2016年02月07日
刑法事実認定
☆不真正不作為犯
○○という不作為が「殺した」(199条)すなわち殺人罪の実行行為といえるか。不作為であっても構成要件を実現することはできるから実行行為になるが、処罰範囲の限定のため、作為犯との構成要件的同価値性が必要であり、その要件は@法的作為義務の存在、A作為の可能性・容易性である。@の有無は㋐危険創出、㋑社会継続的保護関係、㋒排他的支配に着目して判断する。
B「㋐は先行行為っていうのが一般的じゃない?」
A「まあここは佐伯説を採用したわ。」
B「案外適当だね。」
A「オリジナリティーを出さないと馬鹿馬鹿しくてやってられないわ。それに先行行為って言おうが危険創出って言おうがそんな変わりないわよ。」
☆因果関係
「よって」といえるか。因果関係は行為の危険が結果に現実化したかの法的判断であるから、@死因が実行行為から生じた場合には肯定される。A死因が介在事情から生じた場合には、実行行為が介在事情を生じさせる可能性があれば、実行行為の危険性が介在事情を通じて結果に現実化したと評価できるから、因果関係を肯定すべきと解する。
A「危険の現実化説だけど、これを書く前に相当因果関係説を批判するかどうかは時間と相談して決めればいいわ。」
B「新庄さんの本では@Xの行為の危険性、A介在事情の結果発生への寄与度、BXの行為の介在事情への影響(介在事情の異常性、経験的通常性)とあるよ。」
A「よーく見比べてみて。それって危険の現実化説と同じだわ。危険の現実化説は東大の先生たちが判例を分析して作った説だから、実務と一致してるのよきっと。」
☆過失犯
1 ○○によってYを死亡させた行為に業務上過失致死罪(211条)の成否を検討する。
(1)「業務」とは、社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものをいう。××という行為はこれに当たる。
(2)「必要な注意を怠り」とは、過失犯における責任要件であり、構成要件該当事実の認識・予見可能性とする見解(旧過失論)や、違法要素としての基準行為からの逸脱とする見解(新過失論)があるが、端的に注意義務違反と解する。その内容は@過失行為、A結果回避義務、B結果回避可能性、C結果予見可能性である。Cはある程度抽象化された結果の認識と因果関係の基本的部分の予見可能性の有無を一般人の視点から判断する.
A「こんなの出てほしくないわ。難しいもの。」
B「新庄さんの本さまさまだね。『定義・趣旨ハンドブック』ではまとめ方が若干違うけど。」
A「同じ出版社なんだから統一してほしいわね。」
☆被害者の承諾
身体という法益は放棄可能だから、被害者の承諾が傷害(致死)罪の違法性を阻却する場合がある。そのためには承諾が有効であり、承諾に基づく行為が社会的に相当でなければならない。
まず、承諾の有効性については、真意に沿わない重大な瑕疵があることが明らかな場合は、無効である。本件では、……。
次に、承諾が社会通念上相当である場合のみ違法性が阻却される。社会的相当性の判断は@承諾を得た動機・目的、A侵害行為の手段・方法、B損傷の部位・程度等を考慮して決める。
B「これは新庄さんの本にはないね。」
A「ないけど、判例がわざわざ考慮要素を言ってくれてるから、試験問題として配点を振らざるを得ないと思うわ。」
B「社会的相当性って嫌いだけどね。生命に危険のある行為は承諾できないと解したほうがいいと思うけど。」
☆防衛の意思
「防衛するため」の文言から防衛の意思が必要であるが、その内容は急迫不正の侵害を認識しつつこれを避けようとする単純な心理状態で足りると解する。攻撃意思と併存していてもいいが、もっぱら攻撃意思しかない場合は防衛の意思が欠ける、具体的には@行為者と相手方の関係、A侵害の態様・程度、B防衛行為者の選択肢、C防衛行為の態様・強度、D防衛行為者の言動・主観を考慮する。
B「正当防衛は急迫性の認定はとばすのかい?」
A「だってあんまり出そうにないし、覚えるところがないもの。」
B「まあそうかな。」
A「この防衛の意思は今年あたりどうかしらね?あんまり聞かれた記憶がないから。」
☆防衛行為の相当性
「やむを得ずにした行為」とは防衛行為の相当性を意味し、これは必要性も含んだ概念であるが、補充性は不要である。その判断は@武器の対等性、A身体的条件、B加害行為の態様、C防衛行為の性質、D代替手段の有無、E法益の比較で判断する。
A「これはよく出るわね。飽き飽きだわ。」
B「考慮する事項の幅が広いからね。@〜Eそれぞれのオリジナリティーの強さを見てよ。」
