2019年05月19日
店の売買交渉は売手の交渉力がものを言う!(終)
その会社はホルモン焼きチェーンで飛ぶ鳥を落とす勢いの誰もが知る会社であった。焼肉店や中華料理店も経営していたが、このホルモンチェーンに社運をかけるといった強い意気込みで、経営資源も優先配分されていた。
その会社のホルモンチェーンの仕組みを確立したのは我がチェーンの元本部員で、私の先輩でもあった。新たなチェーン企業が参入してくる時は大概が既存のチェーン企業の本部員に好条件を提示して引き抜くのが業界の慣習でもあった。だから各チェーンは不仲なのである。
そしてその社長が我がチェーンが民事再生手続きに入ったことを知り、私の店が大通りの交差点の2階に立地しているのを見て、またその交差点がいつも渋滞しているのに着目していたらしい。そしてこれだけの渋滞で車に乗っている人達が、必ず二階のこの店に視線を持ってくるほど視認性が高いこの店を評価していたのである。
駅上の渋滞する大通りの交差点の角のビル二階に目立つこの店を是非ともやりたいから交渉して来いと私の先輩に指示を出したとの事であった。この先輩は同僚時代によく飲みに行っていた仲のいい少し年上の人であった。
店の売買は売り手と買い手の交渉力が物を言う。民事再生になって若干立場の悪い当店ではあったが、そんな態度はみじんも出さず私は、「この店をやりたいのなら譲ってあげてもいいよ」と心の中で強く思いながら相手よりも優位であることの自覚を持ち、虚勢を張って交渉に臨んだ。もちろん交渉相手は元先輩と社長なので謙虚な姿勢で礼儀正しく話し合いをしたものである。
個人事業主ではあるが、青色申告をしている関係で貸借対照表もきちんと作成しており、その自己資本の額に3年間の営業利益をのれん代として加算して、営業権を主体とした計1000万ではどうかと、投げかけた。
正直な話をすれば築年数の古い賃借物件、造作物の価値も低下しており、相場と乖離した金額を提示し相手の反応を見ることにしたのだが、若干厚かましかったかなとは思っていた。だが私は買手の社長に「この店の収益は御社にとって大したものではないかもしれません。ですが、これから積極果敢に全国展開しようとの戦略をお持ちの御社にとっては、それを後押しするような視認性の高い広告宣伝に当店の面構えはぴったりです。」とセールスした。
八百屋でバナナやミカンを買うのとは違い、こういう交渉は何回もお互い擦り合わせをして妥協点を見出すものである。だが私のセールスの甲斐もあり、その社長はその場で即決されたので驚きであった。言ってみるものだなとも思った.
普段自分をほめることなんてないが、私のそのセールストークはだけは褒めたいと思ったもの。市場価値の約3倍の価額で譲渡できたのだから。飲食店の売却は本当に売手の交渉力であることを痛感した。
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