2016年02月06日
刑法 予備試験平成25年度
第1 Vに現金50万円を振り込ませた行為
1 甲の罪責
甲に詐欺罪(246条1項)の成否を検討する。
(1)Vの息子を装い、交通事故を起こしたと嘘を言い、50万円を要求する行為は「欺いて」に当たり、Vはそれにより錯誤に陥り、錯誤に基づく処分行為として50万円をA名義の預金口座に振り込んでいる。
(2)もっとも、引き出される前に預金口座の取引停止措置が講じられたから、財産的損害が生じておらず、詐欺罪は成立しないのではないか。詐欺罪も財産罪である以上、財産的損害が書かれざる要件になると解するが、詐欺罪は個別財産に対する罪であり、同罪は交付目的も保護法益としていると解されるから、交付目的が異なる限り、交付自体が財産的損害を構成すると解する。
本問では、Vは交通事故の示談金として50万円を振り込むという交付目的であるから、交付目的が異なる。そのため交付自体が財産的損害となる。
(3)以上より、甲に詐欺罪が成立する。
2 乙の罪責
乙に詐欺罪の幇助犯(62条1項、246条1項)の成否を検討する。
(1)前提として問議する犯罪は共同正犯なのか幇助犯なのかが問題となるが、乙は本件のVに対する犯罪について全く意図しておらず、本件は甲が乙に黙って行ったものであるから、乙には明らかに正犯意思がない。そこで幇助犯を検討する。
(2)幇助とは、正犯に物理的心理的因果性を及ぼすことによって正犯の実行行為及び結果惹起を促進することを言う。正犯である甲は犯行の際に乙の準備した部屋から、乙の準備した携帯電話を用いて、乙に誘われて常習的に行っている手口を用いて上記犯罪を実行し、既遂結果を惹起したのであるから、乙は甲が今回行った犯罪の実行行為及び結果に物理的因果性を及ぼしている。
(3)故意(38条1項)がないのではないかが問題となるが、故意とは犯罪事実の認識・予見である以上、だれの法益を侵害するかまでの認識の齟齬は故意を阻却しないと解する。つまり、概括的故意も認められる。
本件では、乙は甲を誘って、今回甲が行ったのと同様の手口の詐欺罪を繰り返していた以上、Vの法益を侵害する認識がなかったとしても、甲が今回の手口で何者かの財産を侵害する認識を有していたといえるから、故意に欠けることはない。
(4)したがって、乙に詐欺罪の幇助犯が成立する。
3 丙の罪責
丙は何ら物理的心理的因果性を及ぼしていないから、犯罪は成立しない。
第2 現金自動支払機から現金50万円を引き出そうとした行為
1 甲の罪責
窃盗未遂罪(243条、235条)の成否を検討する。
(1)自ら準備したA名義の銀行口座に振り込みをさせた時点で預金の占有は甲にあり、占有を移転させるという「窃取」の要件を満たさないのではないか。または、金銭に関しては民法上占有の所在と所有権の所在が一致すると解されていることから、「他人の財物」に当たらないのではないか。いずれにしても本件預金の占有が誰にあるかが問題となるが、この点は金融機関は約款等において預金口座の譲渡を禁止し、これを預金口座の取引停止事由としているから、預金口座の譲渡がなされた時点以降は、当該預金口座に記入された額面の預金の占有は銀行にあると解される。
したがって、甲が丙を介して引き出し、もって預金の占有を移転させようとして遂げなかった行為に窃盗未遂罪が成立する。
(2)そして、下記の通り、丙とは共同正犯となる(60条、243条、235条)。
2 丙の罪責
丙を正犯とすべきか従犯とすべきかが問題となるが、正犯か否かは自己の犯罪と言えるか否かで判断すべきであり、事故の犯罪といえるか否かは@動機、A人間関係、B意思形成過程の積極性、C犯行に果たした役割、D犯行後の行為状況、E犯罪の性質を考慮して決めるべきと解する。
丙は@自らの金欲しさという利己的な動機から甲の要請を受け、C預金を引き出すという実行行為のすべてを単独で担当しているので犯行に果たした役割は大きい。そのため、自己の犯罪と評価すべきである。
したがって、丙に窃盗未遂罪の共同正犯が成立する。
3 乙の罪責
乙はこの実行行為については何らの因果性をも及ぼしていないから、犯罪は成立しない。
第3 甲には@詐欺罪、A窃盗未遂罪が成立しているが、これらは別個の主体に対する犯罪だから併合罪(45条)となる。 以上
