2017年02月01日
【パンプキン・シザーズ】マンガ 感想&あらすじ 重厚なストーリー展開で戦災復興に励む部隊の姿を描いた作品
マガジンGREAT→月刊少年マガジン。2002年から連載中。既刊20巻
作者:岩永亮太郎
永きにわたり多くの悲劇を生んだ帝国とフロスト共和国の戦乱は、「薄氷の条約」と呼ばれる停戦条約締結をもって終わりを迎えた。それから3年の月日が流れ――、
帝国内に刻まれた傷は今尚完全に癒えることはなく、社会混乱により国民は困窮に喘ぎ、兵隊が野盗化するなど、敵国との戦争は終結されても、“戦災”というもう新たなの戦争が起こっていた。
この現状を憂慮した帝国政府は、戦災復興をお題目とした新たな部隊「陸軍情報部第3課」、通称「Pumpkin Scissors」を設立。実情は資金集めを目的として掲げられた形式的な戦災復興というお飾り部隊だったが、3課に所属するアリス・L・マルヴィンは苦しむ民衆を救うため、祖父から受け継いだ貴族の誇りを胸に奮闘する。
そして、日々戦災復興のために取り組むアリスたちの前に、退役後各地を放浪していたランデル・オーランドという男が現れる。
・アリス・L・マルヴィン
主人公。帝国陸軍情報部第3課所属。実働小隊「パンプキン・シザーズ」隊長。階級は少尉。拝命十三貴族のマルヴィン家第3公女で次期当主。危険を顧みない熱血漢。生真面目で多少融通の利かない頑固な性格。どんな状況にあっても貴族としての誇りを崩すことは一切なく、マルヴィン家は武家貴族のため幼い頃より鍛錬し続けた剣技は相当な腕前。何かが起こる前兆として首の後ろがムズムズするようです。「エイス」という名の角と牙の生えた巨躯を持つ愛馬がいます。
・ランデル・オーランド
もう1人の主人公。帝国陸軍情報部第3課所属。階級は伍長。戦時中は非公式部隊「901ATT」、通称「不可視の9番」と呼ばれた部隊に所属。体中に大小様々な傷を持つ大柄の男。退役後、各地を放浪していた折にアリスたちと出会いました。その見た目に反して争いごとを好まない穏やかで優しい性格。腰に着けたランタンに明りを灯すと痛覚や恐怖心がなくなり、「保身なき零距離射撃」を敢行する殺戮兵士へと変貌し、戦車をも単身で破壊するほどの戦闘力を発揮します。
・オレルド
帝国陸軍情報部第3課所属。階級は准尉。元はストリート出身の不良少年。普段はお気楽に振る舞いどこでも女性を口説いてるため軽薄な男に見えるが、根は真面目なうえ悩んでいる相手への気配りもでき、戦災復興にも真剣に取り組んでいます。同課のマーチスとは幼馴染の関係。「懲罰房からの脱獄魔」とあだ名される通り、ピッキングや情報収集が得意。
・マーチス
帝国陸軍情報部第3課所属。階級は准尉。3課の中では数少ない常識人。真面目で何事もそつなくこなすため、雑務を押し付けられることも多く、いろいろ気苦労の絶えません。整備士として情報部整備班を手伝うこともよくあります。小隊での活動の際は車両の運転などサポート役に回ることが多く、戦闘能力は軍人として評価すると低め。ムッツリスケベ。
・リリ・ステッキン
帝国陸軍情報部第3課所属。階級は曹長。内勤が多い事務担当。見た目は子供のような女性。熱意はってもやる気が空回り気味でミスを連発してしまう天然のドジっ娘。普段は二桁の計算すらままならないが、実はあらゆる文字や記号を音として感じる「統合見解者(スクリプター)」であり、難解な暗号さえ解読してしまう能力を有しています。情報部部長ケルビム曰く、「究極の凡人」。
・ハンクス
帝国陸軍情報部第3課課長。階級は大尉。一見お飾り部隊を率いる能天気なダメ親父ですが、その実情報分析に優れるかなりの切れ者。軍部内にも広い人脈を持っています。現在の姿からは想像しにくい経歴を持ち、かつては数多くの拷問や処刑を行ってきた「八つ裂きハンクス」の異名を持つ憲兵特佐でした。
【eBookJapan】 パンプキン・シザーズ 無料で試し読みできます
停戦締結から3年を経てなお治まらぬ戦災による混乱の中、同じ軍部からお飾り部隊と揶揄されながらも、名門貴族のお姫様を先頭に復興へ向け励む戦災復興部隊の奮闘を描いた物語。
戦争アクション漫画ではありますが、戦時下ではなく疲弊した国の戦後処理について描かれている珍しい作品。それと、本編に登場した様々なキャラクターにスポットを当てた、『パンプキン・シザーズ:パワー・スニップス』というサイドストリーを描いた作品も発行されています。2006年にはアニメ化され、全24話で放送されました。
