2022年05月10日
野薔薇と伏黒(私のかわいいお人形)
「プチプラだけど評判のビューラー買ってみたから試させなさいよ」
伏黒がぼおっとコーヒーを飲んでいると、釘崎が何か光るものを手に持ちながら横に立った。
当たり前だが金槌ではない。
何か華奢なものだ。
「プチプラ?」
あまり聞きなれない言葉に伏黒は聞き直す。
「そこか!?」
はぁ!?というように釘崎は一瞬顔をしかめたあと、まあいいわと光るものがある右手を見せた。
「安いけど、機能もばっちり。でも、自分で見てみたって違いがよくわかんないからあんたで試させて」
ちゃんと説明をしてくれる。
乱暴に見えて、釘崎は面倒見がいいのだ。
だが、釘崎が何をしたいのかが伏黒には分らない。
「どうするんだ?」
「ビューラー。これでまつげを挟むのよ」
釘崎はビューラーをカシャカシャさせながら、ほらやるわよと手元を近づけてくる。
「何のためにそんなこと...」
まさかの言葉に伏黒は身を引いた。
伏黒はまつげにそんなことをしたことなど、一度もない。
「目を大きく見せるの。可愛くなれるの」
釘崎は右手にあるビューラーを見た後、改めてこちらを向き近づいてくる。
「あんた、まつげ長いし丁度いいわ」
「気を付けるけど、まぶた挟んだらごめんね」
「なっ!」
「動かないで」
まだいいと言っていない!と伏黒は内心思いつつも目というデリケートな場所のため
動くに動けない。
それに釘崎は真面目な顔だ。
突然の行動とは裏腹に真剣に、慎重にしている。
伏黒のまつげをビューラーで挟み、数回きゅっとする。
時間にしたら、2秒か3秒だろうが長い時間に感じた。
釘崎が離れていく気配がする。
少しまつげが引っ張られるような感じがしたが、それだけで済んだようだ。
「はーっ!?何その目力アップ!!喧嘩売ってんのかこら。買うぞ。」
釘崎の情緒はせわしい。
また、伏黒を見つつ顔をしかめている。
伏黒には分らないが、釘崎の怒りを買ったらしい。
「謝れ。全女子に謝れ。」
「悪い。」
「真面目か。」
釘崎は大きなため息をつくと、「ありがと」と言葉にした。
「いいわ、このビューラー。買ってよかった。」
またビューラーをカシャカシャと音をさせると、釘崎は満足げに笑った。
どうなったのかは分からないが、釘崎の期待には応えられたようだ。
伏黒は安心した。
「ねぇ、伏黒。昨日新しくリップ買ったんだけど...」
私のきれいでかわいいお人形
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