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2013年03月15日

レオ受難!!鎮守の社のおとろしE-1(アニメ学校の怪談二次創作作品)







 はい。こんばんは。土斑猫です。
 今日はアニメ学校の怪談二次創作掲載の日です。
 それではいつも通り、下の”続く”からどうぞ♪



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                              ―6―

 ハァ ハァ ハァ ハァ
 刻一刻と迫る夕闇の中を、さつき達は走っていた。
 息を切らしながら。
 必死に。
 黄昏の奥へと消えた、一人の友人の姿を求めて。
 「ちょっと・・・天邪鬼!!」
 ゼェゼェと荒い息をつきながら、さつきが目の前を走る黒猫に話しかける。
 「ああ?何だ?」
 鬱陶しそうに返ってくる声。
 しかし、構わずさつきは続ける。
 「お社の中に残ってたのが、神気じゃなくて妖気ってどういう事なのよ!?お社(あの中)にあったのは、御神体じゃなかったの!?」
 「阿呆!!」
 聞くのも馬鹿らしいと言った具合に、天邪鬼が叫ぶ。
 「御神体なんざ、所詮人間(ひと)が作った“器(入れ物)”だろうが!!そこに入る“モノ”なんて、何だっていいんだよ!!神だろうが、化物だろうがな!!」
 「そ・・・それじゃあ!!」
 「あの“場”はその巫女神とやらが隠れてから、ずっと空座だったんだろ!?その間に入っちまったんだよ!!“ろくでもねえもん”が!!」
 「それじゃあ、レオさんは!?」
 「魅入られたんだよ!!その“ろくでもねぇもん”に!!」
 その言葉に、場の全員が息を呑んだ。

 ガサリ
 手がかすった枝先が、大きな音を立てて揺れる。
 荒い木肌で擦れた肌に血が滲むが、気にする事はない。
 この先に待っているであろう至福に比べたら、酷く些細な事だ。
 ガサリ
 ガサリ
 濁った音を響かせながら、彼は登る。
 尖った枝に引っかかったシャツが破れ、被っていた帽子がポトリと落ちるが気にもしない。
 ただ、その胸に抱いた少女の像だけは決して放さない。
 何があっても。
 何が起きても。
 たとえ“あいつ”が、いくら放せと言ったとしても。
 バササッ
 空気を打つ音を響かせて、登る先の梢から何かが飛び立った。
 虚ろな目で、上を見上げる。
 見れば、数羽のカラスが黄昏の空を舞っている。
 ギャア ギャア ギャア
 鳴き交わす声。
 幾つもの黒い目が、こちらを見る。
 ザァア!!
 舞い降りてくる、漆黒の羽。
 ガッ
 ガガガッ
 無骨な嘴と鋭い爪が、身を削る。
 ああ、また“あいつ”の仕業か。
 でも、駄目だ。
 でも、無駄だ。
 この娘は放さない。
 放せない。
 決して。
 決して。
 飛び散る血飛沫と黒羽の中、レオは“彼女”をひしと抱き締める。
 ・・・早く。
 ・・・またその声が聞こえた。
 さっきから。
 昼間から。
 幾度となく聞こえてくるその声。
 早く。
 早く。
 早く。
 早く。
 ああ、ほら。
 “彼女”が呼んでいる。
 “早く”と呼んでいる
 “早く来て”と、呼んでいる。
 早く。
 はやく
 ハヤク。
 早やク。
 ああ、待って。
 そんなに、急かさないで。
 すぐに。
 すぐに、行くから。
 早くはやくハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクハヤクはやくはやハヤクハやはははヤクハヤクハや・・・
 ああ、もうしょうがないなぁ。
 全くもって、我侭なんだから。
 くっと伸びた手が、行く手を遮るカラスの首根っこを掴む。
 ギャアアアアアアアッ
 悲鳴の様に響き渡る、鳴き声。
 黒い首を締め上げながら、彼はまた、ニタリニタリと笑った。

