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2022年03月01日

【ブックレビュー】一家に一冊クロサワの教科書『人間 黒澤明の真実:その創造の秘密』

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人間 黒澤明の真実:その創造の秘密

黒澤明の研究者として知られる元テレビマンの著者が、膨大な資料と自らの原稿を再整理、彼の生涯と作品、創作手法、人間像などをクリアかつコンパクトにまとめた。

『人間 黒澤明の真実:その創造の秘密』(都築政昭著、山川出版社)は、日本の映画ファンであれば教養として持っておきたい知識を網羅した、クロサワの教科書(山川だけに?)として必携の一冊だ。







絵を愛するいじめられっ子だった少年時代、西部劇などアメリカ映画、クラシック音楽、外国小説、絵画、俳句など国内外の芸術を浴びた青年時代から、黒澤の創作の原点を探っていく。30歳を前に自死した活弁師の兄、東宝入社後助監督として仕えた山本嘉次郎など、強く影響を受けた人物も挙げる。

自身の理想の人間像が投影されていると思われる、黒澤映画の不器用でいびつながら、主体的に未来をつかみ取らんとする人物造形、『生きものの記録』『夢』で描かれる「核」への危機感など、繰り返し描かれるモチーフなどのルーツもみえてくる。





創作の現場の描写は面白い。「画」作りのための民家破壊、果てしない天候待ち、度重なる予算オーバー等々、良く知られている「黒澤天皇」のエピソードのほか、信頼するライターたちと合宿し、徹底した議論で作り上げる脚本、最も楽しみにしていたという編集の情景などもリアルに描かれている。

その他、牛肉をこよなく愛した健啖家の一面、撮影中、立派な大人の俳優たちに延々「輪唱」させるという、映画『まあだだよ』を思わせる稚気あふれる宴会(三船は閉口して逃げ回ったそうだ)、親友の本多猪四郎ら(『ゴジラ』)との深い友愛のエピソードなどなどから、人間黒澤を探る。

しかし黒澤の狂気をはらむ完璧主義、ときに独善的ともいえる創作への情熱、ときには人への情愛の深さと裏返しで、たびたび確執やトラブルを生んだ。二人三脚で世界的名声を高めた三船とのすれ違い(輪唱が原因ではないだろうが)、音楽家、武満徹との編集現場での大げんか、ハリウッド大作「トラ・トラ・トラ」でのトラブルと降板などは、キャリアを追うごとに、アルコール依存と奇行、自殺未遂と痛切さを増す。

事実ベースの記述が中心であり、個別の作品の断定的解釈や、作品とパーソナルな出来事との関連付けは抑制的だ。しかし、事実を丹念に拾う仕事だからこそ、黒澤の創作のモチベーション、そして苦悩の、のっぴきならなさが感じられる。静かながら渾身の、著者の筆致が心に響く。



posted by ちゃんにし at 11:18 | Comment(0) | 書評
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