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2017年09月05日

数学: 圏としての半順序集合とその逆圏


数学: 圏としての群・モノイド・半順序集合の逆圏 (修正版)
数学: 圏としてのモノイドとその逆圏
の続き.

$P = (O, \le)$ を半順序集合とする. ここで $O = \lvert P \rvert$ は台集合, $\le$ は $O$ 上の半順序, すなわち反射率・反対称律・推移律を満たす $O$ 上の関係である.

$P$ は次のようにして圏と見做すことができる.
・ 対象の集合を $O$ とする.
・ $x, y \in P$ に対して, $x \le y$ が成り立つとき, $x$ から $y$ への唯一の射 $\mathrm{ar}(x, y) : x \to y$ が存在し, $x \not\le y$ のとき $x$ から $y$ への射は存在しないとする. つまり
\begin{equation*}
\newcommand{\Ar}[1]{\mathrm{Ar}{#1}}
\newcommand{\ar}{\mathrm{ar}}
\newcommand{\arop}{\Opp{\mathrm{ar}}}
\newcommand{\Hom}{\mathrm{Hom}}
\newcommand{\Id}[1]{\mathrm{id}_{#1}}
\newcommand{\Mr}[1]{\mathrm{#1}}
\newcommand{\Ms}[1]{\mathscr{#1}}
\newcommand{\Ob}[1]{\mathrm{Ob}(#1)}
\newcommand{\Opp}[1]{{#1}^{\mathrm{op}}}
\newcommand{\Pos}{\mathbf{Pos}}
\newcommand{\q}{\hspace{1em}}
\newcommand{\qq}{\hspace{0.5em}}
\newcommand{\Src}{d^{0,\mathrm{op}}}
\newcommand{\Tgt}{d^{1,\mathrm{op}}}
\Hom(x, y)
= \begin{cases}
\{ \ar(x, y) : x \to y \} & (x \le y), \\
\varnothing & (\text{otherwise})
\end{cases}
\end{equation*}
である.
射の集合 $A$ を
\begin{equation*}
A = \bigcup_{x, y \in O} \Hom(x, y)
\end{equation*}
と定義する.

・$x \le y$ のとき射 $\ar(x, y) : x \to y$ が存在する. これに対してその「ソース」と「ターゲット」を対応させる関数 $d^0, d^1 : A \to O$ を
\begin{equation*}
d^0(\ar(x, y)) = x, \quad d^1(\ar(x, y)) = y
\end{equation*}
と定義する.
・各 $x \in P$ に対して $x \le x$ が成り立つ (反射率). よって $\ar(x, x) : x \to x$ が存在する. $\ar(x, x) = \Id{x}$ と書くことにし, 関数 $u : A \to O$ を
\begin{equation*}
u(x) = (\Id{x} : x \to x) = \Id{x}
\end{equation*}
と定義する.
・$x, y, z \in P$ に対して $x \le y, y \le z$ が成り立つとき, $x \le z$ が成り立つ (推移律). これは $\ar(x, y), \ar(y, z)$ が存在するときに $\ar(x, z)$ が存在することを意味する.

集合 $A_2$ を
\begin{align*}
A_2 &= \left\{\, (\ar(y, z), \ar(x, y)) \mid x, y, z \in O. \, x \le y, y \le z \,\right\},
\end{align*}
と定め, 関数 $m : A_2 \to A$ を
\begin{equation*}
m(\ar(y, z), \ar(x, y)) = \ar(x, z)
\end{equation*}
と定義する.
$m(\ar(y, z), \ar(x, y))$ を
\begin{equation*}
\ar(y, z) \circ \ar(x, y)
\end{equation*}
とも記す.


このとき, 6 つ組 $(A, O, d^0, d^1, u, m)$ は圏になり, 半順序集合 $P$ を 6 つ組として
\begin{equation*}
P = (A, O, d^0, d^1, u, m)
\end{equation*}
と表わすことにより圏と見做すことができる.

$P$ 上の関係 $\le$ が満たす反射率・反対称律・推移律は圏としての $P$ においては射の集合 $A$ の性質として次のように記述される:

$x, y, z$ を $O = \Ob{P}$ の元とする. このとき, 次の法則が成り立つ.
・ 反射率: 各 $x$ に対して射 $\Id{x} = \ar(x, x) : x \to x$ が存在する;
・ 反対称律: $\ar(x, y)$ および $\ar(y, x)$ が両者とも存在するならば
\begin{equation*}
\ar(x, y) = \Id{x} = \ar(y, x)
\end{equation*}
である;
・ 推移律: $\ar(x, y)$ および $\ar(y, z)$ が両者とも存在するならば $\ar(x, z)$ も存在して
\begin{equation*}
\ar(x, z) = \ar(y, z) \circ \ar(x, y)
\end{equation*}
である.