A「最後の法益の比較ってのは気を付けないと採点者に挙げ足を取られるわね。法益の均衡が要件として必要だと思ってるような書き方をすると大原点だわ。」
B「そこは注意しないとね。」
☆中止未遂
中止犯の趣旨は、未遂の段階にまで至った行為者に、刑の必要的減免という特別の法的効果を与えることによって、結果惹起防止を最後まで図ることである。要件は、@「自己の意思により」、A「犯罪を中止した」(意識的危険消滅)であり、違法減少を前提とした責任減少が刑の必要的減免の根拠と解される。@は行為者の認識した事情が経験上一般に犯罪の障害となるようなものか否かを基準とし、具体的には㋐外部的事情、㋑犯行継続の難易、㋒行為者の計画、㋓犯意の強弱、㋔中止行為の態様、㋕反省の情を考慮する。Aは客観的要件として危険消滅と条件関係が必要であり、実行中止の場合は「真摯な努力」をしたか否かが危険消滅の判断を左右する。
A「この論点は最近の判例がないから出題されないと思うわ。」
B「まあなんとなく覚えておこう。今回は山口色が強いね。」
☆間接正犯
Aに治療薬を投与させXを死亡させた行為に殺人罪の間接正犯の成否を検討する(199条)。
(1)甲には外形的に自手実行がない。自手実行がないものに処罰拡張類型としての共犯でなく正犯が成立するか、成立するとしていかなる場合か、間接正犯の成否と要件が問題となる。
実行行為を行う被利用者に実行行為をやめる規範的な可能性があった場合には間接正犯は成立せず狭義の共犯となるという見解がある(規範的障害説)。この見解によれば本件はAには自らXの特異体質の有無を確認すべき注意義務という規範的障害があるから、甲が正犯となることはない。
しかし規範的障害説は純粋惹起説を前提としており、正犯なき共犯を認める結果となる点で判例も採用する因果的共犯論と両立しがたく、妥当でない。間接正犯の成立要件は非利用者の行為を道具のごとく支配していたことと解すべきである。支配性の判断は@人的関係、A働きかけの程度、B指示の内容、C介在者の事情、D利益の帰属を考慮して決める。
B「これは旧試平成18年度第1問かな?規範的障害説なんて書かなくていいよね?」
A「まあ、時間との相談ね。」
☆共謀共同正犯
甲は実行行為を行っていないから、共謀共同正犯の成否が問題となる。特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自位の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行した場合には、共謀共同正犯が成立する(練馬事件判決)。要件は@共謀(意思連絡、正犯意思)、A共謀に基づく実行行為である。意思連絡を認定するためには㋐被告人と実行行為者の認識、㋑実行行為者の犯行態様、㋒被告人と実行行為者との関係、㋓経緯、動機を考慮する。正犯意思を認定するためには、㋕動機、㋖人的関係、㋗共謀者の関与態様(意思形成過程における積極性)、㋘共謀者の役割、㋙犯行前後の行為状況、㋚犯罪の性質・内容を考慮する。
B「これもまあ頻出だよね。」
A「意思連絡で考慮する要素と正犯意思で考慮する要素はかぶるわ。どうするのかしら?」
B「愚直に書くんじゃない?」
A「まさか。事実を書いて「これは意思連絡と正犯意思を基礎づける」って書けばいいんじゃないかしら?」
☆共犯からの離脱
A「これは物理的因果性と心理的因果性の両面から検討ね。離脱の意思表明と了承は副次的に考慮されるにすぎません。」
B「まあそういうことでいいだろうね。」
☆殺意
殺人罪の故意(構成要件的結果発生の認識・予見、38条1項)が認められるか。殺意の有無は@凶器の種類、A凶器の用法、B創傷の部位、C創傷の程度、D動機の有無、E犯行前後の行動を考慮して決める。
B「刃物が何センチですとかいう記述が問題文にあったらこれを書く合図だね。」
A「もはや『合言葉は?』って聞かれてるのと同レベルね。」
B「ひらけごま。」
A「はい違います。」
B「うそぉ。」
☆同時傷害(207)
207条の適用により強盗致死罪の共同正犯としうるか。
207条は2人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行と傷害結果との因果関係を証明できずに傷害結果を誰にも帰責できない不都合を避けるため、因果関係の立証責任を転換した規定である。この趣旨は致死の結果を帰責できない場合にも当てはまるから、207条は傷害致死罪にも適用されると解する。
