2013年11月09日
316. 種田陽平 映画美術・ジブリ・音楽 「サワコの朝」
1960年生まれ、53歳。大阪府出身。映画美術界の第1人者で、クエンティン・タランティーノ監督とは「キル・ビル」で、三谷幸喜監督とは新作「清須会議」で4作目の仕事となります。
「記憶の中で今もきらめく曲」は
映画「アメリカの夜」(1973年)のテーマ曲。
フランソワ・トリュフォー監督作で、映画を撮る過程を描いた作品。美術セットの仕掛けをはじめとして、「映画を撮る」ということがどういうことか、非常によく分かる映画です。
「美術セットの魅力が詰まった映画」と種田さん。現場、特に「厳しい現場」に行くときに車の中で聞くと「気分が高揚する」曲なのだとか。「セットが見えてくる…」
「CGで何でも作れる時代に美術セットを作る意味は?」とアガワさん。
「集団で作るよさ、なんですね」と種田さん。「職人さんたちがいて、初めて出来てくるものなんですね…」「ああだこうだ、言いながら…」
背景画家の人たちの仕事が無くなっていく現実があるそうですが。
「職人仲間たちといい映画を残していきたいんですよ…」と種田さん。
一度失われた技術は取り戻せませんものね。
少年のころ
「そもそもは映画の美術監督になろうと思っていたわけじゃなくて…」とアガワさん。「武蔵野美術大学出身…」
「最初は油絵科で…」と種田さん。
「将来は美術関係に進みたいと?」
「子どものころから絵を描いて、切り抜いて、立たせたりとか…」「当時は自分の好きな漫画やアニメのキャラクターものとかあまり出てなかった…。売ってなかったんですよ」
そしてお父さんは大の西部劇好き。
「シェーン」をいたく気に入った種田少年、馬、少年、山を描き、切り抜いて「シェーン、カムバック!」とやっていたそうです。
これはあまり人に見られたくない「ひとり遊び」だったようで、「『リカちゃんハウス』が欲しかったんです」
なるほど、女の子がよくする「ままごと」と通底するものがありますね。
「セットの模型を作って、三谷さんと話していると、そこに戻る」と種田さん。
「美術」という仕事
仕事の依頼があると、「監督とよく話をする」と種田さん。そこがスタートだとか。
そして平面図を描き、次に俯瞰図と作っていき、模型を作ります。それでOKなら、いよいよセットを組み立てます。セットは短くて1か月、長いものでは1年ほどにもなるそうです。
「ぼくの仕事の半分くらいは予算と時間との戦いなんです」と種田さん。「いついつまでに出来ないといけない…。ここで役者さんが来るから」「予算はこれしかない」
「『これしかない』と言われたら、どうするんですか?」
「あとちょっとあればこれができるんだけど…」(笑)
「この予算ではここの部分は削らないと」というと三谷さんは「それは絶対イヤだ!」
こうして監督との「共犯関係」が出来ていくそうです。
映画はドリーム、セットは現実
「笑っちゃうような失敗は?」とアガワさん。軽く訊くなあ…。
「2ヵ月かけて作ったセット、撮影しなかった…」
「キル・ビル」のときだったそうです。千葉真一さんが鍛冶をする沖縄の家。
「完璧な出来だ」と監督も言っていて「最終日に撮る」とのことだったのですが、結局「時間が無いから撮れない」。
「プロデューサー、『ちゃんとメイキング撮ったから…』」(笑)「そういうもんじゃないんだと…。映画の中に残すのが仕事なので…」「映画に残らなかったら意味が無い」
逆にこういうこともあったそうです。映画「マジック・アワー」のセットがあまりにも素晴らしいので、三谷さんは「これは残したい」と言ったとか。
「一刻も早く壊したい」と種田さん。「映画はドリームなので、美術は映画のドリームに貢献する役割なんです。現実であっちゃダメなんです」「非現実を作っていかないといけない…」「それを残すと現実のものになっちゃう…」「映画が出来たらすぐ取り壊したい」「壊すことで次に進める」「次の挑戦…でないとワクワク感が無い…」
種田さんは見るからに優しい、温厚そうな方なのですが、これらの言葉はまことに力強いものでした。
ジブリと仕事
「ワクワク感を求めて」種田さんはジブリとも仕事をしました。
映画「借りぐらしのアリエッティ」の「アニメの世界を現実のものにする」という試みでした。
「宮崎駿さんは自分で建築の設計図を描いてしまうような人なので…」
ジブリの秘密の一端に触れることができるのではないかという思いで、仕事をしているそうです。
種田さんの今の心配は「映画がドラマを描かなくなっていること」。
ドラマはテレビに移っていて、映画は3Dなどの「飛び出る」方向に行っている、と。
「美術は奥行きを作るものなので…」と種田さん。「『あまちゃん』に負けたくない」
「今、心に響く曲」は
「Make You Feel My Love」(2008)アデル
これは仕事の疲れをいやしてくれる曲なのだそうです。
「朝聴くのが『アメリカの夜のテーマ』なら、これは夜寝る前に聴く曲…」
種田さんは音楽が大好きで、一日のいろんな場面でその時に合った曲を聴いていたい、という思いが強いのだとか。
ああ、日本にはいろんなプロがいるなあ、と思いながら見ていました。この人もまさしく日本文化を支えるお一人ですね。ほっそりしていてダンディ、おとなしそうで芯はかなり強い、頑固…。
本当に魅力的な種田さんでした。
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