2016年02月06日
刑事訴訟法 予備試験平成27年度
設問1
1 検証(128条)とは五官の作用により物の形状等を認識する処分であり、写真はそのような認識のために用いられるものであるから、写真撮影は検証の性質を有する。そのため、捜査目的で写真撮影をするには原則として検証令状(218条1項)が必要である(令状主義、憲法35条参照)。本件の写真撮影はいずれも検証令状なしに行われているから、令状主義に反し違法ではないかが問題となる。
2 写真撮影@について
@は、甲方の捜索に際し、立会人乙に捜索差押許可状を呈示している状況の写真撮影である。捜索の際には被処分者に令状を呈示しなければならない(222条1項、110条)。また、捜査の適法性については検察官の側に立証責任があると解されている。そのため、本件写真撮影は222条1項、110条に基づく令状呈示を適法に行ったことを証明するためにされたものと言え、写真撮影をする必要性が認められる。そして、撮影の態様も相当性を逸脱したものではない。
したがって、@は捜索令状の執行に「必要な処分」(222条1項、111条1項)として許される。
3 写真撮影Aについて
Aは、サバイバルナイフと運転免許証が同じ机の引き出しの中に入っている状況を撮影したものである。運転免許証及び健康保険証は身分証明書として社会生活上使われることが多く、その性質上他人に貸し借りするものではなく、本人しか使わない場所に保管するのが通常である。そのような性質を有する運転免許証等と捜索目的物であるサバイバルナイフが同一の引き出しの中にあったという事実は、捜索目的物であるサバイバルナイフが運転免許証等の名義人の所有物であることを強く推認させる。しかし、サバイバルナイフを押収してしまうと、このようなサバイバルナイフと運転免許証等が同一の引き出し内にあったという事実は立証できなくなってしまう。かといって引き出しごと差し押さえるわけにもいかない(引き出し及び運転免許証等は裁判官に審査を受けた捜索目的物ではないため)。そこで、このような状況を証拠として確保する現場保存のために、Aが行われたと考えられる。
ここまでで検討した捜索目的から、Aの写真撮影をする必要性があると言える。そして、写真に映されたサバイバルナイフ自体は捜索目的物であるからそれを撮影しても新たなプライバシー侵害はない。また、ともに写真に映された運転免許証等は捜索目的物ではないからその撮影には原則として検証令状が必要であるが、運転免許証等それ自体は秘匿性の高いものではなく、サバイバルナイフが甲の所有物であることの立証の必要性に照らすと、本件の撮影に際し運転免許証等が映っていることはなお相当性を逸脱したものではない。
したがって、Aも捜索差押の実効性を確保するために「必要な処分」(222条1項、111条1項)として適法である。
4 写真撮影Bについて
Bは、覚せい剤使用罪の証拠となりうる注射器及びビニール袋を撮影したものである。これらは裁判官の審査を受けた捜索目的物ではないから、その撮影には原則として検証令状が必要である。そして、傷害罪の被疑事実でサバイバルナイフを捜索目的物とする本件捜索目的と、覚せい剤使用罪とは何の関係もないから、Bについて本件の捜索令状の効力が及んでいたり、本件捜索の実効性を確保するための「必要な処分」として許容されることもない。乙を覚せい剤所持罪の被疑事実で現行犯逮捕(212条1項)するならば、220条に基づく捜索として適法となる余地はあるが、乙を逮捕していないためその可能性もない。
したがって、Bは違法である。
設問2
1 犯罪事実の証明は証拠能力のある証拠によって法定手続きに則って行わなければならない(317条、厳格な証明)。そこで、Pが作成した書面(以下「本件書面」という)が書証として証拠能力を有するかが問題となる。
2 まず、本件書面が伝聞証拠に当たり証拠能力が否定されないか検討する。
