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2017年04月26日
アガサ・クリスティから (132) (ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【16】)
(ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【16】)
「誰もそのひとり二役のからくりに気づかなかったってことはたいしたもんじゃないですか。ミス・マープルがおっしゃったように、みんな、顔よりも、着物で、あああの人だと決めてしまうものなんですね。でも利口なやり方だったですね。というのは、いくらデーヴィスがくさいなと思っても、なかなかこれをやったんだろうと胸に突きつけるところまで行かなかったのです。いつだって文句のつけられぬアリバイを持ってたんですから。」
「ジェーン伯母さん。」
レイモンドは、伯母をいぶかしげにながめた。
「どうしてわかったんですか?こんな平和な生活をひっそりと送って来た伯母さんが。もう、どんなことが起こっても驚かれないようですね。」
「この世で起こることといったら、何もかも似たり寄ったりだと、私は思うんですよ。」
とミス・マープルは言った。
ミス・マープルが言うには・・・村にグリーンという女がいた。
5人の子供に先立たれてしまい・・・それが、一人一人に保険が掛けてあった・・・そうなると誰だってこれはおかしいと思うものだと・・・。
彼女は首を振った。
「村の生活にだって、随分とひどいことがあるものなんですよ。あなたがたお若い人たちが、この世がどんなにひどいものかっていうことが分からずに生きて行けるようだったらいいんですけどねえ。」
(ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石)〜THE END〜
〜〜〜
(次号は、動機 対 機会)
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2017年04月23日
アガサ・クリスティから (131) (ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【15】)
(ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【15】)
「あのかわいそうなマージェリーを殺したとき、きっと血が、キャロルの水着にほとばしったんでしょうね。そしてミス・マープルがおっしゃったように、水着も赤だから気づかなかったったんですわ。それが、バルコニーに干しかけたら、ぽとぽとと落ちたって訳なのですわ。ああ!」
ジョイスはぶるっと身震いをした。
「まだ目に浮かびますわ。」
「ああ、やっと思い出しました。」とヘンリー卿は言った。
・・・・・ディビスというのが、その男の本名だった。
沢山の偽名を使っていたので、デークルというのがその中にあったのを、元警視であるヘンリー卿はすっかり忘れていたのだった。
その二人は極悪非道な奸知にたけた者達だった・・・。
「誰もそのひとり二役のからくりに気づかなかったってことはたいしたもんじゃないですか。ミス・マープルがおっしゃったように、みんな、顔よりも、着物で、あああの人だと決めてしまうものなんですね。でも利口なやり方だったですね。というのは、いくらデーヴィスがくさいなと思っても、なかなかこれをやったんだろうと胸に突きつけるところまで行かなかったのです。いつだって文句のつけられぬアリバイを持ってたんですから。」
(次号に続く)
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2017年04月21日
アガサ・クリスティから (130) (ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【14】)
(ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【14】)
「警察はね、・・・ああ、お話しするのも恐ろしいようだけど・・・デニス・デークルがひどいことをするんじゃないかと感づいていたのです。デニスというのは彼の本名ではなかったのです。・・・彼は折々に別の名前を名乗っていました。まず女の子達と知り合いになる。その女の子達はきまって、おとなしく目立たない、そして、系累や友人の少ない女の子です。そして結婚する。そして多額の保険金を掛ける。・・・ああ、怖いことですわ。知人の女性、キャロルと呼んでいた女が本当の妻だったのです。二人はいつも同じ筋書きで行動していました。」
