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2017年04月11日

アガサ・クリスティから (123) (ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【7】)










(ミス・マープルと十三の謎*血に染まった敷石【7】)






が、若い男性はそっけなく彼を振り切ると、旅館の方に戻って、バルコニーにいる妻に声を掛けた。






「おーい、マージェリー、キャロルはまだ帰ってこないっていうぜ。おかしいねえ?」






マージェリーの返事は聞こえなかったが、夫は続けて言った。

「でもねえ、もうこれ以上待ってはいられないよ。これからペンリザーまで出なきゃならないんだからなあ。支度は出来てるね?車をまわすよ。」






こうして、やがて夫婦は自動車に乗って行ってしまった。






その間、ジョイスは自分の幻想がばかばかしいものだったと、納得しようとしていた。






ジョイスは自動車が行ってしまうと、旅館に近づいて、念入りに敷石を調べてみた。






もちろん、そこには血痕など見つからなかった・・・。






ああ、皆、自分のゆがんだ想像に過ぎなかった・・・そうはっきりしたのだが、なんだか、ますます気味が悪くなるような気がして、そこにたたずんでいた。






そんなジョイスを漁夫は不思議そうに見ながら、言った。






「あんたはここに血の染みを見たような気がなすったんですね、え?」






ジョイスがうなずくと、漁夫は続けた。
「不思議なこともあるもんだ。この村には言い伝えがあるんでね、誰かがそんな風に血の染みを見るてえと。」






「え?」
ジョイスは思わず、聞き返した。






「村の人たちはさね、誰かがそういう血の染みを見たっていうと、きっと24時間以内に誰かが死ぬっていうんですな。」






ジョイスは思わず、震え上がった・・・。







なおも漁夫は低い声で続けた。
「教会に面白い銘版があるんですがね、人の死のことを彫った・・・」







「ああ、もうけっこう!」
ジョイスは漁夫を遮ると、向きを変えて、宿泊している小さな家の方の通りを上って行った。






家まで来た時だった・・・。
ずっと向こうの方からキャロルと呼ばれていた女性が崖道に沿って歩いて来た。
彼女は急いでいた。






彼女は岩の灰色を背にして、まるで真っ赤な毒花のように見えた。
帽子もまるで血の色で・・・。








(次号に続く)




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