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2017年07月27日

アガサ・クリスティから (143) (ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【9】)





(ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【9】)





「わしももう長くないよ。自分でもよくわかる。何も言って下さるな、ペザリック。ただ死ぬ前に世界中の誰よりもわしの為に尽くしてくれたある人のためにわしの義務を果たしたいと思う・・・新しい遺言状を作りたいんだ。」





ペザリックは老人を安心させるために、要望を遺言書に作成してお送りしましょう。と伝えた。





しかし寝床にある老人サーモン・クロードは頭を振った。





そして、おもむろに自分の思いのみで作った遺言書(1枚の紙に殴り書きしてあった)を枕の下から取り出した。

もう自分は長くない、時間がないと悟っているらしかった。





・・・姪と甥のそれぞれに五千ポンドずつ与える。そして、残りの巨額の財産は全部ユーリディシー・スプラッグへ感謝と敬愛の印に残す・・・





ペザリックは正直困ったが、仕方なかった。





病的精神だから無効ということもありえない。
サーモン・クロードは正気だった。






(次号に続く)






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2017年07月16日

アガサ・クリスティから (142) (ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【8】)







(ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【8】)






そこには、スプラッグ夫人がペテンだと決めつけるわけにもいかないが、自分個人の考えではその心霊現象が本物とは思えない。ギャロッドが良いと思うのなら、伯父さんに(サイモン・クロード)手紙を見せてもらっても構わない。なんなら、もっと完全で堅実な霊媒師を紹介してもいいと手紙にあった。






フィリップ・ギャロッドはすぐにその手紙を伯父に見せた。
彼の予想は裏切られ、伯父は烈火のごとく怒りだした。

皆でスグラップ夫人を貶める為の罠だ。
彼女は中傷され、痛めつけられた聖女なんだ!
ロングマンだってペテン師だと見極められないというではないか。
彼女はわしが悲しみのどん底にいた時、救ってくれたのだ。わしは家族のものと喧嘩してでも彼女の味方になるつもりだ。スグラップ夫人は世界中で一番、大切な人なのだ。






結局、フィリップ・ギャロッドはけんもほろろに屋敷から追い出された。





だが、クロード・サイモンはその激怒の為か、急速に健康がおとろえ始めた。





最後の一ヵ月は寝たり起きたりの状態で、ついにはもう寝たっきりになって死を待つばかりだった。





フィリップが帰ってから二日後、弁護士のペザリックは至急、屋敷に来るようにと呼び出された。

とるものもとりあえず、クロードの家に行った。彼は床についていて、素人目にも重態だと分かり、息が苦しそうだった。






「わしももう長くないよ。自分でもよくわかる。何も言って下さるな、ペザリック。ただ死ぬ前に世界中の誰よりもわしの為に尽くしてくれたある人のためにわしの義務を果たしたいと思う・・・新しい遺言状を作りたいんだ。」








(次号に続く)






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2017年07月14日

アガサ・クリスティから (141) (ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【7】)






(ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【7】)







事情を・・・ああいう女が老人を丸め込んでいるのは危険だということを指摘し、出来ることなら、サイモンが定評のある降霊術グループと接触してあげるようにしてあげたらと、言葉を選んで伝えた。





ギャロッドは機敏に行動に起こした・・・。





ペザリックは気づいていなかったことなのだが、サイモン・クロードの健康が非常に危険な状態にあることをギャロッドは知っていた。

実際的な彼は、妻やその妹や弟がもらうべき正当な財産を奪われてしまうかもしれないことを黙って見逃すわけにもいかなかったようだった。






次の週にはギャロッドは高名なロングマン教授を客として屋敷に連れて行った。
ロングマン教授は一流の科学者で、彼が降霊術に関心を持っているお陰で降霊術が尊敬されるようになった位だった。
高潔で正直な人に見受けられた。






そのロングマン教授は滞在中はあまり口を聞かなかった。
その間に二度の降霊術が開かれた。





ロングマン教授はそこにいる間中、少しも断定的なことは言わなかったようだった。





しかし帰宅後にギャロップに手紙を書いた。





そこには、スプラッグ夫人がペテンだと決めつけるわけにもいかないが、自分個人の考えではその心霊現象が本物とは思えない。ギャロッドが良いと思うのなら、伯父さんに(サイモン・クロード)手紙を見せてもらっても構わない。なんなら、もっと完全で堅実な霊媒師を紹介してもいいと手紙にあった。





(次号に続く)






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2017年07月10日

アガサ・クリスティから (140) (ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【6】)







(ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【6】)






サーモン・クロードは夢うつつのように霊媒師スプラッグ夫人に入れ込んでしまっていた・・・。
弁護士ペザリックは、昔から知っているクロード家の若い人たち(サイモンの甥と姪たち)が好きだったので、心配は的中していた。