ジョイスは話を続けた・・・。
そして本当のところ、彼らが同じ筋書きを繰り返していたことが、ふたりの運のつきになったのだと。
保険会社がこれは臭いと感づいたのだった。
静かな海岸にまず新妻と一緒にやってくる・・・これは、その筋書きの手始めだったのだ。
そこへもう一人の女が現われ、三人は連れ立って海水浴に行く。
そこで新妻は殺され、もうひとりの女キャロルはその妻の服を着てボートに乗って、夫と一緒に帰る。
それから、キャロルということになっているその女のことを人に尋ねてから、どこでもいいから、その場を去る。
村のはずれまで来ると、キャロルは急いで自分の派手な服を着かえ、けばけばしい化粧をしてから、またその場に戻ってくる。
そして自分の車で消え去ってしまう。
ふたりは潮がどっちに流れるかを調べていた・・・そして新妻の溺死が、その海岸沿いの隣の海水浴場で起こったように見せかけていた。
キャロルは次に大人しく目立たないやぼったい妻になりすまし、どこか人気の少ない浜辺に下りていき、妻の服を岩の側に脱ぎ捨てる。
それからあの花模様の派手な更紗の服に着替えて姿を消す。
次に夫が彼女と落ち合える時まで静かにどこかに身をひそめた・・・。
(次号に続く)
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2017年04月20日
アガサ・クリスティから (129) (ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【13】)
(ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【13】)
そして、慌てて警察に駆けこんだのだった。
ジョイスは自分が気ちがいだと思われようが、構っている場合ではなかった・・・切迫した状況に思えたのだ。
そしてなんとか全てがうまく好転していった・・・というのは、ロンドン警視庁からちょうどこの事案の調査に来ていたのだった。
「警察はね、・・・ああ、お話しするのも恐ろしいようだけど・・・デニス・デークルがひどいことをするんじゃないかと感づいていたのです。デニスというのは彼の本名ではなかったのです。・・・彼は折々に別の名前を名乗っていました。まず女の子達と知り合いになる。その女の子達はきまって、おとなしく目立たない、そして、系累や友人の少ない女の子です。そして結婚する。そして多額の保険金を掛ける。・・・ああ、怖いことですわ。知人の女性、キャロルと呼んでいた女が本当の妻だったのです。二人はいつも同じ筋書きで行動していました。」
(次号に続く)
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2017年04月18日
アガサ・クリスティから (128) (ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【12】)
(ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【12】)
「ではこの物語の結末をお話しいたしますわ。」と、ジョイスが話をつづけた。
ジョイスの話はそれから約1年後から始まった・・・。
ジョイスは、それから1年ぐらい経って、今度は東海岸の小さな避暑地に行った。
もちろん、スケッチをしに・・・そこで、ああ、前にこれと同じことが起こったはずだ・・・と奇妙な感覚にふと襲われた・・・。
ジョイスの目の前の歩道に男と女が立っていて、一人の女に挨拶をしていた。
挨拶されている女は真っ赤なポインセチヤの柄の更紗の服を着ていた。
「キャロル、これはこれは、ずいぶん久しぶり!こんな時に君に会うなんて。そうそう僕の家内はまだ知らないね?ジョーン、これは僕の古い友達でね、ミス・ハーディングだ。」
ジョイスはその男がすぐに誰だかわかった・・・紛れもなくラソールで見たあのデニスだった。
奥さんはラソールの時とは、違っていた・・・マージェリーではなくジョーンになっていた・・・。
でも同じように、若くて目立たなくて、やぼったいタイプだった。
あまり人が注意をして見ることがないような・・・。
何かが変だと思った・・・。
そして三人は海水浴の話を始めだした。
ジョイスにはこれは大問題に思えた・・・あきらかに問題があるのだ!
