2016年02月05日
民事訴訟法 平成19年度第2問
問題文
甲は、乙に対して貸金債権を有しているとして、乙に代位して、乙が丙に対して有する売買代金債権の支払いを求める訴えを丙に対して提起した。
1 甲の乙に対する貸金債権の存否に関する裁判所の審理は、どのようにして行われるか。
2 乙の丙に対する売買代金債権が弁済により消滅したことが明らかになった場合、裁判所は、その段階で、甲の乙に対する貸金債権の存否の判断を省略して、直ちに甲の丙に対する請求を棄却する判決をすることができるか。
3 裁判所は、甲の乙に対する貸金債権は存在し、乙の丙に対する売買代金債権は弁済により消滅したと判断して、甲の丙に対する請求を棄却する判決を言い渡し、その判決が確定した。当該貸金債権が存在するとの判断が誤っていた場合、この判決の既判力は乙に及ぶか。
回答
設問1
債権者代位訴訟では、被保全債権の存在は、実体法上の債権者代位権(民423条)の発生要件であるとともに、訴訟法上は代位債権を行使するための訴訟要件である。本問の事案を使って詳述すると、甲の乙に対する債権が存在するということが、甲が乙の丙に対する債権を行使する当事者適格を基礎づける。
当事者適格とは、当事者として訴訟追行し、判決の名宛人となる資格を意味する訴訟要件であり、通常は訴訟物に関して最も強い利害関係を有する実体法上の権利を持つ者に対して認められる。しかし、実体法上の権利者でなくても、訴訟担当者として当事者適格が認められる場合がある。破産管財人は法定訴訟担当者として破産者の代わりに当事者適格を認められるし、組合の代表者が任意的訴訟担当者として当事者適格を認められる場合もある。
債権者代位権は、それが行使されれば債務者は代位債権すなわち自己の第三債務者に対する債権の処分権限を失う仕組みになっている(非訟事件手続法88条3項)。つまり、債権者代位権が行使された場合には実体法上の権利者が処分権限を失い、代位債権者のみが債務者の有する債権を行使することになる。
このように、甲の乙に対する貸金債権の存在は訴訟要件たる当事者適格を基礎づけるものであるから、論理的にはそれを判断しないと本案たる乙の丙に対する債権の存否の判断に入ることができない。しかし、実際には二つの権利の存否の判断は並行して行われる。このように並行して行っても、通常は裁判官が被保全債権が存在しないとの心証を形成した時点で代位債権の存否についての審理を打ち切って訴え却下判決をすればよいから、不都合はない。
設問2
ただ、被保全債権と代位債権を並行して審理するとなると、裁判官が代位債権の存否についての心証を先に形成してしまう可能性がある。それが本問の場合である。
この場合に裁判官が被保全債権の存否について判断しないまま審理を打ち切って判決をしてしまうと、以下のような不都合がある。すなわち、仮に被保全債権が存在していなかったならば、代位債権者は実体法上債権者代位権を有していなかったということになり、したがって、訴訟法上当事者適格がない者によって第三者の権利が処分されたという事態になる。形式的には当事者適格などの訴訟要件は本案の判断をする前提であるし、実質的には当事者適格のない者すなわち実体法上の権利者ではなく、第三者の権利を行使することも正当化されない者によって権利が処分されたことになり、債権者本問では乙の不利益は著しい。
したがって、裁判所は、乙の丙に対する債権が消滅したことが明らかになったとしても、甲の乙に対する貸金債権の存否の判断は省略できず、請求棄却判決をすることはできない。
設問3
甲が乙に代位して乙の丙に対する債権を行使した訴訟を前訴とすると、前訴の既判力(確定判決の後訴での通用力ないし拘束力)は「主文に包含するもの」(114条1項)すなわち訴訟物について生じるから、甲の乙に対する債権の存否には既判力は生じない。そこで、本問でいうと乙が、甲の乙に対する債権の不存在の確認を求めることは、前訴の既判力には抵触しない。
その確認訴訟で請求認容判決が出された場合には、前訴の甲は当事者適格なく乙の債権を行使したことになり、設問2で述べた不都合が事後的に生じる。この場合は、以下のように考えるべきである。
すなわち、前訴は当事者適格の欠缺すなわち訴訟要件の欠缺を看過して出された判決であるから当然無効であり、既判力は発生しない。したがって、存在しない既判力は当然乙に及ばない。 以上
