2016年02月06日
刑法 予備試験平成26年度
1 甲の罪責
(1)Vに仏像を交付させた行為に詐欺罪(246条1項)の成否を検討する。
ア 代金を支払う意思がないのに鑑定が必要であると嘘をついて仏像の引渡しを求めた行為は、人の錯誤を惹起する行為であり、財物の交付に向けられており、交付の基礎となる重要な事項を偽るものであるため「欺いて」の要件を満たす。
Vは代金を受け取り損ねることはないだろうと、甲の支払意思について錯誤に陥っている。
イ では、錯誤に基づく処分行為が認められるか。窃盗罪との区別のため、「交付」といえるためには占有の弛緩の認識では足りず、占有の移転の認識が必要と解するところ、Vは、仏像を近くの喫茶店で鑑定させる認識でいるのだから、他人の支配下に移す認識即ち占有の移転の認識があると認められ、「交付」の要件も満たす。
ウ 詐欺罪も財産罪であるから財産上の損害も書かれざる要件として必要と解するが、詐欺罪は個別財産に対する犯罪であり、財産とともに交付目的も保護法益と解されるから、交付目的に錯誤がある限り交付自体が財産上の損害に当たると解する。
Vは、逃走しようとする甲の意図を見破り、同人の逃走を妨害して代金を支払わせる可能性を残したが、鑑定させるという交付目的には錯誤があり、すでに仏像は交付済であるため、交付自体が財産上の損害となる。
エ 以上より、甲の行為に詐欺罪が成立する。
(2)仏像の返還や代金の支払いを免れる意図で、Vの腹部を殺意をもってナイフで一回突き刺し重傷を負わせた行為に強盗殺人未遂罪(243条、240条)の成否を検討する。
ア 前提として、240条は「死亡させたとき」と結果的加重犯のような規定ぶりになっているが、同条は強盗の際に殺人が行われることが刑事学上顕著であることに鑑み特に構成要件化したもと解されるから、殺人の故意ある場合も当然に含むと解する。
イ 刃体の長さ訳15センチメートルという長いナイフという凶器で、腹部という身体の枢要部を突き刺す行為は殺人の実行行為というに十分であり、甲には代金の支払いを免れる目的即ち「財産上不法の利益を得」(236条2項)る目的があるので、強盗殺人罪の構成要件に該当する。
ウ もっとも、甲はVにナイフを突きつけられたことに対して上記の行為をしたから、正当防衛の成否が問われる。
(ア) ナイフを突きつけられて、仏像の代金を支払うよう脅されている甲には、自らの生命及び財産に対する急迫不正の侵害がある。ここで、Vが代金を支払うよう申し向けているのは権利行使であるが、行使態様が社会通常の相当性を欠くため恐喝罪を構成しており、「不正」(違法を意味する)の侵害である。
(イ) 「防衛するため」という文言から防衛の意思が必要と解するが、甲は自分の生命と財産を守る意思があると言える。
(ウ) 「やむを得ずにした」とは防衛行為の相当性を意味する。本問では、甲はVよりも若く体格も優っているから、Vからの侵害に対してはナイフを奪う時点で十分であり、その後ナイフを取り返そうとして甲につかみかかってきたVに対しては、素手で応戦するのが相当であったところ、甲は前述のように殺人の実行行為をもって応戦しているのだから、相当とは言えない。
(エ) したがって、甲には強盗殺人未遂罪が成立するが、正当防衛は成立せず、過剰防衛(36条2項)として刑が任意的に減免されるにとどまる。
(3)甲には@詐欺罪、A強盗殺人未遂罪が成立し、両者は併合罪(45条)となる。
2 乙の罪責
(1)仏像をホテルから持ち帰った行為は詐欺罪の幇助犯(62条1項、246条1項)の客観的構成要件に該当するが、乙には故意(犯罪事実の認識・予見、38条1項)がないため、同罪は成立しない。
(2)仏像をホテルから持ち帰り、自宅に保管中に盗品であることを知り、その後もなお保管をつづけた行為に盗品保管罪(256条2項)が成立する。成立の時点は盗品であることを知った時点である。
(3)甲に無断で仏像を500万円で第三者に売却し、その代金を費消した行為に委託物横領罪(252条1項)は成立しない。なぜなら、同罪の保護法益は所有権及び委託関係と解されるところ、甲には所有権がなく、また、甲乙間の委託関係は保護に値しないからである。
しかし、乙の行為は「占有を離れた他人の物」を、不法領得の意思をもって領得する行為だから、占有離脱物横領罪(254条)が成立する。
(4)乙には@盗品保管罪とA占有離脱物横領罪が成立し、@とAは併合罪(45条)となる。 以上
