はい。久方ぶりのアニメ学校の怪談二次創作掲載です。
お待たせしました。
とりあえず、コメントレスです。
半月ファンさん
頑張ってください。応援してます。
ありがとうございます。
ご期待にそえられますよう、頑張りマスですー。
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―5―
「さて、問題はこれからどうするかよね。」
腕組みをしながら、さつきが頭を捻る。
「どうもこうも、レオに御神体を返させるしかねぇだろ。」
同じ様に腕組みをしていたハジメが、そう答える。
「ええ、これから行くのぉ!?」
傍らで敬一郎が、怯えた様な声を出す。
「う〜ん。確かにそうだけど・・・」
そう言って、上を見るさつき。
空はもう黄昏が深く、辺りには夜闇がおり始めていた。
「怖いよぉ。」
確かに、あの郊外の、外灯もろくにない社に今から赴くのは正直気味の良い話ではない。
「でも、そんな事言ってる場合でもねぇだろ?このまんまじゃレオが・・・」
「そうですねぇ。今の所運が悪い(?)程度のレベルで収まってますけど、もしこれ以上の事が起こったら命に係わる事にもなりかねませんし・・・」
ハジメと桃子がそう言った時―
「あの〜」
ペンキ塗れになったレオが、おずおずと口を挟む。
「ん?何だよ?レオ。」
「別に、いいですよ・・・。」
「は?」
「いえ、ですから、返しに行くの、そう急がなくてもいいですよ。僕・・・」
その言葉に、その場にいた全員が目を丸くする。
「何言ってんの!?レオ君!!」
「そうですわ!!このままじゃ、何が起こるか・・・!!」
そう言い募る皆に、レオは何処か他人事の様に答える。
「大丈夫ですよ・・・。今までも、何かコントか冗談程度みたいな事しか起こってませんし・・・。明日の放課後まで待っても、大事は起こらないと思いますよ・・・。」
「でも・・・」
「僕がいいって言ってるんです!!」
唐突にレオが怒鳴る。
それも、物凄い形相で。
皆が一瞬、静まり返る。
一拍の間。
そして―
「じゃ、すいません・・・。もう暗いんで、僕はお先に失礼させていただきます。」
そう言うと、レオは唖然としている皆に背を向ける。
「お・・・おぅ・・・。」
「う・・・うん・・・。」
「お気をつけて・・・。」
茫然と見送る皆の前で、レオの姿は夜闇の中へと消えていく。
その後姿を、天邪鬼はじっと見つめていた。
「ねえ、レオ君、最後の方、何か様子変じゃなかった?」
皆で家路に向かう中、さつきはハジメに向かってそう問うた。
「そうだよなぁ。何で急に怒り出したんだ?」
「そうですね・・・」
桃子が言う。
「何だか、まるで社に行くのを嫌がってるみたいでしたね・・・。」
その言葉に、場の全員が頷いた。
一人(?)、難しい顔をして歩いている天邪鬼を除いて・・・。
その頃、レオは自分の家の、自分の部屋の中にいた。
部屋の灯りも点けず、薄闇の中で机に座っていた。
小さなスタンドが唯一つ、机の上をボンヤリと照らし出している。
その淡い光の中に、レオの手がかざされている。
その手の中にあるのは、あの少女を象った御神体。
レオは背を丸め、食い入る様にそれを見つめていた。
スタンドの光が眼鏡に反射し、その表情をうかがい知る事は出来ない。
ただ、その視線が一心に御神体に注がれている事は間違いない。
暗い部屋の中、レオはいつまでも少女の像を見つめていた。
いつまでも、いつまでも見つめていた。
次の日、例の如く大幅に遅れて学校に現れたレオは昨日にも増してボロボロの風体であった。
前日に続き、保健室に直行する事を命じられるレオ。
フラフラと教室を出て行った先で、ドガラガチャンと音が響く。
恐らく滑って転んで、ロッカーに突っ込みでもしたのだろう。
それを前に、やれやれと溜息をつくさつきとハジメなのだった。
その日の放課後―
一同は昨日の公園に集合していた。
なぜか、昨日はあんなに係わるのを面倒くさがっていた天邪鬼も一緒である。
「さあ、今日こそ帰しに行くわよ!!御神体!!」
「はぁ・・・」
そう言って詰め寄るさつきに、どこか乗り気でなさそうなレオ。
「何だよ!?シャッキリしねえなぁ!!お前だって、今みたいな境遇からはさっさと脱出してぇだろ!?」
「ええ・・・まぁ、そりゃ・・・」
やはり今一つ、シャッキリしない。
どこか上の空である。
「・・・とにかく、また何か事が起こる前にお帰しにまいりましょう。」
桃子の言葉に、全員が(レオはしぶしぶ)頷いた。
その後、一同は公園を出ると町の出口に向かい、町の外の道をこの間通ったのとは逆方向に歩いていく。
その間、皆はレオを真ん中に囲い、彼がまた災難に会わない様に気を配っていたが、なぜかその道中、いかなる災難も彼を襲う事はなかった。
「・・・何も起きないね。」
拍子抜けしたかの様に言うさつき。
「そりゃあ、大事な御神体を帰しにきてるんだぜ?邪魔する道理なんかないってこったろ。」
「・・・なるほど。良かったね。レオ君」
しかし、その言葉に返る声はない。
レオは黙りこくったまま、うつむいてトボトボと歩いていた。
「・・・・・・?」
その様に不信を覚えつつ、それでも皆の足は進む。
やがて、その目に古びた鳥居が見え始めた。
「お、見えた見えた。」
