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2017年08月30日

【とつくにの少女】マンガ 感想&あらすじ 少女と人外の優しくも切ない交流を独特な世界観で描いた御伽噺

月刊コミックガーデン。 2015年10月号から連載中。既刊3巻
作者:ながべ



あらすじ

昔々、遥か遠い地に、別たれたふたつの国があった。人間が住まう「内つ国(うちつくに)」と、異形の者たちが棲まう「外つ国(とつくに)」。

人間はふれるだけで呪いをもたらす異形の者たちを恐れ、内で生きる者たちを守るため、高い壁を築き、疑わしき者は問答無用で処分されていた。

本来ならば人が寄り付くことはなく、交わるはずのないふたつの国。しかし、呪いに覆われた外つ国の領域でありながら、呪いを受けることなく生きる一人の幼い少女が――。

その者の名は「シーヴァ」。
世界のことも、自分の身に何が起こったのかも、まだ何も知らないあどけない彼女は、「せんせ」と呼び慕う異形の者に拾われ、いつか迎えが来ることを信じて一緒に暮らしていた。

シーヴァに呪いを移すまいと決して彼女とふれあうことはしない先生。その庇護の下で明るく無邪気に暮らすシーヴァだったが、その存在が他の異形の者たちに、そして内つ国の一部の人間たちに知られ・・・。

いま、ふたりの物語がひっそり動き出す。

登場人物

ネタバレも含まれているので注意

・シーヴァ
主人公。幼い人間の少女。肩ぐらいまで伸ばした白い髪と、いつも着ている白い服が特徴。年相応の天真爛漫さを見せる明るくて優しい性格の女の子。若干おてんばな面もアリ。一貫してセリフはひらがなのみ。
「せんせ」と呼び慕う異形の者と一緒に「外つ国」で暮らしています。1人で呪いだらけの外へ出歩くことを禁じられているため、せんせと一緒のお出かけや、おちゃかいをすることが楽しみ。「内の国」で育ててくれたおばさんから貰った本を大事にしながら、いつか迎えに来てくれることを無邪気に信じています。
教会からの使命を受けたおばさんに内つ国の村へ連れて行かれるも、おばさんが呪いを受けて変異し、村中で呪いが発生。兵士に追われて村を出たところで、迎えに来てくれたせんせいと遭遇し、異形の姿になったおばと一緒に外つ国の家に帰りました。

・せんせい
もう1人の主人公。シーヴァと一緒に暮らしている異形の姿をした「外の者」。シーヴァからは「せんせ」と呼ばれています。
元は普通の人間でしたが、呪いを受けて外つ者になってしまいました。見た目は全身の肌が真っ黒に染まり、立派な山羊の巻き角を生やした竜骨のような頭。味覚も空腹感もないので食事を必要とせず、睡眠をとることもなく、さらに痛覚もないことから炎に触れても矢を体に受けても平気。
シーヴァに呪いがうつってしまうことを恐れ、肌が触れないよう常に気を配っています。健気に迎えを待つ彼女に、実は「内つ国」からの捨て子であることを打ち明けられず悩んでいました。
安全を脅かすあらゆる害からシーヴァを守っていますが、他でもないせんせい本人が彼女との暮らしを大切な拠り所にしています。

・外の者
名称不明。シーヴァの頬に触れた外の国に棲まう異形の者。体全体が黒く、木の枝か鹿のような角を生やした大柄な外の者。せいせいのことを「黒の子」と呼び、「よそ者?」「呪われた者か?」と問うていたことから、呪いを受けて異形の者になった人間ではなく、元から外の国に居た異なる存在である可能性あり。
彼らが言うには、「おかあさん」と呼ぶ得体の知れない存在のため、奪われた「魂」を取り返そうとしているらしい。シーヴァに対して「魂をだれから取り返したのか今度教えてね」という意味深な言葉を残して去っていきました。