正直見所が多くて1巻ごとの密度も濃すぎるため、凡庸な私の手にはおえそうもない作品ということもあり、感想書くかためらったんですけど大好きなので拙いながらも書かせていただきます。
まず、本当にこれが著者のデビュー作なのかと疑いそうになるほど、この作品は見事に緻密な世界観が構築されています。架空世界モノの作品ではどこかしらに矛盾や不自然さが生まれてしまいがちであり、私もそのあたりは仕方ないと許容しながら読んでいますが、この作品の作り込みには感心させられっぱなしでした。設定好きな人ならかなり楽しめると思います。
本作の舞台となるのは現実にはない架空の世界ですが、登場する兵器や文明レベルから第一次世界大戦後のヨーロッパ辺りの国々が背景にあるかと思われます。その中で主人公たちが籍を置く帝国はドイツ帝国をモデルにされていると推測していますが、戦後の状況は異なりますね。ドイツ帝国はWWT終結と共に勃発した革命により崩壊していますが、本作の帝国は停戦後も混乱はあったものの崩壊することなく体制は維持されました。封建制度が崩れることなく、「貴族」「軍人」「平民」のように身分による支配体制も根強く残っています。
戦争によって国の屋台骨がボロボロになっていたならば、帝国も史実のドイツのような末路を辿っていたかもしれません。ですが少なくとも停戦から3年間は、皇帝は権威を示し、疲弊しているとはいえそれなりに国力を維持した状態での停戦らしく、軍の機能も損なわれていないようなので、仮に革命を起こそうものなら即座に鎮圧されていた可能性が高いかと。むしろ、作中ではその市民の暴動を軍部が利用しようと画策してましたね。
戦争そのものを取り扱っている漫画は多く存在しますが、この作品が焦点を当てているのは戦後。戦争終結により国内の社会不安が広がり、戦争で糧を得ていた兵士の中には職にあぶれ野盗化する者まで現れ、国内機能安定に四苦八苦の政府の目が届きづらくなった地方では秩序が崩壊する始末。
それら戦災復興に尽力するため組織された部隊が、「陸軍情報部第3課(通称:パンプキン・シザーズ)」です。まあ、復興はただのお題目でしかないわけですけどね。上層部の思惑は復興のために集まった資金を別の用途で使いたいということで、名ばかりの戦災復興部隊。とはいえ、上層部はどうあれ第3課の隊員たちは本気で復興のために尽力しています。
中身は濃密でも流れ自体は単純です。問題のある場所に3課が赴き、なんやかんやして事態を治めるという流れ。その中に単純なようで複雑な市民の不満や不安、それぞれの思惑やエゴなどが絡み合い、重厚なストーリーに仕立て上げられています。
その第3課の隊長であり、本作の主人公でもあるのがアリス・L・マルヴィンという女性。貴族階級の中でも皇帝会議への列席を許されている他とは格が全く異なる貴族、「拝命十三貴族」の1席を担う家の次期当主。
これほど正義に淀みがない主人公は他に知りませんね。英雄である大祖父を見て育ったアリスは、志は高くても開始時点ではまだ世間知らずの小娘にも見えましたが、どのような状況に陥っても貴族の矜持を貫く姿勢には思わず見惚れてしまいました。
正しさを説くだけなら誰にでも出来ることですが、それを体現出来てる人となるとほんと稀にしかいません。綺麗事をまくしたてるだけで行動が伴わない主人公・ヒロインというのも結構多く、それを目にするだけで作品への熱も冷めてしまうんですが、アリスの言葉と行動には終始心揺さ振られっぱなしです。何が起ころうとも、平民・貴族・皇帝誰と対峙しようとも、決して己の正義を曲げない姿勢は危うくもありますが、同時にその危うさと美しさにどうしようもなく引き付けられてしまう魅力があります。
あと、鎧を身にまとって愛馬のエイスに跨って登場した場面、どこの世紀末覇王かと思ってしまいました。美しい白い鎧のアリスはかっこ良かったですけどね。
かなり複雑で重厚なストーリーではりあますが、たまにコメディ要素も挟んでくるので比較的読みやすいかと思います。ストーリー、キャラクター、アクション、絵、どれをとっても素晴らしい作品だと自信を持って言えますが、面白いだけに刊行スピードの遅さが実に歯痒いところです。
多くの視点を用いているにも関わらず整合性を欠くことなく進行するストーリー、そしてひとつのの国の戦後状態をここまで緻密に描きだす設定の奥深さには脱帽しました。
好き嫌いははっきり二分化されそうな内容ではありますが、個人的には是非とも読んでもらいたい作品です。おすすめさせていただきます。
