「ゲームシナリオのためのクトゥルー神話事典」のダイジェストを兼ねた感想です。
内容に興味を持った方はぜひ本を手に取ってみてください。
■クトゥルフ神話とは
1920年代に作家ラヴクラフト氏が始めた「架空の固有名詞を共有する」遊びがルーツ。
親交のある作家間で流行し、ラヴクラフト氏の死後再編され、架空の神話として体系化された「クトゥルフ神話」であり、出版されたことで知名度を広げました。
そして時代を越えTRPG、ゲームとメディアを変え、創作のいちジャンルとして普及しています。
・クトゥルフ神話:ジャンルとして呼ばれることも多い
・クトゥルー、クトゥルフ:クトゥルフ神話で登場する人外の存在
・クトゥルフ神話TRPG:日本で火付け役になったクトゥルフ神話をモチーフにしたTRPG
・冗長性があり、創作に取り込みやすく、様々な解釈が可能
・日本では600以上の商業作品でモチーフに利用されている
ラヴクラフトは創作の要素以外は科学的な裏付けを好んでおり、実在の地名(ボストン、セーラム、プロヴィデンス)も度々登場しています。
クトゥルフ=巨大な海洋生物を模した異星人が人々を翻弄するイメージが定着していますが、それに捉われる必要はありません。
禁断の書ネクロノミコン、古のもの、ミスカトニック大学といった固有名詞あるいはそれらを匂わせるだけでも、背後に構築された世界観を引用することができます。
■クトゥルフ神話の時系列
クトゥルフ神話は大別して3つの大きな流れがあり、時期により媒体、知名度、影響力が異なります。
[第一期:クトゥルフ神話の誕生初期]
創作上の固有名詞を複数の作品で使う「言葉共有」をラヴクラフト氏が提唱。
一部作家の間で流行し、クトゥルフ神話として一部愛好家に親しまれた。
[第二期:クトゥルフ神話の編集/再編期]
ラヴクラフト氏の死後、クトゥルフ作品を体系化したり作品集として出版する動きが生まれる。ダーレス氏による出版社アーカムハウスの尽力により知名度が広がる。
・クトゥルー神話用語集(グロサリー)
1942年に出版、後に編集される作品集に影響を与える
*精霊の四大設定
*旧神の設定を追加
*ニャルラトホテプの化身の数について「千の異なる姿」と明示
・クトゥルフ神話集
1969年アーカムハウスから刊行された初期の代表的な作品集
[第三期:クトゥルフ神話の発展期]
クトゥルフがTRPG化され、さらにテレビゲームにも影響を与えるようになる。
日本のクトゥルフイメージは編集後の第二期〜第三期の影響を強く受けている。
SAN値の発祥もTRPG。
・クトゥルフ神話TRPG
1980年代
独自の体系化で進化したもの
日本のクゥトゥルフイメージはクゥトゥルフ神話TRPGによるところが大きい
SAN値もここから生まれた
・エンサイクロペディア・クトゥルフ
世界観の解説書
・マレウス・モンストロルム、図解 クトゥルフ神話
辞典の再編したもの
執筆者により、独自の解釈が含まれる
■クゥトゥルフ神話における時間軸設定
・クトゥルー神話作品は「地球がまだできたばかりの頃」「人類誕生以前」といった表現が使われる
・数億年単位のスケール
・地球が生まれる以前、別の星の歴史、宇宙ができる以前にまで遡る作品もある
■地球の位置づけ
・異星人の資源採掘地
・旅の中継地点
・異界にあったのを宇宙に移動させた
■ラヴクラフトの思想
・「自然法則を破るような現象や宇宙における孤立、あるいは“局外者(アウトサイダー)”としての感覚」を重視
・人間の理解の及ばない未知の存在との相対から生じる恐怖を描くコズミック・ホラーを提唱
■コズミックホラーの要素
・物語の人物、読者の理解を超えた存在、状況に遭遇し、自分が無機質で広漠なこの宇宙でたった一人の孤立無援のような、強烈な不安の中に取り残される体験のこと
・クトゥルフ作品の定番句
「想像を絶する宇宙起源の恐怖存在を前に、無力な人間はただ翻弄されるのみ」
・クトゥルフ作品において、コズミックホラーの要素は孤立を表現するための外枠であり、宇宙起源は必須要素ではない
■クトゥルフの定番要素