サイモンは、スプラッグ夫人にのぼせあがって、うっとりしていた・・・ついには、彼女は神がつかわされたものだ。彼女との偶然のすばらしい出会い・・・亡くなった孫娘に対する無償の愛、母のような慈悲、金のことなど眼中になく、ただ悩める心を慰めるだけで充分だと言ってくれる。孫娘の霊は「天国にいるお父さん、お母さんもスプラッグ夫人が大好きよ。」としきりに言っていたらしい・・・。





ペザリック氏は、サイモンがとても心配なまま、帰宅した。
しばらく考えあぐねた上、クロード家の長女の夫であるフィリップ・ギャロット氏に慎重に手紙を書いて送った。

事情を・・・ああいう女が老人を丸め込んでいるのは危険だということを指摘し、出来ることなら、サイモンが定評のある降霊術グループと接触してあげるようにしてあげたらと、言葉を選んで伝えた。





ギャロッドは機敏に行動に起こした・・・。





(次号に続く)






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2017年07月03日

アガサ・クリスティから (139) (ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【5】)







(ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【5】)





ジョージは突然、伯父の前にあらわれたペテンの霊媒師に 強い懸念を持っていたのだった。






その話を聞いた弁護士ペザリックは疑念の念を抱かざる得なかった・・・彼は弁護士ゆえの公平さを信条としていたので、本来は降霊術について肯定派でも否定派でもなかった。確かに否定できないような霊の世界があるのかも知れない・・・しかしながら、詐欺の手口にしかならないような手合いも多いのが事実だった。





ペザリックは、実直そうなジョージに聞かされた怪しげな霊媒師に入れ込んでいるサイモン・クロードのことが心配になり、口実をもうけて早い機会に彼に会いに行った。





霊媒師のスプラッグ夫人は、非常に大切にされている親しいお客様という待遇でもてなされていた。






ペザリックは、彼女を見た途端、自分の懸念が疑いないものになったのを感じた。
彼女(スプラッグ夫人)は、けばけばしく着飾った太った中年の女だった。
『あの世に行かれた愛しい人たち』もったいぶったおざなりの言葉の羅列だったのだ。
ずるそうな目つきで痩せた体つきの夫もまたこの屋敷に滞在していた。





弁護士ペザリックは、出来るだけ早くにサーモン・クロードと二人っきりで話す機会を作った。







サーモン・クロードは夢うつつのように霊媒師スプラッグ夫人に入れ込んでしまっていた・・・。
弁護士ペザリックは、昔から知っているクロード家の若い人たち(サイモンの甥と姪たち)が好きだったので、心配は的中していた。





(次号に続く)






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2017年06月14日

アガサ・クリスティから (138) (ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【4】)







(ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【4】)






『降霊術、そりゃなんですか?』弁護士もびっくりして聞き直した。






するとジョージはすっかり話してくれた。






その一部をここに書き連ねると、こうである。

(以下)
クロード氏が降霊術にだんだんと興味を持ち始めた時に 偶然、アメリカ人の霊媒師でユーリディシー・スプラッグ夫人という人と巡り合った。
ジョージに言わせると、その女は完全にペテン師なのだが、すっかりサーモン・クロードを丸め込んでしまった。こうして霊媒師は屋敷に入りびたり、降霊術の会を開いていた。
そして、その折には、死んだ最愛の孫娘クリストベルの霊魂が愛におぼれた祖父(サーモン・クロード)の前に姿をあらわす・・・そういうことになっていた。





ジョージは突然、伯父の前にあらわれたペテンの霊媒師に 強い懸念を持っていたのだった。





(次号に続く)






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2017年06月04日

アガサ・クリスティから (136) (ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【2】)








(ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【2】)





〜〜〜



(動機 対 機会【1】より)

弁護士であるペザリック氏は眼鏡越しに彼女たちを見ると、よくわかったように明るく微笑んだ。

「その点ではご心配いりません。お話ししようと思うものは単純で率直で、どんな素人でも分かるものですから。」




〜〜〜




「とにかくお話をうかがいましょう。」





ミス・マープルにうながされて、弁護士のペザリックは話し始めた・・・。






それは、弁護士ペザリックの以前の依頼人に関する話だった。





名前をサイモン・クロードと仮定して、話し始めた・・・大きな邸宅に暮らしていた彼は、ひとり息子を戦争で亡くした後、母さえも失った孫娘を引き取った。
目にもいたくない程のかわいがりようだったが、十一歳になったある日、肺炎で急に亡くなってしまった。
クロードの悲しみと絶望は言いようがなく、かわいそうに、それ以来、うつうつとしていた。






しばらくして、彼の弟のひとりが貧乏のまま、亡くなってしまったので、サイモン・クロードは弟の子供たち(グレースとメリーという二人の娘とジョージという息子)を自分の家に引き取った。






