2016年02月08日
国際私法 平成18年度第1問
問題文
日本人男Yと米国人女Xは日本で婚姻して共同生活を始め、Xは子を懐胎した。しかし、その後両者は不和となり、Xはその出身地である米国のA州に帰り、その地において子Zを出生した。Zの出生を知ったYは、Zに会うために米国に赴き、A州のホテルに宿泊した。Xは、YがZに対して支払うべき扶養料を確保するため、A州の送達吏とともに同ホテルに赴き、送達吏は、Zへの扶養料の支払をYに求める訴えの訴状をYに手交した。Yはこの訴状をその場で破り捨てて日本に帰国したが、A州の裁判所は、Y欠席のまま、Yに対してZへの月額1000合衆国ドルの支払を命ずる判決を下した。なお、Zは、日本と米国の国籍を有し、A州に居住している。
以上の事実を前提として以下の設問に答えよ。
〔設問〕
1.A州の裁判所の判決の効力が日本において問題となる場合に、その効力が日本で承認されるための要件である管轄権はA州に認められるか。なお、A州の法律によると、以下のいずれかの場合にA州の裁判所は、A州に居住しない者(以下「本人」という。)を被告とする扶養関係事件につき管轄権を有するとされている。
@本人がA州において訴状の交付送達を受けたとき
A本人が応訴したとき
B本人がA州に子とともに居住したことがあるとき
C本人がA州に居住したことがあり、かつ、子の出産前に要した費用又は扶養料を支払っていたとき
D本人の行為又は指示の結果として子がA州に居住しているとき
E本人が性交渉をA州において持ち、その結果として子が懐胎された可能性があるとき
2.Xは、その後、離婚とXのための離婚後の扶養料の支払いをYに求めてA州の裁判所に訴えを提起した。A州の裁判所は、A州の法律を適用し、XとYの離婚を認め、同じくA州の法律により、Xのために離婚後の扶養料として月額2000合衆国ドルを支払うようYに命ずる判決を下した。Yは、この判決に従い、1年間、日本から同金額を送金したが、自己の経済状況が悪化したため、日本の裁判所に扶養料を月額1000合衆国ドルに減額する申し立てをした。A州の前記判決が日本における承認の要件を満たしていると仮定した場合、子の扶養料減額請求に日本の裁判所が適用すべき準拠法は何か。
3.A州の裁判所の離婚判決の効力が日本において承認されないことが判明したため、Xは日本の裁判所に離婚の申立てをした。この場合に、Zの親権者の指定について日本の裁判所が適用すべき準拠法は何か。
回答
設問1
1 A州の裁判所の判決はA州の司法権の作用の結果だから、当然には日本で効力を持たない。しかし、日本法は一定の要件を満たした場合に外国判決を承認する制度を設けている(民事訴訟法118条)。扶養事件は非訟事件だから118条は適用されないとも思えるが、金銭給付を求める扶養事件は争訟的性格が強いから118条が直接適用されると解する。そして、「外国裁判所の裁判権」(118条1号)には国際裁判管轄も含むから、本問で問われているのは1号の要件該当性である。
2 まず、「外国裁判所の裁判権」の有無を判決国から見て判断するのか、承認国から見て判断するのかが問題となる。判決国から見て判断すると仮定すると、同じ要件該当性の判断を繰り返すことになるから1号要件が無意味となるし、外国裁判所を日本の裁判所の下級審のように扱うことになり実質的再審査禁止原則(民事執行法24条2項参照)に反する。そこで、承認国から見て判断すべきである(最判平成10年4月28日)。
3 次に、承認国つまり日本の基準から見て判断する場合の判断基準は民訴法の直接管轄の規定と同じか否かが問題となる。
既に出された判断をできるだけ尊重して国際私法秩序の安定を図ることを重視すると、間接管轄は直接管轄より広く認めるべきとも思える。しかし、いずれも公権的判断を当事者に強制することを正当化するものだから、同一の基準で判断すべきと考える(鏡像理論)。上記判例およびそれを踏襲した最判平成26年4月24日は、基本的に日本の民訴法の定める国際裁判管轄に関する規定に準拠しつつ、個々の事案における具体的事情に即して、外国裁判所の判決を日本が承認するのが適当か否かという観点から、条理に照らして判断すべきとしているが、鏡像理論を述べたものと解する。
