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2023年02月28日

名建築の中の素晴らしき時間

先週末は、親戚の結婚式があり、久しぶりに東京に帰ってきた。
数年前のリニューアル後、なかなか訪れる機会のなかった老舗ホテルが式場だった。
そこは、私にとって、公私ともに縁の深いホテルでもあった。

そして、結婚式も披露宴も心温まる素晴らしいものであった。

父の葬儀に至るまで、叔父や叔母など数多くのかけがえのない人たちを次々と見送ってきた。この数年は、悲しいセレモニーばかり経験してきた。
そんな時間の中での、久しぶりの結婚式。
別れのセレモニーではなく、未来につながる出会いの場。
おめでとうございます、という言葉に満ち溢れたお祝いの時間。
ああ、ハレの場というのは、なんと素晴らしいものなのだろう、あらためてそう感じた。

少々年を重ねた新郎新婦の式だけに、とても落ち着いた好ましいものであった。
それも心地よかった。
お相手のご親戚を紹介され、上司や同僚、友人の皆さんを拝見していると、とても良縁であることがあらためて実感できた。お若い方の式とは異なり、歌や大騒ぎもなく、スピーチも、しかるべき方が、各々心のこもった祝辞を述べておられた。そして、お開きとなる直前の新郎の御父上のスピーチもまた秀逸であった。私がこれまで聞いた同様のスピーチの中ではベストといえるもので大変に心を打たれた。

オークラロビー.jpg

心温まる式が終わり、リニューアルされたホテルの名物であるロビーに向かった。
私にとっても、数々の思い出のあるロビーだ。
名建築家谷口吉郎氏の傑作と言われてきたロビーは、今回の改修においても、その雰囲気が継承され再現されたと聞いていた。足を踏み入れると、思わず驚きと喜びの声をあげてしまった。そこには、かつての美しいロビーが見事に再現されていた。
以前の建物を設計した谷口吉郎氏の息子である谷口吉生氏は、父の仕事を、真摯に正確に捉え、それをできる限り生かしながら、見事に現代の味わいに昇華した。

ソファに腰を下ろし、かつて何度も訪れたロビーとほとんど変わらぬ空間の中に浸りこんだ。実は色々なご縁もあって、そこは、仕事でもプライベートでも何度も訪れたロビーであり大好きな場所だった。なんと気持ちの良い空間だろうか。昔と変わらぬ雰囲気が再現されていることに胸を打たれた。

結婚式では、先方のご親戚の小さなお子様を見て、妻の姪である新婦がかつて我々の式の時に同じような小さな子供であったことを思い出したといって、妻がしみじみと親御さんに語っていた。
ああ、こういうことが人生の妙なのだなあ、と親子二代の建築家の傑作であるロビーに座りながら強く感じていた。

式が終わり、着替えを済ませた妻と娘と一緒に、これもまた名物であるホテルのバーに寄った。店内に入ると、昔と変わらぬたたずまいに驚かされた。カウンターでなくラウンジ席に座ると、見覚えのあるテーブルがあった。「これ、もしや昔のテーブルと同じじゃないですか?椅子も?・・」そうスタッフに問いかけると、やはり昔の素材を使ってリメイクしたものだという。ちょうど我々が座った席は、かつて上司と一緒に、ホテルでの仕事を終えて飲んだ席と同じ位置だった。娘にそんな話をした。バーカウンターの背面部分も昔の雰囲気である。
妻はダイキリを、娘は珍しいライウィスキーのカクテルを、そして私はビーフィーターのジントニックを頼んだ。なんだかとてつもなく嬉しくなった。

バーを辞し、少し酔いが回っているのを感じたので、3人でタクシーに乗り込んだ。
ああ、なんていい夜だろうか。

#谷口吉郎 #名建築
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