作者:岩永亮太郎
あらすじ
永きにわたり多くの悲劇を生んだ帝国とフロスト共和国の戦乱は、「薄氷の条約」と呼ばれる停戦条約締結をもって終わりを迎えた。それから3年の月日が流れ――、
帝国内に刻まれた傷は今尚完全に癒えることはなく、社会混乱により国民は困窮に喘ぎ、兵隊が野盗化するなど、敵国との戦争は終結されても、“戦災”というもう新たなの戦争が起こっていた。
この現状を憂慮した帝国政府は、戦災復興をお題目とした新たな部隊「陸軍情報部第3課」、通称「Pumpkin Scissors」を設立。実情は資金集めを目的として掲げられた形式的な戦災復興というお飾り部隊だったが、3課に所属するアリス・L・マルヴィンは苦しむ民衆を救うため、祖父から受け継いだ貴族の誇りを胸に奮闘する。
そして、日々戦災復興のために取り組むアリスたちの前に、退役後各地を放浪していたランデル・オーランドという男が現れる。
主要登場人物
・アリス・L・マルヴィン
主人公。帝国陸軍情報部第3課所属。実働小隊「パンプキン・シザーズ」隊長。階級は少尉。拝命十三貴族のマルヴィン家第3公女で次期当主。危険を顧みない熱血漢。生真面目で多少融通の利かない頑固な性格。どんな状況にあっても貴族としての誇りを崩すことは一切なく、マルヴィン家は武家貴族のため幼い頃より鍛錬し続けた剣技は相当な腕前。何かが起こる前兆として首の後ろがムズムズするようです。「エイス」という名の角と牙の生えた巨躯を持つ愛馬がいます。
・ランデル・オーランド
もう1人の主人公。帝国陸軍情報部第3課所属。階級は伍長。戦時中は非公式部隊「901ATT」、通称「不可視の9番」と呼ばれた部隊に所属。体中に大小様々な傷を持つ大柄の男。退役後、各地を放浪していた折にアリスたちと出会いました。その見た目に反して争いごとを好まない穏やかで優しい性格。腰に着けたランタンに明りを灯すと痛覚や恐怖心がなくなり、「保身なき零距離射撃」を敢行する殺戮兵士へと変貌し、戦車をも単身で破壊するほどの戦闘力を発揮します。
・オレルド
帝国陸軍情報部第3課所属。階級は准尉。元はストリート出身の不良少年。普段はお気楽に振る舞いどこでも女性を口説いてるため軽薄な男に見えるが、根は真面目なうえ悩んでいる相手への気配りもでき、戦災復興にも真剣に取り組んでいます。同課のマーチスとは幼馴染の関係。「懲罰房からの脱獄魔」とあだ名される通り、ピッキングや情報収集が得意。
・マーチス
帝国陸軍情報部第3課所属。階級は准尉。3課の中では数少ない常識人。真面目で何事もそつなくこなすため、雑務を押し付けられることも多く、いろいろ気苦労の絶えません。整備士として情報部整備班を手伝うこともよくあります。小隊での活動の際は車両の運転などサポート役に回ることが多く、戦闘能力は軍人として評価すると低め。ムッツリスケベ。
・リリ・ステッキン
帝国陸軍情報部第3課所属。階級は曹長。内勤が多い事務担当。見た目は子供のような女性。熱意はってもやる気が空回り気味でミスを連発してしまう天然のドジっ娘。普段は二桁の計算すらままならないが、実はあらゆる文字や記号を音として感じる「統合見解者(スクリプター)」であり、難解な暗号さえ解読してしまう能力を有しています。情報部部長ケルビム曰く、「究極の凡人」。
・ハンクス
帝国陸軍情報部第3課課長。階級は大尉。一見お飾り部隊を率いる能天気なダメ親父ですが、その実情報分析に優れるかなりの切れ者。軍部内にも広い人脈を持っています。現在の姿からは想像しにくい経歴を持ち、かつては数多くの拷問や処刑を行ってきた「八つ裂きハンクス」の異名を持つ憲兵特佐でした。
【eBookJapan】 パンプキン・シザーズ 無料で試し読みできます
感想・見所
停戦締結から3年を経てなお治まらぬ戦災による混乱の中、同じ軍部からお飾り部隊と揶揄されながらも、名門貴族のお姫様を先頭に復興へ向け励む戦災復興部隊の奮闘を描いた物語。
戦争アクション漫画ではありますが、戦時下ではなく疲弊した国の戦後処理について描かれている珍しい作品。それと、本編に登場した様々なキャラクターにスポットを当てた、『パンプキン・シザーズ:パワー・スニップス』というサイドストリーを描いた作品も発行されています。2006年にはアニメ化され、全24話で放送されました。
正直見所が多くて1巻ごとの密度も濃すぎるため、凡庸な私の手にはおえそうもない作品ということもあり、感想書くかためらったんですけど大好きなので拙いながらも書かせていただきます。