4 そのように解しても、本件は扶養料の支払いに関する訴えであり、民訴法に規定がないから条理によるしかない。扶養料は扶養権利者のために使われるから、扶養権利者の住所地とするのが条理上適切と考える。
本件の扶養権利者ZはA州に居住しているから、扶養権利者の住所地はA州である。
5 したがって、日本法から見た管轄権すなわち118条1号の「裁判権」はA州に認められる。
設問2
本件の扶養料減額請求は、離婚をした当事者間の扶養義務に関するものだから、扶養義務に関するハーグ条約を国内法化した扶養準拠法4条による。同条は、離婚について適用された法を準拠法とする。これは、離婚後の扶養が各国の法制上離婚自体と密接に関連していることを理由とすると考えられる。離婚準拠法とはされていないので、離婚準拠法が公序により適用されなかった場合でも、離婚について適用された法が適用される。
本件で離婚について適用された法はA州法である。
したがって、日本の裁判所はA州法を適用すべきである。
設問3
離婚の際の親権者の指定の法的性質が問題となる。離婚の効果と性質決定して27条によるという考えもあり得るが、親権者の指定は子の保護のために行われるものであるから、子の保護を重視した親子間の法律関係と性質決定して32条によるべきである。同条は両性の平等と子の保護という観点から@父または母の本国法と子の本国法が同一であるときはそれにより、Aそのような同一本国法がないときは子の常居所地法を準拠法として、段階的連結を定めている。
本件は、子Zは日本と米国の国籍を有しているから、Zの本国法は日本法である(38条1項但書)。そうすると、Zの本国法と日本人Yの本国法が同一であるから、32条前段により日本法が準拠法となる。
したがって、日本の裁判所は日本法を適用すべきである。 以上
日本人男Yと米国人女Xは日本で婚姻して共同生活を始め、Xは子を懐胎した。しかし、その後両者は不和となり、Xはその出身地である米国のA州に帰り、その地において子Zを出生した。Zの出生を知ったYは、Zに会うために米国に赴き、A州のホテルに宿泊した。Xは、YがZに対して支払うべき扶養料を確保するため、A州の送達吏とともに同ホテルに赴き、送達吏は、Zへの扶養料の支払をYに求める訴えの訴状をYに手交した。Yはこの訴状をその場で破り捨てて日本に帰国したが、A州の裁判所は、Y欠席のまま、Yに対してZへの月額1000合衆国ドルの支払を命ずる判決を下した。なお、Zは、日本と米国の国籍を有し、A州に居住している。
以上の事実を前提として以下の設問に答えよ。
〔設問〕
1.A州の裁判所の判決の効力が日本において問題となる場合に、その効力が日本で承認されるための要件である管轄権はA州に認められるか。なお、A州の法律によると、以下のいずれかの場合にA州の裁判所は、A州に居住しない者(以下「本人」という。)を被告とする扶養関係事件につき管轄権を有するとされている。
@本人がA州において訴状の交付送達を受けたとき
A本人が応訴したとき
B本人がA州に子とともに居住したことがあるとき
C本人がA州に居住したことがあり、かつ、子の出産前に要した費用又は扶養料を支払っていたとき
D本人の行為又は指示の結果として子がA州に居住しているとき
E本人が性交渉をA州において持ち、その結果として子が懐胎された可能性があるとき
2.Xは、その後、離婚とXのための離婚後の扶養料の支払いをYに求めてA州の裁判所に訴えを提起した。A州の裁判所は、A州の法律を適用し、XとYの離婚を認め、同じくA州の法律により、Xのために離婚後の扶養料として月額2000合衆国ドルを支払うようYに命ずる判決を下した。Yは、この判決に従い、1年間、日本から同金額を送金したが、自己の経済状況が悪化したため、日本の裁判所に扶養料を月額1000合衆国ドルに減額する申し立てをした。A州の前記判決が日本における承認の要件を満たしていると仮定した場合、子の扶養料減額請求に日本の裁判所が適用すべき準拠法は何か。
