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2016年02月06日

刑事訴訟法 予備試験平成26年度

問題文省略

回答
1 本件ICレコーダーに伝聞法則が適用され証拠能力が否定されないか。
(1)320条1項は、供述証拠であって、反対尋問、偽証罪の警告と宣誓、裁判官による供述態度のチェックを経ない証拠の証拠能力を原則として否定している。したがって、伝聞証拠とは公判廷外の供述を内容とする証拠であって、供述内容の真実性を証明するために用いるものをいうと解する。本件ICレコーダーは公判廷外の供述を内容とする供述といえ、また、要証事実は甲が刑法198条の構成要件事実該当事実を行ったことと解され、その証明には供述内容の真実性が問題となるから、伝聞証拠に当たり、原則として証拠能力が否定される。
(2)もっとも、以下の場合には証拠能力が認められる。
ア 甲の同意があり、相当性が認められる場合(326条1項)。
イ 321条以下の伝聞例外に当たる場合も、証拠能力を認める必要性と信用性の情況的保障があるため例外的に証拠能力が認められる。本問では322条1項該当性を検討する。
(ア) 前述のように本件ICレコーダーは「被告人が作成した供述書」に当たる。「書面」と解すると甲の署名・押印が必要となるが、署名・押印を要求する趣旨は録取者の供述過程を解消することであるところ、録音過程は機械的ゆえに供述過程とは質的に異なるから、「書面」と解する必要はない。
(イ) 供述内容は刑法198条1項の犯罪事実の全部を認める内容であり、「自白」(憲法38条2項、法197条1項)に当たるから、「承認」(刑事上不利益な内容すべて)に含まれる。
(ウ) 但書の任意性の要件を検討する。憲法38条2項、刑訴法197条1項が不任意自白の証拠能力を否定した自白法則の趣旨は、不任意自白は虚偽の可能性が高く、また、人権侵害のおそれもあることである。したがって、不任意自白か否かは@虚偽の供述が行われるほど強い心理的圧迫があることまたはA人権侵害があることを要件として判断すべきと解する。本件では、偽計が用いられてはいるが強い心理的圧迫はないと認められ(@不該当)、甲は黙秘権の告知を受け自らの意思で供述を始められたと認められるから人権侵害もないと認められ(A不該当)、不任意自白に該当しない。したがって、任意性も認められる。
(3)以上より、322条1項の伝聞例外が認められ、伝聞法則により証拠能力が否定されることはない。
2 次に、違法収集証拠排除法則により証拠能力が否定されないかを検討する。同法則は先に検討した自白法則とは別物であるから(二元説)、別に検討する必要があると考える。
(1) 証拠採取過程の違法性
ア 強制処分法定主義(197条1項但書)違反の有無
 供述調書にしないし誰にも言わないと虚言を述べたうえで甲の供述内容を密かに録音した捜査方法には明文がないため、強制処分法定主義(197条1項但書)に反しないか検討する。
 多彩な捜査方法がある現代において可及的に人権保護を図るため、「強制の処分」とは意思を制圧し、重要な権利利益の制約を伴う処分を言うと解する。
 本件では黙秘権(憲法38条1項)という重要な人権が問題となっているが、自白法則の検討の際に見たように甲は自らの意思で供述しており、意思の制圧を伴っていない。また、供述させるに至った態様も「制約を伴う」ものとは言えない。
 したがって「強制の処分」には該当しない。
イ 捜査比例原則(197条1項本文)違反の有無
 すると本件の捜査方法は任意捜査となるが、任意捜査の適法要件は必要性・相当性である。
 本件では、銀行取引の履歴などから犯罪の有力な間接証拠は得ていたという捜査の進展状況から、甲の嫌疑の程度は高い。しかし、罪体につき直接証拠はなく、この点につき自白を得たとしても結局補強法則(憲法38条3項、法319条2項)により補強が必要であるから、証拠の重要性は小さいから、必要性はそれほど大きいものではない。
 にもかかわらず、Kはあざとい虚言を用いたうえ甲に無断で供述を録音しており、相当性は認められないというべきである。
 したがって、本件捜査には比例原則違反の違法がある。
(2)排除相当性
 違法収集証拠排法則の趣旨は、違法収集証拠は適正手続(憲法31条)を害し、司法の廉潔性を害し、将来の違法捜査抑止の観点から証拠とすべきでないことであり、そのため@違法の重大性とA排除の相当性を総合的に判断して排除相当性を判断すべきである。
 本問では前述のようにあざとい虚言と無断の録音という行為は甲の供述の自由に対する重大な違法であり、Kの法無視の態度から将来の違法捜査抑制のため排除相当性が大きい。
(3)したがって、本件ICレコーダーは違法収集証拠として証拠能力が認められない。 以上
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