彼はこの弟の子供たちにも気前よくやさしく対応していましたが、亡くなった自身の孫娘のような深い愛情は感じることはなかったのだった。






この甥や姪・・・ジョージ・クロードは近くの銀行に就職させてやり、グレースはフィリップ・ギャロッドという名の若い頭の良い科学者と結婚した。そして無口な娘のメリーは家にとどまって、伯父の世話に明け暮れていた。






こうして見たところ、何もかも平穏無事な日が続いた。





実は孫娘が亡くなってすぐに、サイモン・クロードはペザリックのところに来て、新しい遺書の作成をした。
この遺書によれば、彼の財産は・・・これまたかなりのものだった・・・彼の甥と姪の間で公平に三等分されることになっていた。






(次号に続く)






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2017年05月30日

アガサ・クリスティから (135) (ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【1】) 余談の後編





(ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【1】) 余談の後編






ひょんなことから、毎週順番に自分だけが知っている謎を各自持ち出し、残りのメンバーが解決を推理していくことになった火曜クラブ。





メンバーはそうそうたるものでした・・・元ロンドン警視庁の警視総監、教区の牧師である博士、弁護士、甥の作家、女流画家・・・そしてミス・マープル。






どの謎の場合にも、ひざの上で編み物をしながら、ずばりと真相を言い当て、皆を驚かせます。





その風貌は白髪の上品な老女に過ぎないのですが、まさかの推理力の高さに、論外視していたメンバーも認めざる負えなくなるほどでした。






後に数々のクリスティの長編にも彼女は登場するのですが、この短編集が彼女=ミス・マープルのデビュー作なのです。

(このブログでもミス・マープルの長編・予告殺人を取り上げています。【アガサ・クリスティから(12)〜(14)参照】)






実は作者のアガサ・クリスティは、彼女の祖母にミス・マープルがとても似ていると書いてもいます。

・・・・・ミス・マープルはわたし自身の祖母にどこかしら似ているのです。わたしの祖母もやはり桜色の頬をした、色白の、感じのいい老婦人でした。世の中からひきこもって、ヴィクトリア朝風の生活を送っていたくせに、このおばあさんは人間の邪悪を底の底まで知り抜いているかのように思われたものでした。
「でも、おまえ、あの人たちの言ったことを信じてしまったんでしょう。それがいけないんですよ。あたしなら信じませんとも。」と、こうとがめるように祖母に言われると、みんな、まるで、こちらがだまされやすい、世間知らずの愚か者のような気持ちがしたものです。・・・・・






きっと、ミス・マープルやアガサの祖母なら、昨今の(オレオレ詐欺)なんかには、深い知恵とするどい洞察力で、決して引っ掛からないのだろうなぁと思います。






年老いていくことをあまり美徳と思わないかも?知れない風潮も現代社会にありますが、熟成されたワインのような深い叡知は、間違いなく、年を重ねて行った側にあるような気がします。

実際、インディアンなどの原住民は年を重ねることを負とはみなさず、高い齢の深い知恵を尊ぶ文化を持つ民族もいます。
(もちろん、輝くような勢いは、若い側の特権かも?知れないですが。)






少し話が脱線してしまいましたが、このミス・マープルとポアロは、アガサ・クリスティの2大名探偵とも言えるかなぁと思います。
(他にもアガサ・クリスティの推理小説には、トミー&タペンス、バトル警視、パーカー・パイン氏などなどの多彩な探偵も登場するのですが・・・こちらも、おいおい紹介していきたいと思います。)






二人とも著名な探偵ではあるのですが、産みの親でもある作者のアガサ・クリスティ自身は、ポアロに悩まされ、このミス・マープルをこよなく愛していたと告白しています。






またミス・マープルは、きっと男性には書けなかったであろうとも思われます。(個人的な見解ですが・・・)





とてもありきたりな、しかしするどい洞察力を持つ老婦人のミス・マープル。
老女ならではの(女性ならではの)するどい洞察力・・・これは男性には分かりづらいような気がするのです。







この独創的な老女の探偵は、アガサ・クリスティの祖母がモデルだったり、彼女の一部が入り込んでいるような気がしています。






次回から、また短編の中の(動機 対 機会)に戻ります。






(次号に続く)







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2017年05月06日

アガサ・クリスティから (134) (ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【1】) 余談の前編







(ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【1】)余談の前編






ミス・マープルの短編集から、(序章指差し確認右火曜日クラブ)(元警視*ヘンリー卿指差し確認右製薬会社の外交員ジョーンズ夫妻の話)(老牧師*ペンダー博士指差し確認右アスターテの祠)(作家*レイモンド指差し確認右金塊)(女流画家*ジョイス指差し確認右血に染まった敷石)と、進んで来て、次は(弁護士*ペザリック指差し確認右動機 対 機会)の番になりました。