また、承継的共犯を否定した場合になお本条を適用してよいかも問題となる。少なくとも乙が致死の結果に責任を負う以上、適用の必要はないという見解もある。しかし、意思の連絡がない場合には当然207条が適用されることとの均衡上、適用すべきである。
要件は、@各行為者の暴行が死の結果を生じさせ得ること、Aいずれかの暴行により結果が発生したこと、B暴行が同一機会に行われたことと解する。Bは㋐時間的場所的近接性、㋑暴行の経緯、㋒行為者の人的関係を考慮して決める。
B「これはこのブログの中でもなぜかアクセス数が段違いに多い平成17年度第1問をコピペして、ちょっと付け足したんだね。」
A「特定の人が平成17年度第1問をやたら見てくれてるのよね。そんな面白いかしら?」
B「でもこの論点も今年来年あたりそろそろまた来そうだなあ。」
A「これって来るとしたら事案がかなり絞られちゃうからそんなに頻繁には出せない問題よね。まあ出したいだろうけど。」
☆窃盗罪の占有
ア 「他人の財物」について・・・これを満たす。
イ 「窃取」とは占有を移転させることである。刑法の占有は財物に対する事実的支配であり、「自己のためにする意思」(民180条)は不要である反面、代理占有や間接占有(民181条)は含まない。
占有の有無は占有の事実と補充的に占有の意思から判断する。具体的には@時間的場所的近接性、A置き忘れた場所の見通し状況、B置き忘れた場所の状況、C被害者の認識・行動を考慮する。
本件では、@事故現場は『そこの道』であるから、Xはそれほど遠くに行っておらず、数分で戻ってくると思われる。また、A置き忘れた場所は交番内なので被害者からは見えにくく、この点はXの占有を否定する事実となりうるが、B置き忘れた場所がXの支配領域内である交番内であるし、C被害者は職務遂行のため事故現場とされる場所に急行したにすぎず、制帽と業務日誌の占有を放棄したとは全く思っていないと認められる。
したがって、Xの占有は認められる。
B「これは1月9日に書いた平成19年度第2問だね。書き直してみたのかい?」
A「具体的事例にあてはめたほうが覚えるわね。昨日の総論の記事もおいおいそうやって行くことに決めたわ。」
B「まあただ旧試験っていうのは事実認定されることを予定してないからね。全然事実が書いてなくてあてはめにくい。」
A「この論点は平成27年の司法試験でももろに出てたわね。あと平成23年の予備試験の実務の問題でも。」
B「まあ頻出なんだね。しかし、占有の説明ちょっと長くないかい?」
A「理解するために書いてるっていう側面があるわ。嫌ならマネしなくて結構。」
☆不法領得の意思
ウ 以上の故意(38条1項)のほかに、窃盗罪は財産罪であるから不法領得の意思が書かれざる要件として必要である。その内容は、不可罰的な使用窃盗との区別のための@権利者排除意思と、毀棄罪との区別のためのA経済的利用処分意思である。
本件では、甲は翌日まで自宅に隠しておいたあと返還するつもりで持ち出しているから@を欠くようにも思えるが、制帽と業務日誌は一般人に貸し借りできない性質の物だから、@は認められると考える。しかし、甲はXを困らせるためにそれらを持ち出しているから、Aが欠ける。よって不法領得の意思が認められない。
B「この論点は旧司法試験と何の変化もないね。」
A「そのとおり。それを確認するためにわざわざコピペしたのよ。」
☆強盗罪と恐喝罪の区別
甲は強盗罪か恐喝罪か。両罪の区別は暴行・脅迫が犯行を抑圧するに足りるものか畏怖させるにとどまるものかを客観的に判断する。具体的には@暴行・脅迫の態様、A被告人側の事情、B被害者側の事情、C犯行の時刻場所、D被害者の対応、E被告人の態度、F被害者の心理状態、G被告人の意図を考慮する。
A「これはこういう論点の提示の仕方はしないわよね普通。強盗罪から検討するわ。」
B「まあそうだね。強盗罪の暴行・脅迫の要件を検討する中で書くことはあるかもしれない。」
A「横領か背任かの論点を提示しないのと同じだわ。普通に横領から検討するもの。」
B「この区別基準に目を移すと、暴行態様と犯行の時刻場所以外は被告人と被害者の外面や内面と覚えておけばいいね。」
A「なかなか冴えてるわね。」
☆強盗の機会
甲に強盗致傷罪(240条)が成立するか。同罪は強盗の機会に人を死傷させることが刑事学情顕著であることにかんがみ、これを重く処罰することで人の生命・身体を保護する趣旨の規定である。そうすると、強盗と傷害の間には関連性が必要である。
では、いかなる関連性が必要か。これは強盗の機会に障害が生じることで足りるとされている。強盗の機会といえるか否かの判断は、@犯意の継続性、A強取との時間的場所的接着性を考慮する。
