金曜日、隔週連載「学校の怪談」二次創作復活です。
もし、待っていたという方がいらっしゃいましたら、申し訳ありませんでした。
今回の話も、時系列上は前々作の後の話になります。
学怪の事を知ってる前提で書いている仕様上、知らない方には分かりにくい事多々だと思いますので、そこの所ご承知ください。
よく知りたいと思う方は例の如くリンクの方へ。
それと、今回は些かコミカル調になる予定です。
幾ばくかのキャラ崩壊がありますので、そこの所御承知の程お願いいたします。
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レオ受難!!鎮守の社のおとろし
プロローグ
それは、満月の明るい、夏の夜の事だった。
とあるの町の外れ。
夜になれば、人通りもほとんどなくなる郊外。
周囲をグルリと水田に囲まれた中に、小島の様にポツンと在する小さな林。
その林の入り口に、1基の古びた鳥居が立っていた。
近場に外灯の類もなく、夜闇に佇むその様には、何処か近寄りがたい雰囲気が漂っていた。
―と、
「♪ふ~んふ〜ん。ふふんふ〜ん♪」
夜の静謐を邪魔するかのように、調子っ外れの鼻歌が響いてきた。
見れば、夜道をフラフラと歩く一つの人影。
様子から察するに、どうやら酔っ払いらしい。
酒のせいで気が大きくなっているのか、外灯も疎らな夜の田舎道を一人平気で歩いている。
とは言え、そこは酔っ払い。その足取りは千鳥足と言うのもはばかられる程におぼつかない。
あっちへフラフラ。こっちへフラフラ。蛇行運転をしながら件の鳥居に近づいていき、そして―
ゴツン!!
「いって!?」
ぶつかった。
「何だぁ、てめぇ!!一体どこに目ぇつけてんだ・・・って、何だ。鳥居じゃねーか。」
酔っ払いの男は酒で澱んだ目で鳥居を見上げると、今度はそれに向かって毒づき始める。
「何でぇ!!べらんめぇ!!一体誰に断ってこんな所につっ立ってやがんでぇ!!」
誰に断っても何も、明らかに以前からからそこに立っていた鳥居に、歩いてきた人間がぶつかったのだから、どちらが悪いのかは一目瞭然なのだが、そこは酔っ払い。一般的な道理など、通じる訳もない。
「おぅ!!何だ!!何とか言ったらどうでぃ!!」
無理な話である。
「・・・そうかい。そう言うつもりなら、こっちにも考えがあらぁ!!」
そう言うと、男はやおらズボンのチャックに手をかける。
ジョジョ〜・・・
響く水音と、立ち昇る湯気。
「へん。どうでい、思い知ったか?」
気分爽快と言った顔で、チャックを上げる男。
オマケとばかりに、自分の出したものに濡れた鳥居の柱につばを吐く。
「う〜ぃ。さあてと・・・。」
散々狼藉を働いた男は、意気揚々とその場を去ろうとする。
その時―
『おとろし・・・』
「あん?」
何処からともなく聞こえた声。
男は思わず辺りを見回す。
辺りに広がるのは、月明かりに照らし出される夜の風景。
人っ子一人いない。
「・・・気のせいか・・・」
そう言って、男がもう一度立ち去ろうとしたその時―
『・・・おとろし・・・』
「・・・・・・!!」
また、聞こえた。
さすがに、もう空耳はない。
酒で火照っていた身体が、一気に冷えていく。
「お・・・おい!!誰だ!!何処に居やがる!!」
大声で喚くが、答える声はない。
ゴクリ・・・
自分が生唾を飲み込む音が、妙にはっきりと聞こえる。
額を冷たい汗が一滴、ツウと伝う。
『おとろし・・・』
三度、響く声。
今度は何処から聞こえたのか、はっきりと分かった。
“頭の上”。
見てはいけない。
本能が、そう告げる。
しかし、それとは裏腹に視線は上に上がっていく。
上へ。
上へ。
上がる視線。
ついに、鳥居のてっぺんが視界に入る。
・・・何もいない。
鳥居の上には、煌々と輝く満月があるだけ。
ホッと息をつこうとして、男は凍りついた。
月が、“二つ”あった。
否、そうではない。
月は、ある。
二つの光のさらに上。高い高い、空の中天に。
ならば。
ならば。
この二つの光は、何だというのだ。
『おとろしぃいいいい!!』
夜闇を振るわせる、その声。
夜の空の下、男の声にならない悲鳴が響いた。
―1―
それは、とある夏の日の日曜日。
町の郊外の田園地帯を、数人の少年少女達がつるんで歩いていた。
「あ〜、やれやれ。やっと終ったぜ。くたびれたくたびれた。」