そして、慌てて警察に駆けこんだのだった。
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2017年04月17日
アガサ・クリスティから (127) (ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【11】)
(ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【11】)
「いくどもいくども早変わりをしたのに違いありませんね。なんてひどい女なんでしょう。それにもまして、もっともっと悪いのはその男ですよ。」
ジョイスはミス・マープルをまじまじと見つめた。
「ジェーン伯母様、あら、ごめんなさい、ミス・マープルというのが口がすべってしまって。あなたはもう真相がお分かりになっていらっしゃるのだわ。きっとそうだわ。」
「まあまあ、ジョイスさん。」ミス・マープルは言った。
「こうして静かに座って編み物をしている方が問題を解くのにはずっといいのでしょうね・・・あなたは画家だし、だから雰囲気に巻き込まれやすいんじゃありませんか、ね、そうでしょう。ここにいて編み物をしていれば、誰だって事実だけを見ますものでね。血のしたたりは、上にかかっていた水着から敷石に落ちたのですね。赤い水着から。犯人たち自身でもそれが血のしたたりであるとは気づかなかったでしょうよ。もちろんね。かわいそうに・・・むざむざ若い身空を・・・。」
「ちょっと、失礼ですが、ミス・マープル。」
ヘンリー卿が口を出した。
「わたしにはまださっぱりわかりませんがね。あなたとミス・ラムプリエールにはよくわかってるらしいけど、我々あわれな男どもは皆、見当もつかないんですよ。」
「ではこの物語の結末をお話しいたしますわ。」と、ジョイスが話をつづけた。
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2017年04月16日
アガサ・クリスティから (126) (ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【10】)
(ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【10】)
「消化不良と、それから偶然が一致したのさ。とにかくその夫婦が新聞に出た人達と同一人物かどうかもわかりゃしないし、その呪い、というか、まあなんでもいい、そんなものはラソール村の住人にだけあてはまるものなんだよ。」と、レイモンドは言った。
一方、元の警視のヘンリー卿は、不吉な船乗りのような男が何かこの話に一役買っている気がするとも言っていた・・・ただペザリック氏と同意見で、ミス・ラムプリエール(ジョイス)はあまりデーターを提供していないのだと思ってもいた。
ジョイㇲは牧師でもあるペンダー博士の方を向いた。
「たいへん面白いお話でした。しかしわたしもヘンリー卿やペザリックさんに賛成ですな。証拠となるものがどうも少なすぎますよ。」
と、彼は微笑みながら、首を振った。
ジョイスが次に何か聞きたげにミス・マープルを見ると、彼女はジョイスに微笑み返したのだった。
「わたしもね、やっぱりあなたは少し不公平だと思いますよ、ジョイスさん。」と、ミス・マープルは言う。
ミス・マープルは、ジョイスとマープルは女性同士なので、服装のことがよくわかるが、殿方にとっては、この問題はやはり公平ではなかったのだと・・・。話を続けた。
「いくどもいくども早変わりをしたのに違いありませんね。なんてひどい女なんでしょう。それにもまして、もっともっと悪いのはその男ですよ。」
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2017年04月14日
アガサ・クリスティから (125) (ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【9】)
(ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【9】)
ジョイスは言った・・・「どう考えても、私にはっきりしているのは、彼女は私が血痕をみた時から24時間後に死んだのだろうということなんです。」
「ちょっと異議を申し立てますがね。」と、ヘンリー卿。
「こりゃ謎を解く問題じゃありませんね・・・怪談ですよ。ミス。・ラムプリエールは確かに冷媒になったんですな。」
弁護士のペザリック氏はいつものように咳ばらいをした。
「一つだけ気にかかるな。・・・頭の打撲傷がちょっと気にかかりますな。犯罪が行われたかもしれませんね、それを全然考えない訳にはいかない。と言って根拠になるデーターはどこにもないです。たしかにミス・ラムプリエール(つまりジョイス)の幻覚というか・・・あの幻影はなかなか興味あるんですが、ジョイスさんが我々にどんな点を考えろとおっしゃるのか、それがわかりかねるな。」
「消化不良と、それから偶然が一致したのさ。とにかくその夫婦が新聞に出た人達と同一人物かどうかもわかりゃしないし、その呪い、というか、まあなんでもいい、そんなものはラソール村の住人にだけあてはまるものなんだよ。」と、レイモンドは言った。