A「これは密接関連性説が正しいと思うけど、判例は機会説という理解が一般的らしいわ。」
B「でも新庄さんの本でも密接関連性説に配慮した記述があるから、問題意識を持っていてもいいと思うよ。」
A「密接関連性説が適当な問題なら、『B密接関連性』を加えるわけね。ただねえ、刑法の今の出題形式では、判例を批判する気にはならないわ。判例と違うこと書いてた平成24年度の1位の人は刑事系の順位が悪かったもんね。あれは判例以外を書いたから順位を下げられてるとしか思えないわ。だから上の論証も機会説のみ想定したのよ。」
B「刑法の問題で民訴的なくどい会話の誘導が出てきてくれたら書く気にもなるんだけどね。」
A「民訴とか行政法とか、会話文のあれなんなのかしらね?誰も言わないけど、ぶっちゃけ馬鹿みたいよ。会話文にすれば実務に近づくとでも思ってるのかしらアホ出題者は。地の文なら1行で済むところを会話文で5行くらいかけてメッセージ伝えてるわ。」
D「そのくだりで必ず学生や新米弁護士が『その点は勉強不足でわかりません』とかヒヨるのよね。で、年配者が『いい機会ですから考えてみましょう』的な。別にいい機会だからじゃなくて試験だから聞いてるんでしょって。」
C「Dちゃんはいい機会説ではなくて試験との密接関係性説に立っているわけだね。」
A「あれはね、『【書かれた会話文】に対する適応能力』という能力値を測る効果を有するだけね。実務には不要な能力よ。」
D「社会学的構造主義的見方をすると、副次的に年配者へ敬意を表す人間関係の秩序モデルが再生産されているともいえるわね。」
☆事後強盗罪(238)の窃盗の機会
(2)絵画を手にもって倉庫を出た行為はA会社所有の「他人の財物」の占有を移転させる行為であるから「窃取」に当たり、同行為に窃盗罪(235条)が成立している。
そしてBに発見され、逃げるためすなわち「逮捕を免れ」(238条)るためにBの腹部を強く蹴り上げるという「暴行」(人の身体に対する物理力の行使)をした行為に事後強盗罪(238条)が成立するか
事後強盗罪の暴行・脅迫は窃盗の機会になされる必要がある。窃盗の機会か否かは@時間的場所的近接性、A逮捕可能性の継続性、B被害者等が身近に存在する状況を考慮して判断する。
これを本問の甲の暴行について検討する。@甲は倉庫を出たところでBに発見され、その直後に暴行を加えているので、時間的場所的に極めて接着している。そのため、A逮捕可能性は存在した。
B「これは平成17年第1問だけど、この問題は窃盗の機会を検討することを要求してないね。あまりにも当たり前に認定できてしまう。」
A「窃盗の機会が問題になるのは、犯人が屋根裏部屋に隠れていたとか、2時間後に戻ってきたところで逮捕されそうになったとかそういう事例よね。出たことあるっけ?」
B「平成20年がたしか事後強盗だったような気がするね。」
☆背任罪における図利加害目的
以上の故意のほか、図利加害目的が必要である。これは本人図利目的がないことを裏から規定したものである。具体的には@事務処理者の利益の大きさ、A任務違背の重大性、B手続違背の程度、C本人の利益の大きさを総合的に考慮する。
A「まず、背任罪というのが正面から聞かれるのは想像つきにくいわね。」
B「そうだねぇ。どうしても銀行事例とかそういう特殊事例になるよね。オレオレ詐欺とかと絡ませられるといい問題になりそうだけど。」
☆建造物の一体性
非現住建造物たるA建物への放火が、現住建造物たるB建物への放火と言えるためには、建造物の一体性が必要である。建造物の一体性の判断は、@物理的・構造的一体性、A接着の程度、B延焼可能性、C連絡・管理方法、D機能的一体性を総合的に考慮して行う。
B「これはまだ出てないんじゃないかな。ねらい目ねらい目。」
A「これって機能的一体性を考慮することにちょっとした批判があったような気がするわね。」
☆公共の危険
公共の危険とは、108条及び109条1項に規定する建造物等に対する延焼の危険のみに限られるものではなく、不特定多数人の生命・身体・財産に対する危険も含まれる。その判断は@人家等との距離、人家等の構造・材質、A火力の程度、B天候・周囲の状況を総合的に考慮する。
B「これは平成24年度の司法試験に出たっけね。」
A「公共の危険について非限定説をとるのであれば、公共の危険の認識は必要と解すべきだわね。」
B「その論点書くとしたらこの事実認定が終わった後だね。」
