2016年02月07日
刑事訴訟事実認定
☆強制処分(S51.3.16&米子強盗事件の当てはめ部分)
「強制の処分」とは、個人の意思を制圧し、重要な権利利益の制約を伴う処分をいうと解する。(その判断は、@目的の正当性とA行為の程度の軽微性を指摘する。)
K巡査の行為は、被告人を説得するために行われたものであり、その程度もさほど強いものではないから、「強制の処分」に当たらない。
任意捜査であっても必要性・相当性を欠く場合には違法となる。必要性は@事件の性質・重大性、A嫌疑の程度、B証拠の価値・重要性、C捜査の進展状況を考慮して判断する。
B「強制処分のところはなんでカッコがついてるの?」
A「51年の判例から逆算すればこうなるってことだけど、正直学者は誰も言ってないし、規範と対応してないように思えるから、使いにくいわね。合格した人の答案とかを見ると、意思を制圧していないというところを事実を拾って1行程度で当てはめているわ。」
B「なるほど。下の必要性は?」
A「これはリークエよ。ただね、51年判例を見てほしいんだけど、あれは強制処分のところの当てはめを詳しくやってる感じなのね。要するに@目的の正当性をだらだら説明して、そのあとで『Aその程度もさほど強いものではないというのであるから』みたいな感じ。はっきり言ってこれ書いたら試験に落ちるでしょうね。だからリークエの基準を覚えて、模試で当てはめ練習すればいいわ。」
B「ほうほう。相当性は?」
A「これは必要性との比較じゃない?『一方、Kの行為は○○にとどまり程度の弱いものであるから、上記必要性に比して相当である。』みたいな。米子強盗事件の当てはめを見たらいいわ。」
B「えーっと米子強盗事件は、『所持品検査の態様は携行中の所持品であるバッグの施錠されていないチャックを回避し内部を一べつしたにすぎないものであるから、これによる法益の侵害はさほど大きいものではなく、上述の経緯に照らせば相当と認めうる』。なるほど、程度の軽さを言った後に『上述の経緯に照らせば』っていう『相対的に判断してますよアピール』を入れて、相当ですって言えばいいわけだね。了解了解。」
A「順番が前後するけど、米子の必要性の判断も見ておくわ。
『(@事件の重大性)銀行強盗という重大犯罪が発生し犯人の検挙が緊急の警察責務とされていた状況の下において、
(C捜査の進展状況)深夜に検問の現場を通りかかったY及びXの両名が、
(A嫌疑の程度)右犯人としての濃厚な容疑が存在し、かつ、兇器を所持している疑いもあったのに、警察官の職務質問に対し黙秘したうえ再三にわたる所持品の回避要求を拒否するなどの不審な挙動を取り続けたため、
(B証拠の重要性)両名の容疑を確かめる近習の必要上されたものであって、
…所持品検査の…必要性が強かった』。」
B「なるほど。リークエに書いてある考慮要素をすべて使ってるわけだね。」
A「米子はあてはめの模範として使える判例ね。」
☆宿泊を伴う取調べ(高輪グリーンマンション事件)
任意捜査としての取調べは、強制手段によることができないだけではなく、さらに@事案の性質、A被疑者に対する容疑の程度、B被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において許容される。(以下ではT当初の任意同行とUXを4夜にわたり捜査官の手配した宿泊施設に宿泊させた上、前後5日間にわたって被疑者としての取調べを続行した点に分けて必要性・相当性を論じる。)
T当初の任意同行は、容疑の程度、事案の性質、重大性等にかんがみると…必要性があったことは明らかであり、任意同行の手段・方法の点で相当性を欠くとはいえない。
しかし、Uについては、
a(相当性を否定する間接事実)
1⃣Xの寮はT署から遠くなく、帰宅できない特段の事情がないこと、2⃣同宿・張り込み等で捜査官がXの動静を監視していたこと、3⃣T署との往復には警察車両が使われ、捜査官が同乗したこと、4⃣宿泊費用を警察が払ったこと、5⃣1日中長時間、連日にわたり取調べが続けられたことから、Xは㋐取り調べに応じざるを得ない状況にあり、㋑その期間も長く、任意取調べの方法として妥当ではない。
b(相当性を肯定する間接事実)
他方、1⃣XはXが宿泊の答申書を出したこと、2⃣Xが宿泊や取調べを拒否し、退去や帰宅を申し出た証拠はないこと、3⃣捜査官が取り調べを強行した事実がないことを総合すると、Xがその意思により取調べを容認していたと認められる。
c AだがBであるばかりでなく、事案の性質上、Xを取り調べる必要性があったと認められることなど本件事情を総合すると、社会通念上相当と認められる。
B「これの当てはめってマジ難しいよね。っていうか当てはめの部分も覚えておかないと本番でセンスでやれって言っても無理だよねこれ。」
A「要は判例は自分で規範らしいものを立てているくせに当てはめになったらめちゃくちゃ大雑把に『a(相当性を肯定する事実)とb(相当性を否定する事実)を羅列してc(A+B+事案の性質からの必要性)を総合すると相当です!』って言ってるだけだわ。」
B「まあ、あえて規範と当てはめを対応させるように読めば、@事案の性質にはaの1⃣〜5⃣とbの3⃣が当てはまり、A被疑者に対する容疑の程度はcの必要性が当てはまり、B被疑者の態度にはbの1⃣2⃣が当てはまるということかな。」
A「aは全部が事案の性質だからね。こんなの判例をあてはめまでしっかり覚えた人でないと再現できないわ。しかもT任意同行の段階とU宿泊を含めた取調べ自体の段階を分けるからね。もうお手上げだわ。」
B「特にこの論点は当てはめまで覚えておかないと解けないね。」
A「あとついでに言いたいのは、『@事案の性質、A被疑者に対する容疑の程度、B被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当』っていうときの相当性はおそらく必要性を含む概念よね。@ABは任意捜査の必要性の判断の考慮要素とほぼ同じだもの。」
B「そうだね。実際後の当てはめでは必要性も検討してるからね。」
