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2016年02月04日

民事訴訟法 平成17年度第2問

問題文
 甲は、A土地を所有していると主張して、A土地を占有している乙に対し、所有権に基づきA土地の明け渡しを求める訴えを提起し、この訴訟(以下「前訴」という。)の判決は、次のとおり、甲の請求認容又は甲の請求棄却で確定した。その後、次のような訴えが提起された場合(以下、この訴訟を「後訴」という。)、後訴において審理判断の対象となる事項は何か、各場合について答えよ。
1 甲の請求を認容した前訴の判決が確定したが、その後も乙がA土地を明け渡さないため、甲は、再度、乙に対し、所有権に基づきA土地の明渡しを求める訴えを提起した。
2 甲の請求を認容した前訴の判決が確定し、その執行がされた後、乙は、自分こそがA土地の所有者であると主張して、甲に対し、所有権に基づきA土地の明渡を求める訴えを提起した。
3 甲の請求を棄却した前訴の判決が確定した。その後、丙が乙からA土地の占有を譲り受けたため、甲は、丙に対し、所有権に基づきA土地の明渡を求める訴えを提起した。

回答
設問1
 終局判決には既判力(114条1項)がある。既判力とは確定判決の後訴での通用力ないし拘束力を意味する訴訟法上の効力であり(訴訟法説)、紛争解決の必要性ゆえに認められ、当事者が手続保障を尽くしたことにより正当化される。
 このような既判力の作用として、当事者は既判力に抵触する主張をすることができず、裁判所はそのような主張を排斥すること(消極的作用)、及び、裁判所は既判力の生じている判断を前提として審理判断しなければならないこと(積極的作用)がある。
 既判力が上記のようなものだとしても、実体法上の権利義務関係は時の経過とともに変動するから、既判力がどの時点の権利関係を確定した者なのかを決める必要がある。この既判力の基準時は、口頭弁論終結時である(民事執行法35条2項参照)。なぜなら、当事者は口頭弁論終結時までは新たな主張ができ、その時点まで手続保障が尽くされていると言えるからである。
 ここまでを確認したうえで本件を見るに、甲は、前訴で勝訴したのと同じ訴訟物を持ち出して訴訟提起している。この場合、前訴の口頭弁論終結時の権利関係、すなわちA土地の所有権が甲にあることについて既判力が生じているので、甲が再び自分に所有権があることを主張する意味は、通常はない。したがって、裁判所はこのような訴えが提起された場合。職権で前訴の存在を探知し、前訴の口頭弁論終結時にA土地の所有権が甲にあったことをまず確定する(既判力の積極的作用)。甲はそれに反する主張ができず、裁判所はそれに反する主張が出てきたら排斥する(既判力の消極的作用)。次に、前訴の口頭弁論終結後にA土地の所有権の変動があったか否かを判断する。そして、A土地の所有者が変動する原因がないと判断した場合には、訴えの利益がないという理由で訴えを却下する。
 したがって、後訴において審理判断の対象となる事項は、前訴の口頭弁論終結後のA土地についての権利変動原因の有無である。この判断は訴えの利益の判断として、すなわち訴訟要件の判断として行われる。
設問2
 本問は、訴訟物は前訴と同じであるが、原告と被告が入れ替わっている。本問でも前訴の口頭弁論終結時にA土地の所有権がAにあること(既判力の積極的作用)と乙の主張を前提として、現在、乙がA土地の所有権を有しているかを判断する。乙の所有権が認められれば、甲の占有を認定したうえで請求認容判決をし、認められなければ請求棄却判決をする。乙は前訴の口頭弁論終結前の物権変動原因を主張することができず、裁判所はそのような主張を排斥する(既判力の消極的作用)。
 したがって、後訴において審理判断となる対象事項は、乙が現在A土地の所有権を有しているか否かである。
 設問1では甲が原告だったため、甲は自らにA土地の所有権があることを請求原因として主張立証しなければならなかった。そのため、前訴の口頭弁論終結時以降に、A土地について何らかの物権変動原因があるかどうかが審判対象だった。何らかの物権変動(例えば訴外丙への贈与)があれば甲にA土地の所有権がないことが明らかになり、甲の請求原因が成立しなくなるからである。しかし、本問では乙が原告であるため、裁判所は甲に所有権がないことのみならず、乙に所有権があることを審理判断の対象としなければならない。 
 また、乙が現在A土地の所有権を有しているか否かは訴訟要件を基礎づける事由ではなく、本案における請求原因を基礎づける事由であるという違いもある。
設問3
 前訴で甲の請求が棄却されているということは、前訴の口頭弁論終結時においてA土地の所有者が甲でないことに既判力が生じている。そのことを前提として(既判力の積極的作用)、裁判所は、前訴の口頭弁論終結時以降に甲がA土地の所有権を取得したかを審理判断する。それが認められれば、丙の占有があることも判断したうえで、請求認容判決を出す。認められなければ、請求棄却判決を出す。甲は、前訴の口頭弁論終結時に甲にA土地の所有権があったことを主張できないし、裁判所はそのような主張を排斥する(既判力の消極的作用)。
 したがって、後訴において審理判断の対象となるのは、前訴口頭弁論終結時以後、A土地の所有権が甲に移ったか否かである。
 この判断も、単にA土地の所有権が甲にないことではなく、現在甲にあることを判断しなければならないので、原告甲の立証の難易度は設問1より高い。
 また、設問1とは異なり、甲に所有権があるかどうかの判断は本案の問題である。 以上

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