ここで、小休止の余談をはさみたいと思います。





我らの独特な探偵でもあるミス・マープル。

(火曜日クラブで繰り広げられている推理劇)

ここまでは全戦全勝・・・田舎の小さな村セント・メアリーミードから、ほぼ出たことのない老婦人ながら、凄腕なのです。






ふわふわの白髪で編み物を黙々としながら、並み居る切れ者達(元警視、老牧師かつ博士、弁護士、作家、女流画家)を尻目に、ズバリ推理を次々と決めていき、最初はあまり期待していなかった世の名士達の度肝を抜いていきます。







名士揃いのメンバーは、元警視、弁護士、老牧師とも、それぞれ、事件を知り得るであろう立場の専門家であり、また深い洞察力や審美眼を持つ作家や画家もいます。






その華やかなメンバーの中で、ミス・マープルだけは田舎からあまり出たこともない老婦人(未婚のまま、お婆ちゃんになったという)で、何も持たざる人(=推理にはかけ離れた存在の意味)だと、皆、思っていました。





この有志で、(火曜クラブ)を立ち上げた際もミス・マープルのことは、屋敷の片隅に溶け込むように編み物をしている老婦人としか誰も思わず、メンバーも眼中になかった程です。






メンバーの人数が足りないとなった時、(私がいますよ。)と手を挙げたミス・マープルに対し、あまりにも場違いな老婦人に、皆驚きました。

ただただ失礼のないよう、レディ・ファースト、紳士的な態度で、彼女を形式的にメンバーに受け入れただけでした。
もちろん、期待など皆無でした。






ところが、このメンバーが一人づつ、まだ誰も知らないが、解答が分かっている事件を提供し、推理をしていく(火曜クラブ)の中で、ミス・マープルは実力を発揮します。

高い能力や専門的な知識と機会に恵まれたメンバーより、すぐれた推理を展開、謎をどんどん解いてしまいます。





彼女の武器は、何もないように思えるのですが・・・実は彼女いわく、彼女が生涯を静かに過ごした片田舎の小さな村にこそ、事件の謎を解く鍵が落ちているというのです。






皆が聞いたこともない村人たちの暮らしの中で生じたあれこれを持ち出し、その中に相似点を見いだし、謎を解いていくのです。
人間に対する深い洞察力と共に・・・。






まるで数学の幾何学的概念、フラクタルのようです。
大きな断片を一部切り取った小さな断片には、自己相似点があるという・・・。






つまりミクロもその自己相似で、マクロを表し、その逆も真なりということなのだと。






人が知らないような片田舎の小さな村の人間模様の中にもドラマがあり、様々なことから
ミス・マープルは難問を解いていきます。




華やかな大都会の特殊な事件簿にも、小さな田舎村にも通ずるもの・・・根本には人間の普遍性があるかのように・・・ミス・マープルはメンバーの中でただ一人、的確な推理を展開していきます。





(余談の後編、次号、に続く)






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2017年04月30日

アガサ・クリスティから (133) (ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【1】)








(ミス・マープルと十三の謎*動機 対 機会【1】)






弁護士であるペザリック氏はいつもよりもいささか重々しい咳ばらいをした。

「わたしは小さな問題はみなさんにはちょっと退屈な話かも知れないが。」
彼は恐縮するように言った。






思えば、この火曜クラブは、ミス・マープルの家に、甥の作家、女流画家、元ロンドン警視庁の警視総監、教区の牧師、それに弁護士の6人が集まった時、自分だけが知っている怪事件を話して、みんなが、それぞれの解決を推理しあおうではないかということになったのだった。






その会は【火曜クラブ】と名付けられ、毎週順番にひとりづつ謎を持ち出すことになった。
まずは元警視総監のヘンリー卿、そして老牧師であるペンダー博士、作家レイモンド、女流画家ジョイスと、今まで順番にこの謎解きの問題を提起してきたのだ。






ペザリック氏いわく・・・今まで、あっと言わせるような話ばかりが続いてきたが、彼の話には流血の惨事といったものはなかった。しかし、この弁護士から見れば興味深い、いささか相違にとんだ小さな話に思えること、幸い彼はその正しい答えも知っていることもあり、披露することにしたのだと説明した。







「おそろしく法律的なんじゃなくって?」と、ジョイス・ラムプリエールは聞いた。

・・・法律の第何条がどうだかとか、1881年のバーナビー対スキナーの訴訟事件だとか、そんなものが沢山出てくるような気がしていたのである。





同じくミス・マープルも法律のややこしい用語は彼女もごめんこうむりたい。と言った。





弁護士であるペザリック氏は眼鏡越しに彼女たちを見ると、よくわかったように明るく微笑んだ。

「その点ではご心配いりません。お話ししようと思うものは単純で率直で、どんな素人でも分かるものですから。」







(次号に続く)






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