・おばさん
内つ国でシーヴァを育てていた老婆。内つ国でシーヴァが呪いの疑いをかけられて処刑されそうになったことから、止むを得ず本と手紙をそえて外つ国に置いて来たというのが経緯。
呪いの疑いが晴れたと報せを聞き、教会の使命を受けてシーヴァをせんせいの元から引き剥がすも、連れて帰った内つ国の村で呪いを受けて異形の姿に変異。兵士から逃げて村を出たシーヴァと迎えに来たせんせいと共に、外つ国の家まで付いていきました。
面倒を見ていたシーヴァとは血の繋がりも縁も何も無く、実はおばさんが外つ国で拾った子。


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感想・見所

ヤマザキコレ先生の『魔法使いの嫁』が異例の大ヒットを記録して以来、マンガやアニメ、ラノベなどで盛り上がりをみせる「人外モノ」。このブログでも個人的にアタリだった同ジャンルのマンガを何作か紹介させていただきました。
波が起これば乗りに来る人も増えるは道理。そうなると、当然ハズれも増えます。というより、ハズれの方が遥かに多いわけで、かくゆう私も・・・。
全体的に薄い上に方向性すら不明だったり、その手の知識をひけらかすばかりでストーリーがおざなりだったり。まあ、私は雰囲気さえ良ければ楽しめてしまう浅い人間だったりするわけですが、さすがに人外モノと謳っておきながら人外である必要皆無だと静かに本を閉じたくなりますね。もちろん、それは人それぞれ評価は変わりますけど。
だからこそ、アタリに出会えたときの喜びもひとしお。

今回紹介させていただく漫画は『とつくにの少女』。
数多ある人外モノの中でも特に異彩を放つ作品。人外モノが苦手な人でも読めそうな絵本や童話感覚で楽しめるファンタジーになってます。

ふたつの隔たれた世界――。本来なら交わることのなかった幼き人間の少女と、異形の姿をした人外の者、ふたりが出会ったことで動き出したヒトと人成らざる者との御伽噺。
少女と人外のダークファンタジー。帯での謳い文句は「新たな人外×少女の物語、始まる――。」(1巻)、「これは絵本、これは童話、これは詩集。」(2巻)、「運命に翻弄される命ある者と、なき者」(3巻)。
作者は『部長はオネエ』で商業デビューした漫画家「ながべ」先生。

白と黒のコントラストが魅せる絵本的な御伽噺

こちら、魔法使いの嫁と比較されることが多い作品。手に取ったときは、かの作品の二番煎じぐらいにしか思ってなかったのですが、読んでみると萌え要素ほぼ無しの全く異なる内容。あえて似てる点をあげるなら、メインキャラである人外さんのデザインぐらい(主に頭部)。

人間の領域である「内つ国」と、タイトルにもなっている異形の者の領域「外つ国」、このふたつの国が壁によって隔てられている世界。
内の者は外の者がもたらす呪いを恐れ、少しでも疑いある者は処分されてしまう闇を抱えています。

主人公は、本来内の者が立ち入ることのない外つ国で暮らしていながら、呪いを受けていない人間の少女・シーヴァ。そして彼女の保護者的存在である呪いを受けた異形の者・せんせい。
この物語は、肌でふれあえない二人の心の交流を描いた切なくも優しい御伽噺のようなお話になっています。

背景にしろキャラクターにしろ「黒」(ベタ)を多く使い、それによって対照的な「白」がよく栄えて見え、またそのおかげで闇に溶け込みそうな「黒」の印象も高まっているのが特徴。
黒と白、このモノトーンのコントラストが幻想的で独特な世界観を演出し、さながら「絵本」を見ているかのような不思議な感覚に包まれることになります。

あと、今更なこと、感想書いてるときに気づいたことがひとつ。この作品、漫画制作で用いられることの多いスピード線とか集中線といった「効果線」、つまり人や物の動作を引き立てる線が全く引かれて無かったことに今やっと気がつきました。ほんと今更・・・。
巧みな画力と表現力によって想像を掻き立てられるようです。こういった作者さんのこだわりが、漫画でありながら絵本のように見える作品に仕上がっているのでしょうね。

「呪い」とは?

