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2016年02月05日

民事訴訟法 平成20年度第2問

問題文
 債権者Xの保証人Yに対する保証債務履行請求訴訟に、主債務者Zは、Yを補助するため参加した。
1 第一審でY敗訴の判決が言い渡され、その判決所の正本が平成20年7月3日にYに、同月5日にZに、それぞれ送達された。Yはこの判決に対して何もしなかったが、Zは同月18日に控訴状を第一審裁判所に提出した。この控訴は適法か。
2 Y敗訴の判決が確定した後、Yは、Zに対し、求償金請求の訴えを提起した。
 仮に、Yが、主債務の存在を疑わしめる重要な証拠であってZの知らないものを所持していたにもかかわらず、XY間の訴訟において、その証拠の提出を怠っていた事実が判明した場合、Zは、YZ間の訴訟において、主債務の存在を争うことができるか。

回答
 補助参加とは、訴訟の結果について法律上の利害関係を有する第三者が、その当事者を補助して訴訟追行するために訴訟に参加することをいう(42条)。補助参加人は上訴等の法律行為ができるが(45条1項本文)、補助参加の時における訴訟の程度に従ってすることができないものはすることができない(同但書)。この規定の趣旨は、補助参加人は他人の訴訟の結果によって自己に不利益が及ぶのを避けるために訴訟行為ができ、その限りで独立性を有するが、補助参加人は他人間の訴訟における当事者ではないから、当事者ができない訴訟行為をすることができないということ、すなわちその限りで従属性を有することを定めたものである。
 では、補助参加人は当事者の控訴期間(285条)が経過した後も自己の控訴期間内であれば控訴できるだろうか。敗訴当事者の控訴期間経過後の補助参加人の提起した控訴を、45条1項本文の「上訴の提起」とみるか、同但書の「補助参加の時における訴訟の程度に従いすることができないもの」とみるかが問題となる。
 そもそも控訴とは、第一審の裁判を不服として、控訴裁判所に、裁判の取消または変更を求める不服申し立てである(281条以下)。控訴審で審判対象となるのは請求の当否ではなく不服申しての当否であり、判断資料は第一審のものに新たに加えることができる(続審制、296条2項、298条1項、301条1項)。控訴が提起されると、第一審の裁判は確定を遮断され、控訴審に移審する。控訴を棄却すると第一審判決が確定し(301条1項)、控訴を認める場合は第一審判決を取り消すか(305条)、第一審に差し戻す(307条)。
 以上のように、控訴の提起は訴えの提起とは異なるが、訴えの提起と同程度に訴訟物たる権利関係の存否を決める影響力を持つ行為である。そうすると、訴え提起に妥当する訴訟法上の原則である処分権主義(246条)の趣旨(私的自治の訴訟法的反映)に照らし、控訴の提起が当事者以外の者によってなされる場面は限定的に解すべきである。
 また、控訴期間が設けられている趣旨は、前述の処分権主義の趣旨からその期間内での不服申し立てを許容する一方、裁判通りの権利関係を望む当事者や、争われている権利義務関係に利害関係を持つ当事者の法律関係を早期に安定させることでもある。そうすると、当事者以外の者に独自の控訴期間を認めるのには慎重になるべきである。
 以上を考慮すると、当事者の控訴期間経過後に補助参加人がする控訴提起は、「補助参加の時における訴訟の程度に従いすることができないもの」に当たると解するのが相当である。
 したがって、Zの控訴は45条1項但書に反し、違法である。
設問2
 XY間の訴訟を前訴とすると、前訴の訴訟物はXのYに対する保証債務の履行請求権であり、この点に既判力(確定判決の後訴での通用力ないし拘束力)が生じる(114条1項)。つまり、XのZに対する主債務の履行請求権の存否の判断には前訴の既判力は生じていない。既判力の客観的範囲がこのように「主文に包含するもの」すなわち訴訟物に限られているのは、その方が審理を弾力的にできるし、紛争解決としてはそれで十分だし、当事者の手続保障が訴訟物の範囲では尽くされていると言えるからである。
 しかし、前訴の既判力とは別に、前訴の「効力」(46条本文)が補助参加人Zに対して生じる。そもそもこの「効力」(参加的効力)とは、補助参加人に対して生じるものであるから、敗訴責任の公平分担を根拠として、訴訟物以外にも及ぶと解される。詳述すると、参加的効力は、既判力と同様に、紛争解決の必要性ゆえに認められ、当事者の手続保障が尽くされていることで正当化される訴訟法上の効力であるが、既判力とは異なり、その究極的根拠が実体法上の私的自治ではなく、それに加えて敗訴責任の公平分担であるため、敗訴責任を公平に分担する限りで、その効力の及ぶ客観的範囲は訴訟物をはみ出るのである。なお、このように訴訟物をはみ出る効力がいかなる範囲で生じているかは客観的に明らかでないため、裁判所は当事者の援用を待ってその効力の存否を判断すればよいと解する。
 これを保証債務履行請求訴訟で主債務者が補助参加した事例についてみると、主債務の存在は、訴訟物ではないものの、訴訟物たる保証債務の存在を認定するためには主債務の存在の立証が成功しなければならないから、前訴で実質的な審理が行われた部分であり、その部分については原則として主債務者の手続保障が尽くされていると言える。そして、この部分について参加的効力を生じさせなければ、保証人と債務者との間で求償権の存否をめぐる争いが生じ、紛争解決の必要性ひいては敗訴責任の公平分担の趣旨に反する。したがって、保証債務の履行請求権の訴訟に主債務者が補助参加した場合に保証人が敗訴した場合であって、後の求償請求訴訟で保証人が参加的効力を援用したときは、原則として主債務の存在に参加的効力が及ぶと解する。
 もっとも、保証人が主債務の存在を疑わしめる重要な証拠であって主債務者の知らないものを所持していたにもかかわらず、前訴においてその提出を怠っていた場合には、保証人が代替する、主債務者に参加的効力を及ぼすことを正当化する手続保障が尽くされていなかったと言える。したがって、その場合には、例外的に、主債務者に参加的効力が及ばないと解すべきである。
 本件でも、Yは主債務の存在を疑わしめる重要な証拠であってZの知らないものを所持していたにもかかわらず、XY間の訴訟において、その証拠の提出を怠っていたという事情があるから、例外の場合に当たり、Zに参加的効力は及ばない。
 したがって、Zは、YZ間の訴訟において、主債務の存在を争うことができる。  以上

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