 「はぁ・・・はぁ・・・ちきしょう!!アイツ、一体何処に行ったんだよ!!」
 流れる汗を拭いながら、ハジメが途方に暮れた様に叫ぶ。
 「やべぇな・・・。あの完全にとっ憑かれた状態でほっといたら、何をしでかすか分からねえぞ!!」
 「それなんですけど・・・天邪鬼さん・・・。」
 「ああ!?何だ!?」
 桃子の問いかけに、天邪鬼はイラついた様に答える。
 「レオさんには、あの護り鬼さんも憑いてましたよね。でも、レオさんの盗った御神体に宿っていたのが、あの方のご主人ではなくて別の“もの”だったのなら、どうしてレオさんはあんなに祟られたのですか?」
 「あれは祟ってたんじゃねぇよ・・・!!」
 「え!?」
 「あれはな・・・」
 天邪鬼が、次の言葉を継ごうとしたその時―
 「みんな!!あそこ、何か変だよ!!」
 敬一郎の声が、皆の耳を打った。
 見れば、十メートル程先に生えた柿の木の周りで、ギャアギャアと何かが飛び回り、鳴き騒いでいる。
 「何だ?あれ?」
 「カラスだよ!!」
 「何でカラスがこんな時間に・・・?」
 「!!、ひょっとして!!」
 何かに気付いた桃子が、そこに向かって走り出す。
 「え、桃子ちゃん!?」
 「何なんだよ!?一体!!」
 戸惑いながらも、皆もそれに続く。
 いち早く柿の木の根元にたどり着いた桃子は、上を見上げるなり叫ぶ。
 「レオさん!?」
 その目に映ったのは、夜闇に落ちた空に昇り始めた朱い月。
 辺りを舞い飛ぶカラスの群。
 そしてその中、一心に柿の木をよじ登るレオの姿だった。
 「レ、レオ君!?」
 「あの馬鹿!!何やってやがんだ!?」
 遅れてたどり着いた面々も、上を見上げて驚きの声を上げる。
 皆がたどり着いたとき、レオはほぼ木のてっぺん近くにまでよじ登っていた。
 この柿の木は高い。
 この高さから落ちれば、まず無事には済まないだろう。
 大怪我どころか、命さえ落としかねない。
 皆は慌てて、口々にレオに向かって声をかける。
 「レオさん!!危ないですわ!!早く降りてください!!」
 「そうだよ!!レオ君、早く降りて!!」
 「馬鹿やろー!!死にてーのかよー!!」
 「レオにーちゃーん!!」
 そんな声が届いたのか、レオは上を向いていた顔をカクンと揺らし、下を見た。
 朱い月の光を反射して、不気味に光る眼鏡が皆を映す。
 「やあ、皆さん!!」
 眼下にさつき達を見止めたレオは、大きく手を振ってそう言った。
 その声は、何故か酷く明るかった。
 明るすぎて、不安になるほどに。
 その不安をかき消そうと、ハジメがさらに声を張り上げる。
 「“やあ”じゃねえよ!!何やってんだって訊いてんだよ!?馬鹿な事やってないで、さっさと降りてこい!!」
 その叫びに、レオはその口をニヤリと歪めて返す。
 「いやぁ。すいません。それは出来ないんです。」
 「・・・何?」
 「僕、約束しちゃったんですよ。この“娘”と一緒に行くって。」
 そう言って、胸に抱いた“それ”を愛しげに撫でる。
 「何・・・言って・・・?」
 「行ったまんまです。僕、“この娘”の所に行くんです。困っちゃってるんですよ。さっきっから、早く早くって急かされて。」
 茫然とするさつき達に、レオはニタリニタリと笑いかけながら話す。
 その様に、その場の皆が怖気を感じる。
 「それじゃあ、皆さん。僕、急いでますんで。」
 そう言って、もう一度ニタリと微笑むと、レオは再び上を向き、木をよじ登り始める。
 「あ、おい!!」
 「レオ君ってば!!」
 皆が再び声をかけるも、今度は振り向きもしない。
 ただ一心に、木のてっぺんを目指して登っていく。
 「くそ!!」
 ハジメが舌打ちし、靴を脱ぎ始める。
 「ハ、ハジメ、何する気!?」
 「決まってんだろ!?登ってって、あの馬鹿引き摺り下ろしてくるんだよ!!」
 「そ、そんな!!危ないよ!!」
 「ほっとく訳にいかねえだろ!!」
 そう言って靴を放り出し、手近な枝に手をかけるハジメ。
 しかし―
 「そうだ。止めとけ。」
 冷淡な声がハジメの行動を遮った。
 「なにぃ!?」
 見れば、いつの間にか近寄ってきた天邪鬼がその金と青色の目でハジメを見上げていた。
 「何言ってやがんだよ!?このままじゃレオが・・・」
 「アレを見ろっつってんだよ!!」
 上を睨みながら、そう叫ぶ天邪鬼。
 釣られて、上を見るさつき達。
 「え!?」
 「わぁ!!」
 「ちょ・・・!!」
 「な、何だよ!!あれ!!」
 朱い月の光に、影絵の様に照らし出されるレオの姿。
 その胸に、抱き締められる様にして着物姿の女性がしがみ付いていた。
 やせ細り、骨と皮だけの手は爪を立てる様にレオの肩に食い込み、長く振り乱された髪が手や足に幾重にも絡み付いている。
 ―と、
 カクン
 レオの胸に埋める様に付けられていた顔が、壊れた人形の様にこちらを向いた。
 木乃伊の如くやせ細った、骨と皮ばかりの顔。カラカラに乾いたその顔の中で、唯一ヌメヌメと湿っている舌が、文字通り耳まで裂けた口の中で踊っている。その目には眼球が無く、ポッカリと開いた暗いがらんどうだけが、オォンオォンと虚ろな音を響かせながらこちらを睨んでいた。
 「ひぃ!!」
 「うわぁ!!」
 そのあまりの凄まじさに、皆が悲鳴を上げる。
 「あ、あれは・・・!?」
 戦慄きながら問う桃子に、天邪鬼が答える。
 「『畑怨霊(はたおんりょう)』だ・・・!!」
 「『はたおんりょう』・・・?」
 「飢饉なんかで飢え死にした人間の霊が寄り集まって、長い時を経て妖怪化したもんだ!!」
 「それでは、御神体の中にいた“もの”とは・・・」
 「ああ、アイツだ!!」
 その言葉に皆は仰天する。
 「そ、それじゃレオ君はあいつに操られて!?」
 「そうだ!!“アイツ”の中の魂共は、常に仲間を欲しがってる。迂闊に近づいたら、お前らまで魅入られてレオ(あいつ)の二の舞だぞ!!」
 「で、でもよ、このままじゃレオが・・・」
 しかし、天邪鬼は何かを確信しているかの様に言う。
 「いや、大丈夫だ!!もしオレの考えが当たってるならな・・・。」
 「え・・・?」
 天邪鬼の言葉に、ハジメが訳が分からないといった顔をした瞬間―
 「レ、レオさんっ!!」
 響き渡る、悲鳴にも似た桃子の声。
 さつきとハジメがハッと上を見上げる。
 そこには、ついに木のてっぺんに登りついたレオの姿。
 そして―
 「バッ!!」
 「やめ―」
 制止の声も、もはや届かない。
 レオはその顔に笑みを浮かべたまま、その身を宙へと躍らせた。


                                                     E-2に続く
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