○○という不作為が「殺した」(199条)すなわち殺人罪の実行行為といえるか。不作為であっても構成要件を実現することはできるから実行行為になるが、処罰範囲の限定のため、作為犯との構成要件的同価値性が必要であり、その要件は@法的作為義務の存在、A作為の可能性・容易性である。@の有無は㋐危険創出、㋑社会継続的保護関係、㋒排他的支配に着目して判断する。
B「㋐は先行行為っていうのが一般的じゃない?」
A「まあここは佐伯説を採用したわ。」
B「案外適当だね。」
A「オリジナリティーを出さないと馬鹿馬鹿しくてやってられないわ。それに先行行為って言おうが危険創出って言おうがそんな変わりないわよ。」
☆因果関係
「よって」といえるか。因果関係は行為の危険が結果に現実化したかの法的判断であるから、@死因が実行行為から生じた場合には肯定される。A死因が介在事情から生じた場合には、実行行為が介在事情を生じさせる可能性があれば、実行行為の危険性が介在事情を通じて結果に現実化したと評価できるから、因果関係を肯定すべきと解する。
A「危険の現実化説だけど、これを書く前に相当因果関係説を批判するかどうかは時間と相談して決めればいいわ。」
B「新庄さんの本では@Xの行為の危険性、A介在事情の結果発生への寄与度、BXの行為の介在事情への影響(介在事情の異常性、経験的通常性)とあるよ。」
A「よーく見比べてみて。それって危険の現実化説と同じだわ。危険の現実化説は東大の先生たちが判例を分析して作った説だから、実務と一致してるのよきっと。」
☆過失犯
1 ○○によってYを死亡させた行為に業務上過失致死罪(211条)の成否を検討する。
(1)「業務」とは、社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものをいう。××という行為はこれに当たる。
(2)「必要な注意を怠り」とは、過失犯における責任要件であり、構成要件該当事実の認識・予見可能性とする見解(旧過失論)や、違法要素としての基準行為からの逸脱とする見解(新過失論)があるが、端的に注意義務違反と解する。その内容は@過失行為、A結果回避義務、B結果回避可能性、C結果予見可能性である。Cはある程度抽象化された結果の認識と因果関係の基本的部分の予見可能性の有無を一般人の視点から判断する.
A「こんなの出てほしくないわ。難しいもの。」
B「新庄さんの本さまさまだね。『定義・趣旨ハンドブック』ではまとめ方が若干違うけど。」
A「同じ出版社なんだから統一してほしいわね。」
☆被害者の承諾
身体という法益は放棄可能だから、被害者の承諾が傷害(致死)罪の違法性を阻却する場合がある。そのためには承諾が有効であり、承諾に基づく行為が社会的に相当でなければならない。
まず、承諾の有効性については、真意に沿わない重大な瑕疵があることが明らかな場合は、無効である。本件では、……。
次に、承諾が社会通念上相当である場合のみ違法性が阻却される。社会的相当性の判断は@承諾を得た動機・目的、A侵害行為の手段・方法、B損傷の部位・程度等を考慮して決める。
B「これは新庄さんの本にはないね。」
A「ないけど、判例がわざわざ考慮要素を言ってくれてるから、試験問題として配点を振らざるを得ないと思うわ。」
B「社会的相当性って嫌いだけどね。生命に危険のある行為は承諾できないと解したほうがいいと思うけど。」
☆防衛の意思
「防衛するため」の文言から防衛の意思が必要であるが、その内容は急迫不正の侵害を認識しつつこれを避けようとする単純な心理状態で足りると解する。攻撃意思と併存していてもいいが、もっぱら攻撃意思しかない場合は防衛の意思が欠ける、具体的には@行為者と相手方の関係、A侵害の態様・程度、B防衛行為者の選択肢、C防衛行為の態様・強度、D防衛行為者の言動・主観を考慮する。
B「正当防衛は急迫性の認定はとばすのかい?」
A「だってあんまり出そうにないし、覚えるところがないもの。」
B「まあそうかな。」
A「この防衛の意思は今年あたりどうかしらね?あんまり聞かれた記憶がないから。」
☆防衛行為の相当性
「やむを得ずにした行為」とは防衛行為の相当性を意味し、これは必要性も含んだ概念であるが、補充性は不要である。その判断は@武器の対等性、A身体的条件、B加害行為の態様、C防衛行為の性質、D代替手段の有無、E法益の比較で判断する。
A「これはよく出るわね。飽き飽きだわ。」
B「考慮する事項の幅が広いからね。@〜Eそれぞれのオリジナリティーの強さを見てよ。」
