はい。きょうは学怪2次創作の日です。
今回の話も、時系列上は前々作の後の話になります。
学怪の事を知ってる前提で書いている仕様上、知らない方には分かりにくい事多々だと思いますので、そこの所ご承知ください。
よく知りたいと思う方は例の如くリンクの方へ。
それと、今回は些かコミカル調です。
幾ばくかのキャラ崩壊がありますので、そこの所御承知の程お願いいたします
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―4―
―後に天の川小学校の保険医は語る。
「ええ。全身傷だらけで鶏の羽塗れの男子生徒と、気絶した女子生徒が担ぎ込まれた時にはどうしようかと思いました。男の子の方は今日何度も来た子でしたが、今回のは一際でしたね。何でも、鶏小屋で鶏達に襲われたそうで・・・。本当、酷い有様でしたよ。一瞬、救急車と霊柩車のどっちを呼ぼうか迷ったくらいですから・・・。女の子は飼育委員の娘でしたけど、どうやら“現場”を生で見てしまったらしくて・・・。精神的ショックで気絶したみたいです。程なく、意識は取り戻しましたけど。いや全く、嫌な事件でしたよ・・・。」
「レオさん、大丈夫ですか・・・?」
「え、ええ・・・まぁ・・・。」
今日何度目かも分からないその問いに、包帯の隙間から覗く口でそう答えるとレオは手にしたバニラシェイクをズズーッと啜った。
ここは町内のマ〇ドナルドの店内。
放課後、桃子と落ち合った一同はここでおやつを食べながら今日の奇事について話し合っていた・・・のだが。
「「「「「・・・・・・。」」」」」
・・・周囲からの視線が痛い。
原因はレオである。
全身絆創膏と包帯で覆われたその姿は、簡易版木乃伊男と言った態で、当然ながら非常に人目を引く。
(参りましたね・・・。)
突き刺さる好奇の視線に辟易しながら、レオはハンバーガーを齧る。
―と、その動きが止まった。
「ん?レオ君、どうしたの?」
妙な顔で口の中を探っているレオに気付いて、さつきが声をかける。
「何だ?ハンバーガーの中にゴキブリでも入ってたか?」
「あはは、まさかそんなベタな・・・」
などと笑いながら、皆の表情は固い。
・・・分かっているのだ。
今のレオなら、そんなベタな展開もありえる・・・と。
そんな空気の中、皆が息を呑んでレオの動向を見守る。
しばしの間。
そして―
果たして、レオの口中から引きずり出されたのは、無数の足をワシャワシャと蠢かす体長20cmはあろう長虫であった。
「「「「「・・・・・・。」」」」」
空気が固まる。
切ないほどに。
「・・・何・・・?それ・・・。」
「『Spirosteptus giganteus』ではないでしょうか?」
顔を引きつらせながら問うさつきに、桃子が言う。
「・・・は・・・?」
「アフリカはタンザニアに生息するヤスデの一種です。日本ではペットルートで流通していて、近頃では飼育する愛好家の方もいらっしゃるとか。」
「な・・・何でそんなものが・・・(って言うか桃子ちゃん、何でそんな事知ってんの・・・?)」
―と、厨房の方から聞こえてくる声。
「お〜い。誰か俺のヤス美知らないかぁ〜?」
「えぇ〜!?また逃げたんですか!?あのお化けヤスデ!!」
「困りますよ〜!!店長の趣味にどうこう言う気はないですけど、管理はちゃんとしてくださいよ〜!!」
「あんなもんウロウロしてたら、うち、営業停止食らっちまうっすよ〜!!」
「「「「「・・・・・・。」」」」」
皆がそんな店員達の嘆きの声に、顔を強張らせながら視線を戻すと―
レオは口から泡を吹きながら、白目を向いていた。(で、当のヤスデはその顔の上をのんびりと這っていたりするのだった。)
「おかしい!!絶対におかしいのよ!!」
穏やかな夕暮れせまる公園で、さつきは今日の出来事に対して熱弁を振るっていた。
「ねえ、あんた、何か心当たりない?」
熱弁の果てにそう迫られたのは、日当たりのいいベンチで昼寝(というには些か時が遅いが)を決め込んでいた黒猫。
皆さんお馴染み、天邪鬼である。
「あ〜たくっ、うるせえなあ・・・。」
気持ち良く寝ていた所を叩き起こされたせいで、事の他不機嫌そうである。
「いいから、レオ君の事見てよ。何か感じない?」
“レオ”のキーワードに、あからさまに嫌そうな顔をする天邪鬼。
彼としても、色々と思う所があるらしい。
「オレじゃなくても、そいつがいるだろ。」
そう言って、尻尾で桃子を指す。
しかし、話を降られた桃子も、困った様に首をふるだけ。
「それが、私にも何も見えなくて・・・。」
「じゃあ、何もいねえんだろ。」
全く持って、にべもない。
「こらぁ!!寝るな!!」
また丸くなろうとする天邪鬼を、さつきがそうはさせじと揺さぶる。
そりゃもう、ユッサユッサと容赦なく。
「だーっ!!ウザってぇ!!」
堪らず飛び起きて怒鳴り散らす、天邪鬼。
無理もない。
「お前らな、自分達に合点がいかない事があったからって、何でもかんでもお化けのせいにしてんじゃねえよ!!いいか!?人間なんてのは生きてりゃ一日や二日くらい運の悪い日ってもんがな・・・」
