2016年02月08日
国際私法 平成19年度第1問
問題文
甲国人男Aは、自身の研究のために日本の大学に勤務していたが、その間に日本人女Xと知り合い、甲国において婚姻した。婚姻後5年を経過した時点で甲国に地震が発生し、当時、甲国の震源地近くで調査を行っていたAが行方不明となった。地震発生後7年が経過したが、Aの生死は依然不明の状態にある。AとXの婚姻が有効に成立していることを前提として、以下の設問に答えよ。
なお、甲国の国際私法には次の規定があること、また、本件事案には法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号)が適用されることを前提とする。
【甲国国際私法】
第P条 裁判所は、甲国国際私法の規定によって指定された国の実質法を適用する。
第Q条 相続は、相続財産の所在地に関わらず、被相続人の最後の住所地の法による。
設問
1.AとXは、婚姻後、甲国において婚姻生活を送っていたとする。Aが行方不明となって間もなくXは日本に帰国して生活していたが、日本人男Bと知り合い、現在ではBとの婚姻を望んでいる。
(1)Xが日本の裁判所にAの失踪の宣告を申し立てた場合に、日本の裁判所は子の申立てについて国際裁判管轄権を有するか。
(2)日本の裁判所が失踪の宣告をした場合に、日本の裁判所はAとXの婚姻の解消についていかなる国の法によって判断するか。
2.AとXは、婚姻後、甲国において婚姻生活を送っていたとする。(以下略)。
回答
設問1(1)
失踪宣告は国家機関の宣告が必要であるから、準拠法だけでなく管轄も通則法に定められている。6条1項は、失踪宣告の原則的管轄原因を、不在者が生存していたと認められる最後の時点において日本に住所を有していたとき又は日本の国籍を有していたときに認めている。これは、不在者に関する不確実な法律関係の解決に利害を有する住所地と、戸籍の整理等に関わる国籍を基準にしたものと理解できる。もっとも、6条2項は例外的に、不在者の財産が日本にあるときにその財産について、また、不在者に関する法律関係が日本法によるべきときその他の事情に照らして日本に関係があるときにその法律関係について、日本の管轄権を認めている。これは、不在者をめぐる法律関係の不安定をできるだけ解消しようとして管轄原因を広げたものと解される。
本件の日本人女Xは、甲国において婚姻し、甲国において婚姻生活を送っていたが、Aが行方不明となって間もなく日本に帰国して生活しており、住所、国籍において日本に関係があると言える。
したがって、6条2項後段により、日本の裁判所は管轄権を有する。
設問1(2)
6条は、非訟事件における実体法と手続法の関連を考慮して、法定地法である日本法が失踪宣告の要件及び効力に関して適用されることを定めている。
ここで失踪宣告に伴う婚姻の解消の法的性質を離婚とみて27条によるべきか、失踪宣告の効力とみるべきかが問題となる。離婚は両当事者の保護が問題になるが、失踪宣告に伴う婚姻解消は生存配偶者の保護しか問題にならないから、失踪宣告の効力とみるべきである。
そうすると、本件では6条により日本法が準拠法となる。
したがって、裁判所は日本法によって判断する。
設問2(1)
甲国国際私法第P条は、甲国の裁判所が準拠実質法を適用する場合を、甲国国際私法の規定によって指定された場合に限定している。つまり、甲国の国際私法が指定した国の抵触法を参照して準拠実質法を決めることはないということであり、これは反致を認めないという意味である。
通則法41条の適用上、この規定がいかなる意味を持つかというと、二重反致が成り立たないという意味を持つ。二重反致とは、A国の国際私法によればB国法が準拠法となるが、B国国際私法によればA国法が準拠法となり、かつB国の国際私法に反致規定があれば、その規定をも尊重してA国でB国宝を準拠法とする場合である。
設問2(2)
本件相続の法的性質も、失踪の効力と考えることもできなくはない。しかし、日本の裁判所の失踪の効力は死亡の擬制であり(民法31条)、死亡の結果いかなる者が相続人となり、いかなる財産が相続財産となるかは、失踪の効力というより相続と性質決定すべきである。そのため36条で判断する。
