遅れましたが、アニメ・学校の怪談二次創作掲載です。
お待たせして申し訳ありませんでした(汗)
では改めまして。
今回の話も、時系列上は前々作の後の話になります。
学怪の事を知ってる前提で書いている仕様上、知らない方には分かりにくい事多々だと思いますので、そこの所ご承知ください。
よく知りたいと思う方は例の如くリンクの方へ。
それと、今回は些かコミカル調になる予定です。
幾ばくかのキャラ崩壊がありますので、そこの所御承知の程お願いいたします
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―2―
その日の夜は、綺麗な満月の浮かぶ夜だった。
月明かりと夜闇の狭間で、蒼白く染まる世界。
その中に、件の社はボンヤリと幻の様に佇んでいた。
何の物音もしない。
静かな。
静かな夜。
―と、
ポウ
蒼白い世界に一筋、白い光が伸びる。
その光の先にあるのは、小柄な人影。
その人影は、頭に付けたヘッドランプと手に持った懐中電灯を頼りに、暗い夜道をコソコソと進んでくる。
その挙動の不審を咎める様に、空から注ぐ月光がその人物の顔を照らし出した。
これをお読みの皆様は、もうお気付きであろう。
そう。その人影は誰あろう、自称「校内一の心霊研究家」、柿ノ木レオその人であった。
「フフフ・・・。僕の探究心を甘く見た様ですね・・・。よもや、こんな時間帯を狙ってくるとは全くの想定外だったでしょう。」
誰に勝ち誇っているのか知らないが、とにかく得意そうである。
「フフフ、如何なる障害も、僕の探究心を邪魔する事など不可能なのです!!」
ビシィッと決めるレオ。
キラーンと光る眼鏡。
・・・彼は、一体誰と戦っているのだろうか。
しかし、勇ましい言葉とは裏腹にその格好は退魔グッズ・厄除グッズにて完全武装されており、腰はちょっぴり引けている。
怖いなら、止めればいいのに。
そんな第三者(?)の意見など何処吹く風で、レオはコソコソと社に向かう。
あっちをキョロキョロ。こっちをキョロキョロしながら歩くその様は、その格好も相まって完全に不審人物である。
お巡りさんにでも見つかれば、ほぼ間違いなく補導の対象だろう。
「さ〜て、着きましたよ〜。」
時間が時間。
邪魔する者など、いる筈もない。
あっさりと鳥居の前に着いたレオは、手揉みしながらまずはその情景を堪能する。
「うぅ〜む。昼間もなかなかの雰囲気でしたが、夜になるとより一層・・・」
言いながら、首に下げていたカメラで鳥居の外からパシャパシャと写真を撮る。
「むふふ。何が写ってるか楽しみですね〜。」
ホクホクしながらカメラを撫でるレオ。
そして、その視線は鳥居の奥にある社に向けられる。
「では、いよいよメインディッシュに・・・」
サク サク サク
夜の静寂の中、靴が茂った下草を踏む音が妙に大きく響く。
やがて、レオは境内の奥にある社の前に立っていた。
「こうして見ると、流石に随分傷んでますね・・・。」
そう言って、自分の腰ほどまでしかない社をしげしげと観察する。
「この戸の南京錠なんか、もうボロボロで・・・」
何気なく、それを手に取る。
途端―
バキンッ
辺りに響く、鈍い音。
「うわっ!?」
驚くレオの手の中に、壊れた南京錠が落ちる。
「壊れちゃった・・・」
茫然と呟くレオ。
―と、
キィ・・・
その耳に、細く響く軋む様な音。
「え・・・?」
見れば、戒めを失った社の戸がキィキィと音を立てて開いていた。
「・・・開いてる・・・」
・・・そこまでする気ではなかった。
それは確かである。
そもそも戸は格子戸になっている。
中が見たければ、格子の隙間から覗けばいい。
それで、いい筈だった。
しかし―
ゴクリ
自分が生唾を飲み込む音が、妙に大きく聞こえた。
悲しきかな、自称「校内一の心霊研究家」の性(さが)であろうか。
それとも、単なるオカルト好きの子供が持つ好奇心だろうか。
社の中を、ここの怪異譚の要である御神体をじっくりと見て見たい。
己の内から沸き起こるそんな欲求を、レオは抑える事が出来なくなっていた。
「・・・・・・。」
彼の手が、半開きの戸にかかる。
キィイイイ・・・
そんな音を立てて、ゆっくりと戸が開いていく。
スッカリ開いた戸。
そこから、レオは社の中を覗き込んだ。
小さな社である。
その中に立ち込めていた闇は、ヘッドランプの光にあっけなく散らされる。
果たして、その光が照らす中に、件の物は浮かび上がった。
それは、一体の人形だった。
もっとも、人形とは言っても、職人としての人形師が作るような精巧な物ではない。
関節どころか、手も足もない、一塊の一体成形。
その様は人形と言うよりも、彫像と言った方がいいかもしれない。
服も着ておらず、代わりにそれを表すような模様が彫られた体。