まず、本当にこれが著者のデビュー作なのかと疑いそうになるほど、この作品は見事に緻密な世界観が構築されています。架空世界モノの作品ではどこかしらに矛盾や不自然さが生まれてしまいがちであり、私もそのあたりは仕方ないと許容しながら読んでいますが、この作品の作り込みには感心させられっぱなしでした。設定好きな人ならかなり楽しめると思います。
本作の舞台となるのは現実にはない架空の世界ですが、登場する兵器や文明レベルから第一次世界大戦後のヨーロッパ辺りの国々が背景にあるかと思われます。その中で主人公たちが籍を置く帝国はドイツ帝国をモデルにされていると推測していますが、戦後の状況は異なりますね。ドイツ帝国はWWT終結と共に勃発した革命により崩壊していますが、本作の帝国は停戦後も混乱はあったものの崩壊することなく体制は維持されました。封建制度が崩れることなく、「貴族」「軍人」「平民」のように身分による支配体制も根強く残っています。
戦争によって国の屋台骨がボロボロになっていたならば、帝国も史実のドイツのような末路を辿っていたかもしれません。ですが少なくとも停戦から3年間は、皇帝は権威を示し、疲弊しているとはいえそれなりに国力を維持した状態での停戦らしく、軍の機能も損なわれていないようなので、仮に革命を起こそうものなら即座に鎮圧されていた可能性が高いかと。むしろ、作中ではその市民の暴動を軍部が利用しようと画策してましたね。
戦争そのものを取り扱っている漫画は多く存在しますが、この作品が焦点を当てているのは戦後。戦争終結により国内の社会不安が広がり、戦争で糧を得ていた兵士の中には職にあぶれ野盗化する者まで現れ、国内機能安定に四苦八苦の政府の目が届きづらくなった地方では秩序が崩壊する始末。
それら戦災復興に尽力するため組織された部隊が、「陸軍情報部第3課(通称:パンプキン・シザーズ)」です。まあ、復興はただのお題目でしかないわけですけどね。上層部の思惑は復興のために集まった資金を別の用途で使いたいということで、名ばかりの戦災復興部隊。とはいえ、上層部はどうあれ第3課の隊員たちは本気で復興のために尽力しています。
中身は濃密でも流れ自体は単純です。問題のある場所に3課が赴き、なんやかんやして事態を治めるという流れ。その中に単純なようで複雑な市民の不満や不安、それぞれの思惑やエゴなどが絡み合い、重厚なストーリーに仕立て上げられています。
その第3課の隊長であり、本作の主人公でもあるのがアリス・L・マルヴィンという女性。貴族階級の中でも皇帝会議への列席を許されている他とは格が全く異なる貴族、「拝命十三貴族」の1席を担う家の次期当主。
これほど正義に淀みがない主人公は他に知りませんね。英雄である大祖父を見て育ったアリスは、志は高くても開始時点ではまだ世間知らずの小娘にも見えましたが、どのような状況に陥っても貴族の矜持を貫く姿勢には思わず見惚れてしまいました。
正しさを説くだけなら誰にでも出来ることですが、それを体現出来てる人となるとほんと稀にしかいません。綺麗事をまくしたてるだけで行動が伴わない主人公・ヒロインというのも結構多く、それを目にするだけで作品への熱も冷めてしまうんですが、アリスの言葉と行動には終始心揺さ振られっぱなしです。何が起ころうとも、平民・貴族・皇帝誰と対峙しようとも、決して己の正義を曲げない姿勢は危うくもありますが、同時にその危うさと美しさにどうしようもなく引き付けられてしまう魅力があります。
あと、鎧を身にまとって愛馬のエイスに跨って登場した場面、どこの世紀末覇王かと思ってしまいました。美しい白い鎧のアリスはかっこ良かったですけどね。
かなり複雑で重厚なストーリーではりあますが、たまにコメディ要素も挟んでくるので比較的読みやすいかと思います。ストーリー、キャラクター、アクション、絵、どれをとっても素晴らしい作品だと自信を持って言えますが、面白いだけに刊行スピードの遅さが実に歯痒いところです。
多くの視点を用いているにも関わらず整合性を欠くことなく進行するストーリー、そしてひとつのの国の戦後状態をここまで緻密に描きだす設定の奥深さには脱帽しました。
好き嫌いははっきり二分化されそうな内容ではありますが、個人的には是非とも読んでもらいたい作品です。おすすめさせていただきます。
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