こんばんは。土斑猫です。
世間はオリンピックで盛り上がってますね。
日本選手の皆様も健闘してらっしゃる様で、嬉しい限りです。
メダルを取った方も、そうでない方も、胸を張って帰ってきて欲しいものです。
いろんなしがらみもあるかもしれませんが、本当のスポーツ精神とはそう言った下世話なものを超越した所にこそあるものだと思いますから。
などと、偉そうな事を運動音痴の自分が言って見たりするw
いやでもホント、皆さん胸を張って帰って来てほしいと思うのは本音です。
なんやかやと、息苦しい今のご時世の中なら尚更。
という訳で、半分の月がのぼる空二次創作、「想占(おもいうら)」第7話掲載です。
―7―
どれほど時間が経っただろう。
あたしは、ようやく世古口君の胸から顔を離した。
大きく一つ、息を吐く。
身体の中に溜まっていた澱が、吐息と一緒に吐き出されて行く様だった。
「大丈夫?水谷さん。」
世古口君が訊いてくる。
「うん。大丈夫。」
あたしはそう言って、ニッコリと笑って見せる。
それを見た世古口君も、ニッコリと笑った。
彼の笑顔。
何だか、すごく久しぶりに見る様な気がした。
「さて・・・」
ニコニコと二人で笑い合っていると、酷く申し訳なさそうな調子でそんな声が挟まってきた。
見ると、”彼女”が少しのバツの悪そうな顔で畏まっていた。
「この様な所、無粋極まる話で大変申し訳ありませんが・・・」
本当に。
本当に、申し訳なさそうな声で言う。
「―”代価”を、頂かなければなりません。」
「あ・・・」
そこで、ハッと我に返る。
そう。
”彼女”の占いは、ただではないのだ。
ここまで案内して来てくれた女の子。
彼女の言葉が、脳裏を過ぎる。
(―代価はいただきます。けれど、それがお金とは限らない―)
あの子は、確かにそう言った。
お金じゃない代価。
それは一体、なんなのだろう。
一体、何を求められるのだろう。
「あの・・・”代価”って、何ですか・・・?」
恐る恐る、訊いてみる。
すると”彼女”は細い顎に手を当て、考える様な素振りを見せる。
「そうですね。何にいたしましょう。」
・・・どうやら、それはこれから決まる様だ。
考える”彼女”。
しばしの沈黙。
緊張が、ジワリと身体をはい登ってくる。
知らず知らずの内に、世古口君の手をギュッと握る。
すると、世古口君もギュッと握り返してきた。
見れば、彼の顔も緊張の色に彩られている。
ふと、思い当たる。
今の占いは、世古口君も受けたのだ。
と言う事は、”彼女”の言う代価は、彼も払わなければならないのだろうか。
つかえていたものが取れた今になって、皮肉にもあたしの思考は冷静に回りだしていた。
正直、あたし自身は仕方ないと思っている。
自分自身の意思で決め、自身の意思で受けたのだ。
そこに今、後悔の思いは全くない。
だけど、世古口君は違う。
彼はあたしの事を思ってついて来て、その流れのまま占いを受ける事になった。
彼の意思じゃない。
あたしの勝手に、彼を巻き込んでしまったのだ。
・・・どうしよう・・・。
今更の様に湧いてくる、恐怖の念。
これから払わされる、代価とやらが怖いのではない。
それによって、彼に危害が及ぶのが怖かった。
彼に、嫌われるのが怖かった。
折角、求める答えが得られたのに。
それを、自分の愚行でぶち壊してしまう事が怖かった。
もう一度、今度は恐る恐る彼の顔を見る。
すると、それを察した様に世古口君もこっちを向いた。
穏やかに、微笑む顔。
(大丈夫。)
その笑顔が、そう言っていた。
(・・・・・・!!)