圏としての半順序集合 $P$ の逆圏 $\Opp{P}$ は以下のものから構成される.

・ 対象の集合 $\Opp{O} = O$.
$x \in \Opp{O}$ の元は, それが $P$ の逆圏の対象であることを強調したいときには $\Opp{x}$ のように表わす.
・ 射の集合 $\Opp{A} = \left\{\, \arop(x, y) : x \to y \mid x, y \in \Opp{O} \,\right\}$.
$\arop(x, y) : x \to y$ は $A$ に属する射としては $\ar(y, x) : y \to x$ に対応する.

・ 射 $\arop(x, y) : x \to y$ に対してそのソースとターゲットを対応させる関数 $\Src, \Tgt : \Opp{A} \to \Opp{O}$:
\begin{equation*}
\Src(\arop(x, y)) = x, \quad \Tgt(\arop(x, y)) = y.
\end{equation*}
・ 対象 $x$ に対してその上の恒等射 $\Id{x} = \arop(x, x)$ を対応させる関数 $\Opp{u} : x \to x$:
\begin{equation*}
\Opp{u}(x) = (\Id{x} : x \to x) = \Id{x}.
\end{equation*}
・ 集合 $\Opp{A_2}$ を
\begin{equation*}
\Opp{A_2} = \left\{\, (\arop(y, z), \arop(x, y)) \mid x, y, z \in \Opp{O}. \q x \ \le y, y \le z \,\right\}
\end{equation*}
と定義したとき, $(\arop(y, z), \arop(x, y)) \in \Opp{A_2}$ に対してその合成を対応させる関数 $\Opp{m} : \Opp{A_2} \to \Opp{A}$:
\begin{equation*}
\Opp{m}(\arop(y, z), \arop(x, y)) = \arop(y, z) \circ \arop(x, y) = \arop(x, z).
\end{equation*}

圏としての半順序集合 $\Opp{P}$ は 6 つ組
\begin{equation*}
\Opp{P} = (\Opp{A}, \Opp{O}, \Src, \Tgt, \Opp{u}, \Opp{m})
\end{equation*}
として表わされる.

圏としての半順序集合 $P$ とその逆圏 $\Opp{P}$ の関係については次が成り立つ.

命題. $P$ と $\Opp{P}$ が半順序集合として同型となるための必要十分条件は, 全射 $\varphi : P \to P$ で $x \le y$ となるような任意の対象 $x, y \in P$ に対して
\begin{equation*}
\varphi(y) \le \varphi(x)
\end{equation*}
を満たすようなものが存在することである.

例えば, $S$ を任意の集合とし, $P$ を $S$ の部分集合全体の集合とそれらの間の包含関係 $\subset$ からなる半順序集合 $P$ を考える.
$\Opp{P}$ 上の半順序は包含関係 $\Opp{\subset} = \supset$ である.

$\varphi : P \to P$ を
\begin{equation*}
\varphi(A) = S - A = \left\{\, x \mid x \in S,\, x \not\in A \,\right\} \quad (A \in P)
\end{equation*}
と定義する. $A, B \in P$ で $A \subset B$ を満たす対象の対に対して常に
\begin{equation*}
\varphi(B) = S - B \subset S - A = \varphi(A)
\end{equation*}
が成立するので上記の命題により $P$ と $\Opp{P}$ は半順序集合として同型である.
$i : P \to \Opp{P}$ を
\begin{equation*}
i(A) = \Opp{A}
\end{equation*}
によって定め, $f : P \to \Opp{P}$ を
\begin{equation*}
f = i \circ \varphi
\end{equation*}
と定義する.
\begin{equation*}
f(A) = S - A
\end{equation*}
である.
$f$ は $P$ から $\Opp{P}$ への同型写像となる.
すなわち, 対象 $A, B \in P$ に対して常に
\begin{equation*}
A \subset B \quad\Longrightarrow\quad f(A) \supset f(B)
\end{equation*}
が成り立つ.

同型にならない例: $N$ を非負整数全体の集合とする:
\begin{equation*}
N = \{ 0, 1, 2,\ldots \}
\end{equation*}
$N$ 上には全順序 $\le$ が存在する.

\begin{equation*}
N_1 = \left\{\, (m, 0) \mid m \in N \,\right\}, \quad N_2 = \left\{\, (0, n) \mid n \in N \,\right\}
\end{equation*}
とおいて $N_1$ の元 $(m, 0)$ を $m^{(1)}$, $N_2$ の元 $(0, n)$ を $n^{(2)}$ のように書くことにする.
ただし共通元 $(0, 0) \in N_1 \cap N_2$ は単に $0$, もしくは $N_1, N_2$ の元であることを強調する場合にはそれぞれ $0^{(1)}, 0^{(2)}$ と書く.