320条1項が伝聞証拠の証拠能力を否定する理由は、供述証拠は知覚・記憶・叙述の過程を経ているにもかかわらず反対尋問、偽証罪による警告、裁判官による供述態度の確認がなされていないから類型的に誤りを含む可能性があるからである。そのため、伝聞証拠とは公判期日における供述に代わる供述又は書面で、供述内容の真実性を証明するために用いるものをいうと解する。本件書面はこの定義による伝聞証拠に当たる。
もっとも、伝聞証拠であっても被告人の同意があり、相当性が認められれば証拠能力が付与されるところ(326条1項)、本件では甲の同意はない。
また、伝聞証拠であっても321条以下の伝聞例外に当たれば、証拠とする必要性が高く、供述内容の真実性の情況的保障があるため、証拠能力が認められる。本件書面は、写真が検証の性質を有するから、書面全体が321条3項による伝聞例外が認められるか検討する。
同条の要件は供述者が証人尋問を受け、その書面の成立の真正と内容の真正を供述することである。このように緩やかな要件で例外を認めたのは、検証結果は複雑であるから口述よりも紙媒体のほうが適しているからである。本件でも、Pがそのような供述をすれば、本件書面に証拠能力が認められる。
3 次に、本件書面のうち説明文の部分が供述に当たり、証拠能力が否定されないか検討する。平成17年の判例は、本件と同様に321条3項で伝聞例外が認められた捜査報告書中の説明文を供述書面と認定し、重ねて伝聞例外を検討することを要求した。その判例の事案は、捜査官が被告人に指示した動作を行わせ、その説明として文章をつけていたものであった。しかし、本件書面の説明文は、その判例の事案とは異なり、捜査官が、捜索の際の客観的事実を述べたものであり、その内容は要するに、なぜ写真Aを撮影したかの理由を説明しているものである。これは写真撮影の動機ないし契機の説明に過ぎず、講学上の現場指示にあたり、その内容が要証事実との関係で意味を持つものではない。
したがって、説明文の部分に独立して伝聞例外を検討することは不要であり、説明文の部分は、本件書面と一体のものとして321条3項により証拠能力が認められる。 以上
1 検証(128条)とは五官の作用により物の形状等を認識する処分であり、写真はそのような認識のために用いられるものであるから、写真撮影は検証の性質を有する。そのため、捜査目的で写真撮影をするには原則として検証令状(218条1項)が必要である(令状主義、憲法35条参照)。本件の写真撮影はいずれも検証令状なしに行われているから、令状主義に反し違法ではないかが問題となる。
2 写真撮影@について
@は、甲方の捜索に際し、立会人乙に捜索差押許可状を呈示している状況の写真撮影である。捜索の際には被処分者に令状を呈示しなければならない(222条1項、110条)。また、捜査の適法性については検察官の側に立証責任があると解されている。そのため、本件写真撮影は222条1項、110条に基づく令状呈示を適法に行ったことを証明するためにされたものと言え、写真撮影をする必要性が認められる。そして、撮影の態様も相当性を逸脱したものではない。
したがって、@は捜索令状の執行に「必要な処分」(222条1項、111条1項)として許される。
3 写真撮影Aについて
Aは、サバイバルナイフと運転免許証が同じ机の引き出しの中に入っている状況を撮影したものである。運転免許証及び健康保険証は身分証明書として社会生活上使われることが多く、その性質上他人に貸し借りするものではなく、本人しか使わない場所に保管するのが通常である。そのような性質を有する運転免許証等と捜索目的物であるサバイバルナイフが同一の引き出しの中にあったという事実は、捜索目的物であるサバイバルナイフが運転免許証等の名義人の所有物であることを強く推認させる。しかし、サバイバルナイフを押収してしまうと、このようなサバイバルナイフと運転免許証等が同一の引き出し内にあったという事実は立証できなくなってしまう。かといって引き出しごと差し押さえるわけにもいかない(引き出し及び運転免許証等は裁判官に審査を受けた捜索目的物ではないため)。そこで、このような状況を証拠として確保する現場保存のために、Aが行われたと考えられる。