☆おとり捜査
1 本件のKの捜査は違法なおとり捜査であり、公訴棄却すべきではないか。おとり捜査とは、捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を秘して犯罪を実行するように働き掛け、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出でたところで現行犯逮捕等により検挙するものをいい、本件の捜査はこれに当たる。
(1)まず、「強制の処分」(197条1項但書)に当たり、強制処分法定主義、令状主義(憲35条、刑訴法218条)に反しないか。「強制の処分」とは、被処分者の意思を制圧し、重要な権利利益の制約を伴う処分をいう。
本件は甲の意思を制圧しているとはいえず、「強制の処分」に当たらない。
(2)では、任意捜査として適法か。おとり捜査は国家が犯罪を作り出し、捜査の公正を害するから、厳格に必要性・相当性を満たすことが要件となる。(必要性は直接の被害者がいない薬物事犯であって通常の操作方法では摘発困難なこと、相当性は被疑者が捜査以前に覚せい剤の譲渡を企図していたことを認定する。)。
本件は直接の被害者がいない薬物犯罪であり、Kにおいて捜査協力者Xからの情報によっても甲の住居や覚せい剤の隠匿場所を把握することができなかったことから、ほかの捜査手法によっては摘発が困難である場合に当たり、必要性が認められる。一方、甲はすでに覚せい剤の有償譲渡を企図して買い手を求めていたことから、Kに取引の場に覚せい剤を持ってくるよう仕向けたとしても、国家が犯罪を作り出したり捜査の公正を害しているとはいえず、相当性が認められる。
B「これはフルスケールで書いてるね。」
A「おとり捜査は判例学説がいろいろ言っててややこしいから、書き方が適度にばらつくのよね。だから頻繁に出題されるわけだけど。で、今回はこれがおとり捜査のファイナルアンサーだというのを作ってみたわけ。」
B「学説がいろいろ言ってるけど、基本的には判例ベースでいいんだよね。」
A「もちろん。上の論証でもろに学説使ってるのはおとり捜査の効のところと(2)の規範のところだけよ。」
B「(2)の規範のところっていうのは『国家が犯罪を作り出し、捜査の公正を害する』ってところだね。」
A「そうそう。それに加えて人格的自立権を害するっていうのが学説上有名なおとり捜査への批判なんだけど、どこで書いていいかわからないから書かない人も多いのよね。ただ、有名だから配点はあると思うの。で、書くとしたらここかなって。」
B「ちゃっかり相当性の当てはめでも使ってるけどね。」
A「まあ、学説が言ってる内容の体系的位置づけとしたら相当性のところよね。」
B「範囲誘発型とか機会提供型ってのは無視していいの?」
A「それは平成16年の判例が出る前の学説だから気にしなくていいと思うわ。」
B「判例が『@直接の被害者がいない薬物事犯等の捜査において、A通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、B機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者』を対象にするならOKって言ってる部分は使ってる?」
A「使ってるわよ。@Aは必要性の当てはめ、Bは相当性の当てはめよ。@っていうのは厳密には当てはめできないからAとセットの規範だと思うけど。」
B「学者によっては@が必要性、Aが緊急性、Bが相当性って言ってるよね。」
A「まあ、そういう理解でもいいと思うけど、必要性と緊急性を分けるのは、つまり緊急性というのを独立した項目として立てるのは共通認識ではないから、必須ではないわ。」
B「おとり捜査が違法だとして、効果は公訴棄却なの?」
A「これは免訴とか証拠排除という考えもあるから、どれでもいいわ。ただ、現行犯逮捕してるのに証拠排除っていうのはやや意味不明だと思うわ。」
☆準現行犯逮捕(和光大事件)
甲の逮捕が純現行犯逮捕(212条2項)として適法か。要件は@212条2項各号該当性、A罪を行い終わってから間がないと明らかに認められること、B逮捕の必要性である。@については、…(会話参照)…。Aについては、㋐犯罪との時間的近接性の明白性の意味だが、場所的近接性も考慮する趣旨であり、㋑Aは@の要件との相関関係によって犯罪と犯人の明白性が認められる程度で足りる。
本件では、@甲は着衣と靴に血がついているから「犯罪の顕著な証跡があるとき」(3号)に当たる。乙については同様の証跡は認められないが、以下に述べるように甲乙はWが認識した犯人と同一性が認められるため、行動を共にしている共犯者である甲に上記のように証跡が認められる場合に当たるから、乙も3号の要件を満たす。
また、AP及びQが甲乙を発見したのは犯罪発生から20分後に犯罪現場から800メートル離れた地点であり、時間的場所的近接性が認められる。そして、犯罪と犯人を明確に認識しているWによる110番通報があり、その通報を受けてH県警警察本部が出した指令を受けたP及びQが、通報内容と身体的特徴が細部に至るまで一致する二人組を発見している。このように顕著に一致する特徴を有する二人組がほかにもいることは考え難いから、P及びQが発見した二人組はWが認識した二人組と同一と考えられる。そのため、@Aの相関関係から犯罪と犯人の明白性は認められるといえる。
さらに、本件は殺人事件という重大事件であるため甲乙には逃亡のおそれがあるから、B逮捕の必要性も認められる。
したがって、甲乙の現行犯逮捕は適法である。
A「これは@〜Bを確実に書いたうえで、@212条2項各号の要件については解いてる問題に必要なものを補足して書く必要があると思うわ。1号だったら、『その者が犯人であることを明確に認識している者により、犯人として追われまたは呼ばれていることをいう。』。㋑『中断が短時間であればなお本号に当たる。』㋒『現認者から追尾を引き継いだ者でもよい。』」
