監督は川和田恵真という人.
是枝裕和の下で助監督などを務めてきた経歴がある.
自分はこの映画を観て, 歩くのも辛くなるほど消耗した.
それについて書き留めておく.
主人公の高校生の少女, サーリャはクルド人である.
生命の危険から逃れるために幼い頃に家族で日本に逃れてきて, 埼玉のクルド人コミュニティーの中で暮らしている.
父・妹・弟と彼女の四人. 母はすでに他界していない.
父のマズルムは産業廃棄物処理の仕事をして家族を養っている.
サーリャ自身は成績も優秀で小学校の教師になるのが夢だ.
大学に行くために, コンビニでバイトをしながらお金を貯めている.
ある日, 問題が起こる.
父の難民申請が認められなかったのだ.
父は役人に激しく抗議するが, 判定はくつがえらないと言われる.
サーリャと兄弟も在留資格を失い, 埼玉から出ることや, 働くことも禁止される.
父はその後も不法に仕事を続けていたが, それが見つかって入国監理局に収監されてしまう.
サーリャにすべての負担がかかってくる.
不法就労になるためにコンビニの仕事を失い, 一切の収入が無くなる.
家賃も払えない.
推薦が決まりかけていた大学からも, ビザが無いために入学を拒否される.
この頃からサーリャの顔に苦悩の表情が浮かび始める.
笑顔が消える. 無理に笑おうとするが, すぐにこわばる.
進路相談のときに教師から「何とか頑張っていこう」と励まされるが, 「もう頑張ってます!」と声を荒げる.
苦しい.
救いが無い. 見つけようとしても何処にも光が見当たらない.
日々の生活にも困るようになる.
貯めたお金はおそらく生活のために使ってしまう.
バイト先の高校生聡太, クルド人コミュニティーの女性, 人権派の弁護士など, サーリャや家族を気にかけてくれる人たちはいる.
しかし全てのことがどうにもならない.
父のこと, 妹や弟のこと, 生活のこと, そして自身の将来のこと.
苛立ちや悲しみや僅かな心の支え.
そういったもの全てが苦悩の中に飲み込まれてしまう.
主演の嵐莉菜の演技がいい. サーリャと一体になっているようだ.
それほどのめり込んだ結果として, 特に物語の後半などは相当苦しい演技を強いられたと思う.
苦しみは確かに画面から伝わってきた.
観ている側として, 精神的に追い詰められてくるほどである.
自分はその苦しみにやや過度に共感してしまい, 呼吸が苦しくなった.
サーリャと弟のロビン, そして聡太が屋外で一緒にペインティングをする場面がある.
3 人が本当に絵を描くことを楽しんでいる様子が伝わってきて, この映画での僅かな救いのシーンとなった.
こんな笑顔になれる少女だったのだ.
この作品は当事者の痛みと苦しみの物語である.
そして, 外にいる者もその痛みと苦しみに向き合わざるを得ない.
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