それをまっすぐに見れなくて、あたしはうつむく。
その代わり、彼の手をもう一度強く握った。
―どれほどの間だったろう。
実際には、多分一分にも満たない時間。
けど、あたしには酷く長い時間の様に思えた。
と、
ポン
思案していた”彼女”が、両手を打った。
「では、こうしましょう。」
ドキリ
心臓が鳴った。
次の言葉を、判決を言い渡される前の罪人の様な気持ちで待つ。
そんなあたし達に向かって、ニコリと微笑むと彼女は言った。
「やつがれは、甘味に目がありませんで・・・」
「「・・・え?」」
「お一つ、作ってはいただけませんか?」
「「は・・・?」」
思いもがけない言葉に、あたしと世古口君はそろって馬鹿みたいな声を出した。
見れば、里香も裕一もポカンとした顔をしている。
「甘味って・・・、お菓子ですか?」
「はい。」
世古口君の問いに、”彼女”はあっさりと頷く。
「でも、そんなので・・・」
「お得意なのでしょう?」
微笑む顔を世古口君に向けながら、”彼女”はそう言った。
彼は、驚いた様に目を丸くする。
「あの・・・でも、それじゃあ・・・」
「もちろん、貴女様にも代価は払っていただきますよ。」
今度はあたしの方を向きながら、”彼女”は言う。
「貴女様は、此方様のお手伝いをしてください。一拍も、離れる事なく。」
「は・・・はい。」
戸惑いながら、頷く。
「・・・でも、そんな事で代価になるんですか?」
それでも今一つしっくりこない感じがして、あたしはまた訊いた。
「”そんな事”では、ありません。」
そう言って、”彼女”は真顔になる。
「やつがれは、これより貴女方より”時”をいただくのです。」
「・・・時?」
「はい。」と言って、頷く”彼女”。
「貴女方の時を、やつがれのために使っていただくという事は、貴女達の生の一部をやつがれがいただくと言う事と同義です。」
静かに紡ぐ言葉。
教え諭す様に、言は続く。
「人の生とは、ほんの一時。そして、過ぎ去ってしまえば、二度とは戻らぬもの。」
鈴の様な声が、鈴々と語る。
「その様な、唯一無二のものの一部をいただくのです。此度の対価としては、十分かと。それに・・・」
そこで”彼女”は急に相好を崩すと、悪戯っぽくクスクスと笑った。
「今の貴女にとっては、時はいつにも増して大事なものでしょう?」
クスクスクス。
楽しげに笑う。
そこであたしは、ハッとして腕の時計を見る。
「ああ!!」
「ど、どうしたの!?水谷さん!!」
あたしの声に、世古口君が驚いた声を上げる。
「忘れてた!!今日、塾の入試対策特別授業・・・」
「ええ!?何時から!?」
「7時・・・。」
時計の針は、6時45分を指していた。
「もう、間に合いませんね。」
ニコニコしながら、“彼女”が言う。
「あ、あの、僕が水谷さんの分まで・・・」
「駄目です。」
世古口君の申し出は、バッサリと切り落とされる。
「対価は、対価。しっかりと、払っていただきます。」
ニコニコ。
ニコニコ。
何処か意地悪気なのは、気のせいだろうか。
そんな彼女に向かって、あたしは言う。
「・・・対価なんだ。」
「はい。対価でございます。」
「そっか・・・。」
あたしは、少しの間だけ悩んだ。
悩んだ、”ふり”をした。
そして、
「分かった。じゃあ、仕方ないよね。」
そう言って、顔を上げた。
「いいの?水谷さん。」
世古口君が、心配そうに訊いてくる。
「うん。いいの。」
本当は、あんまり良くない。
ほぼ間違いなく、塾の先生や親に怒られる。
それに何より、受験生という身においては一分一秒でも勉強の時間は惜しい所だ。
まして、今日は昼間を丸々潰している。
本来、その分を埋めるために夜は余計に頑張らなければいけない。
けれど。
だけど。
「いいんだ。今日は。」
妙に晴々とした気持ちで、あたしはもう一度そう言った。
その言葉を聞いた”彼女”が、またニコリと微笑んだ。
「あの・・・台所はあるんですか?」
世古口君が訊くと、”彼女”は「ええ。」と答えて、「椛。」と声を上げた。
すると、
「はい。」
後ろから、急に声が響く。
いつの間に、戻ってきたのだろう。
あたし達を案内してくれたあの女の子が、部屋の襖の前に座っていた。
「ご案内を。」
「かしこまりました。」
”彼女”の言葉にそう答えると、襖に手をかけてスス・・・と開けた。
「こちらへ。」
そう言って、女の子は廊下の方へみゆきちゃん達を促す。
「水谷さん。」
「うん。」
世古口君とみゆきちゃんが連れ立って廊下に出ると、女の子は「こちらでございます。」と言って、二人を先導する。
「里香、裕一。ちょっと、時間かかりそうだから。先、帰ってていいよ。」
みゆきちゃんがそう言ってきたけど、あたしは首を振った。
「ううん。待ってる。」
あたしがそう言うと、みゆきちゃんは「そう。」と微笑んで世古口君と一緒に歩きだした。
やがて、三人の姿が廊下の向こうに消えると、あたしは隣りを見た。
そこには、相変わらずポカンとした顔をした裕一がいる。
「裕一。」
声をかける。
返事はない。
どうやら、まだ呆気に取られている様だ。
事態の展開に、頭がついて行っていないのかもしれない。
「裕一!!」
少し、語気を荒げて言う。
「わ!!な、何だよ!?」
ようやく気づいた。