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2017年04月13日
アガサ・クリスティから (124) (ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【8】)
(ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【8】)
ずっと向こうの方からキャロルと呼ばれていた女性が崖道に沿って歩いて来た。
彼女は急いでいた。
彼女は岩の灰色を背にして、まるで真っ赤な毒花のように見えた。
帽子もまるで血の色で・・・。
ジョイスは頭に血がのぼり、変な考えが思い浮かんでくるのだと思い、体をゆさぶり、なんとか,
それを払しょくしようとしていた。
少し経って、その女の車が出ていく音が聞こえた。
彼女もデニス夫妻のようにペンリザーに行くのかなあと思っていたが・・・車は反対方向の左に曲がった。
ジョイスは、車が丘をはい上がっていき姿を消すまでじっと見送った。
やがて、それは見えなくなり・・・ラソールの村は再び静かなまどろみのうちに戻ったようだった。
ジョイスは何故か、ほっとした気持ちになった・・・。
ジョイスが話を切ると、レイモンドは口をはさんだ。
「それでおしまいなら、早速意見をいうがね、消化不良だよ。食事の後で、目に、ありもしない斑点がちらついたんだ。」
「これでおしまいじゃないのよ。続きを聞かなきゃ。」
ジョイスは答えた。
「二日後の新聞で、『海水浴の犠牲』という見出しが出ましたの。それを読んだら、デークル夫人、つまりキャプテン・デニス・デークルの妻は不幸にも海岸のはずれのランディア湾で溺死したということだったんです。」
ジョイスは記事の内容を皆に話した・・・。
夫人とその夫はそこの旅館に滞在中で、海水浴の予定だったが、冷たい風が吹き出したので、キャプテン・デクールは泳ぐには寒すぎると言い、旅館の他の客と一緒に近くのゴルフ場に出かけた。
デークル夫人は自分は寒くないと言って、一人で湾に行ったが帰ってこない。
それで夫は驚き、仲間と一緒に海岸に行ってみた、岩のそばに彼女の服が脱いであったが、その不幸な夫人の姿はなかった・・・と記事にはあった。
死体はそれから一週間ほど経って、少し離れた海岸に打ち上げられた。
死ぬ前に受けたと思われる打撲傷が頭にあったが、これは水の中へ飛び込んで岩に頭をぶつけたのだろうという説だった。
ジョイスは言った・・・「どう考えても、私にはっきりしているのは、彼女は私が血痕をみた時から24時間後に死んだのだろうということなんです。」
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2017年04月11日
アガサ・クリスティから (123) (ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【7】)
(ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【7】)
が、若い男性はそっけなく彼を振り切ると、旅館の方に戻って、バルコニーにいる妻に声を掛けた。
「おーい、マージェリー、キャロルはまだ帰ってこないっていうぜ。おかしいねえ?」
マージェリーの返事は聞こえなかったが、夫は続けて言った。
「でもねえ、もうこれ以上待ってはいられないよ。これからペンリザーまで出なきゃならないんだからなあ。支度は出来てるね?車をまわすよ。」
こうして、やがて夫婦は自動車に乗って行ってしまった。
その間、ジョイスは自分の幻想がばかばかしいものだったと、納得しようとしていた。
ジョイスは自動車が行ってしまうと、旅館に近づいて、念入りに敷石を調べてみた。
もちろん、そこには血痕など見つからなかった・・・。
ああ、皆、自分のゆがんだ想像に過ぎなかった・・・そうはっきりしたのだが、なんだか、ますます気味が悪くなるような気がして、そこにたたずんでいた。
そんなジョイスを漁夫は不思議そうに見ながら、言った。
「あんたはここに血の染みを見たような気がなすったんですね、え?」
ジョイスがうなずくと、漁夫は続けた。
「不思議なこともあるもんだ。この村には言い伝えがあるんでね、誰かがそんな風に血の染みを見るてえと。」
「え?」
ジョイスは思わず、聞き返した。
「村の人たちはさね、誰かがそういう血の染みを見たっていうと、きっと24時間以内に誰かが死ぬっていうんですな。」
ジョイスは思わず、震え上がった・・・。
なおも漁夫は低い声で続けた。
「教会に面白い銘版があるんですがね、人の死のことを彫った・・・」
「ああ、もうけっこう!」
ジョイスは漁夫を遮ると、向きを変えて、宿泊している小さな家の方の通りを上って行った。
家まで来た時だった・・・。
ずっと向こうの方からキャロルと呼ばれていた女性が崖道に沿って歩いて来た。
彼女は急いでいた。
彼女は岩の灰色を背にして、まるで真っ赤な毒花のように見えた。
帽子もまるで血の色で・・・。
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