B「2号であれば、㋐『物と犯罪の結びつきが客観的に明らかであるものをいう。』㋑『現行犯と認定した際に所持していれば足り、逮捕時に所持している必要はない。』」
A「『所持』の意味もなんとなく覚えといてね。『事実上の支配下にあればよい。』」
B「3号は『本人が着用している場合だけでなく、行動を共にしている共犯者の被覆に血痕が認められるような場合も本号に当たる。』。これは平成25年に出たっけ。」
A「4号は、『職務質問のために停止を求めたところ逃げ出した場合も含む。』。」
B「『❝だれか❞と呼ばれる必要はない』とかいう判例があるけど、爆笑だね。」
A「『ギャフンと言わせてやる』っていう慣用句はあるけど、実際にギャフンという人がいないのと同じね。」
B「で、解いてる問題にかかわらず必ず解釈を欠いたほうがいいのがAの『罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるとき』の要件だね。」
A「そうね。これは人によって細かいところが違うからあれなんだけど、『㋐犯罪との時間的近接性の明白性の意味だが、場所的近接性も考慮する趣旨であり、㋑それが要求される程度は@の要件との相関関係によって決める。』という二点は相場的だから書いたほうがいいと思うわ。」
B「『時間的近接性の明白性』?ややこしいね。」
A「だって『間がない』(時間的近接性)『と明らかに認められる』(明白性)でしょ?」
B「ああ、なるほど。」
☆別件逮捕・勾留(浦和地裁H2.10.12を契機として)
1 甲の供述証拠は違法な取り調べから得られた違法な証拠であるから、証拠能力が認められないのではないかを検討する。
(1)まず、甲の逮捕は適法か。逮捕とは被疑者に対して行われる最初の強制的な身柄拘束処分であり、@逮捕の理由(199条1項本文)とA必要性(同上2項但書、規則143条の3反対解釈)が要件となる。@は特定の犯罪に対する相当な嫌疑を意味する。Aは逃亡または罪証隠滅のおそれがあることを意味する。
本件は、…(別件について要件充足を確認)適法である。
(2)では、それに続く身体拘束は適法か。前述の逮捕の理由(199条1項)は事件ごとに判断する(200条1項)以上、逮捕中に取り調べることができるのはその逮捕の被疑事実についてのみである(事件単位の原則)。そして、起訴前の身柄拘束期間の趣旨は起訴・不起訴の決定に向けた捜査を行うことであるから、逮捕の被疑事実についての起訴・不起訴の判断が終わった時点で当該身体拘束の必要性がなくなり、以後の身体拘束は違法となると解する。(逮捕の被疑事実について起訴・不起訴の判断が終わったか否かは、取調べ内容から事後的に判断する。)
本件では、甲は10日間の勾留期間のうち8日間は強盗についての取調べを受けており、殺人・死体遺棄事件について取調べを受けたのは2日間に過ぎず、その後5日間は供述録取書の作成に応じるよう1日30分間の説得を受けていたに過ぎない。このことからすると、強盗罪の起訴・不起訴の決定には10日間を要したといえるから、10日間の身体拘束は適法である。
(別ルート)
1 甲の供述証拠は違法な別件逮捕から得られた違法な証拠であるから、証拠能力が認められないのではないかを検討する。
(1)まず、甲の逮捕が違法な別件逮捕に当たるか。
逮捕とは、被疑者に対して最初に行われる強制的な身柄拘束処分である。令状主義とは、逮捕のような強制処分の実行に際し、原則として裁判官の審査を受けなければならないという原則である(憲法33条、刑訴法199条1項)ところ、違法な別件逮捕は令状主義の趣旨を潜脱するから違法となる。この違法な別件逮捕とは、未だ重大な甲事件について
被疑者を逮捕・勾留する理由と必要性が十分でないのに、主として甲事件について取り調べる目的で、甲事件が存在しなければ通常立件されることのないと思われる軽微な乙事件につき被疑者を逮捕・勾留する場合をいう。違法な別件逮捕に当たるか否かは、取調べが主として別件について行われた事実から、捜査機関の目的が主として別件の公訴提起にあったことを認定することによって行う。
B「これは平成23年度があてはめ素材だね。別ルートまでご丁寧に用意してくれてるけど、どういう違いがあるんだい?」
A「逮捕の違法を問題にするかどうかの違いね。別ルートは木谷明裁判官の論証に近いけど、正直平成23年度はこの流れにしてしまうとめちゃめちゃ書きにくいわ。上のほうのルートがおすすめね。」
B「逮捕自体の問題にすると、逮捕の必要性を取調べ状況から逆算して認定しないといけないから、ちょっと時間軸がずれてやりにくいね。」
A「そうそう。だからやめたほうがいいわ。逮捕は別件について要件満たしてるからオッケーって考えるべきよ。そっちのほうがはるかに書きやすいわ。」
B「いわゆる別件基準説だね。取調べ自体の違法性を問題にするわけだ。」
A「取調べ自体の問題にした場合、何の違法性を問題にするかと言ったら事件単位の原則ね。条文含めてこれは書かないと何が違法なのか意味が分からないからちゃんと書くべきだわ。」
B「事件単位の原則を書いた後の『身柄拘束期間の趣旨は、…』っていうのは、知ってるよこれ。川出説だよね。」
A「そう。便宜的に使わせてもらったわ。本人は本件基準説のつもりだから、別件基準説をとったうえでこれを使うのはやや気が引けるけど、論理的に矛盾はないわ。」
B「それで、当てはめとしては、問題文に『何日間は別件の取調べをやって、…』みたいなことが書いてあるから、それを書き写して評価すればいいわけだね。」
A「そう。ただこれ捜査比例原則などのふつうの当てはめと違って、間接事実をいくつも評価するタイプじゃないってことはわかっておくべきね。」
B「あ、あと、身柄拘束の違法性っていうのは平成23年の問題文がそういう誘導をしてたからそう書いてるんであって、教科書的な論点としては『余罪取調べの限界』ってことになるんでしょ?」
A「まあそうね。余罪取調べの限界のはそもそも被疑者に取り調べ受忍義務があるかという話から始まるけど、正直、今の出題形式でその論点を聞くのは想像できないわね。」