ここまでで検討した捜索目的から、Aの写真撮影をする必要性があると言える。そして、写真に映されたサバイバルナイフ自体は捜索目的物であるからそれを撮影しても新たなプライバシー侵害はない。また、ともに写真に映された運転免許証等は捜索目的物ではないからその撮影には原則として検証令状が必要であるが、運転免許証等それ自体は秘匿性の高いものではなく、サバイバルナイフが甲の所有物であることの立証の必要性に照らすと、本件の撮影に際し運転免許証等が映っていることはなお相当性を逸脱したものではない。
したがって、Aも捜索差押の実効性を確保するために「必要な処分」(222条1項、111条1項)として適法である。
4 写真撮影Bについて
Bは、覚せい剤使用罪の証拠となりうる注射器及びビニール袋を撮影したものである。これらは裁判官の審査を受けた捜索目的物ではないから、その撮影には原則として検証令状が必要である。そして、傷害罪の被疑事実でサバイバルナイフを捜索目的物とする本件捜索目的と、覚せい剤使用罪とは何の関係もないから、Bについて本件の捜索令状の効力が及んでいたり、本件捜索の実効性を確保するための「必要な処分」として許容されることもない。乙を覚せい剤所持罪の被疑事実で現行犯逮捕(212条1項)するならば、220条に基づく捜索として適法となる余地はあるが、乙を逮捕していないためその可能性もない。
したがって、Bは違法である。
設問2
1 犯罪事実の証明は証拠能力のある証拠によって法定手続きに則って行わなければならない(317条、厳格な証明)。そこで、Pが作成した書面(以下「本件書面」という)が書証として証拠能力を有するかが問題となる。
2 まず、本件書面が伝聞証拠に当たり証拠能力が否定されないか検討する。
320条1項が伝聞証拠の証拠能力を否定する理由は、供述証拠は知覚・記憶・叙述の過程を経ているにもかかわらず反対尋問、偽証罪による警告、裁判官による供述態度の確認がなされていないから類型的に誤りを含む可能性があるからである。そのため、伝聞証拠とは公判期日における供述に代わる供述又は書面で、供述内容の真実性を証明するために用いるものをいうと解する。本件書面はこの定義による伝聞証拠に当たる。
もっとも、伝聞証拠であっても被告人の同意があり、相当性が認められれば証拠能力が付与されるところ(326条1項)、本件では甲の同意はない。
また、伝聞証拠であっても321条以下の伝聞例外に当たれば、証拠とする必要性が高く、供述内容の真実性の情況的保障があるため、証拠能力が認められる。本件書面は、写真が検証の性質を有するから、書面全体が321条3項による伝聞例外が認められるか検討する。
同条の要件は供述者が証人尋問を受け、その書面の成立の真正と内容の真正を供述することである。このように緩やかな要件で例外を認めたのは、検証結果は複雑であるから口述よりも紙媒体のほうが適しているからである。本件でも、Pがそのような供述をすれば、本件書面に証拠能力が認められる。
3 次に、本件書面のうち説明文の部分が供述に当たり、証拠能力が否定されないか検討する。平成17年の判例は、本件と同様に321条3項で伝聞例外が認められた捜査報告書中の説明文を供述書面と認定し、重ねて伝聞例外を検討することを要求した。その判例の事案は、捜査官が被告人に指示した動作を行わせ、その説明として文章をつけていたものであった。しかし、本件書面の説明文は、その判例の事案とは異なり、捜査官が、捜索の際の客観的事実を述べたものであり、その内容は要するに、なぜ写真Aを撮影したかの理由を説明しているものである。これは写真撮影の動機ないし契機の説明に過ぎず、講学上の現場指示にあたり、その内容が要証事実との関係で意味を持つものではない。
したがって、説明文の部分に独立して伝聞例外を検討することは不要であり、説明文の部分は、本件書面と一体のものとして321条3項により証拠能力が認められる。 以上
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