それは太い木の枝から、素人が削り出した様な、粗雑な作りのものだった。
おそらくは、当時の村人の中で比較的器用な者が抜擢されて、慣れない手で戸惑いながら作ったもの。
芸術的価値もなければ、おそらく骨董的価値もない。
そんな程度の代物だった。
けれど、奇異な事が一つ。
ここの鳥居や社に比べ、レオの目には、その人形は妙に新しいもののように見えた。
長い間、屋根も壁もボロボロに腐り果てた社の中にあったにも関わらず、その表面は腐食どころか変色の痕もなく、まるでたった今木から削り出したかの様に白く光っていた。
一瞬、最近になって新しいものが奉納されたのではないかとも思ったが、そんな事がされるくらい今でも大事にされているなら、境内や社がここまで荒れるがままにされている道理はないだろう。
そんな事を思いながら、しげしげと“それ”を観察していたレオの目に、その人形の顔が飛び込んできた。
それは、優しい微笑みを浮かべた顔。
もちろん、そんなに精巧に掘り込まれたものではない。
その体と同じく、稚拙な技巧で掘り込まれた、粗雑な造形。
だけど、それは妙に・・・。
そう。妙に心を魅引く微笑みだった。
レオの目は、いつしか魅入られた様にその顔に見入っていく。
(・・・この社に祭られていた神は巫女神・・・)
心の中に、あの老婆の声が反響する。
(・・・その美しさに心惑った一人の若者が、彼女を己だけのものにしようと、社の中から御神体を盗み出して・・・)
自分の全てを委ねたくなる様な、優しい、優しい顔。
(・・・もちろん、他の人々はいたく憤慨し、若者を責めたが若者は頑として御神体を返そうとはしなかった・・・)
今ならば、その若者の気持ちが分かるようだった。
自分のものにしたい。
この美しさを。
この優しさを。
自分だけのものに。
知らず知らずの内に、レオは人形に手を伸ばしていた。
頭の中では、まだ老婆の声が響いている。
(・・・心優しい巫女神は、自分をかどわかした若者すらをも罰しようとはしなかった・・・)
そう。彼女は罰しないのだ。
何をしようと。
何をされようと。
彼女は、その全てを受け入れてくれる。
レオの指が、人形に絡む。
(・・・しかし、それを良しとせぬ者がいた・・・)
『・・・おとろし・・・』
「―!?」
何かが、聞こえた様な気がした。
慌てて、辺りを見回す。
しかし、周りの夜闇の中に人はおろか、生き物の気配など微塵もない。
・・・気のせいだろうか?
草木が夜風に擦れる音を、聞き違えたのだろうか。
レオが、その視線を人形に戻そうとしたその時―
『・・・おとろし・・・』
「!!」
また、聞こえた。
さすがに、もう空耳はない。
高揚感で火照っていた身体が、一気に冷えていく。
「だ・・・誰かいるんですか!?」
大声で叫ぶが、答える声はない。
額を冷たい汗が一滴、ツウと伝う。
頭の中で、昼間聞いた老婆の言葉が再び反響し始める。
そう。老婆は言っていた。この社に住まっていたのは、心優しい巫女神だけではない。
(・・・巫女神には、その身を護る一柱の護り鬼が仕えていた・・・)
そう・・・。ここには“彼”もいるのだ。“彼女”を護っていたという“彼”が・・・。
(・・・主人の過ぎた優しさのを補うかの様に、非常に荒々しい性をした護り鬼であった・・・)
あの老婆は、何と言っていただろう?その若者に、“彼”は何をしたのだったか。
(・・・護り鬼は若者の所業に怒り狂い、“祟り”を成し始めた・・・)
そう。“彼”は祟ったのだ。かの若者を。
そして、若者はどうなった?
どうなったのだったか?
(・・・その様は凄まじく、若者は僅か数日で気を病み・・・)
『おとろし・・・』
三度、響く声。
今度は何処から聞こえたのか、はっきりと分かった。
“鳥居の上”。
・・・上を見てはいけない。
本能が、そう告げる。
見れば、“それ”を見てしまう。
絶対に、見てはいけない。
けれど。
だけど。
その意識とは裏腹に、視線は上に上がっていく。
上へ。
上へ。
鳥居を舐める様に、上がっていく視線。
ついに、鳥居のてっぺんが視界に入る。
・・・何もいない。
鳥居の上には、煌々と輝く満月があるだけ。
ホッと息をつこうとして、レオは凍りついた。
思わず、目を擦る。
しかし、目の迷いではない。
“それ”は、確かにそこにあった。
朽ちた鳥居の上に輝く、“二つ”の月。
否、そうではない。
月は、ある。
二つの光のさらに上。高い高い、空の中天に。
ならば。
ならば。
これは!?
この、二つの光は!?
『おとろしぃいいいい!!』
夜闇を振るわせる、その声。
夜の空の下、声にならない悲鳴が響く。
絶叫するレオの脳裏に、老婆の最後の言葉が嘲る様に響いた。
(・・・とうとう、狂い死んでしまったのじゃ・・・)
続く