B「書いても汚くなるだけだからやめといたほうがいいね。配点あったとしても。」
☆捜索差押令状に基づく差押えの要件
そもそも被疑者の物を「押収」(刑訴法218条の「差押え」「捜索」を含む。憲法35条)するには「正当な理由」(憲法35条)が必要である。「正当な理由」とは、@嫌疑の存在(場所に物がある蓋然性)、A被疑事実関連性(99条1項)、B捜索差押えの必要性である。
A「これは、判例分析というか当てはめ研究をするというこの企画のテーマからすると例外だから、チラリズムよ。」
B「ちょっとだけよってか。Aの被疑事実関連性を判断させる問題は最初の予備試験に出たね。だけどこんなにカチッとはなかなか書ける人いないね。有名じゃないんだよ。」
A「判例がちゃんと言ってないからね。模試ではよく出るんだけど。本試験ではどうかしら。」
☆逮捕に伴う差押え(和光大事件)
逮捕に伴う捜索・差押えの要件は、@「逮捕する場合」(220条1項本文)、A「逮捕の現場」(同2号)である。同条が例外的に令状なしの捜索・差押えを認めたのは、逮捕の現場には証拠物が存在する蓋然性があり、証拠破壊の緊急の必要性があるからである。そのため、@は逮捕の直前直後を差し、Aは原則として被疑者の支配下を指すが、被疑者の代わりに証拠を破壊する可能性のある人物がいる場合には、証拠破壊の危険はその者の管理権が及ぶ範囲で認められるから、その者の管理権が及ぶ範囲も含む。もっとも、被逮捕者の身体に証拠物が存在する蓋然性や証拠破壊を防ぐ必要性は場所的に離れても異ならないから、被疑者の身体については、その場で直ちに捜索・差押えをするのが適当でないときには、速やかに最寄りの場所まで連行したうえでそれらの処分をすることも、「逮捕の現場」における捜索・差押えと同視することができ、適法と解する。
(別筋)
逮捕に伴う捜索・差押えの要件は、@「逮捕する場合」(220条1項本文)、A「逮捕の現場」(同2号)である。同条が令状なしの捜索・差押えを認めたのは、逮捕の現場には証拠物が存在する蓋然性があるからである。そのため、@は逮捕と時間的に近接していれば足り、Aは、令状に基づく逮捕との均衡から、被疑者の管理権が及ぶ範囲を意味する。もっとも、被逮捕者の身体に証拠物が存在する蓋然性は場所的に離れても異ならないから、被疑者の身体については、その場で直ちに捜索・差押えをするのが適当でないときには、速やかに最寄りの場所まで連行したうえでそれらの処分をすることも、「逮捕の現場」における捜索・差押えと同視することができ、適法と解する。これは新たな強制処分を創出しているわけではなく、220条1項2号の捜索を行うための付随的措置として同条文の効力に含まれていると解する。
本件では、@甲の携帯電話を差し押さえたのは逮捕から10分後であり、時間的近接性が認められる。もっとも、A差押えは逮捕の現場から200メートル離れた路上で行われており、甲の管理権内ではない。しかし、差押えた携帯電話は甲の身体に存在した証拠である。また、Pは当初は逮捕の現場である路上で捜索差押えに着手したが甲が暴れだし、また、酒に酔った学生の集団が同所を通りかかり、P及び甲を取り囲んだため、その場で捜索を続行すれば甲や学生らが怪我をするなどの危険があったといえるため、その場で直ちに捜索・差押えをすることが適当でないときにあたる。そして、I交番は300メートル離れた最寄りの交番であるから、速やかに最寄りの場所まで連行する要件も満たす。そして、Pが差押えたのは実際には交番ではなくその道中の路上であるが、証拠存在の蓋然性は最寄りの交番で差押えてもその道中で差押えても異ならないから、「逮捕の現場」における捜索・差押えと同視しうることに変わりはない。
B「これは(別筋)って書いてあるのはおなじみの逮捕に伴う差押えの相当説だけど、短いから試験対策的にはこっちのほうがいいね。」
A「まあ、緊急処分説を支持したいところだけど、やむを得ないわ。」
B「相当説の論証はよく見ると『令状主義の例外』って書いてないね。」
A「そうそう。相当説なら令状捜索と逮捕捜索は並列の関係なのよ。原則例外関係ではないんだわ。」
B「で、逮捕の現場と逮捕する場合の解釈を書いて。」
A「これは両方必ず書いたほうがいいわね。」
B「そのあとできょう2回目の和光大事件の論証を使うわけだ。」
A「これは『同視できる』っていうのがどういう意味なのかを書くところに配点があるわ。誰も書かなかったかもしれないけど。」
B「『同視できる』っていうのは普通に読むと新たな強制処分を作り出しているように読めるからだね。」
A「ちなみに、言ってなかったけど、あてはめは平成25年の本試験よ。」
B「わかってるって。」
☆取調受忍義務
取調受忍義務を認めると黙秘権行使が困難になるから、取調受忍義務はないと解する。198条1項但書は、出頭拒否・取調室からの退去を認めることが逮捕勾留の効力を否定するものではないことを注意的に規定したものと解する。
したがって、身体拘束中の被疑者取調べは任意処分である。
☆余罪取調べの可否
(取調受忍義務否定)
したがって、本罪の取調べも余罪取調べもともに任意処分であり、余罪取調べを行うこと自体に特別の制約はない。
しかし、任意処分と言っても無制限ではなく、余罪取調べを行うことで本罪についての起訴不起訴の決定を不当に遅延させた場合には、余罪取調べは原則として違法と解する。
☆再逮捕・再勾留
再逮捕・再勾留は、法が定めた時間制限(203条以下)を無意味にするから原則として違法である。もっとも、再逮捕・再勾留の必要性がある場合はあり、199条3項は再逮捕がありうることを前提にしているから、必要かつ相当な場合は例外的に再逮捕・再勾留が認められると解する。必要性の要件は厳格に解し、@事情変更が生じたこと、A必要やむを得ないという程度に加重されたものであること、B不当な蒸返しに当たらないと評価できることという条件を満たすものでなければならない。
・再逮捕再勾留を禁止した規定はない、勾留は逮捕と密接な関係にある、等も理由として使える。
