「ねえ里香。明日、ちょっと付き合ってくれないかな?」
「何?」
「明日ね、ちょっと「Fortune Silhouette」に行ってみようと思って・・・」
「フォーチュン・シルエット?」
何だ?それ。
里香も同じ気持ちらしく、キョトンとした顔をしている。
「何?それ。」
「知らない?最近駅前に出来た、占いの舘。安くて、よく当たるって評判なの。」
占いと聞いて、里香が眉を潜める。
「占い?どうしてそんな・・・?」
「それは・・・」
口ごもるみゆき。
何か、いつものみゆきらしくない。
「・・・おい、一体どうしたんだよ?」
僕はヒソヒソ声で、一歩離れて立っていた司に訊ねる。
みゆきも里香同様、占いなんてものには興味を示さない口だった筈だ。
それが何で、占いの舘なんてものに行こうなんて言い出したのか。
何かあったとしか思えなかった。
司は少し迷った後、やっぱりヒソヒソ声で返してきた。
「うん・・・。実は水谷さん、この間の模試が良くなかったらしいんだ。」
「模試が?」
「うん。第一志望の大学の判定が下がっちゃったんだって。それで、酷く落ち込んじゃって・・・。」
なるほど。
司は卒業後、東京の料亭に修行に行く事になっている。
そして、みゆきの第一志望の大学も東京だ。
そう。
二人は一緒の約束をしていた。
二人でこの町を出て、二人で歩いていくつもりだったのだ。
だけど、ここに来てそれに影が射したという訳だ。
今の時期、もう期限は本当のギリギリだ。
残り僅かの時間で、全てを決めなくてはいけない。
「塾の先生にも、学校の先生にも、第一志望は無理して狙わずに、第二志望に的を絞った勉強をする様に言われたって・・・」
司が、寂しそうに言う。
僕はそうか。と頷く。
ただでさえ、受験生にとってはナイーブになる時期だ。
模試でそんな評価をうけたあげく、先生達から口をそろえてそう言われれば、心も揺らぐというものだろう。
もっとも、先生達の言う事は当たり前かもしれない。
彼らの役目は、生徒を無事次の進路へと差し渡す事だ。
今ここに来て危ない橋を渡らせるよりは、確実な安パイを進めるのは当然だろう。
「それで、何で占いの舘に行くなんて話になるんだよ?」
「訊きたいんだって。」
「何を?」
「自分が第一志望に受かれるかどうか。」
「はぁ?」
思わず僕は、呆れた様な声を出してしまった。
「それって何か、方向性が間違ってないか?」
僕の言葉に、司は「うぅん」と困った様な顔をした。
「水谷さん、今、本当に自信なくしてるんだと思う。」
「みたいだな。」
「それで、何て言ったらいいのかな?こう、拠り所になるものが欲しいんじゃないかな?」
言葉を選ぶ様に、何度も口篭りながら司はそう言った。
「拠り所?」
「うん。」
ああ、そうか。
それで分かった。
みゆきは今、すがるものを求めているのだ。
単純に、半ば惰性に流されて進路を選んでいた頃ならともかく、今のみゆきには目的がある。
司と共に歩むという目的が。
そりゃあ、純粋に学問を究めたいとか、優良企業への就職とか、そんな明確な将来を目指して進学する連中からしたら、ちゃんちゃら可笑しい目的かもしれない。
だけど、今のみゆきにとってそれは何よりも大切な事。
大事な人間と、共にいたいと言う想い。
それが、本人にとってどれだけ大きなものか、僕には分かる。
人間の手は二本だけ。
何かを抱き締めてしまったら、もう他のものは持てはしない。
そこに何を抱き締めるかは、その人間の自由。
堅実な将来。
大きな夢。
家族の明日。
そして、たった一人の人間。
それは、誰もが皆、平等に与えられた権利。
みゆきはそれに、司を選んだ。
僕が、彼女を選んだみたいに。
それだけの話だ。
だけど、世の中ってのはそう優しく出来てはいない。
いろんなものが、折角抱き締めたものを奪っていこうとする。
囁き、揺さぶり、時には力ずくで。
そして、多くの人間はそれに負けて大切に抱き締めていた筈のものを手放してしまう。
みゆきは今、その瀬戸際にいるのだ。
司と見るあえかな夢を、現実という圧倒的な力に押し流されようとして、喘いでいる。
もがいている。
そんな中で、必死になって探しているのだ。
揺れる波の中で、自分の手を括り付けるものを。
飲み込もうとするうねりの中で、自分の身体を委ねられるものを。
たとえ、それがどんなに曖昧なものでも。
たとえ、それがどんなに胡乱なものでも。
自分の想いがすがれるものを、求めているのだ。
みゆきの想いは、恋に盲目になった挙句の浮ついたものではない。
考えて考えて、その果てにたどり着いた答えだ。
だけど、その事を学校や塾の先生の様な、大多数の大人は理解してくれない。
言って見た所で、何故第二志望ではいけないのかと訊かれるだけだろう。
素直に想いを打ち明けても、恋に迷って進路を選ぶなんて馬鹿な真似をするなと、否定されるのがオチだ。
今の心理状態でそんな事を言われたら、それこそ泣きっ面に蜂と言うやつだ。
みゆきは今、それを一番恐れているのだろう。
何の事はない。
みゆきは言って欲しいのだ。
想いは実ると。
自分の想いは必ず実ると、誰かに言って欲しいのだ。
「僕が、何か出来ればいいんだけど・・・」
司が心苦しそうに言う。
そう。
僕達では駄目なのだ。
当事者である司や、僕達友人が「大丈夫」と言ったところで、それはみゆきの意にあつらえて作っただけの言葉に過ぎない。
みゆきが望むのは、人情が絡まない、客観的な立場からかけられる肯定の言葉。
全く、酷く難しい注文だ。
そんな自分の欲求に悩みに悩んで、行き着いたのが「占い」。
確かに、占い師なら見ず知らずの第三者。
余計な人情が絡む余地はない。
その上、客商売なのだから、こちらの意にそった答えを言ってくれる可能性は高い。
だけど―
「そんなんで良いのか?根本的な解決になんねぇだろ。」
「そんな事、水谷さんも分かってるよ。」
司は少し怒った様に言って、そしてまたすぐにしょぼくれる。
「・・・それでも、行きたいんだって。」
「・・・そうか。」
病状は、こちらが思う以上に重篤な様だ。
里香と話しているみゆきの後姿を見る。
その背中は酷くか弱げで、いつもの彼女とは別人の様に思えた。
1-2に続く