(1)Vに仏像を交付させた行為に詐欺罪(246条1項)の成否を検討する。
ア 代金を支払う意思がないのに鑑定が必要であると嘘をついて仏像の引渡しを求めた行為は、人の錯誤を惹起する行為であり、財物の交付に向けられており、交付の基礎となる重要な事項を偽るものであるため「欺いて」の要件を満たす。
Vは代金を受け取り損ねることはないだろうと、甲の支払意思について錯誤に陥っている。
イ では、錯誤に基づく処分行為が認められるか。窃盗罪との区別のため、「交付」といえるためには占有の弛緩の認識では足りず、占有の移転の認識が必要と解するところ、Vは、仏像を近くの喫茶店で鑑定させる認識でいるのだから、他人の支配下に移す認識即ち占有の移転の認識があると認められ、「交付」の要件も満たす。
ウ 詐欺罪も財産罪であるから財産上の損害も書かれざる要件として必要と解するが、詐欺罪は個別財産に対する犯罪であり、財産とともに交付目的も保護法益と解されるから、交付目的に錯誤がある限り交付自体が財産上の損害に当たると解する。
Vは、逃走しようとする甲の意図を見破り、同人の逃走を妨害して代金を支払わせる可能性を残したが、鑑定させるという交付目的には錯誤があり、すでに仏像は交付済であるため、交付自体が財産上の損害となる。
エ 以上より、甲の行為に詐欺罪が成立する。
(2)仏像の返還や代金の支払いを免れる意図で、Vの腹部を殺意をもってナイフで一回突き刺し重傷を負わせた行為に強盗殺人未遂罪(243条、240条)の成否を検討する。
ア 前提として、240条は「死亡させたとき」と結果的加重犯のような規定ぶりになっているが、同条は強盗の際に殺人が行われることが刑事学上顕著であることに鑑み特に構成要件化したもと解されるから、殺人の故意ある場合も当然に含むと解する。
イ 刃体の長さ訳15センチメートルという長いナイフという凶器で、腹部という身体の枢要部を突き刺す行為は殺人の実行行為というに十分であり、甲には代金の支払いを免れる目的即ち「財産上不法の利益を得」(236条2項)る目的があるので、強盗殺人罪の構成要件に該当する。
ウ もっとも、甲はVにナイフを突きつけられたことに対して上記の行為をしたから、正当防衛の成否が問われる。
(ア) ナイフを突きつけられて、仏像の代金を支払うよう脅されている甲には、自らの生命及び財産に対する急迫不正の侵害がある。ここで、Vが代金を支払うよう申し向けているのは権利行使であるが、行使態様が社会通常の相当性を欠くため恐喝罪を構成しており、「不正」(違法を意味する)の侵害である。
(イ) 「防衛するため」という文言から防衛の意思が必要と解するが、甲は自分の生命と財産を守る意思があると言える。
(ウ) 「やむを得ずにした」とは防衛行為の相当性を意味する。本問では、甲はVよりも若く体格も優っているから、Vからの侵害に対してはナイフを奪う時点で十分であり、その後ナイフを取り返そうとして甲につかみかかってきたVに対しては、素手で応戦するのが相当であったところ、甲は前述のように殺人の実行行為をもって応戦しているのだから、相当とは言えない。
(エ) したがって、甲には強盗殺人未遂罪が成立するが、正当防衛は成立せず、過剰防衛(36条2項)として刑が任意的に減免されるにとどまる。
(3)甲には@詐欺罪、A強盗殺人未遂罪が成立し、両者は併合罪(45条)となる。
2 乙の罪責
(1)仏像をホテルから持ち帰った行為は詐欺罪の幇助犯(62条1項、246条1項)の客観的構成要件に該当するが、乙には故意(犯罪事実の認識・予見、38条1項)がないため、同罪は成立しない。
(2)仏像をホテルから持ち帰り、自宅に保管中に盗品であることを知り、その後もなお保管をつづけた行為に盗品保管罪(256条2項)が成立する。成立の時点は盗品であることを知った時点である。
(3)甲に無断で仏像を500万円で第三者に売却し、その代金を費消した行為に委託物横領罪(252条1項)は成立しない。なぜなら、同罪の保護法益は所有権及び委託関係と解されるところ、甲には所有権がなく、また、甲乙間の委託関係は保護に値しないからである。
しかし、乙の行為は「占有を離れた他人の物」を、不法領得の意思をもって領得する行為だから、占有離脱物横領罪(254条)が成立する。
(4)乙には@盗品保管罪とA占有離脱物横領罪が成立し、@とAは併合罪(45条)となる。 以上
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