$N_1$, $N_2$ はそれぞれ $N$ と同一視できるため, $N$ 上の全順序 $\le$ と同じ順序を考えることができる.

集合 $O$ を
\begin{equation*}
O = N_1 \cup N_2
\end{equation*}
によって定める.

$O$ 上の半順序 $\le_O$ を次のように定義する.
(1) $m^{(1)}, n^{(1)} \in O$ に対して $N$ 上の全順序 $\le$ を $\le_O$ とする. $m^{(1)} \le n^{(1)}$ または $n^{(1)} \le m^{(1)}$ のどちらか一方が成り立つ;
(2) $m^{(2)}, n^{(2)} \in O$ に対して $N$ 上の全順序 $\le$ を $\le_O$ とする. $m^{(2)} \le n^{(2)}$ または $n^{(2)} \le m^{(2)}$ のどちらか一方が成り立つ;
(3) $m^{(1)}, n^{(2)} \in O$ に対しては $m^{(1)} = 0$ もしくは $n^{(2)} = 0$ の場合を除き順序関係を定めない ($m^{(1)}$, $n^{(2)}$ のいずれかが $0 \in N_1 \cap N_2$ のときには順序を定めることができる).

このとき $P = (O, \le_O)$ は半順序集合になる.

圏としての半順序集合 $P$ は始対象 $0$ を持つ.
\begin{equation*}
0 \le_O 1^{(1)} \le_O 2^{(1)} \le_O \ldots, \quad 0 \le_O 1^{(2)} \le_O 2^{(2)} \le_O \ldots
\end{equation*}

終対象は存在しない.

$P$ の逆圏 $\Opp{P} = (\Opp{O}, \le_{\Opp{O}})$ を考える. $\Opp{P}$ 上の半順序 $\le_{\Opp{O}} = \Opp{\le_O}$ は次を満たす.
\begin{equation*}
\ldots 2^{(1)} \,\le_{\Opp{O}}\, 1^{(1)} \,\le_{\Opp{O}}\, 0, \quad \ldots 2^{(2)} \,\le_{\Opp{O}}\, 1^{(2)} \,\le_{\Opp{O}}\, 0,
\end{equation*}
つまり圏としての $\Opp{P}$ は終対象 $0$ を持つが始対象は持たない. したがって $P$ と $\Opp{P}$ は同型ではない.

しかし準同型写像は考えることができる.

たとえば $f : P \to \Opp{P}$ を
\begin{equation*}
f = \begin{cases}
3^{(i)} - n^{(i)} & (n^{(i)} = 0^{(i)},..., 3^{(i)}; i = 1, 2) \\
0
\end{cases}
\end{equation*}
により定義すると, $f$ は準同型写像になる.
\begin{gather*}
f(0) = 3^{(1)} \q\le_{\Opp{O}}\q f(1^{(1)}) = 2^{(1)} \q\le_{\Opp{O}}\q f(2^{(1)}) = 1^{(1)} \q\le_{\Opp{O}}\q f(3^{(1)}) = 0 \q\le_{\Opp{O}}\q f(4^{(1)}) = 0 \q\le_{\Opp{O}}\q f(5^{(1)}) = 0 \q\le_{\Opp{O}}\q \ldots \\
f(0) = 3^{(2)} \q\le_{\Opp{O}}\q f(1^{(2)}) = 2^{(2)} \q\le_{\Opp{O}}\q f(2^{(2)}) = 1^{(2)} \q\le_{\Opp{O}}\q f(3^{(2)}) = 0 \q\le_{\Opp{O}}\q f(4^{(2)}) = 0 \q\le_{\Opp{O}}\q f(5^{(2)}) = 0 \q\le_{\Opp{O}}\q \ldots
\end{gather*}

このことからわかるように $f$ による $P$ の像は有限集合
\begin{equation*}
\left\{\, 3^{(1)}, 2^{(1)}, 1^{(1)}, 3^{(2)}, 2^{(2)}, 1^{(2)}, 0 \,\right\}
\end{equation*}
になる.

実際には, $P$ と $\Opp{P}$ 間の任意の準同型写像の像は常に有限集合となることがわかる.
posted by 底彦 at 23:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 数学
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