A「最後の法益の比較ってのは気を付けないと採点者に挙げ足を取られるわね。法益の均衡が要件として必要だと思ってるような書き方をすると大原点だわ。」
B「そこは注意しないとね。」
☆中止未遂
中止犯の趣旨は、未遂の段階にまで至った行為者に、刑の必要的減免という特別の法的効果を与えることによって、結果惹起防止を最後まで図ることである。要件は、@「自己の意思により」、A「犯罪を中止した」(意識的危険消滅)であり、違法減少を前提とした責任減少が刑の必要的減免の根拠と解される。@は行為者の認識した事情が経験上一般に犯罪の障害となるようなものか否かを基準とし、具体的には㋐外部的事情、㋑犯行継続の難易、㋒行為者の計画、㋓犯意の強弱、㋔中止行為の態様、㋕反省の情を考慮する。Aは客観的要件として危険消滅と条件関係が必要であり、実行中止の場合は「真摯な努力」をしたか否かが危険消滅の判断を左右する。
A「この論点は最近の判例がないから出題されないと思うわ。」
B「まあなんとなく覚えておこう。今回は山口色が強いね。」
☆間接正犯
Aに治療薬を投与させXを死亡させた行為に殺人罪の間接正犯の成否を検討する(199条)。
(1)甲には外形的に自手実行がない。自手実行がないものに処罰拡張類型としての共犯でなく正犯が成立するか、成立するとしていかなる場合か、間接正犯の成否と要件が問題となる。
実行行為を行う被利用者に実行行為をやめる規範的な可能性があった場合には間接正犯は成立せず狭義の共犯となるという見解がある(規範的障害説)。この見解によれば本件はAには自らXの特異体質の有無を確認すべき注意義務という規範的障害があるから、甲が正犯となることはない。
しかし規範的障害説は純粋惹起説を前提としており、正犯なき共犯を認める結果となる点で判例も採用する因果的共犯論と両立しがたく、妥当でない。間接正犯の成立要件は非利用者の行為を道具のごとく支配していたことと解すべきである。支配性の判断は@人的関係、A働きかけの程度、B指示の内容、C介在者の事情、D利益の帰属を考慮して決める。
B「これは旧試平成18年度第1問かな?規範的障害説なんて書かなくていいよね?」
A「まあ、時間との相談ね。」
☆共謀共同正犯
甲は実行行為を行っていないから、共謀共同正犯の成否が問題となる。特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互いに他人の行為を利用し、各自位の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行した場合には、共謀共同正犯が成立する(練馬事件判決)。要件は@共謀(意思連絡、正犯意思)、A共謀に基づく実行行為である。意思連絡を認定するためには㋐被告人と実行行為者の認識、㋑実行行為者の犯行態様、㋒被告人と実行行為者との関係、㋓経緯、動機を考慮する。正犯意思を認定するためには、㋕動機、㋖人的関係、㋗共謀者の関与態様(意思形成過程における積極性)、㋘共謀者の役割、㋙犯行前後の行為状況、㋚犯罪の性質・内容を考慮する。
B「これもまあ頻出だよね。」
A「意思連絡で考慮する要素と正犯意思で考慮する要素はかぶるわ。どうするのかしら?」
B「愚直に書くんじゃない?」
A「まさか。事実を書いて「これは意思連絡と正犯意思を基礎づける」って書けばいいんじゃないかしら?」
☆共犯からの離脱
A「これは物理的因果性と心理的因果性の両面から検討ね。離脱の意思表明と了承は副次的に考慮されるにすぎません。」
B「まあそういうことでいいだろうね。」
☆殺意
殺人罪の故意(構成要件的結果発生の認識・予見、38条1項)が認められるか。殺意の有無は@凶器の種類、A凶器の用法、B創傷の部位、C創傷の程度、D動機の有無、E犯行前後の行動を考慮して決める。
B「刃物が何センチですとかいう記述が問題文にあったらこれを書く合図だね。」
A「もはや『合言葉は?』って聞かれてるのと同レベルね。」
B「ひらけごま。」
A「はい違います。」
B「うそぉ。」
☆同時傷害(207)
207条の適用により強盗致死罪の共同正犯としうるか。
207条は2人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行と傷害結果との因果関係を証明できずに傷害結果を誰にも帰責できない不都合を避けるため、因果関係の立証責任を転換した規定である。この趣旨は致死の結果を帰責できない場合にも当てはまるから、207条は傷害致死罪にも適用されると解する。