そんな彼に向かって、あたしは言う。
「裕一、ついて行って。」
「は?」
「心配だから。みゆきちゃん達について行って。」
「え・・・?でも・・・」
訳が分からないと言った態の彼に、また少し声を荒げる。
「いいから!!」
「わ・・・分かったよ。」
裕一は首を傾げながら立ち上がると、みゆきちゃん達の後を追って廊下に出ていった。
彼の姿が廊下の奥に消えたのを見計らうと、あたしは”彼女”に向き直る。
”彼女”はチョコンと座したまま、こっちを見ていた。
いや。目が見えないのだから、”見ている”と言う表現はおかしい。
あたし達の声のする方に、顔を向けていたというのが正しいのだろう。
「・・・ごめん。」
「何がでございましょう?」
あたしの言葉に、”彼女”は小首を傾げる。
「まだ、疑ってる様な事言った。」
「構いませんよ。友方を想うは、当然の事です。それに・・・」
”彼女”の目が、薄く開く。
見えない筈のそれが、何かを見通す様にあたしに向けられる。
「先のは、本音ではないのでしょう?」
何でもない事の様に、そう言った。
「・・・分かるんだ。」
「ええ。」
微笑みながら、頷く”彼女”。
「盲目(この様な身)であるが故、見えるものもございますれば・・・」
「そういうものなの?」
「そういうものです。」
あたしの言葉に、微笑みながら”彼女”は答える。
「それよりも、どうぞこちらにお座りください。そこでは、話すにも首が疲れましょう?」
そう言って、自分の前の席を示す。
促されるまま、あたしはさっきまでみゆきちゃんが座っていた席に移る。
「そう言えば、まだお礼言ってなかった。ありがとう。」
”彼女”と差し向かいになると、あたしはそう言って頭を下げた。
「さて、何の事でしょう?」
「みゆきちゃんの事。おかげで、随分楽になったと思う。」
「その事なら、御礼は筋違いですよ。」
言いながら、”彼女”はピチョンと水盆の水を突く。
澄んだ水面に波紋が広がって、そこに映るあたし達の顔がユラユラと揺れた。
「あの”型”は、あのお二人が自ら作り上げたものです。やつがれは、それを見える様に示し表しただけでございます。」
「そういうもの?」
「そういうものです。」
先と同じやり取りを繰り返しながら、あたしは”彼女”の顔を見つめる。
人形の様に整った顔。
それが、ぼんぼりの作り出す明暗に染められて、妖艶な雰囲気を作り出していた。
「ねえ。」
そんな“彼女”に向かって、あたしは訊く。
「あなたは、何?」
「ただの、しがない占者です。」
用意していた様な答えが、すぐに飛んできた。
「・・・答える気、ないんだ。」
少し、追ってみる。
「答えてますよ。やつがれは、世に数多いる占者の一人。他の何でも、ございません。」
「あなたみたいな人が、たくさんいるの?」
「ええ。いらっしゃいます。」
「会った事も、聞いた事もないんだけど。」
「そこはそれ、人には”縁”というものがございますから。」
「あなたには、会ったけど。」
「それこそ、御縁というものでしょう。」
「こんな時に?都合の良い縁もあったもんだね?」
「それが、縁というものです。」
いくら追っても、するりするりとはぐらかされる。
その”切っかけ”を、掴む隙を見せない。
なら、仕方ない。
思う事を、ストレートに伝えよう。
「じゃあ、質問変える。」
「駄目です。」
間髪入れず、答えが返ってきた。
「まだ、何も言ってないよ?」
「それでも、駄目です。」
それまで彼女の顔を彩っていた微笑みが消えている。
能面の様に、無表情になった顔。
細まった瞳が、威圧する様にあたしに向けられていた。
「・・・やっぱり、そうなんだ。」
その態度に、確信を得ながらあたしは言う。
「見れるんだ・・・。”未来”・・・。」
「・・・・・・。」
答えはない。
代わりに、ぼんぼりの火が風もないのにルォンと揺れた。
続く
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いよいよ始まったシン、レイ、ガイと百足との対決。
いきなりフルボッコにできるかと思ったら、百足もなかなかやりますな。
装甲はかなり硬く、3人のちからを持ってしても、正攻法ではなかなかダメージを与えられないようで……。しかも、百足の毒はまともに喰らえば、3人も無事ではすまない、と。
これは、シンが言ったとおり、油断ならない戦いになりそうですね。
シンの身を案じるアユミはまぁ予想通りですが、でもガイがピンチの時に、タマミの叫び声……。なんだかんだいって、好きなんじゃーんタマミぃ〜〜www コノコノwww
ガイも、白虎の鎧で命拾いしたようで……。3人が獣神具装備で、ようやくいい勝負、ということを考えると、百足のちからは途方もないですなー。少し、甘く見ていた……。
ガイの攻撃した部分が再生してしまいましたが、シンの見方によると、無駄ではないようで……。どういうことなのかな?
たしか、ナメック星人も腕なくなっても再生できますが、体力自体は消耗しますよね。そういう理屈かな?
この百足戦があとどれくらい続くのか予想も付きませんが、
良い感じで、四聖獣には勝ってほしいですな。
そして、トウハの要酢も気になります。
さてさて、次回も楽しみにしてますよー。