本作で気になる事と言えば、やはり外の者がもたらす「呪い」。

人間は外の者にふれられると呪いをうつされてしまいます。そうなると、物の感触も温度も感じられなくなり、そのうち食事も睡眠も必要なくなり、徐々にあらゆる感覚を失っていき、終いには彼らと同じような黒く染まった異形の姿へと変異してしまいます。
ただ、これはあくまで「せんせい」の体に起こったことを基にした例です。

はっきり言って現時点では謎が深まるばかり。

せんせいを「よそ者」と呼ぶもとから外つ国にいたと思われる外の者。彼らが言う「魂」、「おかあさん」とは何なのか。呪いは外の者がかけたのではなく、内の者のせいだと言い、とく方法は「奪われた魂を取り返す」こと。
外つ国とは黄泉の国のようなもので、内つ国は現世のようにも見えます。呪いを受けた者は「命無き者」なのでしょう。だからこそ空っぽじゃない魂を求めてやまないのかも。

分からないと言えばせんせい自身のことも。いったいその正体は誰なのか。いつ、どこで、誰に呪いを移され、今の姿になってしまったのか。そして、シーヴァとの関係は?
さらにさらに、そのシーヴァもこれまでは普通の人間の少女だと思っていたら、実はおばさんが外つ国で拾ってきた子だと言うからもう何が何やら・・・。

いつも絶妙なところで終わるから歯がゆい。引きが上手いのも困りどころですね。

ダークな世界観に温もりを灯す“やさしさ”

さて、全体的にダークな空気が漂っている世界観とストーリーですが、この作品におけるテーマのひとつは「やさしさ」であることは間違いありません。

シーヴァを守ろうとするせんせいのやさしさ、シーヴァの無垢で無邪気なありのままのやさしさ。

せんせいはシーヴァを傷つけようとする者から、呪いを移す外の者からはもちろんのこと、自分からも彼女を守ろうとしています。
せんせいも外の者であることに変わりなく、ふれてしまったらシーヴァが呪われてしまいます。手を繋ぎながら歩いてあげたくても、頭をなでてあげたくても、抱きしめてあげたくても、決してふれようとはしません。大切だからこそ直接的なふれあいはせず、加えて真実を隠したやさしい嘘もつく。

とても残酷なことではありますし、二人でいても孤独を感じてしまうことから寂しくも感じます。ただ、直接的なふれあいがないからこそ言葉と心でのふれあいは意味も効果も大きく、この世界の中で確かな温もりを感じることができ、その様子は穏やかで微笑ましい光景に見えました。

また、シーヴァの無垢な姿にも和ませてもらえます。あの無邪気さはせんせいにとっても救いになっていることが伺え、父と娘のようなかけがえのない存在になっていそうですね。
暗い影はいつだって彼等に付き纏っていますが、あの笑顔だけは是非とも守ってほしいものです。

最後に

といった感じで、絵本のように読める人外と少女の交流を描いた御伽噺『とつくにの少女』の紹介でした。万人受けはしないでしょうし、アニメ化もまず無いでしょうが、他の作品にはない魅力と不思議で彩られていますので、好きな人はハマってしまうこと請け合い。
ストーリー、キャラクター、世界観、どの要素からもダークな雰囲気が放たれ、そしてどの要素からも「やさしさ」を感じることが出来る内容になってます。
2人の行き着く先は残酷な未来を予感させられる要素が多くあります。しかし、出来ることなら手を取り合って歩く2人の姿を見たい、そう願わずにはいられません。
どういった方におすすめすればいいのかはちょっと困るところ。ただ、個人的には先が気になって仕方ないとても気に入ってる作品なので、よければ読んでみてください。あえて自信を持っておすすめさせていただきます。

とつくにの少女 1 (BLADE COMICS)

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ハネ吉
とにかく漫画が大好きです。愛してるといっても過言ではありません。どんなジャンルにも手を出しますね。正直、文章力にはあまり自信はありませんが、なるべくうまく伝えられるようにがんばります。ちょっとだけでも読んでもらえたらうれしいです。 ちなみに、甘い物とネコも大好きです。
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