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2021年03月13日
携帯大手に激震必至 2400億円調達した楽天の「歴史的提携」
携帯大手に激震必至 2400億円調達した楽天の「歴史的提携」
新潮社 Foresight(フォーサイト) 3/12(金) 21:06配信
「最も古いビジネスの一つである日本郵政と、1997年に生まれたネット・ベンチャーの歴史的な提携」
3月12日に発表された楽天グループの2,400億円増資は、楽天モバイルを5G時代のフロントランナーへと一気に押し出す可能性がある。ネットとリアルのビジネスが国境を越え融合する新たなフェーズが始まった。
想像してみて欲しい。全国津々浦々、2万4,000局の郵便局にスマホを持った米倉涼子が微笑む「楽天モバイル」のショッキング・ピンクの、のぼりがはためく様子を。NTTドコモ・au(KDDI)・ソフトバンクの首脳陣は、恐らく眩暈を覚える事だろう。
のぼりがはためくかどうかは定かで無いが、全国の郵便局で楽天モバイルの加入手続きが出来る様に為るのは間違い無さそうだ。料金値下げで楽天モバイルに煽られている携帯電話大手3社に取っては「悪夢」としか言い様の無い組み合わせである。
3月12日、楽天グループは「第三者割当増資で約2,400億円を調達する」と発表した。出資するのは日本郵政グループ・中国ネット大手のテンセント&ホールディングス・米小売り大手のウォルマートと、個人としての三木谷浩史楽天グループ会長兼社長・最大の引き受け先は1,500億円を出資する日本郵政だ。
楽天と日本郵政は2020年12月に物流分野で協業を進める業務提携を結んだが、今回、協業の範囲を携帯電話事業やDX(デジタルトランスフォーメーション)等に広げ、楽天からの申し出により、日本郵政が楽天の発行済株式の約8%を保有する大株主に為る事で、両社の関係をより強固にすることでも合意した。
販売拠点は大手3社の10倍に
この日、東京・大手町で開かれた記者会見には三木谷、日本郵政グループ社長の増田寛也らが出席した。全国に2万4,000局の郵便局を持ち、ゆうちょ銀行には1億2,000万の口座を持つ・・・リアルの世界では強固なビジネス基盤を持つ日本郵政だが、デジタル化の進展で年賀状など郵便の配達件数が激減し、リアルの資産は重荷にすら為って居た。
楽天との提携は、価値を喪失しつつあるこれ等りアルの資産をDX(デジタルトランスフォーメーション)で蘇らせる可能性がある。増田は記者会見で楽天を「最高のパートナー」と呼んだ。
しかし、この提携でより大きなメリットを手にするのは楽天だ。2020年春に自前の通信回線を持つMNO(移動体通信事業者)として携帯電話に参入した楽天は、参入から1年で当面の目標である300万件加入を達成した。
5G(第5世代移動通信システム)時代の挑戦者として注目を集める一方で、その大半はインターネットを介した契約であり、実店舗での手続きは極めて少ない。何故なら楽天モバイルの実店舗は全国に約200店しか無いからだ。大手3社の実店舗は夫々2,000店舗を超えている。だが冒頭に書いた様に、今後は資本業務提携を結んだ日本郵政傘下の全国2万4,000店舗で販促が出来る様に為る。
三木谷が「最も古いビジネスの一つである日本郵政と、1997年に生まれたネット・ベンチャーの歴史的な提携」と呼ぶ今回の組み合わせによって、楽天モバイルは大手3社の10倍のリアルな販売拠点を手に入れた。
日本郵政の資産は郵便局だけでは無い。全国に張り巡らせた強固な物流網も、数年前の「宅配クライシス」で苦労した楽天に取っては大きな魅力だ。流通総額4兆5,000億円を超えた楽天市場の巨大な物流を支える為、三木谷は2018年に「ワンデリバリー構想」をブチ上げ、約2,000億円を賭けて宅配大手だけに依存しない自前の物流網の構築に乗り出した。
日本郵政の物流網は、AI(人工知能)を活用した自動化等の面では立ち遅れて居るかも知れないが、物流では先ず「実際に荷物を置くスペースがあること」が大事だ。
リアルなスペースさえ在れば、そこにロボットを持ち込んで効率を上げて行くのはそれ程難しい事で無い。アマゾン・ドット・コムとの激烈な物流競争においても日本郵政との提携は大きな意味を持つ。
楽天の2020年12月期決算で1,142億円の最終赤字を計上した。コロナ禍の巣ごもり消費で主力の楽天市場は絶好調で、モバイルと物流への巨額投資を敢行したことによる「健全な赤字」だが、財務にこれ迄以上の負荷が掛かっている面は否め無い。
第三者割当増資で2,400億円の資金を調達出来たことは、財務面の不安材料を消す意味もある。2,400億円の使い道について、三木谷は会見でこう語った。
「今、世界はトランスフォーメーションの真っ只中にあり、この5年で世の中は根本的に変わるだろう。(その変化の波を捉える為)物流・モバイル・AI等に積極的に投資して行く。物流へのAI導入等では(出資した)日本郵政さんに可成り貢献出来ると思う」
ウォルマートとのタッグの狙いはアマゾンか?
国内では日本郵政との提携に注目が集まり勝ちだが、見逃せ無いのが、テンセントとウォルマートによる出資である。出資額はテンセントが約657億円、ウォルマートが約166億円。
テンセントは中国最大のSNS「ウィー・チャット」を運営し、ゲームソフトやフィンテックでも世界有数の規模を持つ。ウォルマートは言わずと知れた世界最大の小売会社であり、ネットスーパー等「小売のDX」で、あのアマゾンと互角の戦いを繰り広げている。
株式時価総額で言えば世界6位(テンセント)と世界17位(ウォルマート)が楽天をパートナーに選んだ事に為る。楽天は既にウォルマート傘下の西友とネットスーパーを展開して居り、2020年12月には米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)と組んで西友を事実上買収した。
今回、ウォルマート本体が楽天に出資したことにより、両社が米国でタッグを組み、アマゾンに対抗して行く道筋も見えて来た。
「プラットフォーマー」と呼ばれるGAFAM(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン・マイクロソフト)のビジネスが強大だが、原則としてはネットの中に閉じて居た。これからは、ネットスーパーや車の自動運転の様に、ネットとリアルが融合して新しい価値を生み出して行くフェーズに入る。
その意味では日本郵政の様にリアルの資産を持つ古い企業にもデジタルに飛び移る「ワン・チャンス」が巡って来た。放って置けばハガキ消滅と共に役割を失う筈の日本郵政は、ギリギリのタイミングで次世代プラットフォームの一角にしがみ付く可能性を手に入れたのかも知れない。
今回の資本業務提携は楽天を軸に、日米中の巨大企業がネットとリアルを融合した新しいプラットフォームの構築に動き出した第一歩と見る事も出来る。(文中敬称略)
大西康之 以上
〜管理人のひとこと〜
携帯事業に参入し、中継基地局投資で大幅赤字に陥って居た楽天だが、巣ごもりで好調なネット物販事業に支えられ更に今回の2,400億円増資で一息が着けられそうだ。三木谷氏は意外に幸運なビジネスマンなのかも知れない。
八方塞の郵政を引き受けた増田寛也氏も、郵便・貯金・生保・・・以外の道を見付ける為に苦労されたと思うが、矢張り行き着く先はネットと通信・・・5Gへの道へと活路を決めた様だ。その為には、旧政府系のNTTドコモとの競合関係に入るのかが微妙な問題だ。