「強制の処分」とは、個人の意思を制圧し、重要な権利利益の制約を伴う処分をいうと解する。(その判断は、@目的の正当性とA行為の程度の軽微性を指摘する。)
K巡査の行為は、被告人を説得するために行われたものであり、その程度もさほど強いものではないから、「強制の処分」に当たらない。
任意捜査であっても必要性・相当性を欠く場合には違法となる。必要性は@事件の性質・重大性、A嫌疑の程度、B証拠の価値・重要性、C捜査の進展状況を考慮して判断する。
B「強制処分のところはなんでカッコがついてるの?」
A「51年の判例から逆算すればこうなるってことだけど、正直学者は誰も言ってないし、規範と対応してないように思えるから、使いにくいわね。合格した人の答案とかを見ると、意思を制圧していないというところを事実を拾って1行程度で当てはめているわ。」
B「なるほど。下の必要性は?」
A「これはリークエよ。ただね、51年判例を見てほしいんだけど、あれは強制処分のところの当てはめを詳しくやってる感じなのね。要するに@目的の正当性をだらだら説明して、そのあとで『Aその程度もさほど強いものではないというのであるから』みたいな感じ。はっきり言ってこれ書いたら試験に落ちるでしょうね。だからリークエの基準を覚えて、模試で当てはめ練習すればいいわ。」
B「ほうほう。相当性は?」
A「これは必要性との比較じゃない?『一方、Kの行為は○○にとどまり程度の弱いものであるから、上記必要性に比して相当である。』みたいな。米子強盗事件の当てはめを見たらいいわ。」
B「えーっと米子強盗事件は、『所持品検査の態様は携行中の所持品であるバッグの施錠されていないチャックを回避し内部を一べつしたにすぎないものであるから、これによる法益の侵害はさほど大きいものではなく、上述の経緯に照らせば相当と認めうる』。なるほど、程度の軽さを言った後に『上述の経緯に照らせば』っていう『相対的に判断してますよアピール』を入れて、相当ですって言えばいいわけだね。了解了解。」
A「順番が前後するけど、米子の必要性の判断も見ておくわ。
『(@事件の重大性)銀行強盗という重大犯罪が発生し犯人の検挙が緊急の警察責務とされていた状況の下において、
(C捜査の進展状況)深夜に検問の現場を通りかかったY及びXの両名が、
(A嫌疑の程度)右犯人としての濃厚な容疑が存在し、かつ、兇器を所持している疑いもあったのに、警察官の職務質問に対し黙秘したうえ再三にわたる所持品の回避要求を拒否するなどの不審な挙動を取り続けたため、
(B証拠の重要性)両名の容疑を確かめる近習の必要上されたものであって、
…所持品検査の…必要性が強かった』。」
B「なるほど。リークエに書いてある考慮要素をすべて使ってるわけだね。」
A「米子はあてはめの模範として使える判例ね。」
☆宿泊を伴う取調べ(高輪グリーンマンション事件)
任意捜査としての取調べは、強制手段によることができないだけではなく、さらに@事案の性質、A被疑者に対する容疑の程度、B被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において許容される。(以下ではT当初の任意同行とUXを4夜にわたり捜査官の手配した宿泊施設に宿泊させた上、前後5日間にわたって被疑者としての取調べを続行した点に分けて必要性・相当性を論じる。)
T当初の任意同行は、容疑の程度、事案の性質、重大性等にかんがみると…必要性があったことは明らかであり、任意同行の手段・方法の点で相当性を欠くとはいえない。
しかし、Uについては、
a(相当性を否定する間接事実)
1⃣Xの寮はT署から遠くなく、帰宅できない特段の事情がないこと、2⃣同宿・張り込み等で捜査官がXの動静を監視していたこと、3⃣T署との往復には警察車両が使われ、捜査官が同乗したこと、4⃣宿泊費用を警察が払ったこと、5⃣1日中長時間、連日にわたり取調べが続けられたことから、Xは㋐取り調べに応じざるを得ない状況にあり、㋑その期間も長く、任意取調べの方法として妥当ではない。
b(相当性を肯定する間接事実)
他方、1⃣XはXが宿泊の答申書を出したこと、2⃣Xが宿泊や取調べを拒否し、退去や帰宅を申し出た証拠はないこと、3⃣捜査官が取り調べを強行した事実がないことを総合すると、Xがその意思により取調べを容認していたと認められる。
c AだがBであるばかりでなく、事案の性質上、Xを取り調べる必要性があったと認められることなど本件事情を総合すると、社会通念上相当と認められる。
B「これの当てはめってマジ難しいよね。っていうか当てはめの部分も覚えておかないと本番でセンスでやれって言っても無理だよねこれ。」
A「要は判例は自分で規範らしいものを立てているくせに当てはめになったらめちゃくちゃ大雑把に『a(相当性を肯定する事実)とb(相当性を否定する事実)を羅列してc(A+B+事案の性質からの必要性)を総合すると相当です!』って言ってるだけだわ。」
B「まあ、あえて規範と当てはめを対応させるように読めば、@事案の性質にはaの1⃣〜5⃣とbの3⃣が当てはまり、A被疑者に対する容疑の程度はcの必要性が当てはまり、B被疑者の態度にはbの1⃣2⃣が当てはまるということかな。」
A「aは全部が事案の性質だからね。こんなの判例をあてはめまでしっかり覚えた人でないと再現できないわ。しかもT任意同行の段階とU宿泊を含めた取調べ自体の段階を分けるからね。もうお手上げだわ。」
B「特にこの論点は当てはめまで覚えておかないと解けないね。」
A「あとついでに言いたいのは、『@事案の性質、A被疑者に対する容疑の程度、B被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当』っていうときの相当性はおそらく必要性を含む概念よね。@ABは任意捜査の必要性の判断の考慮要素とほぼ同じだもの。」
B「そうだね。実際後の当てはめでは必要性も検討してるからね。」
☆おとり捜査
