2013年08月19日
240. 葉加瀬太郎 ピストルズ・古澤巌・東京藝大・劇団四季 「サワコの朝」
「ヴァイオリンという楽器がこんなにも多彩な、いろんな音色とかワクワク感をもたらしてくれるものだということを、日本中にたくさん教えてくださっているんじゃないかと思います」と素敵な紹介をしたアガワさん。
いざ葉加瀬さんが登場すると、
「また一回り大きくなったみたいね…」(笑)
これはひどい。素敵な紹介の後のパンチ。しかし葉加瀬さんは人格者です。
「あんまり変わってないんですけど…高値安定で…」とにこやかに。
チリチリパーマの印象的な頭はバンドデビューのころかららしいです。
「もともとはサラサラのストレートなんですよ」
「柔らかい」と葉加瀬さんの髪を触るアガワさん。
この2人、仲がいいですね、なんというか年の離れた(失礼)姉弟みたいな…。
「何度か(ストレートに)戻すたびに、『葉加瀬に見えない』ってスタッフに言われて…」(笑)
葉加瀬さんは、1968年生まれの45歳。大阪府出身です。
4歳でヴァイオリンを始め、大学在学中に「クライズラー&カンパニー」でCDデビュー。
セリーヌディオンのワールドツアーに参加して世界的な知名度を得ます。
また「情熱大陸」のテーマを初め、次々と作曲。音楽イベントのプロデュース、自身のライブで、年間およそ100公演を行うそうです。
子どものころ
団地っ子として育ったという葉加瀬さん、1週間のすべてが習い事で埋まるという忙しい生活を送っていたそうです。
その習い事の一つがヴァイオリンだったのですが、子どものころ一番好きな番組が「N饗アワー」というクラシック専門の番組でした。
自称「変な子ども、目立ちたがり屋」で、「好きな音楽をやって毎日テレビに出られる。N饗のコンサートマスターになりたい!」というのが当時の夢だったとか。
クラシック音楽ばかり聞いていて、「クラシック命」の葉加瀬さんが毛色の違う音楽と出会うのは、ヴァイオリンを極めるために入学した東京藝大時代でした。
記憶の中で今でもきらめく曲
「アナーキー・イン・ザUK」 セックス・ピストルズ
この曲はクラシック音楽以外の音楽への扉を開いてくれた曲だそうです。
「音のカルチャーショック」「うわあ、パンクすげえ!」
「クラシック音楽を勉強しに大学に来たのに?」とアガワさん。「おもしろいですね、人間の開花の瞬間は…」
葉加瀬青年にとっての疑問は「クラシックは再現芸術に過ぎない」ということでした。
藝大にはいろいろな学生がいました。下宿にいた美術家の学生は真っ白なキャンバスに自分の絵を描いていきます。ピカソに似ていようがマティスに似てようが「自分の作品として創る」のです。
「ぼくの場合にはまず楽譜が必要…18歳のぼくには?がいっぱい付きはじめたんですよ…」
「若い葉加瀬の悩み…カバーミュージシャンっていう気がしてきたのね…」とアガワさん。カバーミュージシャン…なるほど。
ヴァイオリニストと呼ばれたくない
疑問を抱いた葉加瀬青年は担当教授に悪態をつきます。
「先生、ベートーベンに会ったことあんのかい?」(笑)「そういうことになっちゃうんですよ」
葉加瀬さんの中でクラシックだけのヴァイオリンというのはすっかり消えたそうです。
「何か自分で作りたい…ポピュラーの世界に行きたい」
そしてアルバイト先として選んだのが「劇団四季」でした。
オーケストラは壁の中で演奏し、観客から見えてはいけないことになっています。
ところが葉加瀬青年は自分のパートで椅子の上に立ち上がるのです。「目立ちたい!」
「市村正親さんとかは面白がってくれて、かわいがってくれて、『太郎、今日も絶対立てよ』って」
ところが、劇団主宰の浅利慶太さんがやってくると叱られるのです。始末書を書き、ノーギャラ…。
それでもやっていると、思惑通り「目立って」きました。
レコード大賞、紅白歌合戦などで演奏する機会が与えられました。
当時のインタビューでは葉加瀬さんは「間違ってもヴァイオリニストって書いてくれるな…マルチアーティストとか…」
ヴァイオリニストと呼ばれたい…
様々な活動を続けながら、葉加瀬さんは演奏家としての活動は40歳頃には辞めるのではないか、と漠然と思っていたそうです。
それがある人との出会いで180度変わってしまいました。
ヴァイオリニストの古澤巌(ふるさわいわお)さんです。
古澤さんは葉加瀬さんが14歳のころから憧れていたヴァイオリニストで、「果てしなく上手い」「けた違いに上手い」と葉加瀬さんが絶賛する先輩アーティストです。
その古澤さんと数年前に一緒にツアーで周ったのです。
「彼は毎日ヴァイオリンを弾く、どんどん上手くなる」「子どものように『葉加瀬』って来て、『やっとヴァイオリンの持ち方が分かったんだよ』っていうわけ。『何言ってるんですか、古澤さん』って。『これから一
緒にやってみようよ』って…」 毎日少年のようにヴァイオリンに取り組む古澤さんに葉加瀬さんは感動したのです。
「『こいつバカじゃないか』と思うくらい…でもそんな彼に憧れを持ったの…すごく強い…『ヴァイオリンをずっと弾いてりゃいいんだ』っていう。それに勝るものはない、というのを彼が体で教えてくれて…」
そしてある夜、古澤さんがこう言ってきたのです。
「葉加瀬…80になっても一緒に弾こうね」
葉加瀬さんは泣いてしまったそうです。14歳のときに憧れた人と今一緒にいる。その人が「80まで一緒に弾こうね」って言ってくれる…。
「わあっ!ヴァイオリンやろう!って思って、練習し始めて…」
「それまでは?」とアガワさん。
「ヴァイオリンには重きを置いてなかった…40まで弾くんだったらそれでよかった…でも80まで弾くんだったらもういっぺんトレーニングを再開しないといけない」
でも葉加瀬さんはヴァイオリンの名手というイメージがあるのですが…。
「ぼくは葉加瀬しか弾けない弾き方は編み出したと思う…でも普通のヴァイオリニストができることは捨ててきちゃった…」
ロンドンに移住して修業
できるだけ練習に専念できる環境を作るため、葉加瀬さんはロンドンに移住。先生に付いて、ときには叱られながら指導を受けているそうです。「すごく楽しくて…」
大学時代に悪態をついた教授にも現在指導してもらっているのだとか。
葉加瀬さんの目標は「ブラームスのヴァイオリンソナタ」を弾けるようになることだそうです。
「60歳で弾くのが目標なんです」
「今いくつ?」
「45歳」
「15年もあるじゃない!」
「あと15年しかないんですよ!」
「壮大な夢ですよね」とアガワさん。
いやあ、熱い。いい意味で人生はどうなるのか分かりませんよね。
ヴァイオリニスト葉加瀬太郎に期待するばかりです。
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