36条は相続統一主義(動産相続と不動産相続を区別せず、すべてを被相続人の属人法によって処理する立場)の観点から被相続人の国籍に連結している。同条が被相続人による準拠法選択を認めなかったのは、被相続人の意思は相続財産の処分によって実現できるからである。
本件では、36条により被相続人Aの本国法である甲国法が準拠法となる。
ここで、甲国抵触法Q条は、被相続人の最後の住所地に連結している。Aの最後の住所地は日本であるから、Q条に従えば日本法が準拠法となる。
41条は反致を定めている。反致とは、法定地の国際私法によって指定された準拠法が所属する国の国際私法が、法定地法または第三国法を準拠法として指定しているときに、その外国の国際私法の立場を考慮して、法定地法又は第三国法を準拠法とするのを認めることである。反致の理論的根拠として、国際私法が準拠法として外国法を指定する場合にはその国の法律を総括的に指定しているから(総括指定説)があるが、双方の国が反致規定を置いていた場合に無限の循環が生じ妥当でない。主権理論を前提とした棄権説も妥当でない。また、実質的根拠として、国際的判決調和と内国適用拡大があると言われる。しかし、国際判決調和も双方の国が反致規定を置いていた場合には達成されず、内国適用拡大は法内容の平等という国際私法の原則に反するものである。結局反致の正当化は難しい。
ともあれ、41条は「当事者の本国法による場合」にその国の国際私法に従えば日本法が指定されるときは日本法によるというように反致を定めている。「当事者の本国法による場合」には36条の場合が含まれるから、本件はこれに当たる。そして、甲国国際私法Q条によれば日本法が準拠法として指定される。前述のように甲国国際私法P条の存在が二重反致を生じさせないため、二重反致を検討する必要はない。
したがって、本件相続には日本法が適用される。 以上
甲国人男Aは、自身の研究のために日本の大学に勤務していたが、その間に日本人女Xと知り合い、甲国において婚姻した。婚姻後5年を経過した時点で甲国に地震が発生し、当時、甲国の震源地近くで調査を行っていたAが行方不明となった。地震発生後7年が経過したが、Aの生死は依然不明の状態にある。AとXの婚姻が有効に成立していることを前提として、以下の設問に答えよ。
なお、甲国の国際私法には次の規定があること、また、本件事案には法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号)が適用されることを前提とする。
【甲国国際私法】
第P条 裁判所は、甲国国際私法の規定によって指定された国の実質法を適用する。
第Q条 相続は、相続財産の所在地に関わらず、被相続人の最後の住所地の法による。
設問
1.AとXは、婚姻後、甲国において婚姻生活を送っていたとする。Aが行方不明となって間もなくXは日本に帰国して生活していたが、日本人男Bと知り合い、現在ではBとの婚姻を望んでいる。
(1)Xが日本の裁判所にAの失踪の宣告を申し立てた場合に、日本の裁判所は子の申立てについて国際裁判管轄権を有するか。
(2)日本の裁判所が失踪の宣告をした場合に、日本の裁判所はAとXの婚姻の解消についていかなる国の法によって判断するか。
2.AとXは、婚姻後、甲国において婚姻生活を送っていたとする。(以下略)。
回答
設問1(1)
失踪宣告は国家機関の宣告が必要であるから、準拠法だけでなく管轄も通則法に定められている。6条1項は、失踪宣告の原則的管轄原因を、不在者が生存していたと認められる最後の時点において日本に住所を有していたとき又は日本の国籍を有していたときに認めている。これは、不在者に関する不確実な法律関係の解決に利害を有する住所地と、戸籍の整理等に関わる国籍を基準にしたものと理解できる。もっとも、6条2項は例外的に、不在者の財産が日本にあるときにその財産について、また、不在者に関する法律関係が日本法によるべきときその他の事情に照らして日本に関係があるときにその法律関係について、日本の管轄権を認めている。これは、不在者をめぐる法律関係の不安定をできるだけ解消しようとして管轄原因を広げたものと解される。