1 本件のKの捜査は違法なおとり捜査であり、公訴棄却すべきではないか。おとり捜査とは、捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を秘して犯罪を実行するように働き掛け、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出でたところで現行犯逮捕等により検挙するものをいい、本件の捜査はこれに当たる。
(1)まず、「強制の処分」(197条1項但書)に当たり、強制処分法定主義、令状主義(憲35条、刑訴法218条)に反しないか。「強制の処分」とは、被処分者の意思を制圧し、重要な権利利益の制約を伴う処分をいう。
本件は甲の意思を制圧しているとはいえず、「強制の処分」に当たらない。
(2)では、任意捜査として適法か。おとり捜査は国家が犯罪を作り出し、捜査の公正を害するから、厳格に必要性・相当性を満たすことが要件となる。(必要性は直接の被害者がいない薬物事犯であって通常の操作方法では摘発困難なこと、相当性は被疑者が捜査以前に覚せい剤の譲渡を企図していたことを認定する。)。
本件は直接の被害者がいない薬物犯罪であり、Kにおいて捜査協力者Xからの情報によっても甲の住居や覚せい剤の隠匿場所を把握することができなかったことから、ほかの捜査手法によっては摘発が困難である場合に当たり、必要性が認められる。一方、甲はすでに覚せい剤の有償譲渡を企図して買い手を求めていたことから、Kに取引の場に覚せい剤を持ってくるよう仕向けたとしても、国家が犯罪を作り出したり捜査の公正を害しているとはいえず、相当性が認められる。
B「これはフルスケールで書いてるね。」
A「おとり捜査は判例学説がいろいろ言っててややこしいから、書き方が適度にばらつくのよね。だから頻繁に出題されるわけだけど。で、今回はこれがおとり捜査のファイナルアンサーだというのを作ってみたわけ。」
B「学説がいろいろ言ってるけど、基本的には判例ベースでいいんだよね。」
A「もちろん。上の論証でもろに学説使ってるのはおとり捜査の効のところと(2)の規範のところだけよ。」
B「(2)の規範のところっていうのは『国家が犯罪を作り出し、捜査の公正を害する』ってところだね。」
A「そうそう。それに加えて人格的自立権を害するっていうのが学説上有名なおとり捜査への批判なんだけど、どこで書いていいかわからないから書かない人も多いのよね。ただ、有名だから配点はあると思うの。で、書くとしたらここかなって。」
B「ちゃっかり相当性の当てはめでも使ってるけどね。」
A「まあ、学説が言ってる内容の体系的位置づけとしたら相当性のところよね。」
B「範囲誘発型とか機会提供型ってのは無視していいの?」
A「それは平成16年の判例が出る前の学説だから気にしなくていいと思うわ。」
B「判例が『@直接の被害者がいない薬物事犯等の捜査において、A通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、B機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者』を対象にするならOKって言ってる部分は使ってる?」
A「使ってるわよ。@Aは必要性の当てはめ、Bは相当性の当てはめよ。@っていうのは厳密には当てはめできないからAとセットの規範だと思うけど。」
B「学者によっては@が必要性、Aが緊急性、Bが相当性って言ってるよね。」
A「まあ、そういう理解でもいいと思うけど、必要性と緊急性を分けるのは、つまり緊急性というのを独立した項目として立てるのは共通認識ではないから、必須ではないわ。」
B「おとり捜査が違法だとして、効果は公訴棄却なの?」
A「これは免訴とか証拠排除という考えもあるから、どれでもいいわ。ただ、現行犯逮捕してるのに証拠排除っていうのはやや意味不明だと思うわ。」
☆準現行犯逮捕(和光大事件)
甲の逮捕が純現行犯逮捕(212条2項)として適法か。要件は@212条2項各号該当性、A罪を行い終わってから間がないと明らかに認められること、B逮捕の必要性である。@については、…(会話参照)…。Aについては、㋐犯罪との時間的近接性の明白性の意味だが、場所的近接性も考慮する趣旨であり、㋑Aは@の要件との相関関係によって犯罪と犯人の明白性が認められる程度で足りる。
本件では、@甲は着衣と靴に血がついているから「犯罪の顕著な証跡があるとき」(3号)に当たる。乙については同様の証跡は認められないが、以下に述べるように甲乙はWが認識した犯人と同一性が認められるため、行動を共にしている共犯者である甲に上記のように証跡が認められる場合に当たるから、乙も3号の要件を満たす。
また、AP及びQが甲乙を発見したのは犯罪発生から20分後に犯罪現場から800メートル離れた地点であり、時間的場所的近接性が認められる。そして、犯罪と犯人を明確に認識しているWによる110番通報があり、その通報を受けてH県警警察本部が出した指令を受けたP及びQが、通報内容と身体的特徴が細部に至るまで一致する二人組を発見している。このように顕著に一致する特徴を有する二人組がほかにもいることは考え難いから、P及びQが発見した二人組はWが認識した二人組と同一と考えられる。そのため、@Aの相関関係から犯罪と犯人の明白性は認められるといえる。
さらに、本件は殺人事件という重大事件であるため甲乙には逃亡のおそれがあるから、B逮捕の必要性も認められる。
したがって、甲乙の現行犯逮捕は適法である。
A「これは@〜Bを確実に書いたうえで、@212条2項各号の要件については解いてる問題に必要なものを補足して書く必要があると思うわ。1号だったら、『その者が犯人であることを明確に認識している者により、犯人として追われまたは呼ばれていることをいう。』。㋑『中断が短時間であればなお本号に当たる。』㋒『現認者から追尾を引き継いだ者でもよい。』」
B「2号であれば、㋐『物と犯罪の結びつきが客観的に明らかであるものをいう。』㋑『現行犯と認定した際に所持していれば足り、逮捕時に所持している必要はない。』」