1 甲の罪責
甲に詐欺罪(246条1項)の成否を検討する。
(1)Vの息子を装い、交通事故を起こしたと嘘を言い、50万円を要求する行為は「欺いて」に当たり、Vはそれにより錯誤に陥り、錯誤に基づく処分行為として50万円をA名義の預金口座に振り込んでいる。
(2)もっとも、引き出される前に預金口座の取引停止措置が講じられたから、財産的損害が生じておらず、詐欺罪は成立しないのではないか。詐欺罪も財産罪である以上、財産的損害が書かれざる要件になると解するが、詐欺罪は個別財産に対する罪であり、同罪は交付目的も保護法益としていると解されるから、交付目的が異なる限り、交付自体が財産的損害を構成すると解する。
本問では、Vは交通事故の示談金として50万円を振り込むという交付目的であるから、交付目的が異なる。そのため交付自体が財産的損害となる。
(3)以上より、甲に詐欺罪が成立する。
2 乙の罪責
乙に詐欺罪の幇助犯(62条1項、246条1項)の成否を検討する。
(1)前提として問議する犯罪は共同正犯なのか幇助犯なのかが問題となるが、乙は本件のVに対する犯罪について全く意図しておらず、本件は甲が乙に黙って行ったものであるから、乙には明らかに正犯意思がない。そこで幇助犯を検討する。
(2)幇助とは、正犯に物理的心理的因果性を及ぼすことによって正犯の実行行為及び結果惹起を促進することを言う。正犯である甲は犯行の際に乙の準備した部屋から、乙の準備した携帯電話を用いて、乙に誘われて常習的に行っている手口を用いて上記犯罪を実行し、既遂結果を惹起したのであるから、乙は甲が今回行った犯罪の実行行為及び結果に物理的因果性を及ぼしている。
(3)故意(38条1項)がないのではないかが問題となるが、故意とは犯罪事実の認識・予見である以上、だれの法益を侵害するかまでの認識の齟齬は故意を阻却しないと解する。つまり、概括的故意も認められる。
本件では、乙は甲を誘って、今回甲が行ったのと同様の手口の詐欺罪を繰り返していた以上、Vの法益を侵害する認識がなかったとしても、甲が今回の手口で何者かの財産を侵害する認識を有していたといえるから、故意に欠けることはない。
(4)したがって、乙に詐欺罪の幇助犯が成立する。
3 丙の罪責
丙は何ら物理的心理的因果性を及ぼしていないから、犯罪は成立しない。
第2 現金自動支払機から現金50万円を引き出そうとした行為
1 甲の罪責
窃盗未遂罪(243条、235条)の成否を検討する。
(1)自ら準備したA名義の銀行口座に振り込みをさせた時点で預金の占有は甲にあり、占有を移転させるという「窃取」の要件を満たさないのではないか。または、金銭に関しては民法上占有の所在と所有権の所在が一致すると解されていることから、「他人の財物」に当たらないのではないか。いずれにしても本件預金の占有が誰にあるかが問題となるが、この点は金融機関は約款等において預金口座の譲渡を禁止し、これを預金口座の取引停止事由としているから、預金口座の譲渡がなされた時点以降は、当該預金口座に記入された額面の預金の占有は銀行にあると解される。
したがって、甲が丙を介して引き出し、もって預金の占有を移転させようとして遂げなかった行為に窃盗未遂罪が成立する。
(2)そして、下記の通り、丙とは共同正犯となる(60条、243条、235条)。
2 丙の罪責
丙を正犯とすべきか従犯とすべきかが問題となるが、正犯か否かは自己の犯罪と言えるか否かで判断すべきであり、事故の犯罪といえるか否かは@動機、A人間関係、B意思形成過程の積極性、C犯行に果たした役割、D犯行後の行為状況、E犯罪の性質を考慮して決めるべきと解する。
丙は@自らの金欲しさという利己的な動機から甲の要請を受け、C預金を引き出すという実行行為のすべてを単独で担当しているので犯行に果たした役割は大きい。そのため、自己の犯罪と評価すべきである。
したがって、丙に窃盗未遂罪の共同正犯が成立する。
3 乙の罪責
乙はこの実行行為については何らの因果性をも及ぼしていないから、犯罪は成立しない。
第3 甲には@詐欺罪、A窃盗未遂罪が成立しているが、これらは別個の主体に対する犯罪だから併合罪(45条)となる。 以上
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