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2022年05月21日

映画『マイスモールランド』のこと

水曜日に『マイスモールランド』という映画を観てきた.
監督は川和田恵真という人.
是枝裕和の下で助監督などを務めてきた経歴がある.

自分はこの映画を観て, 歩くのも辛くなるほど消耗した.
それについて書き留めておく.

主人公の高校生の少女, サーリャはクルド人である.
生命の危険から逃れるために幼い頃に家族で日本に逃れてきて, 埼玉のクルド人コミュニティーの中で暮らしている.
父・妹・弟と彼女の四人. 母はすでに他界していない.

父のマズルムは産業廃棄物処理の仕事をして家族を養っている.

サーリャ自身は成績も優秀で小学校の教師になるのが夢だ.
大学に行くために, コンビニでバイトをしながらお金を貯めている.

ある日, 問題が起こる.
父の難民申請が認められなかったのだ.
父は役人に激しく抗議するが, 判定はくつがえらないと言われる.
サーリャと兄弟も在留資格を失い, 埼玉から出ることや, 働くことも禁止される.

父はその後も不法に仕事を続けていたが, それが見つかって入国監理局に収監されてしまう.

サーリャにすべての負担がかかってくる.

不法就労になるためにコンビニの仕事を失い, 一切の収入が無くなる.
家賃も払えない.
推薦が決まりかけていた大学からも, ビザが無いために入学を拒否される.

この頃からサーリャの顔に苦悩の表情が浮かび始める.
笑顔が消える. 無理に笑おうとするが, すぐにこわばる.

進路相談のときに教師から「何とか頑張っていこう」と励まされるが, 「もう頑張ってます!」と声を荒げる.

苦しい.
救いが無い. 見つけようとしても何処にも光が見当たらない.

日々の生活にも困るようになる.
貯めたお金はおそらく生活のために使ってしまう.

バイト先の高校生聡太, クルド人コミュニティーの女性, 人権派の弁護士など, サーリャや家族を気にかけてくれる人たちはいる.
しかし全てのことがどうにもならない.

父のこと, 妹や弟のこと, 生活のこと, そして自身の将来のこと.
苛立ちや悲しみや僅かな心の支え.
そういったもの全てが苦悩の中に飲み込まれてしまう.

主演の嵐莉菜の演技がいい. サーリャと一体になっているようだ.
それほどのめり込んだ結果として, 特に物語の後半などは相当苦しい演技を強いられたと思う.

苦しみは確かに画面から伝わってきた.
観ている側として, 精神的に追い詰められてくるほどである.

自分はその苦しみにやや過度に共感してしまい, 呼吸が苦しくなった.

サーリャと弟のロビン, そして聡太が屋外で一緒にペインティングをする場面がある.
3 人が本当に絵を描くことを楽しんでいる様子が伝わってきて, この映画での僅かな救いのシーンとなった.
こんな笑顔になれる少女だったのだ.

この作品は当事者の痛みと苦しみの物語である.
そして, 外にいる者もその痛みと苦しみに向き合わざるを得ない.
posted by 底彦 at 23:30 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日常生活
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