2016年02月06日
刑法 予備試験平成27年度
1 丙の罪責
(1)丁を通じて甲から50万円を受け取った行為に受託収賄罪の成否を検討する(197条1項後段)。
賄賂罪の保護法益について、判例は職務行為の公正とこれに対する社会一般の信頼であるとしている(信頼保護説)。この他に職務行為の適正性であるとする見解(純粋性説)や、公務員の職務に関する権限行使が不正な対価によって左右されることとする見解(不可買収性説)がある。信頼保護説を採用するとしても、職務の公正とこれに対する社会一般の信頼が害されるのは、賄賂によって公務員の権限行使が歪曲された場合のことであるから、不可買収性説の要素も加味して考えるべきと解する。
「公務員」とは7条1項の者を言い、丙はB市職員であるからこれに当たる。
「賄賂」とは職務行為の対価としての一切の利益を言う。現金はこれに当たるから、50万円はこれに当たる。
「職務に関し」とは職務行為関連性を意味する。具体的職務権限の範囲内の行為の他、一般的職務権限の範囲内の行為や職務密接関連行為も含む。B市がA社と契約締結することは、公共工事に関して業者を選定し、B市として契約を締結する職務に従事していた丙の具体的職務権限の範囲内であるから、これを満たす。
「嘱託」とは、公務員に対し、職務に関して一切の行為を行うことを依頼することであり、単に好意ある取り扱いを依頼することでは足りない。甲が丙に依頼したのは、今度発注予定の公共工事についてA社と契約することであり、これは単なる好意ある取り扱いを超えて職務に関する行為を依頼しているから、「嘱託」に当たる。「受けて」というためには承諾したことが必要であるところ、丙は「分かった。何とかしてあげよう。」と言っているから、これを満たす。
以上により職務行為の公正とこれに対する社会一般の信頼が害されたから、丙の行為に受託収賄罪が成立する。
(2)なお、丙が実際にA社と契約を結んだ行為は法令上何ら問題がないから、加重収賄罪(197条の3第1項)は成立しない。同罪は公務員が受託収賄罪等により「不正な行為」をしたことを処罰するものであるところ、上記行為は「不正」ではないからである。
2 丁の罪責
丁が甲から50万円を受領した行為に受託収賄罪の幇助犯(62条1項、197条1項後段)の成否を検討する。
(1)問議する犯罪は共同正犯ではないかが問題となる。正犯と共犯の区別は自己の犯罪と評価できるか否かで行うべきところ、丁は本件の犯行の意思形成過程に加わっていないこと、丙から何も聞かされていなかったところ賄賂の金員の受領のみを偶然に担当したに過ぎないことから、自己の犯罪とは評価できず、幇助犯にとどまる。
(2)公務員の身分を有していない丁が受託収賄罪を幇助できるかが問題となる。「身分によって構成すべき」「身分によって特に刑の軽重があるとき」という文言から、65条1項は真正身分犯、2項は不真正身分犯の規定と解する。受託収賄罪は「公務員」であることを要件とする真正身分犯である。したがって、65条1項に基づき、身分のない丁も受託収賄罪の幇助犯となりうる。
(3)丁は甲から現金50万円を受け取るという「収受」(197条1項)を分担することにより、丙の犯罪に物理的因果性を与えた。
(4)幇助犯は、正犯の実行行為及び結果に対し物理的心理的に因果性を及ぼしたことを処罰する処罰拡張類型である。幇助犯を含む狭義の共犯の処罰根拠は正犯を堕落させたことではなく、正犯を通じて間接的に法益侵害結果を惹起したことである。そのため、幇助犯が成立するためには、物理的心理的に正犯の実行行為及び結果に因果性を及ぼしたという客観的要件の他、そのすべてについて故意(38条1項、犯罪事実の認識・予見)が必要である。
本件で丁は、甲からこれまでの経緯を聞いているから、自己の行為が賄賂の金員の授受に
あたることは認識していたといえる。
よって、丁に受託収賄罪の幇助犯が成立する。
3 甲の罪責
(1)用度品購入用現金を賄賂に用いた行為にA社に対する業務上横領罪(253条)の成否を検討する。
用度品購入用現金はA社に所有権があるから、「他人の物」である。
「占有」は窃盗罪との区別のための要件であり、その有無は、所有者と占有者に上下関係がある場合には、原則として所有者に占有があるが、占有者に占有物に関する包括的な権限があった場合には占有者に占有があると解する。本件で甲は、A社の総務部長として、A社から用度品購入用現金を手提げ金庫に入れてその用途に従って支出する権限を有していたから包括的権限があったといえ、甲に「占有」があると言える。