[ネクロノミコン]
アブドゥル・アルハザードが記した禁断の書物
神々の情報、召喚する術が記載されている
クトゥルフ神話でも重要な位置づけ
[古のもの]
人類を生み出した存在
(正しくは「クトゥルーその他の神々」)
・グレート=オールドワン
旧神との戦いに敗北して、幽閉されている邪神たち
一定数の崇拝者により崇められている
・ウボ=サスラ
地球上の生物の原形を生み出した存在
全ての存在はウボ=サスラに回帰すると言われている
[深きもの]
地球外由来の半魚人のような種族
人と交配し、繁殖する能力を持つ
ラヴクラフトは作中で深きものを人類の始祖と設定していた
ダゴン、クトゥルーのような海洋生物の容姿はクトゥルフの典型イメージでもある
[アルケタイプ]
人類の始祖
[遺跡]
現実世界の遺跡(エジプトのピラミッド、イースター島のモアイ像、城塞や墳墓など)は異種族の住処、神殿であったとされている
[定番行動/設定]
・近隣住民
真相に近づかないように警告したり脅す存在
・学者、研究者
物語の主人公にキーアイテムを渡すきっかけ役
・酔っ払い
過去の事件に関わり身を崩した……という設定の情報提供者
・遺品、アーティファクト
研究者が亡くなり、遺品を受け継ぐことで巻き込まれる
・血筋
先祖が邪神、異界のものと結んだ契約が影響する
・世界崩壊の暗示
強力な力を持つ存在が封印されていて、物語の外にある遠い未来では世界は崩壊する
[邪神の動機]
・人の肉体、精神を喰う(食糧の供給)
・人を翻弄することで快楽を得る
・人を操ることで自身の封印を解く
[対立軸]
・クトゥルー教団、ダゴン秘密教団、秘密機関といった崇拝者が現世利益、血の制約、狂気信仰などを理由に対立する
[主人公]
・探検家、研究者
探究心から踏み込む、巻き込まれる
・神秘家(魔術師含む)
マジックアイテムをきっかけに巻き込まれる
・作家
創作の興味から踏み込む
・捜査官
現世の事件を調べるうちに、背後にある異界の要素に巻き込まれる
[支援団体/組織]
・ナサニエル・ダービイ・ピックマン財団
スポンサー支援を行う(ジョジョにおけるスピードワゴン財団)
・ミスカトニック大学
アメリカのマーカム(実在する地名)にある架空の大学
ネクロノミコンのラテン語版が保存されているといった設定含め、世界設定の一部として登場
教授らを中心に組織されたミスカトニック計画、ウィルマース=ファウンデーションなどがある
・デルタグリーン
米軍内に組織された特殊部隊
対立組織にナチスの秘密機関カロテキアがある
■所見
とこのようにクトゥルフ神話の成り立ちに触れながら、章立てで主要なポイントを解説しています。
目次は次の通り。
第1章 暗黒の神話大系
第2章 邪なる神々
第3章 異形の存在
第4章 旧き神々
第5章 禁断の物品
第6章 恐怖の在処
クトゥルフ神話は幅広い解釈が可能ゆえに、声の大きい引用作品からの影響を受けがちです。
ネットで情報を収集するとTRPG以降のクゥトゥルフ神話TRPGが多く見つかります。
本書は全体の流れを知ることができ、引用対象を取捨選択するのに役立ちます。
たとえば冒頭に書いたように、禁断の書ネクロノミコンのような固有名詞を匂わせるというのは初期クゥトゥルフ神話の用法を思わせます。
近年のトレンドを積極的に取り込めば、ラノベ的なクゥトゥルフ神話らしさを前面に出すことができます。
狂気信仰を目的とした組織の存在、カタストロフィのような世界崩壊あたりはラノベっぽいかもしれませんね(過ぎると10年前っぽさが出るかもしれませんが)。
ラヴクラフト氏は当時の科学を基礎にした現実世界を重視しており、それが100年経った今も古臭くない取り込みやすさの理由だと感じます。
オリジナルの強みを知り、複数人の作家により構築された新しさを取り込む。
その流れを知る入門書として、有用な一冊です。
以上、アイディアや資料をお探しの方にとって参考になれば幸いです。
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