また、承継的共犯を否定した場合になお本条を適用してよいかも問題となる。少なくとも乙が致死の結果に責任を負う以上、適用の必要はないという見解もある。しかし、意思の連絡がない場合には当然207条が適用されることとの均衡上、適用すべきである。
要件は、@各行為者の暴行が死の結果を生じさせ得ること、Aいずれかの暴行により結果が発生したこと、B暴行が同一機会に行われたことと解する。Bは㋐時間的場所的近接性、㋑暴行の経緯、㋒行為者の人的関係を考慮して決める。
B「これはこのブログの中でもなぜかアクセス数が段違いに多い平成17年度第1問をコピペして、ちょっと付け足したんだね。」
A「特定の人が平成17年度第1問をやたら見てくれてるのよね。そんな面白いかしら?」
B「でもこの論点も今年来年あたりそろそろまた来そうだなあ。」
A「これって来るとしたら事案がかなり絞られちゃうからそんなに頻繁には出せない問題よね。まあ出したいだろうけど。」
☆窃盗罪の占有
ア 「他人の財物」について・・・これを満たす。
イ 「窃取」とは占有を移転させることである。刑法の占有は財物に対する事実的支配であり、「自己のためにする意思」(民180条)は不要である反面、代理占有や間接占有(民181条)は含まない。
占有の有無は占有の事実と補充的に占有の意思から判断する。具体的には@時間的場所的近接性、A置き忘れた場所の見通し状況、B置き忘れた場所の状況、C被害者の認識・行動を考慮する。
本件では、@事故現場は『そこの道』であるから、Xはそれほど遠くに行っておらず、数分で戻ってくると思われる。また、A置き忘れた場所は交番内なので被害者からは見えにくく、この点はXの占有を否定する事実となりうるが、B置き忘れた場所がXの支配領域内である交番内であるし、C被害者は職務遂行のため事故現場とされる場所に急行したにすぎず、制帽と業務日誌の占有を放棄したとは全く思っていないと認められる。
したがって、Xの占有は認められる。
B「これは1月9日に書いた平成19年度第2問だね。書き直してみたのかい?」
A「具体的事例にあてはめたほうが覚えるわね。昨日の総論の記事もおいおいそうやって行くことに決めたわ。」
B「まあただ旧試験っていうのは事実認定されることを予定してないからね。全然事実が書いてなくてあてはめにくい。」
A「この論点は平成27年の司法試験でももろに出てたわね。あと平成23年の予備試験の実務の問題でも。」
B「まあ頻出なんだね。しかし、占有の説明ちょっと長くないかい?」
A「理解するために書いてるっていう側面があるわ。嫌ならマネしなくて結構。」
☆不法領得の意思
ウ 以上の故意(38条1項)のほかに、窃盗罪は財産罪であるから不法領得の意思が書かれざる要件として必要である。その内容は、不可罰的な使用窃盗との区別のための@権利者排除意思と、毀棄罪との区別のためのA経済的利用処分意思である。
本件では、甲は翌日まで自宅に隠しておいたあと返還するつもりで持ち出しているから@を欠くようにも思えるが、制帽と業務日誌は一般人に貸し借りできない性質の物だから、@は認められると考える。しかし、甲はXを困らせるためにそれらを持ち出しているから、Aが欠ける。よって不法領得の意思が認められない。
B「この論点は旧司法試験と何の変化もないね。」
A「そのとおり。それを確認するためにわざわざコピペしたのよ。」
☆強盗罪と恐喝罪の区別
甲は強盗罪か恐喝罪か。両罪の区別は暴行・脅迫が犯行を抑圧するに足りるものか畏怖させるにとどまるものかを客観的に判断する。具体的には@暴行・脅迫の態様、A被告人側の事情、B被害者側の事情、C犯行の時刻場所、D被害者の対応、E被告人の態度、F被害者の心理状態、G被告人の意図を考慮する。
A「これはこういう論点の提示の仕方はしないわよね普通。強盗罪から検討するわ。」
B「まあそうだね。強盗罪の暴行・脅迫の要件を検討する中で書くことはあるかもしれない。」
A「横領か背任かの論点を提示しないのと同じだわ。普通に横領から検討するもの。」
B「この区別基準に目を移すと、暴行態様と犯行の時刻場所以外は被告人と被害者の外面や内面と覚えておけばいいね。」
A「なかなか冴えてるわね。」
☆強盗の機会
甲に強盗致傷罪(240条)が成立するか。同罪は強盗の機会に人を死傷させることが刑事学情顕著であることにかんがみ、これを重く処罰することで人の生命・身体を保護する趣旨の規定である。そうすると、強盗と傷害の間には関連性が必要である。
では、いかなる関連性が必要か。これは強盗の機会に障害が生じることで足りるとされている。強盗の機会といえるか否かの判断は、@犯意の継続性、A強取との時間的場所的接着性を考慮する。