A「『所持』の意味もなんとなく覚えといてね。『事実上の支配下にあればよい。』」
B「3号は『本人が着用している場合だけでなく、行動を共にしている共犯者の被覆に血痕が認められるような場合も本号に当たる。』。これは平成25年に出たっけ。」
A「4号は、『職務質問のために停止を求めたところ逃げ出した場合も含む。』。」
B「『❝だれか❞と呼ばれる必要はない』とかいう判例があるけど、爆笑だね。」
A「『ギャフンと言わせてやる』っていう慣用句はあるけど、実際にギャフンという人がいないのと同じね。」
B「で、解いてる問題にかかわらず必ず解釈を欠いたほうがいいのがAの『罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるとき』の要件だね。」
A「そうね。これは人によって細かいところが違うからあれなんだけど、『㋐犯罪との時間的近接性の明白性の意味だが、場所的近接性も考慮する趣旨であり、㋑それが要求される程度は@の要件との相関関係によって決める。』という二点は相場的だから書いたほうがいいと思うわ。」
B「『時間的近接性の明白性』?ややこしいね。」
A「だって『間がない』(時間的近接性)『と明らかに認められる』(明白性)でしょ?」
B「ああ、なるほど。」
☆別件逮捕・勾留(浦和地裁H2.10.12を契機として)
1 甲の供述証拠は違法な取り調べから得られた違法な証拠であるから、証拠能力が認められないのではないかを検討する。
(1)まず、甲の逮捕は適法か。逮捕とは被疑者に対して行われる最初の強制的な身柄拘束処分であり、@逮捕の理由(199条1項本文)とA必要性(同上2項但書、規則143条の3反対解釈)が要件となる。@は特定の犯罪に対する相当な嫌疑を意味する。Aは逃亡または罪証隠滅のおそれがあることを意味する。
本件は、…(別件について要件充足を確認)適法である。
(2)では、それに続く身体拘束は適法か。前述の逮捕の理由(199条1項)は事件ごとに判断する(200条1項)以上、逮捕中に取り調べることができるのはその逮捕の被疑事実についてのみである(事件単位の原則)。そして、起訴前の身柄拘束期間の趣旨は起訴・不起訴の決定に向けた捜査を行うことであるから、逮捕の被疑事実についての起訴・不起訴の判断が終わった時点で当該身体拘束の必要性がなくなり、以後の身体拘束は違法となると解する。(逮捕の被疑事実について起訴・不起訴の判断が終わったか否かは、取調べ内容から事後的に判断する。)
本件では、甲は10日間の勾留期間のうち8日間は強盗についての取調べを受けており、殺人・死体遺棄事件について取調べを受けたのは2日間に過ぎず、その後5日間は供述録取書の作成に応じるよう1日30分間の説得を受けていたに過ぎない。このことからすると、強盗罪の起訴・不起訴の決定には10日間を要したといえるから、10日間の身体拘束は適法である。
(別ルート)
1 甲の供述証拠は違法な別件逮捕から得られた違法な証拠であるから、証拠能力が認められないのではないかを検討する。
(1)まず、甲の逮捕が違法な別件逮捕に当たるか。
逮捕とは、被疑者に対して最初に行われる強制的な身柄拘束処分である。令状主義とは、逮捕のような強制処分の実行に際し、原則として裁判官の審査を受けなければならないという原則である(憲法33条、刑訴法199条1項)ところ、違法な別件逮捕は令状主義の趣旨を潜脱するから違法となる。この違法な別件逮捕とは、未だ重大な甲事件について
被疑者を逮捕・勾留する理由と必要性が十分でないのに、主として甲事件について取り調べる目的で、甲事件が存在しなければ通常立件されることのないと思われる軽微な乙事件につき被疑者を逮捕・勾留する場合をいう。違法な別件逮捕に当たるか否かは、取調べが主として別件について行われた事実から、捜査機関の目的が主として別件の公訴提起にあったことを認定することによって行う。
B「これは平成23年度があてはめ素材だね。別ルートまでご丁寧に用意してくれてるけど、どういう違いがあるんだい?」
A「逮捕の違法を問題にするかどうかの違いね。別ルートは木谷明裁判官の論証に近いけど、正直平成23年度はこの流れにしてしまうとめちゃめちゃ書きにくいわ。上のほうのルートがおすすめね。」
B「逮捕自体の問題にすると、逮捕の必要性を取調べ状況から逆算して認定しないといけないから、ちょっと時間軸がずれてやりにくいね。」
A「そうそう。だからやめたほうがいいわ。逮捕は別件について要件満たしてるからオッケーって考えるべきよ。そっちのほうがはるかに書きやすいわ。」
B「いわゆる別件基準説だね。取調べ自体の違法性を問題にするわけだ。」
A「取調べ自体の問題にした場合、何の違法性を問題にするかと言ったら事件単位の原則ね。条文含めてこれは書かないと何が違法なのか意味が分からないからちゃんと書くべきだわ。」
B「事件単位の原則を書いた後の『身柄拘束期間の趣旨は、…』っていうのは、知ってるよこれ。川出説だよね。」
A「そう。便宜的に使わせてもらったわ。本人は本件基準説のつもりだから、別件基準説をとったうえでこれを使うのはやや気が引けるけど、論理的に矛盾はないわ。」
B「それで、当てはめとしては、問題文に『何日間は別件の取調べをやって、…』みたいなことが書いてあるから、それを書き写して評価すればいいわけだね。」
A「そう。ただこれ捜査比例原則などのふつうの当てはめと違って、間接事実をいくつも評価するタイプじゃないってことはわかっておくべきね。」
B「あ、あと、身柄拘束の違法性っていうのは平成23年の問題文がそういう誘導をしてたからそう書いてるんであって、教科書的な論点としては『余罪取調べの限界』ってことになるんでしょ?」
A「まあそうね。余罪取調べの限界のはそもそも被疑者に取り調べ受忍義務があるかという話から始まるけど、正直、今の出題形式でその論点を聞くのは想像できないわね。」
B「書いても汚くなるだけだからやめといたほうがいいね。配点あったとしても。」
☆捜索差押令状に基づく差押えの要件