「疲れたよー。」
「ほら、もう少しだから頑張んなさい。」
そして、一同はとうとう件の社の前に到着した。
「さ、レオ君。」
「さっさと行って、帰してこいよ。」
皆が促す。
しかし―
レオは動かない。
その手に御神体を握り締めたまま、じっと俯いたまま。
「・・・レオさん?」
「レオ兄ちゃん、どうしたの?」
皆が怪訝気に問うたその時、
「・・・嫌だ・・・」
「え・・・?」
「嫌だぁああああっ!!」
突然そう叫ぶと、レオは傍らにいたハジメを突飛ばして走り出した。
「うわぁっ!!」
「ハ、ハジメ!?」
「レオさん!?」
「どこ行くの!?」
驚く皆を他所に、レオの姿は見る見る遠ざかっていく。
唖然とし、後を追うことすら忘れる一同。
その前で、レオの姿は夕闇の中へと消えた。
「・・・あっ、ハジメ、大丈夫!?」
「あ、ああ・・・。」
我に帰ったさつきが、尻餅をついていたハジメを助け起こす。
「何だよ?一体、どうしたんだ?あいつ?」
尻をさすりながら起き上がったハジメが、レオの消えていった方向を見ながら呟く。
「何か、様子が変でしたが・・・」
「何か、怖い顔してたよ。」
桃子と敬一郎も戸惑った様に口にする。
と、その時―、
「おい!!」
鋭い声が、皆の背を突く。
驚いて振り返ると、そこには険しい顔で空の社を見つめる天邪鬼の姿。
「ど、どうしたのよ?天邪鬼。」
「あの御神体は、本当にこん中に入ってたのか!?」
「え?そ・・・そうだけど?」
「!!」
それを聞いた天邪鬼は、急に道に飛び出すとレオの去っていった方を睨みつける。
そして―
「何ボーっとしてやがる!!アイツを追うぞ!!」
唖然とするさつき達を怒鳴りつけると、脱兎の如く走り出す。
「な、何よ!?どうしたのよ!?」
慌てて後を追って走り出す皆を振り向く事無く、天邪鬼は言う。
「あの社に残っていたのは“神気”じゃねぇ!!」
「え!?」
「“妖気”!!それも、とびきりタチの悪ぃやつだ!!」
その言葉に、皆の顔がいっせいに強張った。
その頃、レオは夕闇迫る郊外の道を、一人でトボトボと歩いていた。
その手の中には、穏やかな笑みを浮かべる少女の像。
それを見つめながら、考える。
自分は一体何をしているのだろう。
“これ”を手にしてから、ろくな目に会っていない事は確かなのだ。
下手を打てば、命に関わる様な目にも会っている。
あれも。
これも。
原因は、全部“これ”。
全ては分かりきっている。
にも関わらず、“これ”を手放す事が出来なかった。
“これ”から、離れる事が出来なかった。
一体、自分はどうしてしまったのだろう。
思考が、霞がかかった様に曖昧だった。
フラフラと歩きながら、レオはもう一度少女の像を見る。
その顔は変わらず、優しい微笑みを浮かべている
それを見つめている内に、自然とレオの顔にも笑みが浮かぶ。
ああ。
やっぱり駄目だ。
駄目なのだ。
自分はこの“娘”を手放せない。
放せない。
でも、それならばどうすればいいのだろう。
自分がこの“娘”を放さない限り、あの恐ろしい“護り鬼”は自分に祟り続けるだろう。
昨日、皆にはあんな事を言ったものの、実際には恐ろしいのだ。
怖いのだ。
一時間後。
否、たった一分後には、この身に何が起こっているか分からない。
自分の背にしっかりとしがみ付く、あの姿が脳裏に浮かぶ。
逃げられない。
逃げえる場所など、ある筈もない。
なのに。
なのに。
自分はこの“娘”を放せない。
放したくない。
どうすればいい?
どうすればいい?
袋小路にはまった思考が、グルグル回る。
霞がかかった脳内を。
出口を求めて。
グルグル巡る。
ああ。
分からない。
分からない。
助けを求めるかの様に、視線を落とす。
そこにあるのは、かの木像。
白木に掘り込まれた、少女の顔。
それが、レオに向かって優しく微笑む。
優しい。
優しい。
慈母の様な、微笑み。
それを見ているうちに、ゆっくりと頭にかかった霞が消える。
「・・・・・・!!」
途端、頭に浮かぶ一つの考え。
それに、レオの歩みがピタリと止まる。
逃げられない?
逃げる場所がない?
いや。
いや。
違う。
違う。
それは、違う。
あるではないか。
アイツにも。
誰にも追ってこれない“場所”が。
レオの顔に、笑みが浮かぶ。
これ以上ないくらいの、素晴らしい思いつきに。
その顔が、歪んでにやける。
そんな、歪んだ笑みが浮かんだ顔を、“彼女”に向ける。
・・・“彼女”もまた、笑っていた。
自分を見つめるレオに向かって、ニコリニコリと笑っていた。
ああ。
“彼女”も賛同してくれている。
いっしょに来てくれると、言っている。
ああ。
ああ。
こんな、素晴らしい事があるだろうか。
こんな、嬉しい事があるだろうか。
歪んだ思考を廻らして。
歪んだ喜びに浮ついて。
歪んだ笑みを浮かべて。
レオは頭を巡らせる。
と、その目に入ったのは、一本の大きな柿の木。
相当に歳月を経ているらしいそれは、がっしりとした太い幹と、立派な枝を空に這わせている。
ああ、これは丁度いい。
太さも枝ぶりも、そして“高さ”も十分だ。
これなら。
これなら、大丈夫。
自分の“名案”の成功を確信し、レオは夕闇の中でケタケタと笑った。
それに合わせる様に、手の中の“彼女”も、ニタリニタリと笑っていた。
続く