2017年04月11日
日本での個人向けP2Pレンディングはやっぱり難しい?
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個人向けP2Pレンディングと過去の失敗
P2Pレンディングというのは、Webを通して投資家と借り手を結びつける融資方法の事です。
海外におけるソーシャルレンディングは、個人向けP2Pレンディングから始まりました。
下記の通り、日本と海外におけるSLの間には、貸付対象に大きな差があります。
日本→何らかの要因で銀行から借りられない企業案件への貸付や、不動産担保貸付がメイン
(一部、海外不動産担保案件、動産担保案件、海外向けのP2Pもあり)
海外→P2Pが端緒となり、最近では不動産担保や他担保などにも広がってきた
日本における個人向けP2Pレンディングは、SLの黎明期に少しだけ行われた事がありましたが
結局のところ、現在は募集を停止しています。
今回の記事では、
@日本における個人向けP2Pレンディングが失敗した理由のまとめ
A今後の展望
について、ざっくりと見ていこうと思います。
理由1:情報の非対称性と市場原理の失敗
良く聞く論調で、市場原理に任せておけば問題は然るべきところに落ち着くはず、というものがあります。
これは一見して説得力のありそうな理論ですが、日本の個人向けP2Pレンディングはある意味、
市場原理に任せておいたために失敗してしまった、とも言えると思います。
市場原理は問題の解決方法として優秀ではありますが、万能ではありません。
市場原理に依って解決する時は、前提条件として「情報の非対称性が無ければ」という一文が必須です。
*情報の非対称性:
当事者同士の持っている情報に隔たりがあること。
一方が持っている情報を、他方が持っていないような状態。
個人向けP2Pレンディングの場合、「借り手の返済能力を貸し手が正確に把握することができない」という
形で、情報の非対称性が生まれます。
もちろん、個人属性情報(年齢、職業、役職、年収etc)から統計的にその人の返済能力を類推する事は
できますが、その場合はじき出された返済能力には、一定の不確実性を含みます。
そして、その不確実性は、伝統的な与信モデルである「担保や信用情報を元に返済能力を推定する」に
比べて、間違いなく大きな不確実性になってしまうと考えられます。
この状況下で損失を回避するためには、貸付利率を「推定返済能力の高い人と低い人の中間あたり」
に設定する必要があります。すると、どうなるでしょうか。
1.「返済能力が実際高い人」→「こんな高い利率では借りられない」
2.「返済能力が実際低い人」→「こんな良い利率だから借りよう」
となるわけで、返済能力の高い人はこの市場から退場してしまい、返済能力の低い人しか残りません。
そうなると、損失を出さないためにはさらに利率を上げる必要があります。
その結果、「返済能力が実際低い人」の中でも相対的に返済能力が高い人は、また市場から退場します。
そうなると・・・と、悪循環が続いていくわけです。
このように、もし貸金市場を市場原理に任せておいた場合、返済能力の極めて低い人しか残らないために
市場としてそもそも成立しない、という問題が発生してしまいました。
これが、「情報の非対称性が存在する時に、市場原理が失敗する」という一例です。
市場原理に任せて上手く行く場合というのは、当事者同士がフェアな情報公開を行っている場合、
付け足せば、お互いが悪意を持たず善意で取引をする場合のみ、と言っても過言ではないと思います。
理由2:匿名性の問題
もう一つ、個人向けP2Pをソーシャルレンディングで行うためには、匿名性の問題を避けて通れません。
現在の日本の法律では、投資家による貸付行為は貸金業に該当してしまいます。
これはWeb上で貸し手を借り手を繋ぐ個人向けP2Pの方法でも該当するので、日本において借り手に直接
貸付を行うためには、一人一人の投資家に貸金業登録が必要という非現実的な状態になります。
これを回避するためには、貸金業登録を行った法人が貸付を実行し、投資家はこの法人に対して匿名組合の
契約を締結して出資するという方法を取るのが現実的です(つまり、SL投資の通常方式です)。
ところが、ここに問題が発生します。
先ほど、個人向けP2Pレンディングにおける「情報の非対称性」として、「借り手の返済能力を貸し手が
正確に把握することができない」を挙げました。
匿名組合を使った投資スキームにおいては、金融庁が借り手の複数化と匿名化を求めています。
このうちの匿名化が、情報の非対称性をさらに強めてしまいます。
借り手の返済能力を把握するためには、借り手の詳細な情報を明かす事が必要ですが、匿名化のために
詳細な情報を明かすことができません。
結果として、借り手の返済能力が把握できず、リスク回避のため貸付利率は上がり、まっとうな返済能力
を持った借り手から退場し、ひいてはP2Pレンディング市場自体を破壊してしまう恐れがあるのです。
理由3:そもそもニーズがあるのか?
さらに、そもそもの需要の問題があります。
世界の成人人口は45億人程度と言われ、そのうち金融にアクセス出来る人は半分以下と推定されています。
つまり世界の半分以上の成人は、預金口座さえ持っていないということになります。
翻って日本はどうでしょう。収入のある成人で預金口座を持っていないというのは考えられるでしょうか?
考えるまでもなく、よほどのレアケースでなければそんな事態は想定できません。
つまり日本では、既存の金融にアクセスできない人が極めて少ないと考えられます。
既存の金融にアクセスできるのであれば、融資を受ける際は銀行に相談するなり、カードローンを使うなり
いくらでも方法がありますので、そこに個人向けP2Pが入り込む余地は少ないと考えられます。
理由4:上限利率の存在とリスク分散
これまで、日本において個人向けP2Pレンディングがうまく働かない理由をいくつか挙げましたが、
最後に「日本で既存の金融にアクセスできない相手に、個人向けP2Pで貸し付ける」と無理に仮定した時
どんな不具合が起こるかを推測します。
日本において既存金融にアクセスできない相手の特徴(推定):
@返済能力が極めて低いか、もしくは何らかの特殊事情を抱えている
(=貸付金額の毀損リスクが高い)
A対象となる人物の絶対数が少ない
この条件下で利益を得るビジネスモデルを作ろうとすると、貸付金額の毀損を織り込む必要があるので、
下記の2つが必須の条件となります。
@貸付利率をかなり高くする
A貸付先を小口分散して、貸し倒れを平均化する
ところが、これらの条件はそれぞれ、以下の理由により実現が困難です。
@貸金業法により、上限利率が制限されている
(上限利率=クレジットカードの無担保ローンの最高利率と同じ。
従って日本では、カードローンが作れない対象への貸付はビジネスとして成立しない)
A対象となる借り手の絶対数が少ないため、分散が困難
以上の理由により、私は「日本での個人向けP2Pレンディングはやっぱり難しい」と判断しています。
もちろん、今のところは、ですが。
個人向けP2Pの今後
日本における個人向けP2Pは難しい、という私見を記事にさせてもらいました。
日本でなければ、世界です。
世界にはまだまだ既存の金融にアクセスできない人が多く、上限利率の縛りも緩い国が多いために
P2Pレンディングがきちんとしたビジネスとして成り立つ可能性が高いです。
次の記事では、そんなソーシャルレンディングの紹介をしたいと思います。
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posted by SALLOW at 17:00
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