「横領」とは不法領得の意思の実現行為を言い、横領罪における不法領得の意思とは、横領罪の保護法益が所有権及び委託関係であることから、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意思をいう。用度品購入用現金をその他の用途に使うことは所有者でなければできない処分であるから「横領」に当たる。
「業務」とは、委託を受けて物を管理することを内容とする事務のことであり、甲の有していた権限はこれに当たる。
したがって、甲の行為に業務上横領罪が成立する。
(2)丙に対し、丁を通じて50万円を渡した行為は、197条1項の賄賂の「供与」(198条)に当たり、贈賄罪の共同正犯(60条、198条)の成否を検討する。
甲は乙に頼まれて賄賂を供与したに過ぎないから、同罪の幇助犯ではないか。正犯と共犯の区別が問題となる。
前述のように正犯と共犯の区別は自己の犯罪といえるか否かにより、その判断には@動機、A人間関係、B意思形成過程の積極性、C犯行に果たした役割、D犯行後の行為状況、E犯罪の性質を考慮する。
本件でA甲は乙に恩義を感じていたことから、乙に恩返しをするため、自ら犯行を決意し、乙にその旨を告げている。また、C甲は単独で実行行為という重要な役割を分担している。これらのことを考慮すると、@甲の目的が専ら乙を助けることにあり、D行為後に自己に犯罪の利益を帰属する意思がなかったとしても、自己の犯罪と評価すべきである。
したがって、甲に贈賄罪の共同正犯が成立する。
(3)業務上横領罪と贈賄罪は目的手段の関係があるから牽連犯となる(54条1項後段)。
4 乙の罪責
甲を通じて、丙に50万円を渡した行為に贈賄罪の共同正犯の成否を検討する。ここでも乙の正犯性が問題となる。
乙はA社の営業部長に就任したが売り上げが下降し、営業成績が直近1か月で向上しないと降格させられる状況にあった。この状況で降格を回避するため、乙は甲に対して、甲が丙の同級生であり、甲は自己に恩義を感じていることを利用し、B市との契約の受注という賄賂の対価の内容や、対価を用度品購入用現金から支出することなど、詳細に計画して甲に伝えている。このように、@乙に利益が帰属することや、B詳細な犯行計画を立てて犯行に主導的役割を果たしたことに鑑みると、C実行行為自体を分担していなかったとしても、自己の犯罪と評価すべきである。
したがって、乙に賄賂罪の共同正犯が成立する。 以上
(1)丁を通じて甲から50万円を受け取った行為に受託収賄罪の成否を検討する(197条1項後段)。
賄賂罪の保護法益について、判例は職務行為の公正とこれに対する社会一般の信頼であるとしている(信頼保護説)。この他に職務行為の適正性であるとする見解(純粋性説)や、公務員の職務に関する権限行使が不正な対価によって左右されることとする見解(不可買収性説)がある。信頼保護説を採用するとしても、職務の公正とこれに対する社会一般の信頼が害されるのは、賄賂によって公務員の権限行使が歪曲された場合のことであるから、不可買収性説の要素も加味して考えるべきと解する。
「公務員」とは7条1項の者を言い、丙はB市職員であるからこれに当たる。
「賄賂」とは職務行為の対価としての一切の利益を言う。現金はこれに当たるから、50万円はこれに当たる。
「職務に関し」とは職務行為関連性を意味する。具体的職務権限の範囲内の行為の他、一般的職務権限の範囲内の行為や職務密接関連行為も含む。B市がA社と契約締結することは、公共工事に関して業者を選定し、B市として契約を締結する職務に従事していた丙の具体的職務権限の範囲内であるから、これを満たす。
「嘱託」とは、公務員に対し、職務に関して一切の行為を行うことを依頼することであり、単に好意ある取り扱いを依頼することでは足りない。甲が丙に依頼したのは、今度発注予定の公共工事についてA社と契約することであり、これは単なる好意ある取り扱いを超えて職務に関する行為を依頼しているから、「嘱託」に当たる。「受けて」というためには承諾したことが必要であるところ、丙は「分かった。何とかしてあげよう。」と言っているから、これを満たす。
以上により職務行為の公正とこれに対する社会一般の信頼が害されたから、丙の行為に受託収賄罪が成立する。
(2)なお、丙が実際にA社と契約を結んだ行為は法令上何ら問題がないから、加重収賄罪(197条の3第1項)は成立しない。同罪は公務員が受託収賄罪等により「不正な行為」をしたことを処罰するものであるところ、上記行為は「不正」ではないからである。
2 丁の罪責
丁が甲から50万円を受領した行為に受託収賄罪の幇助犯(62条1項、197条1項後段)の成否を検討する。
