はい。こんばんは。土斑猫です。
アニメ学校の怪談、二次創作掲載です。
今回の話は今週で終わりです。
次回から、新作の考案のために少しお暇をもらうかもしれません。
その時はどうぞ御容赦を。
それではいつも通り、下の”続く”からどうぞ♪
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―8―
空には、何時しか丸い月が中天にまで昇っていた。
いつの間にか赤味の消えた澄んだ光の中で、その巨体はもう一度大きなゲップをする。
事の有様の一部始終を見届けたさつき達は、今はただ茫然と“彼”の姿を見つめていた。
と、
ズズ・・・
向こうを向いていた身体が、引きずる様な音を立てて動く。
―“彼”が、さつき達の方を向いた。
「「「「――!!」」」」
空に浮かぶ月に負けないくらい、爛々と輝く双眼に見つめられ、思わず身を固くするさつき達。
そんな彼女達をグルリと見回し、“彼”―おとろしはニタリと笑う。
敵意や害意は感じなかったが、元の顔が元の顔。
その凄まじさに、さつき達は腰を抜かしそうになる。
すると―
スゥ・・・
「あ・・・?」
皆の目の前で、おとろしの姿が透けていく。
長く揺れる髪が。
恐ろしげな顔が。
満月の様な目が。
棒杭の如き爪が。
ゆっくり。
ゆっくりと。
だけど確実に。
降り注ぐ月の光の中に、溶け行く様に消えていく。
緩々と。
ゆらゆらと。
そして、最後の瞬間はあっさりと―
フッ
消えた。
後には煌々と。
深々と。
月の光が降り下りるだけ。
その様を、ただ茫然と眺めるさつき達。
と、
パサン
「!?」
不意に響く、乾いた音。
あからさまにビクリとして見てみれば、それまでおとろしの居た辺りに落ちている、一房の木の枝。
近づいてみると、その枝には緑の葉に混じって親指の先ほどの紅い実がたくさんついていた。
「何?これ?」
「何だぁ?最近のガキはこんなのも知らねえのか?」
訝しがるさつきの横を、天邪鬼がそんな事を言いながらとっとこと通り過ぎる。
「ヤマモモだな。まぁ、化物退治に協力した褒美ってとこだろ。」
天邪鬼はそう言って実を一つとると、紅く熟したそれを頬張った。
「結局、あいつは何処に行っちゃったの?」
月明かりの中の帰路、ヤマモモの実を摘みながら、さつきは天邪鬼に訊く。
指に、紅い跡が残る程に熟した実。
噛み潰すと、甘酸っぱい味が口の中いっぱいに広がる。
「あぁん?決まってんだろ。社に帰ったんだよ。」
「社に?だけど御神体はもうなくなっちゃったじゃん?」
「御神体はなくなっても、社と霊的磁場はそのまんまだからな。この後も変な奴が住みつかねぇとも限らん。あいつのお役目は、終わった訳じゃねぇんだよ。」
「・・・そっか。」
納得するさつき。
“彼”はこの後も、あの社を護り続けるのだろう。
自分の主人が帰る、その日まで。
「だけどよ・・・」
ヤマモモの実を数個まとめて頬張りながら、今度はハジメが訊く。
「そんなにお役目が大事なら、なんでそもそも御神体にあんなのが入るのを防がなかったんだよ?そうしてくれてりゃ、オレ達がこんな目に会う事だって・・・」
「そんな事まで知るかよ。大方、居眠りでもしてたんだろ?」
「そう言えばあの方、何処かのんびりしたお顔なさってましたものね。」
紅い実をちびちびと齧りながら、桃子がそう言って笑う。
「も、桃子ちゃん・・・のんびりしたお顔って・・・」
「“あれ”見てそう思えるか・・・」
そんな事を言いながら、顔を引きつらせる二人。
と、その横から―
「そんなの、冗談じゃありませんよ!!」
そんな声が飛んでくる。
振り返れば、そこには憮然とした表情のレオ。
畑怨霊が滅びた後、正気に戻ったのはいい。
だが、その身は烏の嘴やら柿の木肌やらに傷つけられてボロボロ。
