2015年03月08日
本紹介 No. 002 『曼荼羅の世界とデザイン』
『曼荼羅の世界とデザイン』
前回の本紹介に引き続き、曼荼羅ってなんやろな〜ってことで
松原 智美 著 『曼荼羅の世界とデザイン』(グラフ社、2008)
前回の森 雅秀 著『マンダラ事典 100のキーワードで読み解く』(春秋社、2008)では曼荼羅の周辺を俯瞰してみました。
では、曼荼羅の構造ってどうなってるの?というのをその「かたち」から読み解けるかな?という漠然とした期待と、曼荼羅を描き始めて気がついたんだけど、これって図像の大きさや比率に特別なルールみたいなものがあるのかな?という不安が出てきて、そういうことも含めて気になったので読んでみました。
本書のねらいを「 はじめに」から要約してみると「曼荼羅をデザインとして捉え、密教教義との関連の中で、曼荼羅デザインの種類や図形の意味、使われ方について理解する。」といったところでしょうか。
というわけで、『マンダラ事典』とは異なりこの場合の曼荼羅とは密教曼荼羅に限定していることがわかります。
構成
さて、構成は5章立てで以下の通り。
第一章 さまざまな曼荼羅のデザイン
第二章 曼荼羅デザインの構成要素
第三章 曼荼羅デザインの基本的法則
第四章 曼荼羅をより詳しく知るために
第五章 日本の曼荼羅10選
内容
第一章では20以上の図像パターンの説明とデザイン要素の抽出がされるけど、具体的な曼荼羅の写真は一切示されず、デザインパターン図のみを用いて説明される。ここで、「曼荼羅に興味があるなら知ってて当然。もしくは、ご自身で調べるでしょう。」と言われている気になってくる。
でも、これは著者の「実物の作品を見て欲しい」という願いからくるものであることが「おわりに」に書いてある。また、説明の幾つかをわざとぼかしてある「知らないふり」装置が機能している。このため、この先大丈夫かな〜と不安になりますが、大丈夫です。安心して読み進めましょう。
第二章、この本の本領が発揮されるのはここからです。
五大、四種法、『法曼荼羅経』、観想、月輪、北斗法、『百宝口抄』、『死者の書』、『マハーバーラタ』、五大色および『大日経疏』と様々な知見から、曼荼羅に見られる図形や色について鋭い切り口の解説が重ねられていきます。
第三章では、観想の円形と『金剛頂経』(金剛界法)との関わり、および、慈悲の蓮華形と『大日経』(胎蔵法)との関わりについて。また、金剛界曼荼羅成身会を例に諸尊配置の詳細と法則の抽出、および、胎蔵界曼荼羅への応用解説がなされます。
第四章は、(1)仏教・密教の歴史と日本への伝播、(2)曼荼羅の言語的意味、(3)密教諸尊の種類と尊像、(4)曼荼羅の四種類、(5)両界曼荼羅と灌頂、(7)別尊曼荼羅と各修法について概略しています。
第五章、ここでは日本に現存する10例の曼荼羅(両界曼荼羅3作例、別尊曼荼羅5作例、壁画曼荼羅および立体曼荼羅各1作例)について解説がなされます。本書のカラー口絵8図は主にこの章の説明に使われます。
以上、ざっと概説しましたが、全体的に実物写真に乏しい。
著者は小さな写真ではなく実物の曼荼羅に会いに行きその存在感を感じたり、立体曼荼羅の作り出す圧倒的な空間に身を置いて欲しいと考えています。そのために、本書では極力曼荼羅の写真を載せていない。
確かにそうなのだろうなと思います。それでも、あえて言わせて貰えば、デザインパターン抽出や説明に使用した元の曼荼羅の(1)写真、(2)名称、(3)所在をあげていただいたほうが良いと思う。
(1)があったほうが曼荼羅への親近感や興味が持てるし、それに(2)、(3)がわからなければ、著者が望む曼荼羅参拝もどこに何を見に行けば良いのか全くわからない。
学術的な面から見た場合にも、どの曼荼羅を元に第一章でのデータを構築したのかは著者でなければわからないのだから本書の内容を精査する術が担保されていないと思ったりする。
著者とすれば、第五章の10作例をきっかけとして、様々な曼荼羅に直接触れるようにして欲しいと思ってるのかもしれないがこれで十分なのだろうか?
とちょっと辛口になりましたが、著者の曼荼羅愛は十分に感じられました。
『西院本曼荼羅』について
さて、『西院本曼荼羅』が表紙に使われており、また、第五章でも取り上げられていました。特に新しい情報はなく、やはり謎の多い曼荼羅なのだなということが確認されただけなのですが、好きな曼荼羅が取り上げられていると嬉しく思います。
結局、当初の疑問点である「図像の大きさや比率に特別なルールみたいなものがあるのかな?という不安」については今の所「特にないのではないか」という感じで受け止めています。
一方、『西院本曼荼羅』に限らず、様々な曼荼羅の中で「色と形」が重要な役割を担っていることがわかり、今後の作画のなかで「色と形」の意味を深く心に留めて一筆づつおいていこうとあらためて思いました。
では、また〜ヾ(。・ω・。)ノ
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