本件の日本人女Xは、甲国において婚姻し、甲国において婚姻生活を送っていたが、Aが行方不明となって間もなく日本に帰国して生活しており、住所、国籍において日本に関係があると言える。
したがって、6条2項後段により、日本の裁判所は管轄権を有する。
設問1(2)
6条は、非訟事件における実体法と手続法の関連を考慮して、法定地法である日本法が失踪宣告の要件及び効力に関して適用されることを定めている。
ここで失踪宣告に伴う婚姻の解消の法的性質を離婚とみて27条によるべきか、失踪宣告の効力とみるべきかが問題となる。離婚は両当事者の保護が問題になるが、失踪宣告に伴う婚姻解消は生存配偶者の保護しか問題にならないから、失踪宣告の効力とみるべきである。
そうすると、本件では6条により日本法が準拠法となる。
したがって、裁判所は日本法によって判断する。
設問2(1)
甲国国際私法第P条は、甲国の裁判所が準拠実質法を適用する場合を、甲国国際私法の規定によって指定された場合に限定している。つまり、甲国の国際私法が指定した国の抵触法を参照して準拠実質法を決めることはないということであり、これは反致を認めないという意味である。
通則法41条の適用上、この規定がいかなる意味を持つかというと、二重反致が成り立たないという意味を持つ。二重反致とは、A国の国際私法によればB国法が準拠法となるが、B国国際私法によればA国法が準拠法となり、かつB国の国際私法に反致規定があれば、その規定をも尊重してA国でB国宝を準拠法とする場合である。
設問2(2)
本件相続の法的性質も、失踪の効力と考えることもできなくはない。しかし、日本の裁判所の失踪の効力は死亡の擬制であり(民法31条)、死亡の結果いかなる者が相続人となり、いかなる財産が相続財産となるかは、失踪の効力というより相続と性質決定すべきである。そのため36条で判断する。
36条は相続統一主義(動産相続と不動産相続を区別せず、すべてを被相続人の属人法によって処理する立場)の観点から被相続人の国籍に連結している。同条が被相続人による準拠法選択を認めなかったのは、被相続人の意思は相続財産の処分によって実現できるからである。
本件では、36条により被相続人Aの本国法である甲国法が準拠法となる。
ここで、甲国抵触法Q条は、被相続人の最後の住所地に連結している。Aの最後の住所地は日本であるから、Q条に従えば日本法が準拠法となる。
41条は反致を定めている。反致とは、法定地の国際私法によって指定された準拠法が所属する国の国際私法が、法定地法または第三国法を準拠法として指定しているときに、その外国の国際私法の立場を考慮して、法定地法又は第三国法を準拠法とするのを認めることである。反致の理論的根拠として、国際私法が準拠法として外国法を指定する場合にはその国の法律を総括的に指定しているから(総括指定説)があるが、双方の国が反致規定を置いていた場合に無限の循環が生じ妥当でない。主権理論を前提とした棄権説も妥当でない。また、実質的根拠として、国際的判決調和と内国適用拡大があると言われる。しかし、国際判決調和も双方の国が反致規定を置いていた場合には達成されず、内国適用拡大は法内容の平等という国際私法の原則に反するものである。結局反致の正当化は難しい。
ともあれ、41条は「当事者の本国法による場合」にその国の国際私法に従えば日本法が指定されるときは日本法によるというように反致を定めている。「当事者の本国法による場合」には36条の場合が含まれるから、本件はこれに当たる。そして、甲国国際私法Q条によれば日本法が準拠法として指定される。前述のように甲国国際私法P条の存在が二重反致を生じさせないため、二重反致を検討する必要はない。
したがって、本件相続には日本法が適用される。 以上
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