そこにさらに包帯や絆創膏(こんな事態もあろうかと桃子が用意してきていた)が巻かれて、ますます怪奇!!生きていた木乃伊男と言った態を様していた。
「彼さえちゃんと仕事をしていてくれれば、僕がこんな目に遭う事も・・・」
「「「「「・・・・・・。」」」」」
しかし、彼がそれを言い終わらぬ内に飛んでくるのは、五つの冷たい視線。
「な・・・何ですか?皆さん・・・。」
思わず汗じとになって後ずさるレオ。
「・・・お前なぁ、どの面下げてそんな事言ってんだ・・・?」
「そうよ。そもそも、事の発端は誰のせいだと思ってる訳?」
「そ・・・それは・・・。」
さつきとハジメににじり寄られ、レオは桃子と敬一郎に助けを求める様な視線を向ける。
だが、
「流石に、擁護の余地はありませんわよ?レオさん。」
「だよねー。」
と、笑う二人はにべもない。
「そ、そんなー。」
「まぁ、おとろし(あいつ)も責任は感じてたんだろ。何しろ、大事な社を空にしてまで、とっ憑かれたお前を追いかけて来たんだからな。」
さつきとハジメに責められるレオを面白そうに眺めながら、天邪鬼が言う。
「責任って・・・。それで僕、酷い目に遭ったんですけど・・・」
「しようがねぇだろ?事は全部、お前が御神体を手放す様にとやった事だ。そう器用な手合いでもなさそうだったしな。そんな手しか使えなかったんだろうよ。まぁ・・・」
そこで言葉を切って、天邪鬼はニヒヒと笑う。
「要はお前の自業自得ってこった。」
「そうよ〜。レオく〜ん?」
「これに懲りたら、少しは反省しろよ〜?」
まさに、四面楚歌とはこの事である。
「は・・・はい・・・。」
結局、ショボンと頷く事しか出来ないレオなのであった。
「さあ、皆さん。早く帰りましょう。お家の方々が、心配してますわ。」
そう言って、桃子がポンポンと手を打つ。
「あ、そうだ!!わたし、晩御飯作らなきゃ!!」
「お腹減ったよ〜。」
「やっべぇ、こんな遅くなっちまって、ゲンコツもんだぞ。こりゃ・・・」
「僕もこれ以上、叱られるのは御免です・・・。」
皆が皆、思い思いの言葉を口にして、再び家路を急ぎ始める。
と、その途中。
「あ、お姉ちゃん、あれ!!」
敬一郎の声に、皆がその指差す方向に目を向ける。
「あ!」
「あんな所に。」
煌々と降り注ぐ月明かり。
ようやく目に届く距離。
そこに、件の社。それを守る鳥居が見えた。
遠目の中、月の明かりに浮かぶそれは、まるで綺麗に模られた影絵の様だった。
「・・・おとろし、もう戻ったのかな?」
「さあな。」
「ねえ。お姉ちゃん。」
そんな言葉とともに、さつきの袖が引かれる。
見れば、こちらを見上げる敬一郎の姿。
「なあに?敬一郎。」
訊き返すさつきに、彼はこんな事を言う。
「助けてくれたお礼、しよーよ。」
その言葉に、桃子が微笑んで頷いた。
「そうですね。そうしましょうか。」
「よーし。それじゃあ・・・」
代表する様に、さつきが一歩前に出る。
「助けてくれて、ありがとうございました。」
鳥居に向かってそう言って、パンパンと拍手二回。そして拝むように両手を合わせて、一礼。
「「「「ありがとうございました。」」」」
パンパン
そう唱和して、皆もそれに習う。
神に対する正式な礼儀など、知りはしない。
けど、気持ちは通じる。
それで、十分な筈だった。
「へ、くだらねぇ事してやがんなぁ。」
頭を下げる皆の傍らで、天邪鬼がそう毒を吐く。
けれど、そんなさつき達を見つめる彼の目は、言葉とは裏腹にひどく優しい。
一拍の間。
やがて、さつきが下げていた頭を上げ、皆に言う。
「さ、みんな。急ごう。」
「おう!!」
「うん!!」
「ま、待ってくださいよぅ〜!!」
口々にそう言って、走り出す。
その間際、桃子はチラリと後ろを振り返る。
遠い月明かり。
その中に浮かぶ鳥居。
その上で、こちらを見つめる大きな二つの目が見えた。
それに向かって、桃子は微笑む。