甲は、乙に対して貸金債権を有しているとして、乙に代位して、乙が丙に対して有する売買代金債権の支払いを求める訴えを丙に対して提起した。
1 甲の乙に対する貸金債権の存否に関する裁判所の審理は、どのようにして行われるか。
2 乙の丙に対する売買代金債権が弁済により消滅したことが明らかになった場合、裁判所は、その段階で、甲の乙に対する貸金債権の存否の判断を省略して、直ちに甲の丙に対する請求を棄却する判決をすることができるか。
3 裁判所は、甲の乙に対する貸金債権は存在し、乙の丙に対する売買代金債権は弁済により消滅したと判断して、甲の丙に対する請求を棄却する判決を言い渡し、その判決が確定した。当該貸金債権が存在するとの判断が誤っていた場合、この判決の既判力は乙に及ぶか。
回答
設問1
債権者代位訴訟では、被保全債権の存在は、実体法上の債権者代位権(民423条)の発生要件であるとともに、訴訟法上は代位債権を行使するための訴訟要件である。本問の事案を使って詳述すると、甲の乙に対する債権が存在するということが、甲が乙の丙に対する債権を行使する当事者適格を基礎づける。
当事者適格とは、当事者として訴訟追行し、判決の名宛人となる資格を意味する訴訟要件であり、通常は訴訟物に関して最も強い利害関係を有する実体法上の権利を持つ者に対して認められる。しかし、実体法上の権利者でなくても、訴訟担当者として当事者適格が認められる場合がある。破産管財人は法定訴訟担当者として破産者の代わりに当事者適格を認められるし、組合の代表者が任意的訴訟担当者として当事者適格を認められる場合もある。
債権者代位権は、それが行使されれば債務者は代位債権すなわち自己の第三債務者に対する債権の処分権限を失う仕組みになっている(非訟事件手続法88条3項)。つまり、債権者代位権が行使された場合には実体法上の権利者が処分権限を失い、代位債権者のみが債務者の有する債権を行使することになる。
このように、甲の乙に対する貸金債権の存在は訴訟要件たる当事者適格を基礎づけるものであるから、論理的にはそれを判断しないと本案たる乙の丙に対する債権の存否の判断に入ることができない。しかし、実際には二つの権利の存否の判断は並行して行われる。このように並行して行っても、通常は裁判官が被保全債権が存在しないとの心証を形成した時点で代位債権の存否についての審理を打ち切って訴え却下判決をすればよいから、不都合はない。
設問2
ただ、被保全債権と代位債権を並行して審理するとなると、裁判官が代位債権の存否についての心証を先に形成してしまう可能性がある。それが本問の場合である。
この場合に裁判官が被保全債権の存否について判断しないまま審理を打ち切って判決をしてしまうと、以下のような不都合がある。すなわち、仮に被保全債権が存在していなかったならば、代位債権者は実体法上債権者代位権を有していなかったということになり、したがって、訴訟法上当事者適格がない者によって第三者の権利が処分されたという事態になる。形式的には当事者適格などの訴訟要件は本案の判断をする前提であるし、実質的には当事者適格のない者すなわち実体法上の権利者ではなく、第三者の権利を行使することも正当化されない者によって権利が処分されたことになり、債権者本問では乙の不利益は著しい。
したがって、裁判所は、乙の丙に対する債権が消滅したことが明らかになったとしても、甲の乙に対する貸金債権の存否の判断は省略できず、請求棄却判決をすることはできない。
設問3
甲が乙に代位して乙の丙に対する債権を行使した訴訟を前訴とすると、前訴の既判力(確定判決の後訴での通用力ないし拘束力)は「主文に包含するもの」(114条1項)すなわち訴訟物について生じるから、甲の乙に対する債権の存否には既判力は生じない。そこで、本問でいうと乙が、甲の乙に対する債権の不存在の確認を求めることは、前訴の既判力には抵触しない。
その確認訴訟で請求認容判決が出された場合には、前訴の甲は当事者適格なく乙の債権を行使したことになり、設問2で述べた不都合が事後的に生じる。この場合は、以下のように考えるべきである。
すなわち、前訴は当事者適格の欠缺すなわち訴訟要件の欠缺を看過して出された判決であるから当然無効であり、既判力は発生しない。したがって、存在しない既判力は当然乙に及ばない。 以上
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