3.A州の裁判所の離婚判決の効力が日本において承認されないことが判明したため、Xは日本の裁判所に離婚の申立てをした。この場合に、Zの親権者の指定について日本の裁判所が適用すべき準拠法は何か。
回答
設問1
1 A州の裁判所の判決はA州の司法権の作用の結果だから、当然には日本で効力を持たない。しかし、日本法は一定の要件を満たした場合に外国判決を承認する制度を設けている(民事訴訟法118条)。扶養事件は非訟事件だから118条は適用されないとも思えるが、金銭給付を求める扶養事件は争訟的性格が強いから118条が直接適用されると解する。そして、「外国裁判所の裁判権」(118条1号)には国際裁判管轄も含むから、本問で問われているのは1号の要件該当性である。
2 まず、「外国裁判所の裁判権」の有無を判決国から見て判断するのか、承認国から見て判断するのかが問題となる。判決国から見て判断すると仮定すると、同じ要件該当性の判断を繰り返すことになるから1号要件が無意味となるし、外国裁判所を日本の裁判所の下級審のように扱うことになり実質的再審査禁止原則(民事執行法24条2項参照)に反する。そこで、承認国から見て判断すべきである(最判平成10年4月28日)。
3 次に、承認国つまり日本の基準から見て判断する場合の判断基準は民訴法の直接管轄の規定と同じか否かが問題となる。
既に出された判断をできるだけ尊重して国際私法秩序の安定を図ることを重視すると、間接管轄は直接管轄より広く認めるべきとも思える。しかし、いずれも公権的判断を当事者に強制することを正当化するものだから、同一の基準で判断すべきと考える(鏡像理論)。上記判例およびそれを踏襲した最判平成26年4月24日は、基本的に日本の民訴法の定める国際裁判管轄に関する規定に準拠しつつ、個々の事案における具体的事情に即して、外国裁判所の判決を日本が承認するのが適当か否かという観点から、条理に照らして判断すべきとしているが、鏡像理論を述べたものと解する。
4 そのように解しても、本件は扶養料の支払いに関する訴えであり、民訴法に規定がないから条理によるしかない。扶養料は扶養権利者のために使われるから、扶養権利者の住所地とするのが条理上適切と考える。
本件の扶養権利者ZはA州に居住しているから、扶養権利者の住所地はA州である。
5 したがって、日本法から見た管轄権すなわち118条1号の「裁判権」はA州に認められる。
設問2
本件の扶養料減額請求は、離婚をした当事者間の扶養義務に関するものだから、扶養義務に関するハーグ条約を国内法化した扶養準拠法4条による。同条は、離婚について適用された法を準拠法とする。これは、離婚後の扶養が各国の法制上離婚自体と密接に関連していることを理由とすると考えられる。離婚準拠法とはされていないので、離婚準拠法が公序により適用されなかった場合でも、離婚について適用された法が適用される。
本件で離婚について適用された法はA州法である。
したがって、日本の裁判所はA州法を適用すべきである。
設問3
離婚の際の親権者の指定の法的性質が問題となる。離婚の効果と性質決定して27条によるという考えもあり得るが、親権者の指定は子の保護のために行われるものであるから、子の保護を重視した親子間の法律関係と性質決定して32条によるべきである。同条は両性の平等と子の保護という観点から@父または母の本国法と子の本国法が同一であるときはそれにより、Aそのような同一本国法がないときは子の常居所地法を準拠法として、段階的連結を定めている。
本件は、子Zは日本と米国の国籍を有しているから、Zの本国法は日本法である(38条1項但書)。そうすると、Zの本国法と日本人Yの本国法が同一であるから、32条前段により日本法が準拠法となる。
したがって、日本の裁判所は日本法を適用すべきである。 以上
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