と、そこまで言った天邪鬼。
何故か、その姿勢のまま硬直する。
あんぐりと口を開いたまま、驚きに見開かれたその目は違う事なく、真っ直ぐにレオを凝視している。
「ど・・・どうしたの?」
彼の突然の豹変にうろたえるさつき。
そんな彼女に向かって、天邪鬼は言う。
「・・・なぁ・・・。何でレオ(そいつ)は『おとろし』なんぞにとっ憑かれてやがんだ・・・?」
「おそろし?何がおそろしいのよ?」
「おそろしじゃねえ!!『おとろし』だ『おとろし』!!」
天邪鬼はそう言って、公園の中心にある池を示した。
「そいつは神格を持っててな。並みの霊能力者じゃ見れねえんだ。ほれ!!そこの水鏡にレオ(そいつ)を映してみろ!!」
「・・・・・・?」
言われたとおり、池の辺へレオを引っ張っていく一同。
そしてその姿を水面に映してみると・・・。
「なっ!?」
「ええっ!?」
「うわぁ!?」
「まぁ!?」
「でぇえええええっ!?」
全員そろって驚いた。
揺らめく水面に映る、レオの姿。
しかし、そこに映っていたのはそれだけではなかった。
レオの両肩をがっしりと掴む太く鋭い爪。
巨大な顔にガッポリと開いた、人一人を丸呑みに出来そう口。そこから覗くのは、長く禍々しく曲がりくねった牙。
長く振り乱した髪の隙間から覗く両眼は落ち窪み、その奥で丸い光が満月よろしく爛々と光り輝いている。
見るにも凄まじい怪異。
それが、ずっしりとレオの背中へ圧し掛かっていた。
「な、ななな、何よ!!これー!!」
思わず腰を抜かした一同。
代表してさつきが叫ぶ。
「そいつが『おとろし』だよ。」
溜息をつきながら、天邪鬼がノコノコと近寄ってくる。
「じゃ、じゃあ、今日のレオの災難は・・・」
「ああ。“そいつ”のせいだ。」
ハジメの問いに答える天邪鬼。
その顔には心労の色が濃い。
仕方ないかもしれないが。
「な、なんでこんな化け物が僕に・・・!?」
全身全霊でガクブルしているレオ。
「・・・それなんだがよ・・・。」
そんな彼をじっと見つめながら天邪鬼は言う。
「お前、神社かなんかで悪さしなかったか・・・?」
「・・・は・・・?」
その指摘に、思わず固まるレオ。
「は・・・はひ?にゃ、にゃしてそげなこと・・・?」
あからさまに挙動不審なその様に、何かを確信したのか三度溜息をつく天邪鬼。
「あのな、おとろし(そいつ)は“護り鬼”でな・・・」
「「「「・・・“護り鬼”・・・?」」」」
その単語に、その場にいた皆がピクリと反応する。
「古い神社や社を護ってて、そこに悪さをする人間をとっちめるってぇー奴だ。」
「「「「・・・・・・。」」」」
皆の冷ややかな視線が、レオに集中する。
「レオく〜ん・・・」
「何か、どっかで聞いた様な話だよなぁ〜?」
ハジメとさつきが、眉根をピクつかせながらレオに迫る。
「い、いや、それはその〜〜〜・・・」
「「レ〜オ〜(く〜ん)!?」」
「は・・・はひ・・・」
結局、レオは洗い浚い白状させられたのだった。
「全く・・・お前ってやつは・・・。」
「いや・・・ついその・・・魔がさしまして・・・」
頭を抱える皆の前で小さくなるレオ。
「しかし、妙だな・・・。」
ふと、天邪鬼が頭を捻る。
「どうしたの?」
「おとろし(こいつ)は神社の護り鬼だ。普通、護ってる御神体からは離れねぇ。」
「え?そうなの?」
さつきの言葉に頷く天邪鬼。
「人を襲うにしても、相手がその場から逃げりゃそれまでだ。とっ憑いてまで祟るなんてそうそうありはしねぇんだが・・・。」
どうにも腑に落ちんと言った顔の天邪鬼。
「え、それじゃどうして・・・?」
「実際、レオはとり憑かれるじゃねえか?」
「長年の間に、お仕置きの方向性を変えたんでしょうか?」
皆もそろって頭を捻る。
と―
「あ・・・あの〜」
側で皆の話を聞いていたレオが、おずおずと手を上げる。
「ん、どした?レオ。」
「ひょっとして、これでしょうか・・・?」
そう言って、何やらゴソゴソと鞄の中をまさぐり出す。
やがて、その中から引っ張り出されたのは―
「・・・レオ君・・・何それ・・・?」
レオの手の中にあったのは、小さな木製の人形らしきもの。
「あの・・・お社の御神体です・・・。」
「「「「「・・・・・・。」」」」」
皆が固まる中、レオはバツが悪そうに笑う。
「ア・・・アハハハ。じつはあの時、ビックリした拍子に掴んで持ってきちゃったんですよね〜。アハハハハハハハハ・・・」
乾いた笑い声が、夕暮れの空に虚しく響く。
「「・・・・・・。」」
ハジメとさつきはユラリと立ち上がると、黙ってレオに近づく。
そして―
「「ばっかもーん!!」」
ピッタリの息で、レオの背中をどついた。
「ヒエエエエエエエエッ!?」
見事なツープラトン攻撃に吹っ飛ぶレオ。
その先には一つのベンチ。
そして、それには一枚の張り紙が。
「ペンキ塗りたて」
ベチャン
夕暮れの空に、情けない音が響いて溶けた。
続く