だだっこのおススメ情報

お気に入りブランドのポストがFaceBookのタイムラインに流れてきた。そこに貼ってあるリンクの先には秋物コーディネートが紹介されているのだが、そのページを覗いて私は落胆した。残念なことにそこからはブランドの魅力が全く伝わってこない。なんでこんな風に感じるのかいぶかりつつ再認識したのは、私がこのブランドに感じる魅力、その大半を占めているのはいつも行っている実店舗の店長に対するものだということ。店長の魅力が加味されたブランドに魅力を感じているのだということ。

この店長、おそらく50代であろうと思われるおじさんだけど、とっってもチャーミング。お客さんがそこで買ったものは全て記憶しているし、お客さんの好みもほぼ全て把握していて、手持ちのアイテムに合わせておススメを教えてくれる。だけど無理に買わせることは絶対にしない。お店の内装はすべて自らの手作業によるものだし、服の修繕が必要なときはそこの商品でなくても快くその場で直してくれる。店長のコーディネートも、お店の内装も、人となりもすべて私のツボにはまっている。

私が店長の店に足繁く通うのは、ここがとても落ち着くから。店長は「客に買わせよう」としないので変なプレッシャーを感じたことも無い。何も買わなくても店長と話をするだけのために立ち寄ることもしばしばある。同じものはネットでも買えるし、他にも店舗はあるけれど、どうせなら店長の店で気持ちよく買いたいと自然に思う。最近は環境が変わったこともありちょっと足が遠のいているのだが…、ああ、また店長に会いたくなってきた。

ここからは昨年の話。
ふらりお店に立ち寄って、結局この日も何も買わずに（ごめんなさい）店長とのおしゃべりを楽しんでいると、流れでビジネスの話になっていった。そして店長は自身の転機となった出来事について話を聞かせてくれた。

一匹狼的な店長にもお世話になった恩人がいる。
その恩人は、とあるアパレル会社の元社長。この社長は「何かと紙一重」というほどの変人だったらしいが、同時にかなりのやり手でもあったらしく、会社は大きな売り上げがあったという。店長は、この社長から言われた言葉に頭を鈍器で殴られたかのように大きな衝撃を受けたのだそうだ。

その言葉がこれ。

「品物を売ろうとしてはいけない。売るのは空気だ。」

当時、商品を売ろうとやっきになっていた店長だったが、言われた通り素直に方針を変えてみることにした。

周囲の店は自らの首を絞めるような値引き合戦を繰り広げている。店長とて昨日まではその仲間のひとりだった。しかしそこからは周囲の店を他所に、店長ひとりだけ商品の価格をプロパーに戻し、同時に少しずつ自らの手で店内の改装を進めていった。己を信じて、社長の言葉を信じて、すべて店長の手作業でコツコツと。

すると気付くと店の空気が変わっていた。プロパーでも商品は売れていく。そのまま売り上げはぐんぐん伸びていき、結果、最初は冷ややかな目で見ていた周囲の店も店長に一目置かざるを得なくなった。店長は、自分の店のみならず、その周辺の店の意識も変え、マーケット自体までも作り変えてしまったのだ。そうやって出来上がったのが私の大好きな今のお店だった。

経済の話とか、マーケティングの話とか、私には難しくてよくわからない。
でもこの変人な社長が放った言葉はなるほどなと思えた。

いろんなことがあって、当時の私が身をもって感じていたのは、結局のところ、すべては「人」であり、人気がある人は「この人なら」と感じさせる魅力がたくさんあって、その他のテクニックは後から付いてきているのかな、ということだった。そして「良いモノが売れるとは限らない」「売ろうとすると客は引く」「商品も自分も安売りしてはいけない」「安物の市場にはそれなりの客しか集まらない」ということも体感していたところだった。しかし私は頭で理解したつもりになっていただけで、自身が置かれている状況を何ひとつ好転させることはできなかったが。

人が求めているものは商品でもサービスそのものでもなくて、その奥底で求めているのは「人とのつながりを感じられる何か」なのかもね。それが何なのかはわかんないけど。

さて、変人社長はその後どうなったというと・・・。
社長の「紙一重」の紙は日に日に薄くなっていき、ここで紹介できないような奇行を繰り返すようになる。ある日を境に「紙」は消え去り、完全に別世界の住人になってしまったそうだ。今では海外の異世界で暮らしているそうな。