そもそも被疑者の物を「押収」(刑訴法218条の「差押え」「捜索」を含む。憲法35条)するには「正当な理由」(憲法35条)が必要である。「正当な理由」とは、@嫌疑の存在(場所に物がある蓋然性)、A被疑事実関連性(99条1項)、B捜索差押えの必要性である。
A「これは、判例分析というか当てはめ研究をするというこの企画のテーマからすると例外だから、チラリズムよ。」
B「ちょっとだけよってか。Aの被疑事実関連性を判断させる問題は最初の予備試験に出たね。だけどこんなにカチッとはなかなか書ける人いないね。有名じゃないんだよ。」
A「判例がちゃんと言ってないからね。模試ではよく出るんだけど。本試験ではどうかしら。」
☆逮捕に伴う差押え(和光大事件)
逮捕に伴う捜索・差押えの要件は、@「逮捕する場合」(220条1項本文)、A「逮捕の現場」(同2号)である。同条が例外的に令状なしの捜索・差押えを認めたのは、逮捕の現場には証拠物が存在する蓋然性があり、証拠破壊の緊急の必要性があるからである。そのため、@は逮捕の直前直後を差し、Aは原則として被疑者の支配下を指すが、被疑者の代わりに証拠を破壊する可能性のある人物がいる場合には、証拠破壊の危険はその者の管理権が及ぶ範囲で認められるから、その者の管理権が及ぶ範囲も含む。もっとも、被逮捕者の身体に証拠物が存在する蓋然性や証拠破壊を防ぐ必要性は場所的に離れても異ならないから、被疑者の身体については、その場で直ちに捜索・差押えをするのが適当でないときには、速やかに最寄りの場所まで連行したうえでそれらの処分をすることも、「逮捕の現場」における捜索・差押えと同視することができ、適法と解する。
(別筋)
逮捕に伴う捜索・差押えの要件は、@「逮捕する場合」(220条1項本文)、A「逮捕の現場」(同2号)である。同条が令状なしの捜索・差押えを認めたのは、逮捕の現場には証拠物が存在する蓋然性があるからである。そのため、@は逮捕と時間的に近接していれば足り、Aは、令状に基づく逮捕との均衡から、被疑者の管理権が及ぶ範囲を意味する。もっとも、被逮捕者の身体に証拠物が存在する蓋然性は場所的に離れても異ならないから、被疑者の身体については、その場で直ちに捜索・差押えをするのが適当でないときには、速やかに最寄りの場所まで連行したうえでそれらの処分をすることも、「逮捕の現場」における捜索・差押えと同視することができ、適法と解する。これは新たな強制処分を創出しているわけではなく、220条1項2号の捜索を行うための付随的措置として同条文の効力に含まれていると解する。
本件では、@甲の携帯電話を差し押さえたのは逮捕から10分後であり、時間的近接性が認められる。もっとも、A差押えは逮捕の現場から200メートル離れた路上で行われており、甲の管理権内ではない。しかし、差押えた携帯電話は甲の身体に存在した証拠である。また、Pは当初は逮捕の現場である路上で捜索差押えに着手したが甲が暴れだし、また、酒に酔った学生の集団が同所を通りかかり、P及び甲を取り囲んだため、その場で捜索を続行すれば甲や学生らが怪我をするなどの危険があったといえるため、その場で直ちに捜索・差押えをすることが適当でないときにあたる。そして、I交番は300メートル離れた最寄りの交番であるから、速やかに最寄りの場所まで連行する要件も満たす。そして、Pが差押えたのは実際には交番ではなくその道中の路上であるが、証拠存在の蓋然性は最寄りの交番で差押えてもその道中で差押えても異ならないから、「逮捕の現場」における捜索・差押えと同視しうることに変わりはない。
B「これは(別筋)って書いてあるのはおなじみの逮捕に伴う差押えの相当説だけど、短いから試験対策的にはこっちのほうがいいね。」
A「まあ、緊急処分説を支持したいところだけど、やむを得ないわ。」
B「相当説の論証はよく見ると『令状主義の例外』って書いてないね。」
A「そうそう。相当説なら令状捜索と逮捕捜索は並列の関係なのよ。原則例外関係ではないんだわ。」
B「で、逮捕の現場と逮捕する場合の解釈を書いて。」
A「これは両方必ず書いたほうがいいわね。」
B「そのあとできょう2回目の和光大事件の論証を使うわけだ。」
A「これは『同視できる』っていうのがどういう意味なのかを書くところに配点があるわ。誰も書かなかったかもしれないけど。」
B「『同視できる』っていうのは普通に読むと新たな強制処分を作り出しているように読めるからだね。」
A「ちなみに、言ってなかったけど、あてはめは平成25年の本試験よ。」
B「わかってるって。」
☆取調受忍義務
取調受忍義務を認めると黙秘権行使が困難になるから、取調受忍義務はないと解する。198条1項但書は、出頭拒否・取調室からの退去を認めることが逮捕勾留の効力を否定するものではないことを注意的に規定したものと解する。
したがって、身体拘束中の被疑者取調べは任意処分である。
☆余罪取調べの可否
(取調受忍義務否定)
したがって、本罪の取調べも余罪取調べもともに任意処分であり、余罪取調べを行うこと自体に特別の制約はない。
しかし、任意処分と言っても無制限ではなく、余罪取調べを行うことで本罪についての起訴不起訴の決定を不当に遅延させた場合には、余罪取調べは原則として違法と解する。
☆再逮捕・再勾留
再逮捕・再勾留は、法が定めた時間制限(203条以下)を無意味にするから原則として違法である。もっとも、再逮捕・再勾留の必要性がある場合はあり、199条3項は再逮捕がありうることを前提にしているから、必要かつ相当な場合は例外的に再逮捕・再勾留が認められると解する。必要性の要件は厳格に解し、@事情変更が生じたこと、A必要やむを得ないという程度に加重されたものであること、B不当な蒸返しに当たらないと評価できることという条件を満たすものでなければならない。
・再逮捕再勾留を禁止した規定はない、勾留は逮捕と密接な関係にある、等も理由として使える。
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