二つの光が、ニタリと笑った様な気がした。
さて、事件がすんでから一週間、時は至極穏やかに流れていた。
「あ〜、平和ね〜。」
ウサギ小屋の掃除をしながら、さつきがしみじみと言う。
「全くだよなぁ。レオもあれからは大人しくしてるし、やっと懲りたかねぇ?」
いつぞやの様に、キャベツをボールの様に両手で弄びながら、ハジメも言う。
「・・・二人とも、何かあった?」
さつきとハジメの様子を見ていたミオが、そんな事を訊いてくる。
「え、ううん。何で?」
さつきの問い返しに、ミオは言う。
「うん・・・。何か、妙に幸せそうだから・・・。」
「あ〜、それはね〜。」
「何と言うか、何事もない平時の有難味をしみじみと感じていると言うか・・・」
「うんうん。」
「ミオちゃん、平和って大事なのよ。今の時を、大切にね。」
「・・・?・・・」
何かを悟った様に語るさつきに、ただただポカンとするミオであった。
と、その時―
「みなさ〜ん!!」
そんな声とともに、こちらに走ってくる人影。
レオである。
「何だ?レオ。」
「どうしたの?」
怪訝そうな顔で訊くさつきとハジメに、レオはハアハアと切れた息を整えながら右手を差し出す。
「「?」」
見てみれば、そこに握られているのは一つの石ころ。
「・・・何?これ?」
そんなさつきの問いに対する、レオの答えは・・・
「これはですね、『怨念石』ですよ!!」
「・・・え?」
「・・・は?」
その嫌〜な響きに、さつきとハジメの顔が引きつる。
「ほら、良く見てください!!表面に、人の顔が浮かんでるでしょう?」
言われて見れば、確かにそんな模様が浮かんでいる。
・・・正直、気味が悪い事この上ない。
「ど・・・どういう事・・・?」
「はい。これはですね、昨日4丁目の『魔の踏み切り』で見つけてきたんです。あそこではですね、数年前に人身事故がありまして、その時亡くなった方の怨念が宿った石が、線路の敷石の中に混じってるともっぱらの噂だったんですよ。それが原因で事故が多発して、それ以来『魔の踏み切り』と呼ばれる様になったとか。前々から探索してたんですが、昨日ついに発見しまして・・・」
さつきの問いに嬉々としてうんちくをたれる姿は、生気に満ち満ちている。
心なしか、キラキラと眩い輝きを纏っている様にも見える。
「発見してって・・・そんなの持って来ちゃ、まずいんじゃ・・・」
「何の何の!!封魔の凡字を書いといた上に、お清めの塩をたっぷりとかけといたからノープロブレムです!!」
話を聞いて青ざめるさつきに、レオはそう言ってビシッと親指を立てる。
「・・・こ、懲りてない・・・。」
「全然、懲りてねぇ・・・。」
そう言って、顔を強張らせるさつきとハジメを他所に、レオは嬉しそうに『怨念石』とやらを撫で回している。
「あ、そうそう。僕はこれから、これの研究をしなきゃならないんです。こうしてはいられません!!それではお先に!!」
そう言って、シュタッと右手を上げるとレオはクルリと踵を返す。
茫然と見送る、さつきとハジメ。
と、その時、さつきは見た。
彼の手の中の石の顔が、ニヤリと笑ったのを。
次の瞬間―
ズルン!!
「うえっ!?」
レオの足が、落ちていたキャベツの葉っぱを踏んで滑る。
そのまま、前のめりに傾いでいく彼の身体。
その行き行く先には―
フニン
「「―あ。」」
唱和するさつきとハジメ。
そして―
「きゃあああああっ!!」
ドンッ
「でぇえええええっ!?」
ガシャッシャーンッ
『コケコッコォー!!』×10
バサッ バササササッ
「ひ、ひぇえええええーっ!?」
再び繰り広げられるのは、かつて見たかの惨劇。
その様を、諦めの境地で見つめるさつきとハジメ。
そろって口にする言葉はただ一つ。
「「だ・・・駄目だ。こりゃ・・・」」
自称、学校一の心霊研究家、柿ノ木レオ。
彼の受難は、まだまだ終わらない・・・。
終わり