そう言って、先頭を歩く快活そうな少年―青山ハジメが水に濡れた網を振り回す。
「うわっ!!ちょっとハジメ、網振り回さないでくださいよ!!水が飛ぶじゃないですか!!」
そう言って抗議をするのは、眼鏡をかけ、帽子を被ったオタク風の少年―自称「校内一の心霊研究家」、柿ノ木レオ。
「ごめんね。桃子ちゃん。せっかくの日曜日なのに、つき合わせちゃって・・・。」
水の入ったバケツをぶら下げながら、隣を歩く藤色の髪に制服姿の少女―恋ヶ窪桃子にそう話しかけるのは、三つ編みがトレードマークの少女―宮ノ下さつきである。
「いいえ。こうやって皆さんといっしょに遊ぶのは久しぶりでしたから、楽しかったですわ。ねぇ、敬一郎君。」
「うん。ボク、すっごく楽しかったよ!!」
桃子にそう呼びかけられた少年―宮ノ下敬一郎は、ニッパリと笑いながらそう答えた。
この日、さつき達は理科の授業で使うメダカを採集するため、この町外れの田園地帯にまで来ていた。
「・・・にしても、先生も面倒な事言うよなぁ。メダカなんて、教材費で買えばいいのに、『自然に接するのも、勉強の一環だ!!』とか言って、わざわざ採りに来させるんだから・・・。」
「本当ですよねえ。おかげで貴重な休日が一日潰れてしまいました。」
「あのね、そうやってブツブツ言うのは勝手だけど、このバケツいつまで持たせてんのよ!?こういう重い荷物を持つのは男の役目でしょ!?」
何やかやと話しているハジメとレオをジト目で見ながら、さつきが言う。
手にしたバケツがチャプチャプいい、中のメダカがピョンと跳ねた。
「いや〜、ご謙遜を。僕達の力なんて、さつきさんの足元にも及びませんよ。」
「そうそう。お前の怪力の程はオレ達、よく知ってるもんな〜。」
ヘラヘラと笑いながら、軽口を叩くハジメとレオ。
「ぬ・・・ぬわんですって〜!!」
さつきはその言葉に、憤怒の形相でバケツを振り回す。
「う、うわ、あぶねぇえ!!」
「さつきさん、タンマタンマ!!」
物凄いスピード。
速さの余り、中の水が落ちない。
「やっぱり、怪力女じゃねーか!!」
「まだ言うか!!このー!!」
「おねーちゃん、メダカが可哀想だよ。」
「本当に、中がおよろしいですね。」
そんなやり取りをしながら、和気藹々と一同は家路を歩く。
―と、
「あれ?」
何かを見つけたのか、敬一郎が一人皆から離れてわき道に入っていく。
「あ、こら敬一郎!!」
「何処行くんだよ。」
皆が、その後を追う。
敬一郎が立っていたのは、周囲をグルリと水田に囲まれた中に、小島の様にポツンと在する小さな林の前。
「ねぇ、コレなーに?」
敬一郎が指差す先にあったのは―
「これ、鳥居・・・だよね。」
「随分ボロいなぁ。今にも崩れそうじゃねぇか。」
「奥にあるのが、お社でしょうか?これまたボロい・・・。」
「・・・でも何か、神秘的というか・・・近寄りがたい雰囲気がありますね・・・。」
「ハジメ、あんたこんな所にこんなのあるの、知ってた?」
「いんや、知らね。大体、こっちの方なんてめったに来ねえし。」
口々に所感を言う面々。
すると、
「これ、アンタ達・・・」
不意に後ろからかけられる声。皆が、振り返る。
そこには、いつの間に来たのか腰の曲がった老婆が一人、立っていた。
老婆はしばしさつき達をジロジロと眺めていたが、やがて歯のない口をモゴモゴさせながら言葉を続ける。
「そのお社に悪戯しちゃいけんよ。見た目は古いが、ここのお社には“護り鬼”様がいらっしゃるからねえ。下手に手を出すと、祟りを頂いてしまう・・・。」
「祟りですって!?」
その言葉に食いついたのはレオ。
どうやら、老婆の言い様に自称「心霊研究家」の食指に触れるものがあったらしい。
「そのお話、もう少し詳しく教えていただけませんか?」
そう言いながら、ズズィッと老婆に迫るレオ。
お婆ちゃん、ちょっと引く。
そんな様子のレオを、嫌〜な顔をしながら見つめる面々。
「ねえ、あれってさ・・・。」
「ああ、“始まった”みたいだな・・・。」
「・・・ですね・・・。」
そんな皆の視線など意にも介さず、レオは老婆に迫り続ける。
「分かった、分かった・・・。」
その迫力に負けたのか、傍らにあった石に老婆はよっこらせ、と腰を下ろす。
「昔々の事じゃ・・・。」
話は、そんなお馴染みのフレーズから始まった。
@-2に続く