(1)問議する犯罪は共同正犯ではないかが問題となる。正犯と共犯の区別は自己の犯罪と評価できるか否かで行うべきところ、丁は本件の犯行の意思形成過程に加わっていないこと、丙から何も聞かされていなかったところ賄賂の金員の受領のみを偶然に担当したに過ぎないことから、自己の犯罪とは評価できず、幇助犯にとどまる。
(2)公務員の身分を有していない丁が受託収賄罪を幇助できるかが問題となる。「身分によって構成すべき」「身分によって特に刑の軽重があるとき」という文言から、65条1項は真正身分犯、2項は不真正身分犯の規定と解する。受託収賄罪は「公務員」であることを要件とする真正身分犯である。したがって、65条1項に基づき、身分のない丁も受託収賄罪の幇助犯となりうる。
(3)丁は甲から現金50万円を受け取るという「収受」(197条1項)を分担することにより、丙の犯罪に物理的因果性を与えた。
(4)幇助犯は、正犯の実行行為及び結果に対し物理的心理的に因果性を及ぼしたことを処罰する処罰拡張類型である。幇助犯を含む狭義の共犯の処罰根拠は正犯を堕落させたことではなく、正犯を通じて間接的に法益侵害結果を惹起したことである。そのため、幇助犯が成立するためには、物理的心理的に正犯の実行行為及び結果に因果性を及ぼしたという客観的要件の他、そのすべてについて故意(38条1項、犯罪事実の認識・予見)が必要である。
本件で丁は、甲からこれまでの経緯を聞いているから、自己の行為が賄賂の金員の授受に
あたることは認識していたといえる。
よって、丁に受託収賄罪の幇助犯が成立する。
3 甲の罪責
(1)用度品購入用現金を賄賂に用いた行為にA社に対する業務上横領罪(253条)の成否を検討する。
用度品購入用現金はA社に所有権があるから、「他人の物」である。
「占有」は窃盗罪との区別のための要件であり、その有無は、所有者と占有者に上下関係がある場合には、原則として所有者に占有があるが、占有者に占有物に関する包括的な権限があった場合には占有者に占有があると解する。本件で甲は、A社の総務部長として、A社から用度品購入用現金を手提げ金庫に入れてその用途に従って支出する権限を有していたから包括的権限があったといえ、甲に「占有」があると言える。
「横領」とは不法領得の意思の実現行為を言い、横領罪における不法領得の意思とは、横領罪の保護法益が所有権及び委託関係であることから、他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意思をいう。用度品購入用現金をその他の用途に使うことは所有者でなければできない処分であるから「横領」に当たる。
「業務」とは、委託を受けて物を管理することを内容とする事務のことであり、甲の有していた権限はこれに当たる。
したがって、甲の行為に業務上横領罪が成立する。
(2)丙に対し、丁を通じて50万円を渡した行為は、197条1項の賄賂の「供与」(198条)に当たり、贈賄罪の共同正犯(60条、198条)の成否を検討する。
甲は乙に頼まれて賄賂を供与したに過ぎないから、同罪の幇助犯ではないか。正犯と共犯の区別が問題となる。
前述のように正犯と共犯の区別は自己の犯罪といえるか否かにより、その判断には@動機、A人間関係、B意思形成過程の積極性、C犯行に果たした役割、D犯行後の行為状況、E犯罪の性質を考慮する。
本件でA甲は乙に恩義を感じていたことから、乙に恩返しをするため、自ら犯行を決意し、乙にその旨を告げている。また、C甲は単独で実行行為という重要な役割を分担している。これらのことを考慮すると、@甲の目的が専ら乙を助けることにあり、D行為後に自己に犯罪の利益を帰属する意思がなかったとしても、自己の犯罪と評価すべきである。
したがって、甲に贈賄罪の共同正犯が成立する。
(3)業務上横領罪と贈賄罪は目的手段の関係があるから牽連犯となる(54条1項後段)。
4 乙の罪責
甲を通じて、丙に50万円を渡した行為に贈賄罪の共同正犯の成否を検討する。ここでも乙の正犯性が問題となる。
乙はA社の営業部長に就任したが売り上げが下降し、営業成績が直近1か月で向上しないと降格させられる状況にあった。この状況で降格を回避するため、乙は甲に対して、甲が丙の同級生であり、甲は自己に恩義を感じていることを利用し、B市との契約の受注という賄賂の対価の内容や、対価を用度品購入用現金から支出することなど、詳細に計画して甲に伝えている。このように、@乙に利益が帰属することや、B詳細な犯行計画を立てて犯行に主導的役割を果たしたことに鑑みると、C実行行為自体を分担していなかったとしても、自己の犯罪と評価すべきである。
したがって、乙に賄賂罪の共同正犯が成立する。 以上
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