A「これは密接関連性説が正しいと思うけど、判例は機会説という理解が一般的らしいわ。」
B「でも新庄さんの本でも密接関連性説に配慮した記述があるから、問題意識を持っていてもいいと思うよ。」
A「密接関連性説が適当な問題なら、『B密接関連性』を加えるわけね。ただねえ、刑法の今の出題形式では、判例を批判する気にはならないわ。判例と違うこと書いてた平成24年度の1位の人は刑事系の順位が悪かったもんね。あれは判例以外を書いたから順位を下げられてるとしか思えないわ。だから上の論証も機会説のみ想定したのよ。」
B「刑法の問題で民訴的なくどい会話の誘導が出てきてくれたら書く気にもなるんだけどね。」
A「民訴とか行政法とか、会話文のあれなんなのかしらね?誰も言わないけど、ぶっちゃけ馬鹿みたいよ。会話文にすれば実務に近づくとでも思ってるのかしらアホ出題者は。地の文なら1行で済むところを会話文で5行くらいかけてメッセージ伝えてるわ。」
D「そのくだりで必ず学生や新米弁護士が『その点は勉強不足でわかりません』とかヒヨるのよね。で、年配者が『いい機会ですから考えてみましょう』的な。別にいい機会だからじゃなくて試験だから聞いてるんでしょって。」
C「Dちゃんはいい機会説ではなくて試験との密接関係性説に立っているわけだね。」
A「あれはね、『【書かれた会話文】に対する適応能力』という能力値を測る効果を有するだけね。実務には不要な能力よ。」
D「社会学的構造主義的見方をすると、副次的に年配者へ敬意を表す人間関係の秩序モデルが再生産されているともいえるわね。」
☆事後強盗罪(238)の窃盗の機会
(2)絵画を手にもって倉庫を出た行為はA会社所有の「他人の財物」の占有を移転させる行為であるから「窃取」に当たり、同行為に窃盗罪(235条)が成立している。
そしてBに発見され、逃げるためすなわち「逮捕を免れ」(238条)るためにBの腹部を強く蹴り上げるという「暴行」(人の身体に対する物理力の行使)をした行為に事後強盗罪(238条)が成立するか
事後強盗罪の暴行・脅迫は窃盗の機会になされる必要がある。窃盗の機会か否かは@時間的場所的近接性、A逮捕可能性の継続性、B被害者等が身近に存在する状況を考慮して判断する。
これを本問の甲の暴行について検討する。@甲は倉庫を出たところでBに発見され、その直後に暴行を加えているので、時間的場所的に極めて接着している。そのため、A逮捕可能性は存在した。
B「これは平成17年第1問だけど、この問題は窃盗の機会を検討することを要求してないね。あまりにも当たり前に認定できてしまう。」
A「窃盗の機会が問題になるのは、犯人が屋根裏部屋に隠れていたとか、2時間後に戻ってきたところで逮捕されそうになったとかそういう事例よね。出たことあるっけ?」
B「平成20年がたしか事後強盗だったような気がするね。」
☆背任罪における図利加害目的
以上の故意のほか、図利加害目的が必要である。これは本人図利目的がないことを裏から規定したものである。具体的には@事務処理者の利益の大きさ、A任務違背の重大性、B手続違背の程度、C本人の利益の大きさを総合的に考慮する。
A「まず、背任罪というのが正面から聞かれるのは想像つきにくいわね。」
B「そうだねぇ。どうしても銀行事例とかそういう特殊事例になるよね。オレオレ詐欺とかと絡ませられるといい問題になりそうだけど。」
☆建造物の一体性
非現住建造物たるA建物への放火が、現住建造物たるB建物への放火と言えるためには、建造物の一体性が必要である。建造物の一体性の判断は、@物理的・構造的一体性、A接着の程度、B延焼可能性、C連絡・管理方法、D機能的一体性を総合的に考慮して行う。
B「これはまだ出てないんじゃないかな。ねらい目ねらい目。」
A「これって機能的一体性を考慮することにちょっとした批判があったような気がするわね。」
☆公共の危険
公共の危険とは、108条及び109条1項に規定する建造物等に対する延焼の危険のみに限られるものではなく、不特定多数人の生命・身体・財産に対する危険も含まれる。その判断は@人家等との距離、人家等の構造・材質、A火力の程度、B天候・周囲の状況を総合的に考慮する。
B「これは平成24年度の司法試験に出たっけね。」
A「公共の危険について非限定説をとるのであれば、公共の危険の認識は必要と解すべきだわね。」
B「その論点書くとしたらこの事実認定が終わった後だね。」
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