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2016年02月04日

民事訴訟法 平成16年度第2問

問題文
 Xは、Yに対し、200万円の貸金債権(甲債権)を有するとして、貸金返還請求訴訟を提起したところ、Yは、Xに対する300万円の売掛金債権(乙債権)を自働債権とする訴訟上の相殺を主張した。
 この事例に関する次の1から3までの各場合について、裁判所がどのような判決をすべきかを述べ、その判決が確定した時の既判力について論ぜよ。
1 裁判所は、甲債権及び乙債権のいずれもが存在し、かつ、相殺適状にあることについて心証を得た。
2 Xは、「訴え提起前に乙債権を全額弁済した。」と主張した。裁判所は、甲債権が存在すること及び乙債権が存在したがその全額について弁済の事実があったことについて心証を得た。
3 Xは、甲債権とは別に、Yに対し、300万円の立替金償還債権(丙債権)を有しており、訴え提起前にこれを自働債権として乙債権と対等額で相殺した。」と主張した。裁判所は、甲債権が存在すること並びに乙債権及び丙債権のいずれもが存在し、かつ、相殺の意思表示の当時、相殺適状にあったことについて心証を得た。

回答
設問1
1 裁判所がすべき判決
 裁判所は、「Xの請求を棄却する。乙債権は200万円の限度で存在しない。」という判決をすべきである。
 甲債権の存在が認められるから請求原因は成立する。しかし、乙債権の存在も認められ、かつ相殺適状にあるということになると、Yの相殺の抗弁が成立する。これに対する再抗弁はない。したがって、請求棄却となる。
 114条2項より、相殺のために主張した請求の不存在には相殺をもって対抗した額について既判力が生じるから、それも主文に示す必要がある。本件では甲債権の額が200万円だから、Yの主張する乙債権の額は300万円であるが、甲債権に対する相殺をもって対抗した額の200万円についてのみ不存在の判断を主文に示すことになる。
 なお、同条には「成立又は不成立の判断」に既判力が生じると書いてあるが、実際には「不存在」について生じるものと解されている。
2 その判決が確定した時の既判力
 既判力とは、確定判決の後袖の通用力ないし拘束力を言い、訴訟法上の効力である(訴訟法説)。既判力は紛争の蒸返し防止のために必要であり、当事者が手続保障を尽くしたことで正当化される。
 既判力の客観的範囲は「主文に包含するもの」(114条1項)つまり原則として訴訟物についてだと考えられている。なぜなら、その範囲で既判力を生じさせれば紛争解決に十分だし、当事者の攻撃防御は訴訟物の存否について行っているからこの範囲で既判力を生じさせても当事者の手続保障が尽くされていると言えるし、訴訟物にのみ既判力が生じるとすれば裁判所は実体法上の論理的順序に拘束されることなく判断しやすいものから判断すればよくなり審理の弾力化ひいては迅速な裁判に資するからである。
 もっとも、相殺の抗弁が主張された場合にはその債権の不存在についても前述のように既判力が生じる(114条2項)。これは、相殺の抗弁は被告の側も債権の存在を主張立証して争う性質のものであることにかんがみ、その債権について紛争の蒸し返しが生じるのを防ぐための規定である。被告は訴訟で実際に争っているのだから、手続保障も尽くされている。
 そうすると、相殺のために被告が主張した債権の全額について既判力を生じさせてもよさそうなものだが、114条2項は「相殺をもって対抗した額について」既判力を生じるとしている。これは、相殺の抗弁があくまでも抗弁であることから、訴訟物の債権額以上についてはたとえ被告が主張したとしてもその存否について十分に判断しないのが通常であることを想定し、定められたものと解する。
 本件では、まず訴訟物の債権額である200万円の甲債権の不存在について既判力が生じる。そして、相殺の抗弁で主張された乙債権のうち、甲債権の額である200万円の不存在についても既判力が生じる。
設問2
1 裁判所がすべき判決
 裁判所は、「Yは、Xに対し、200万円を支払え。乙債権は200万円の範囲で存在しない。」という判決をすべきである。
 本件も設問1と同様に請求原因及び相殺の抗弁が成立するが、Xの乙債権を弁済した旨の再抗弁も成立するため、結局請求が認められる。したがって、上記のような請求認容判決になる。
 そして、114条2項より乙債権の200万円の限度での不存在にも既判力が生じる。
2 既判力
 既判力が生じる範囲は、甲債権の不存在と、乙債権の200万円の限度での不存在である。
 そうすると、Yの主張する乙債権の額は300万円だから、主文で不存在が確認された200万円以外の100万円については既判力が生じておらず、乙はそれについて訴訟で争うことができることになる。しかし、乙債権は「全額について」の弁済の再抗弁が成立したのであるから、Xを原告とした前訴で、乙債権は全く存在しないことが判断されている。にもかかわらずYが後に乙債権のうち既判力が生じていない100万円を遡及するというのは、紛争の蒸し返しである。
 前述のように既判力は紛争の蒸し返しを防止する必要性から認められる効力であるが、既判力ですべての紛争の蒸し返しを防止できるわけではない(既判力は紛争の蒸し返しを防ぐための必要条件であるが、十分条件ではない)。このように、既判力によってシャットアウトできない部分の紛争の蒸し返しは、どのように防止すべきか。
 学説上、争点効が主張されている。争点効とは、前訴及び後訴で当事者が実際に争った主要な争点について裁判所が実質的な判断をした場合に生じる効力で、当事者が援用することにより、係争利益が同質である限りで後訴裁判所が拘束されるものをいう。根拠は当事者間の公平や信義則である。これに対しては判決理由中の判断に既判力が生じないことと矛盾するとか、中間確認の訴えの制度(145条)は争点効を認めないことを前提としているとかの批判があり、判例も争点効を否定している。
 そこで、信義則(2条)を根拠としてYの主張を遮断すればよい。信義則は漠然としているので、権利失効の原則と矛盾挙動禁止の原則に類型化するのが一般的である。本件は権利失効の原則が当てはまる。なお、判例も信義則で蒸し返しを防止しているが、判例の信義則は既判力のような主張の排斥ではなく、後訴の却下を導くものである。
設問3
1 裁判所がすべき判決
 裁判所は、「Yは、Xに対し、200万円を支払え。乙債権は200万円の限度で存在しない。丙債権は200万円の限度で存在しない。」という判決をすべきである。
 請求原因と抗弁が成り立つのは設問1と同様である。本問では再抗弁として別の債権による相殺が主張されておりこれが成立するから、結局請求認容となる。そして、相殺が抗弁ではなく再抗弁で主張された場合にもその債権について紛争の蒸返しを防止する必要はあるし、114条2項の文言は相殺が抗弁で主張された場合に限定されていないから、再抗弁で主張された丙債権の200万円の範囲での不存在についても後述のように既判力を生じさせるべきである。よって、それも主文に示す。
2 既判力について
 甲債権の存在及び乙債権の200万円の範囲での不存在に既判力が生じることは設問2と同様である。それらに加えて、本件では再抗弁として主張された丙債権の不存在にも既判力を生じさせるべきである。理由は前述のとおりである。
 なお、訴訟上の相殺の抗弁に対し、訴訟上相殺の再抗弁をすることは、仮定に仮定を重ねることになり訴訟が複雑化するから許されないという趣旨を述べた判例があるが、本件は裁判外での相殺を訴訟上援用したに過ぎず、仮定に仮定を重ねるものではないから、この判例の射程外である。  以上

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